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第175話:サイクロプスの目的

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 『エドウィン・』…?
 下の姓ってまさか…!


「貴方はもしかしてザベっさ…あ、いや…エリザベスさんのご家族ですか?」

「如何にも! 愛しのエリーは俺の妹だ!」

「…………」


 ビシッと、親指で自らを指すエドウィンさん…。
 ま、マジかー!!
 確かに顔似てるとは思ったが、いきなり親族の人と出会うとは…。


「ドコヲ見テイル!? 舐メルナァァ!!!」


 こちらの挨拶を交わす間もなく、次の黒獄犬ヘルハウンドが襲いかかって来た!
 あっ、コイツは意思疎通できる個体だ。


「フン! 下等な魔族など、恐るに足らん!!
 レイト殿、正式な挨拶はあとだ!
 ここは戦闘に集中しよう!」

「りょ、了解っす!」

ドゴッ!

「ギャウッ!」


 エドウィンさんは襲ってきた黒獄犬ヘルハウンドを蹴り飛ばし、戦闘を再開した。
 知ってか知らずか、俺の呼び方は苗字ではなく名前の方だ。
 さっきおっさんがどうのと言ってたし、俺たちに関する諸々の事情は教えてもらったのかな?

 …って、今はそんなことは後だ。
 俺も闘いに参加せねば!


「よっしゃカーティス! もういっちょ行くか!」

「やだァァァ!!! もう痛いのやだぁ!!」

「あっ!? コラてめ、暴れんな!」


 カーティスは再びジタバタと手足をバタつかせた。
 ええい! 往生際の悪い!


「零人! バルガはもういい!
 『仕込み鎧手ヒドゥントレット』に切り替えろ!」

「ええ!? 俺の聖剣カーティス…」

「勝手に変な名前付けないで!?」

ガキャン!

 しぶしぶ尻尾を離して、俺は両手に剣と盾を展開した。
 せっかく威力あるのに惜しかったなぁ。


「仕方ねぇ、カーティス!
 俺から離れるな。お前のことは必ず護る!」

「カッコいいこと言ってるけど、さっきその守る女の子をブン回してたよね!?」

「レイト!
 俺は他のドノヴァンの連中を援護する!
 ここは頼んだぞ!」


 テオはそう言い残してこの場から離脱した。
 他の…そうか、ザベっさんのお兄さん以外にも数名闘ってる人が居たな。
 彼らも村の戦士なんだろう。


「『黒獄犬ヘルハウンド』残り約二十。
 まもなく他のメンバーも来るだろう。
 あまり深く踏み込まず敵を殲滅するぞ」
 
「おう! カーティスついてこい!」

「うう…、ワタシ闘えないのに…」


 ボヤくカーティスの手を引き、彼女を庇うように剣を構える。
 む、さっそく一匹来たか!


「グオオオオッ!」

「はああああっ!」

ザシュッ!!

「ギャッ!?」


 牙を剥いて飛びかかってきた黒獄犬ヘルハウンドを右の両刃剣で切り裂く。
 うん、魔法を撃ってこないなら特に大したことないな。


「ス、スゴいねマー坊…。
 こんなそばにワタシ居て邪魔じゃないの?」

「もちろん邪魔だよ。
 だけどお前はルカの非常食だろ?
 あんな犬っころに喰わせるわけにはいかねぇ」

「あー! また非常食って言ったぁ!
 マー坊ってニンゲンのくせにナマイキ過ぎ!!」


 傍らでワーワーと騒ぐカーティスを護りつつ、俺は戦闘を続けた。


☆☆☆


 黒獄犬ヘルハウンド相手に戦闘を続けること数分。
 ようやく『蒼の旅団』の援軍が来た。


「レイト! コイツらが敵ね!?」

「あれは単眼巨人サイクロプスか!
 相手にするのはずいぶん久しぶりだ」

「よっしゃあァ! まだ敵は居るな!?
 まとめてオレが相手してやらァ!」

「……ハァ、やはりが居ましたか」


 駆け付けてきたのは、フレイ、ナディアさん、リックにザベっさんだ。
 それぞれの得物を携えながら戦場へ乱入していく猛者たち。
 よしよし、これでカーティスを預けられるぜ。

ブン!

「あっ! レイト!」

「フレイ! コイツを頼む!
 俺は単眼巨人サイクロプスを片付ける!」


 手を繋いだカーティスを連れてフレイの元へ転移テレポート
 そんでもって、問答無用でカーティスを押し出した。

ドン!

「ふぎゃっ!」

「あっ!? ちょっと!?」

「じゃあまたあとでな!」


 短く手を振って再び上へ飛翔する。
 アイツなんだかんだ優しいし、こうすりゃ放って置かんだろ。
 チラッと下を見ると、カーティスがフレイの膝元にすがりついていた。


「ねぇ、聞いてフレ子~! さっきさ!
またマー坊がイジワルしてきたんだよ!!」

「今そんな場合じゃないでしょ! ああもう~!!
 なんでいつも私がこんな役なのよ!」


☆☆☆


 残りの黒獄犬ヘルハウンドを仲間に任せ、俺は単身単眼巨人サイクロプスの前へ立ち塞いだ。
 …いや、浮いてるから立ってはいないけど。

 敵はデカい。
 黒竜ブラック・ドラゴンと相撲でもとれそうなくらいに。
 ただそれ故に、は狙いやすい。
 単眼巨人サイクロプスは目の前に現れた俺を値定めするかのように、視線で舐め回す。


