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第150話:お見送り

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 一週間にわたる王都ノルンの生活がついに終了した。
 長いようで短かった一週間。
 出会いと別れが凝縮した濃密な時間を過ごせた。

 そして、いよいよ出発の朝を迎えた。


「よっと…忘れ物は無いな?」

「ああ。行こう零人」


 リュックを背負って、俺とルカは下のラウンジへ向かう。
 あばよ、高級ホテル…。


☆☆☆
 

 ホテルの厩舎からキャラバンを搬出し、早朝のノルンを走らせる。
 その手網を握るはザベっさん。
 ジオンの馬車はハルートの格納庫へ預け、後日引き取りに行くそうだ。
 彼女以外のメンバーはキャラバンの前を徒歩で歩き、これからフレイ達と東門で合流する。


「零人。君は昨日どこに用事があったんだ?」


 人間形態のルカが顔を覗いてきた。
 ノルン内で人族は嫌われているが、どうせ最後だからという理由でこの姿らしい。


「ハルートの所だよ。
 アイツとちょっと込み入った約束しちまってね。
 フレイと合流したら話すよ」

「…そうか」


 聞いてきたルカの表情が曇る。
 なんか少し元気ない?


「ふん、ジオンさんもレイトさんもなんであんな乱暴な女性が良いのか全然分かりませんね」


 会話に参加してきた不機嫌なシルヴィア。
 ジオンと仲が良いハルートがすこぶる気に入らないっぽい。


「私はまだ会ったことはないが…、マミヤ殿とエリザベス殿の武器の技術は本当に見事だ。
 機会があればぜひ彼女と話してみたい」


 ナディアさんは逆にハルートへ興味を持ったようだ。
 そういえばナディアさんがいつも背中にしょってる大剣ツヴァイハンターはどこで手に入れたんだろう?


「東門が見えてきたぞ。
 どうやらシュバルツァー達の方が早かったようだ」


 ルカが指をさした。
 東門には検問所も設営されており、その真ん前にガルド式のキャラバンが停められてある。
 車の周辺にはフレイ達と…見慣れた顔ぶれが揃っていた。


☆☆☆


「レイト君!お見送りに来ましたよ!」

「うう…ねみぃ…。おはよござぃすアニキ…」

「アシュリー、ダミアン!
 なんだよ、結局来たんかい」


 なんと俺たちが最後に挨拶に回っていた所の連中が勢ぞろいしていた!
 こんな朝早くから…なんだか悪いな。


「おはよう、レイト君に蒼のルカちゃん。
 体調はいかがかしらぁ?」

「良好だ。まさか君も来てくれたとはな」

「よぉ、レイトさんにナディアさん!
 まさかこんな早く居なくなるとはな!
 また、一緒にドラゴン狩ろうぜ!」

「ん、ドラゴンはやだ♡‬」

「ふふ、貴公とまた乾杯できる日を楽しみにしているぞ」


 ギルドマスターのアンナさん。
 それとグロック村で一緒に仕事をこなした冒険者たちだ。
 冒険者ギルド内では、俺たち人族との遺恨はほとんど解消されたようで、陰口を叩いてきたりはしない。


「いいですかエリザベス?
 お客様をきちんとお守りするのですよ?
 戦乙女ヴァルキュリア心得第…」

「第三条、恩義ある人物は必ず守るべし。
 分かっています、オババ。
 あまり口うるさいとシワが増えますよ」

「ふっ、これだけ見送りに参上するとは…随分とお前達は慕われているんだな。
 シルヴィア、道中魔物には気を付けろよ」

「うふふ、シト姉さんも来てくれたんですね。
 ええ、またお屋敷へ遊びに行きます!」


 仕立て屋のおばちゃんと医者のシトロンさん。
 2人にもかなり世話になった。
 

「よーマミヤ。
 昨日の今日で変な感じだが、いちおー来てやったぜ」


 あれ、意外だ!
 まさかハルートも来てたとは。
 こういうの面倒くさがりそうなのに。


「ハルート!
 お前の性格なら見送りなんて来ないかと思ってたぜ」

「フレデリカに創作オーダーメイドのことを伝えておく用事もあったからな。
 おめーの見送りはついでだついで」


 あーそういうことか。
 フレイの方に顔を向けると、ニコニコしていて機嫌が良さそうだった。
 良かったな、お前も武器創ってもらえることになって。


☆☆☆


 それからしばらくワイワイ談笑してたのだが、そろそろ出発しようと場をザベっさんがしめてくれたので、俺らはキャラバンへ乗り込んだ。

 すると、フサフサの獣耳と尻尾を生やした狼の亜人が2つのキャラバンを交互に見て、何故かオロオロとしていた。


「お、俺はどっちに乗ればいいんだ…?」


 新しく加入したメンバーのテオだ。
 大きな荷物を小さな背に抱えているそのアンバランスさが、より一層愛らしさを醸し出している。


「テオの好きな方に乗ってくれていいよ」

「テオさん!こっち! 私と乗りましょう!」


 俺とシルヴィアの声が被った。
 俺はガルド式のキャラバンへ乗っていて、シルヴィアはナディアさんのキャラバンだ。

 何故俺がこちらに移ったのかというと、キャラバンを引っ張っている鳥型の魔物、クルゥのブレイズが駄々をこねてしまったためである。

 今まで顔を見せなかったのがまずかったのか、俺が久しぶりにブレイズに触れた瞬間、ピュイピュイと鳴いて離れなくなってしまった。
 うう…ゴメンよ、今までほっといちゃって。


「じゃ、じゃあ…、こっちにする…」

「ああっ!なんでそっちなんですか…」


 テオが選んだのはガルドのキャラバンのようだ。
 乗り心地は大差ないからどっちでも良いんだけどね。
 テオはこちらに俺の顔を見ると、えへへと恥ずかしそうにはにかんだ。
 それを見たシルヴィアの顔が逆に恐ろしい顔に変わる。


「…レイトさん、彼に変なことしたら承知しませんよ?」

「ちょっと何言ってるかわかんない」


 シルヴィアの戯れ言を流して、テオが乗り込むのに合わせてバックドアを閉める。
 そして、見送りに来ていた人達が手を振ってくれた。


「若ー!行ってらっしゃい!
 頑張ってくだせぇぇ!」

「レイト君!
 次こっち帰ってきたらたっぷりイジメてくださいねー♡‬」

「リック! セリーヌ!
 お前らの飲んだ酒代ちゃんとツケとくからな」

「くたばんじゃねーぞ!
 マミヤ! エリザベス!」


 俺らもそれに合わせて手を振った。
 はあ…なんて俺は良い人達と巡り会ったんだろう。
 人情味溢れる出会いに感謝ですね。

 こうして俺たちは王都ノルンを旅立ち…


「おい待て君たち!
 まだ検問を受けていないだろう!?
 全員バンから降りなさい!」


 門に近づいた瞬間、近くの衛兵に怒られた。
 ……そうだった。
 話に夢中で検問の事忘れてた…。


「「「………………」」」


 俺らはその後、見送りをしてくれた連中が後ろにまだ居るのもあって、なんとも気まずい雰囲気のなか身分のチェックを受けた…。

 は、恥ずかし過ぎて死にてぇ…っ!








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