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第156話:〝狼〟の服

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 無事にクエストを達成した俺たちは、討伐したミミズどもを一ヶ所へ集めている。
 少しでも業者さんの負担を減らし、ババアに恩を売るためだ。
 気色悪いワームに触れるのはなかなか勇気がいるが、慣れてしまえばどうってことはない。


「それにしても…なんでテオが狙われたんだろうな?」


 ワームを腕に抱えながらルカに訊いてみる。
 いつもの流れなら俺が狙われると思ったのに珍しいこともあるもんだ。


「恐らく緑蟲グリーン・ワームの習性だろう。
 リストには光源を攻撃すると記載されていた」

「光源? でも松明は…あ、そういうことか」

「俺が…『点灯アルム』を使ったからだな…。
 す、すまない…。
 手は出さない約束だったのに…」


 ズーンと肩を落とすテオ。
 ちなみに彼はさすがにワームに触れるのは嫌だそうで、隅っこで大人しくしている。
 こういうところは貴族っぽいかも。


「そんな顔をするなマスカット。
 君のおかげで増えた仕事を完遂できた。
 礼を言おう」

「ルカ…」


 肩にワームを担ぎながら慰めるルカ。
 とても麗しき女子とは思えない光景だな。


「そういや、テオの新調したその服。
 なかなか調子良さげなんじゃない?」


 俺は慰めるより話題を変えた。
 そっちの方が気も遣わないべ。


「ん、これか? へへ、ああそうだろう?
 ジオンの仕立て屋にオーダーして創って頂いた服だ。
 これのおかげで遠慮なく狼の力を振るえる」


 テオはくるりとその場で一回転して、俺らに見せつけるように裾を摘む。
 ちくしょう、可愛いな。

 ノルンから出発する少し前、テオは仕立て屋のおばちゃんに創作オーダーメイドを注文していた。
 注文した服とは、以前俺たちが頼んだようなカチッとした衣装ではなく、より実践的で動きやすい冒険者用の衣類だ。
 その真価は、テオが〝魔物化〟した時にある。
 なんとその服は伸縮性が抜群に優れており、彼の身体に合わせて形を保つことができるのだ!

 以前より、テオは狼に変身するたびに自前の服を破いていた。
 彼もそれについては悩んでおり、ジオンに相談したところ、仕立て屋でテオ専用の特注品を創ってもらえることになったというわけだ。
 …ちなみに靴だけ脱ぐ必要があるのはご愛嬌。


「よし、大方まとめられたな。
 これより依頼主の元へ帰還する」

「おう。ほらテオ、こっちおいでー」

「分かった。…なんか子供扱いしてないか?」

ギクッ

「し、してないよ。ルカ、頼む」

「ああ」

ブン!

 こうして俺達は、ちょっとトラブルは起きたが無事にクエストを終わらせることができた。
 …ったく、ルカに社会勉強させるはずが、いつの間にか対象がテオにすり替わってたな…。


☆☆☆


 怪力ババアとギルドに報告も完了し、俺たちは再びキャラバンの旅を開始した。
 現在の運転手はフレイとリック。
 隣の席にそれぞれセリーヌとシルヴィアが座っている。

 ルカはキャラバンの中で、ギルドから貰った報酬の袋をジー、と眺めている。
 あの後、依頼主のババアにクイーンが居たこととワームをまとめておいたことを伝えると、さすがに悪いと思ったのか狙い通り報酬に少し色を付けてくれた。
 ちょっとした臨時収入だね、やったねルカ。


「どうだ?
 テオも手伝ったとはいえ、自分で働いてもらったお金だ。
 これで王都で1週間過ごさないといけないとしたら、少しは節約しなきゃって思うだろ?」

「…まぁ、そうだな。
 私の食欲で君たちに迷惑をかけていたとは…。
 すまなかった。
 …これからは空腹をできる限り我慢するよ…」


 ギュッと袋を握りしめて、お腹にうずくめるルカ。
 ああもう、そんなこの世の終わりみたいな顔すんなよ!


「べ、別に食い物なんて買うだけじゃないだろ!
 俺たちガルドで魔物を狩って食べる訓練も受けたじゃないか。
 だから腹が減った時は言ってくれよ。
 そん時は俺も…狩り手伝うからさ」

「れ、零人…っ!」

ガバッ!

 ルカの顔がパァァと一気に明るくなるや、俺に飛びついてきた!
 ちょちょ!?
 目の前にテオくんがいらっしゃるんだぞ!


「…その、前から疑問なんだが、レイトとルカは恋人なのか?」

「えっ!? いや…、違うけど…」

「しかし、異性とそこまで触れ合うのはふつう恋人としか…あっ!?
 もしや異世界独特のスキンシップなのか!?」


 甘えてきたルカと変な勘違いをしたテオを諌めるうちに運転中のフレイから見つかって、俺らのバンはより一層騒がしくなってしまった。

 …ドノヴァンまでまだ長い。
 長距離の旅は大変だけど、このメンバーなら楽しく過ごせそうだ。









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