「ヤハリ、オマエガ我ガ同胞デアル『ガイア』殿ヲ下シタニンゲン…『マミヤレイト』ダナ?」

「『マミヤレイト』? 『ガイア』?
 さあ、何のことか分からないね」

「トボケテモ無駄ダ。
 本国ヨリ『黒イ人族ト蒼イ人族ニ警戒セヨ』ト通達ガ来テイル。
 直近デハ『暴食イザベラ』ト戦ッタダロウ。
 ……ヨリニモヨッテ奴ヲ仕留メ損ナウトハ」


 ピキリと、一ツ眼に血管が浮かび上がった。
 つか『暴食イザベラ』て…。
 すげぇあだ名だな…。
 あいつ仲間内からも疎まれてんじゃねぇか。


「それで?
 なんでお強い魔族くん達がこんな所にいる?」


 剣先を単眼巨人サイクロプスに向けて質問する。
 ま、答えるまでもないとは思うが。


「決マッテイル! アノ忌々シイあおイドラゴン…!
 『海竜リヴァイアサン』ヲ屠ルタメダ!」

「えっ?」


 あ、あれ?
 『紅と黒の騎士』探してるんじゃないの?
 おっさんを狙って来ただって…?


「我ガ部隊ハ対海竜リヴァイアサン撃滅用ニ編成サレタ。
 シカシ、来テミレバナンダ!?
 アノ屈強ナ霊森人ハイエルフガ迎エ撃ツダケデハナク、オマエラノヨウナ要注意人物マデ介入スルトハ…コレデハ話ガ違ウ!」

「そ、そんなこと俺に言われても…」


 下顎から伸びている鋭牙を歯ぎしりして、俺を睨みつける単眼巨人サイクロプス
 …でも、そうか。
 コイツ以外の魔物が黒獄犬ヘルハウンドなのはそれが理由か。

 かつておっさんと闘った時、俺はモネから渡された不思議な仮面、『仮面遊戯ペルソナ』を使用した。
 その仮面は、形状によって様々な魔物の能力を宿す。
 あの時使った魔物の力は『黒獄犬ヘルハウンド』。
 火属性の亜種、黒炎属性を扱える。
 その属性は水属性と相性が良い。

 そしてコイツらもおっさんとの属性の相性を対策して、黒炎を扱う犬どもを大量に寄越してきたってことか。
 まったく、迷惑な話だぜ。


「ほう?
 やはりオズベルク殿を狙って襲撃したか、忌々しい魔族め」

「ヌッ!?」

ドゴンッ!

 単眼巨人サイクロプスは急に体勢を変え、巨体とは思えない程のスピードで棍棒を下に打ち下ろした!
 鈍重そうに見えたが、意外と速いな…。


「俺の位置を正確に把握して攻撃するとは、ただの単眼巨人サイクロプスにしてはやるようだな」


 そして、地面にめり込んだ棍棒の上には、例のザベっさんのお兄さん、エドウィンさんが腕を組んで立っていた。


「キッ、キサマ…!?
  マサカ…黒獄犬ヘルハウンドドモハ!?」

黒獄犬ヘルハウンド? そんなものいたか?」


 単眼巨人サイクロプスは辺りを見渡す。
 俺も目線で周囲を見渡すと、横たわっている犬の死体で地面が覆われていた。
 生き残りはほんの数匹で、俺の仲間たちも余裕で蹴散らしているようだ。


「オ、オノレ…!!
 ガイア殿ヨリ頂イタ部下ヲヨクモ…!」

「辞世の句は済んだか?
 客人を待たせているのでな。
 そろそろ決着を付けさせてもらおう!」

ドンッ!

 棍棒を踏み台にして、エドウィンさんは宙を舞った!
 あ、あんなに高く跳び上がれるとは!


「小癪ッ!!『暗黒撃ダークネス・インパクト』!」


 自身より更に上にいるエドウィンさんに対して、単眼巨人サイクロプスは近接用の魔法を繰り出した!
 やべぇぞ! 空中じゃ身動きが…


「『幻霊跳躍ファントム・ステップ』」

トンッ…

「ナッ、ナニィ!!?」


 ウソだろ!?
 空中を躱した!?
 そんなんアリかよ!
 彼は更に空中で身体を捻り、右脚を突き出した飛び蹴りのフォームに体勢を移した!


「これで終わりだ!『幻霊打突ファントム・バンカー』!」

ズンッ!!

「カ…、ハ…!」


 一瞬、エドウィンさんが単眼巨人サイクロプスを貫通したのかと錯覚する。
 彼の攻撃は胸元の中心に当てられ、明らかに敵と体躯が違うにも関わらず、たった一撃で尻もちをつかせた。

 再び草の地面へ戻ってきた彼は、右手を掲げて透明なナニカを掴んでいるようだった。
 あれは…もしかして。


「…零人。エネルギーを眼に回してみろ」

「あ、うん」


 両眼にエネルギーを纏わせると、右手に掴んでる正体が明らかになった。
 以前、ザベっさんが『鷲獅子グリフォン』から取り出したアレと同じ…。


「さらばだ。来世も貴様と出会えたなら、もう一度俺が幽世かくりよへ送り届けてやろう」

メキョッ!

 掴まれた単眼巨人サイクロプスの『霊体』はあっけなく握り潰され、その生涯を終えた…。









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