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第153話:田舎のギルド

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-地下井戸の害虫駆除をお願いします!-

 家の井戸の中に『緑蟲グリーン・ワーム』が住み着いてしまい、水を汲むことができません。
 冒険者さんに魔物の退治を依頼します!
 受注してくださる方は裏面の住所までお越しください。


推奨ランク:正・冒険者スタンダード


☆☆☆


「『緑蟲グリーン・ワーム』か…。
 俺まだ見たことないな。ルカは知ってるの?」

「例によって、シュバルツァー宅の魔物リストでな。
 私も闘ったことはないが、駆除程度なら当日中に完遂できるだろう」


 ルカからクエスト依頼書を読んでもらい、仕事の内容を把握した。
 今日中には町を出発するつもりではあるので、この依頼なら確かにちょうどいい。
 蟲《ワーム》型の魔物はちょっとキモいイメージ定着しちゃってるけど…。


「ならさっさと受付んとこ行って受注するべ。
 なんか周りの視線も浴び始めてきてるし」

「そうだな。…少々不快に感じてきた」


 ルカは眉をひそめながら視線を後ろにやる。
 その先には先ほど陰口を叩いてきた連中が俺らをチラチラと見ていた。

 やっぱりここだと人族は悪目立ちする。
 いや…、俺とルカの見た目が余計に目立つのかもしれないな。
 俺の黒髪は然ることながら、人間形態のルカも腰まで届いた蒼いロングヘアーをなびかせる、クールビューティーな風貌の女性だ。
 異世界組だけで行動するとやはり浮いちゃうな(ルカは物理的にもだけど)。
 早く仕事を終わらせてフレイ達の所へ戻ろう。
 

 ☆☆☆


「こんにちは。
 本日は何のクエストを…人族…?」

「これを受注してくれ。
 メンバーは私と横の男だ」


 ギルドの受付嬢が居るカウンターの所へ行くと、若干顔をしかめられるようなさっきと同じ反応を受けた。
 しかしルカはそれに大して動じずにサッと、依頼書と冒険者カードを提出する。
 うーん、カッコいい。


「…はぁ、かしこまりました。
 では、身分の照合と確認をいたしますので少々お待ちを」


 受付嬢はダルそうに俺たちのカードを手に取り、冒険者たちの個人情報が記載された本を机の上に置いた。
 なんだか態度悪い職員だなー。

 そして、俺たちの出身や名前などの質問を彼女から一つずつ受け、それに答えていく。

 初めて訪れるギルドでクエストを受注または報告する際は、このように面倒な手続きをしなくてはならない。
 理由は過去に故人となった冒険者のカードを使い、ランクを偽ってクエストを受けた冒険者がいたためだからだそうだ。


「…はい、確認が取れました。
 では、あなた方のランクはスタンダードと…ア、アドバンス!?
 えっ…登録した日付は最近なのに…?
 す、すみません、もう一度確認して参りますので少々お待ちを!」
 
ザワッ…

 ランクの欄を見た受付嬢は目を丸くし、カードを持ってスタッフルームがある奥の方へ走っていった。
 それと同時にギルド内にどよめきが走る。


「お、おい…、アドバンスだってよ。
 なんだってこんな田舎にそんな凄いのが来るんだ?」

「知らねぇよ。
 そもそもどっちがアドバンスなんだ?」

「そりゃあ…あの蒼い女じゃねぇの?
 というか、人族にしてはよく見たらカワイイじゃねぇか」

「ふひひ、ならあとでパーティーに誘おうぜ。
 あんな黒髪が相棒だと頼りなさそうだしよぉ」


………………………………………………………


「まだ何もしてないのに早くも不幸トラブルの気配してきたんだけど」

「奇遇だな、私もだ。
 君と一緒にいると常に波乱万丈だな」

「へっ、言ってろ。
 俺の相棒ならこれくらい慣れたもんだろ?」


 たがいに肩をすくめていると、受付嬢が血相を変えて戻ってきた。
 早くクエスト行かしてくんねーかな。


「お、お待たせしました…。
 まさか…貴方が噂の『蒼の英雄』だったとは」


 は…!?
 待って、こんな田舎にもそのあだ名知れ渡ってるの!?
名前生まれてからまだ1ヶ月も経ってねぇぞ!?


