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第176話:兄と幼なじみ

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「全敵性存在の殲滅を確認。
 作戦ミッション成功だ。お疲れ様」

「あいよー、お疲れさん」


 残った黒獄犬ヘルハウンドの残党をみんなで掃討して、ようやくひと息入れられた。
 何匹か逃げて行っちまったが、あの乱戦の場では仕方ない。
 合体を解除して互いを労っていると、先ほど単眼巨人サイクロプスをブチのめしたエドウィンさんがこちらにやって来た。


「レイト殿。君たちの支援に感謝しよう。
 誇り高きドノヴァンの戦士を代表して礼を言わせてもらう。
 改めて、エドウィン・センチュリーだ。
 よろしくな」

「へっ…!?
 あ、ど、どうも…、間宮 零人っす…」

「零人? なぜ声が上擦っている?」


 ルカが不思議そうに尋ねる。
 し、仕方ないだろ!
 この人すげぇキラキラしててアイドルみたいっつーか…なんかアガッちゃうんだよ。


「そして、君が『蒼の宝石』であるルカ殿か。
 話はあらかた聞いているぞ。
 なんでも下賎な魔族たちの王、『紅の魔王』に兄君が囚われているらしいな?」

「ああ、そうだ。
 それと、私の正式名称は『翔の宝石ジャンプ・スフィア』だ。
 呼び名はルカで構わないがな」

「そうか。
 ではよろしくルカ殿…「レイト!」」


 互いに自己紹介を済ませると、他の仲間たちもこちらにやって来た。
 みんな(カーティス以外)無事なようで良かった。
 …あれ? ザベっさんの表情が固いような…?


「どうした? ザベ…」


 ザベっさんに声を掛けようとした途端、は起きた。


「おおおお!そこに居るのはエリーかい!?
 待ってたよエリーちゅわああああん!!!!」

「「「!?」」」


 あ!? なんだぁ!?
 今のきたねぇ声はどこから…


「あ…えーと、エドウィン…さん?」


 目の前だった。
 先ほどすげぇ爽やかに挨拶をしていたイケメンが、地下アイドルの追っかけをしてるおっさんみたいなテンションに変貌した!


「エリーたぁぁぁん!!!!
 会いたかったよぉぉぉぉ!!!」

バッ!

「あっ!? エドウィンさん!?」


 先ほど闘いで見せてくれた跳躍の如く、エドウィンさんはザベっさんに向かって一直線に突っ込んだ!

ドゴォッ!!!

「ごぶらぁっ!!」

「「「ええええ!?」」」


 向かって行ったエドウィンさんを思い切り蹴っ飛ばした!
 あれ!? その人兄貴なんじゃないの!?
 腹を蹴られて地面にうずくまるお兄さんを、ザベっさんは氷のような冷たい眼差しで見下ろした。


「…お久しぶりです、兄様。
 私は全然会いたくありませんでしたが」

「『ニイサマ』!?
 な、何を言っているんだエリー!
 ホラ、いつもみたいに『にぃに』と…」

バゴォン!!!

「「「!?」」」

「ぐふっ…」


 エドウィンさんはセリフを完結することなく、ザベっさんの鉄拳に沈んだ…。
 その圧倒的なまでの暴力行為に隣にいたフレイがたじろいだ。


「な、なにしてんのよエリザベス?
 その人アンタの家族でしょ…?」

「いえ、このような暑苦しいエルフなど存じ上げません」


 あ、あれぇ?
 久しぶりの帰省って言ってたから、なんやかんや家族に会えるの楽しみにしてるもんだと思って…いや、待て。
 そういえば昨日の夜、家族のこと聞いたらこの人の話題ひとっっっつも出なかったな…。
 つまり、それほど…


「私、キライなので」


☆☆☆


「『溺愛』されてる?」

「はい。…忌々しいことに」


 数分後。
 キャラバンを預けたシルヴィアとセリーヌもこちらに合流してきた。
 他の戦士たちと共にドノヴァン村まで徒歩で移動中だ。
 ちなみに今話題にしているエドウィンさんはガルドのキャラバンに載せてあげている。
 …ただいま絶賛気絶してるからね。


「戦士長は昔から彼女の事になると我を忘れてしまい…僕たちも久しぶりにあんな彼を見ました。
 それにエリザベスも最初はよく彼の後をついていって…」

「イザーク?
 余計なことは口にしないようにお願いします」

「は、はい。
 というか君もずいぶん変わったよね…。
 すごく大人しくなってるし…」


 俺とザベっさん、そして今『イザーク』と呼ばれた男と一緒に肩を並べて歩いている。
 体育系なエドウィンさんとは違い、こちらの彼は柔らかい印象を持たせる大人しめの男だ。
 彼も同じ村の戦士で、ザベっさんの幼なじみでもある。

 軽くエドウィンさんのことを訊くと、どうやら重度のシスコンらしく、彼女が産まれてから一心に愛情を注いできたらしい。

 しかし、ザベっさんは行き過ぎた愛情は受ける側にとっては迷惑でしかないと斬り捨てた。
 彼からは物心ついてからも、ご飯の補助や着替え、果てには『洗浄ウォッシュ』までしてもらったのだとか。
 そして彼女は思春期を迎えるより前に、お兄ちゃん離れをして…というか嫌ってしまった。


「そうだ、昨日軽くは聞いたけど、子供の頃のザベっさんってどんな感じなんだ?」

「えっと…貴方のことはレイトさんって呼んでもいいですか?」

「『さん』は付けなくていいよ。
 気軽に『零人』って呼んでくれ」

「レイト…。うん、良い名前ですね!」


 イザークは歩きながら右手を差し出してきた。
 その握手に応じると、彼は人懐っこい笑顔を向けてくれた。


「フフ、村に着いてから昔の彼女のことをゆっくりお話しますよ。
 それまで貴方の旅路と…この給仕服を着たエリザベスについて詳しく聞かせてください!」

「ああ、いいぜ。
 つっても、ザベっさんとはまだほんの1ヶ月くらいの付き合いだけどな」

「お二方…。
 傍に本人が居ることをお忘れですか?」


 居心地の悪そうなザベっさんを差し置いて、俺たちは彼女を話題にしばらく花を咲かせた。










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