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第171話:シルヴィアの見解

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 『吸血鬼ヴァンパイア』イザベラとの闘いから数日。

 最終目的地である『ドノヴァン・ヴィレッジ』まであと少しの所まで進んでいた。
 イザベラのような魔族が他にもいないか道中は警戒しながら行軍したが、結局誰も見つけられなかった。
 こんなことならイザベラからもっと情報を入手しとくべきだったかもしれない。
 …特に気になるのはだ。


「どうしたのレイト、また考え事?
 アンタ頭悪いんだからそんな表情かお似合わないわよ」

「…慰めと罵倒をアリガトウ」


 現在時刻は朝。
 朝食も済ませてキャラバンで絶賛進行中だ。
 今日はフレイ達ガルド組のキャラバンに同乗している。
 よってゼクス組にいるカーティスのお守りはルカだ。


「あっ! 分かったニャ!
 今日のおやつを何するかで悩んでるのニャ!」

「あいにく今日はジャーキーをしゃぶるって決めてあるよ」

「…それおやつじゃなくておつまみニャ。
 せっかくあたしのおやつ分けてあげようと思ったのに…」


 俺の回答にセリーヌがつまらなそうに頬を膨らます。
 ちなみに今の運転手はテオだ。
 最近になってようやくクルゥ達がテオに心を開いてくれたようで、彼の手網に従ってくれた。
 テオも初めて懐いたクルゥにとても喜んでいた。


「俺が考えてたのはイザベラのことだよ」

「…は? それ、どういう意味よ?」


 えっ!
 なんでフレイさんそこで殺気を出すの!?
 今のなにか怒る要素ある!?


「フレイちゃんから『嫉妬』の匂いがプンプンニャ」

「え? しっと?」

「ちょっ!?
 なんでいつも余計なこと言うのセリーヌ!」

「ニャアアアア! 離してニャー!」


 セリーヌがフレイにアームロックされとる。
 …よく分からんが、話進めよう。


「ホラ、こないだみんなにも話しただろ?
 あいつ、一回死んだけど『棺桶』っつートンデモアイテムで蘇ったって」

「ああ! なによ、そっちのことだったのね。
 確かにすごい魔道具アーティファクトだとは思うけど、光属性の魔石マナ・ストーンをたくさん集めれば創れないことないんじゃない?
 そうシルヴィアが言ってなかったかしら」


 どうやらフレイは大して興味なさそう。

 光属性である癒しの魔法…『回復ヒアル』。
 その上位魔法である『大回復ヒアルドン』は、人体の欠損部位をも復元する力があると言われる。
 それに匹敵する純度の魔石マナ・ストーンを大量に用意できれば、〝もしかすると〟人体の全身すら復元できるかもしれない…というのがシルヴィアの見解だった。

 無論、この件についてはハルートにも相談してみるつもりではあるけど、何かが引っかかるんだよな…。


「でもおかしくね?
 『吸血鬼ヴァンパイア』って光属性弱いんだろ?
 光に弱い種族なのに光属性の魔法で生き返れるもんなの?」

「んーまぁ、そこは『我慢』するとか?」

「シルヴィアの魔法で消し炭になる程なのにムリあるだろ…」

「アハハ! それもそうね!
 ところで、ドノヴァンの村ってどんなエルフが居るのかしら!?」


 コイツに聞いた俺がバカだった。
 とっくにフレイの関心はイザベラより、もうすぐ到着するザベっさんの故郷の方に向けられている。
 もちろん俺も楽しみではあるが、魔族たちの動向も気になってしゃーない。
 それに…


「『棺桶』…。
 俺、どっかでそんなの見たような…」

「ねぇレイトってば!
 モネへのお土産買うの忘れちゃダメよ!」

「フレイちゃん!
 そんなガクガク揺さぶったら可哀想ニャ!」


 …まあ、賑やかな旅路ももうすぐ終わる。
 俺も頭を切り替えてフレイのように今の環境を楽しんだ方が良いのかもしれない。
 その方がきっと…良い思い出になる。


☆☆☆


 その日の深夜。
 俺たちは『ドノヴァン山』という、山の一歩手前まで来ていた。
 山を登るのはクルゥの体力を使うため、焦らずに今日は早めにキャンプしようということになった。

 いつもの狩りも終わり、あとは寝るだけ。
 俺のパーティは結構人数が居るため、テントが女性陣2組、男性陣1組で、計3組もある。
 本来なら魔物の襲撃に備えて見張りを誰か1人立てるのだが、カーティスの加入によってそれは解消された。

 あいつの持つエネルギーをキャンプの周囲に張り巡らせることによって、近づく魔物を追っ払うことができる。
 魔物たちは敏感にエネルギーを感じ取り、本能的に近くにドラゴンが居ると理解するようだ。

 …魔物じゃないけど、カーティスのせいで俺もドラゴンの気配というやつを最近分かるようになってきた。
 なんかどんどん人間やめてってない俺?


「グゴオオオ…、グゴオオオ…」

「スゥ…、スゥ…」

「………………」


 寝れん。
 つーか、リックのいびきがうるせぇ。
 いつもは俺が先に寝付けるのに、なぜか今日は出遅れてしまった。
 …仕方ない。少し外の空気でも吸おうか。

 リックとテオを起こさないようにそろりそろりと忍び足でテントから脱出する。
 よし…、なんとか出られた。

 深夜のキャンプは魔除けを兼ねて焚き火をしとくもんだが、見張りがいない以上、揺れる火をほっとくのは危険なので最近は消火している。
 だから足元には気をつけない…と…?

 あれ? 焚き火近くの椅子に誰か座ってる?
 でも暗くて全然見えないな。


「オーイ…」

「…? レイト様」


 あ、ザベっさんだったのか。
 今夜は月が雲の裏側に居るから全然分からなかったや。
 俺は彼女の隣の椅子へ腰掛けた。


「いかがなさいましたか?」

「こっちのセリフだよ。
 ちょっと外の空気吸いに出て来たら…。
 もしかしてザベっさんも眠れない感じ?」


 極力声のボリュームを下げて会話を開始する。
 真っ暗で何も見えないが、隣にいるザベっさんのポーズくらいならボンヤリ見える。
 脚を揃えてその上に両手を繋いでいる。
 絵になるとても上品なポージングだ。


「…そうですね。
 私の故郷『ドノヴァン村』までまもなくです。
 手紙は送っているとはいえ、久方ぶりに帰省するので、多少緊張しているのかもしれません」

「ハハ、あのザベっさんも緊張することあるんだな。
 ねえ、ザベっさんの家族ってどんな人なの?」

「それは……」


 あれ? 黙っちゃった…。
 あ…やば、もしかして既に故人とか…?
 いけね! 禁句だったか!?


「あ…いやっ、言いたくないなら別に良いけどよ…」

「…いえ、そうではありませんが…。
 着けばいずれ知ること。
 この場でお教えいたしましょう」

「う、うん…」


 コホンと、一つ咳を打ってザベっさんはこちらに姿勢を向き直した。


「私は…ドノヴァンのおさの娘なのです」









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