「あの…どこでその名前を…?」


 ある程度は察しがつくが、一応質問してみた。
 すると、受付嬢は先ほどのしかめっ面から180度変わり、すばらしい満面の笑みで答えた。


「冒険者ギルドの職員内では有名ですよ!
 フェザリィギルド長が管理している王都ノルン支店で〝飛び級〟が出たという快挙は!
 ここまで短時間で昇級ランクアップした冒険者はおそらく居ませんよ!」


 や、やっぱりアンナさんが広めてたのか!!
 なんだよ! あの時は飛び級について自慢するなとか俺らに釘刺しておいて、結局自分でバラしてんじゃん!
 つーか、ど、どうしよう…?
 もしこれが俺の命を狙う黒竜ブラック・ドラゴンに知れたら…。

ギュッ!

 俺が顔を青くしていると、受付嬢がいきなり手を握ってきた!


「あのっ! もしかしてあなた達は『蒼の旅団』ご一行様ですか!?」

「へ!?あ、あの…?」

「す、すごいです!!
 まさか今日ご本人にお目にかかれるなんて!
 その…もしよろしければこのあと時間はあったりしますか?
 冒険のお話とか、王都ノルンのこととか!
 ぜひ聞きたいですっ」


 受付嬢がぽっと顔を赤らめながらデートの誘いを…え! もしかしてこれ逆ナン!?
 マジか! 初めて受けた!
 するとルカが俺を引っ張り、握った手を無理やり剥がした。


「我々は忙しいのだ。
 クエストの受注が終わったのなら仕事に行く」

「うおっ!?ル、ルカ…」

ブン!


☆☆☆


 ルカが(強制的に)転移テレポートを発動してギルドから出た俺たちは、クエスト依頼書に記載されてある依頼人のお宅へ向かっている。
 …冷静に考えてみると、なんだか害虫駆除業者みたいだ。


「まったく、この町のギルド職員は教育がなっていないな。
 仕事中に関わらず零人に色目を使うなど…」

「ま、まぁ俺もあんまミーハーなのは好きじゃないけど…。
 ちょっとだけ勿体なかったかな…(ボソッ)」

「あ?(威圧)」

「なんでもねっす」


 いけね、つい心の声が漏れた。
 つーか、冒険者ギルド内で有名になってるということは、まさか『理の国ゼクス』でもあの恥ずかしい名前知れ渡ってるんじゃないだろうな?

 しばらく町の中を歩いていると、不意に後ろから声が掛かった。


「レイト! ルカ!」

「「ん?」」


  振り向いた先にはフサフサ耳と尻尾の狼、テオがいた。
 小走りでこちらへ駆け寄ってくる。
 あれ? 待機してる間リックと筋トレするとか言ってた気がしたけど…。


「二人とも…今からクエストに行くのか?」

「ああ。つっても簡単な仕事だから午前中には終わると思うけど。
 テオはどうしたんだ?」


 聞き返すとテオはなぜか少し身体を震わせた。


「じ、実はだな…、フレデリカ嬢とナディア嬢に冒険者の仕事を学んでこいと言われて…。
 手は出さないから俺も同行させてくれないか!?
 じゃないと…俺、ふたりに…」

「テオ?」

「あっ!? いや…とっ、とにかく!
 俺も連れてってくれ! お願いだ!」


 バッと頭を下げるテオ。
 いや、そこまでしなくても別に連れてくけど!
 ていうか、なんか怯えてない?
 彼とは対照的にルカは苦々しい表情を浮かべている。


「あ、あの女ども…!
 新入りのマスカットを利用するとは卑怯な…」

「えーと、ルカ?」


 顔を覗き込むと、ハッとして咳払いを一つだけうった。


「オ、オホン…。
 そういうことなら是非もない。
 共に行こうか、マスカット」

「あ、ありがとう! 助かった…」


 お、ルカの許可が降りた。
 …『助かった』? 
 ただ同行するだけなのに、テオの顔はなぜこんなにも安堵に満ちているのだろう…?








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