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第154話:お叱り

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 テオがパーティーに加わり、俺たちは改めて依頼人の所へ向かった。
 現着したその家は、古びた木枠窓や曲線を描いた瓦の屋根で造られており、庭には自前の畑なんかもあった。
 なんとなく、俺の爺ちゃんと婆ちゃん思い出すな。


「ここか…。依頼人さんは家の中かな?」

「おそらくな。扉をノックしてみよう」

コンコン

 ルカが玄関口のドアをノックする。
 すると「はいはい!」という声と共に、扉が開かれた。


「はい、どちら様…人族?
 なんだいアンタ達? ここに何の用だい?」


 出てきたのは小太りの婆さんだった。
 またしてもここでご挨拶だね。
 気が強そうなオバチャンだぜ。


「冒険者ギルドに依頼を出しただろう?
 私たちは君の依頼を受注した冒険者だ。
 当該討伐対象の場所はどこだ?」

「ちょ…ルカ。
 ちゃんと挨拶しなさいって」


 淡々と話を進めようとするルカを諌める。
 依頼人なんだから、少しくらいコミュニケーション取らないと。
 ルカの答えにオバチャンは目を丸くした。


「冒険者だって?
 アンタらみたいな若いのがかい?」

「疑ってるのならば、冒険者カードを提示しようか?」

「…いや、別にいいさね。
 それより後ろの子供はなんだい?
 …まさかアンタ達の子なのかい?」


 オバチャンは腕を組みながら後ろに立っているテオを顎でさした。
 テオは子供と言われて少しムッとした表情に変わった。


「ご老人! 俺はこう見えて20代なんだ!
 この見た目は〝狼〟の血による影きょ…」

「ちょっとアンタ達!
 いくら若い頃の勢いで子供作ったからって、仕事にまで連れてくる奴があるかい!?
 ちゃんと託児所に預けてから出直しな!」

「聞いてない!?」


 テオの言葉を遮り、何故か俺とルカは見ず知らずの婆さんに叱られている。
 やべぇ、ルカの奴キレたりしな…あれ?
 なんかすごいニヤけてる…。


「子供…零人との、こども…。フフッ」

「蒼いの!!
 いい大人が人の話も聞けないのかい!?
 そもそも最近の若いやつは…」

「いや、あんたも俺の話を聞いてないじゃないか!」


 いかん! このままじゃ長くなりそうだ!
 その後、俺は何とかテオに対する誤解を解き、ようやく本題に入ることができた。


「実は2、3日前から井戸水が濁っているのに気付いてね…。
 重い腰を上げて地下に入ってみたんだ。
 そしたら『緑蟲グリーン・ワーム』がうじゃうじゃいたのさ」

「う、うじゃうじゃ…。
 婆さん、よくそれで無事だったな」


 どおりで推奨ランクがスタンダードなわけだ。
 ワーム型の魔物はとにかく群れる。
 といっても、落ち着いて対処すればさほど脅威ではないのだが、数が大群だとそうもいかない。
 〝飲み込まれ〟たら、一瞬で終わる。


「こう見えてあたしだって元冒険者なんだ。
 けどね、忌々しいことに寄る年波にはやっぱり勝てないのさ。
 まったく、あと20年若けりゃこんな若造どもを頼ることなんてなかったのに…」


 オバチャンはポンと、膨らんでいる腹を叩く。
 その仕草にテオが少し笑ってしまった。


「フン、今回は私たちに任せてもらおうか。
 ちなみに井戸はどこにあるのだ?」

「家の裏庭だよ。ついてきな」


☆☆☆


 オバチャンに連れられ、裏庭に来た。
 その井戸とやらは見た目は特に異常はない。
 井戸口は暗く深く広がっている。
 石造りの壁は湿った感触があり、僅かばかり苔が生い茂っているな。
 そして中を覗き込むと、冷たそうな水が浅く溜まっており、その水面から微かに太陽光が反射していた。


「どうだい? 怖くなっちまっただろ?」


 オバチャンはカッカッと、嘲笑する。
 まあ夜なら多少不気味だけど、今は朝だ。
 そこまで怖くない。


「…生命反応を多数確認。
 これは…少し骨が折れそうだ」


 ルカは若干眉をひそめた。
 うーん…、元々俺が1人でやれとは言ったけど、全部ルカに駆除させるのはさすがに可哀想か。


「ルカ。やっぱ俺も参戦するよ。
 合体してとっとと終わらせようぜ」


 ルカに貸し出す予定だった『仕込み鎧手ヒドゥントレット』の安全装置セーフティを外す。
 しかし、ルカは首を横に振った。


「いや、当初の予定どおり私がミッションを遂行する。
 これは私の〝勉強〟なのだろう?」

「んー、まあ…。でもさ…」

「フフ、心配するな。
 こう見えて私は反省しているのだぞ?
 食事の代価は自分の懐から出さなければな」

「分かったよ、そこまで言うなら…」


 どうやらルカはあくまで1人でクエストをこなすつもりのようだ。
 少し心配だけど、危なかったら転移テレポートで脱出できるしな。
 俺は安全装置セーフティを元に戻して、ガントレットをルカに渡した。


「キツそうだったら無理しないで戻ってくるんだぞ?」

「ああ」


 ルカは受け取った仕込み鎧手ヒドゥントレットを装備して井戸口の傍へ近寄る。
 そして、彼女が穴へ入ろうと…

ガッ!!

「「!?」」


 …した途端、オバチャンがいきなり俺とテオの首根っこを掴み上げてきた!
え!? なに、何ですか!?
うぐっ…力つよ…!!


「コラァ!! 坊主ども!
 クエストを何だと思ってるんだい!
 仲間パーティーメンバーを孤立させるバカになんて渡す報酬はないよ!
 アンタ達も行ってこないと承知しないからね!!」

「「ハ、ハイッ!!!」」






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