上 下
149 / 243

第146話:無償の武器

しおりを挟む
 「えー!もう出発するんですかー!?
 もう少しくらい過ごしても良いのに…」

「そうですよアニキ!
 せめてあんた方に、新生『カジノ・ノルン』のお客さん第1号になってほしかったんですが…」

「そうもいかねぇって。
 あんまりモタモタしてると魔族の騎士どもが逃げるかもしれないし」


 ハルートのガレージを後にした俺たちは、他のメンバーと合流して、王都で世話になった人々の所を巡って挨拶回りをしている。
 冒険者ギルド、宿屋、カジノ、仕立て屋…。
 王都に滞在したのは僅か1週間だけだったが、結んだ縁は多い。

 ついでに消耗品の買い物も同時に並行して行なっている。
 トレーニングのついでだとか言ってリックが買った物を全部運んでくれているけど…。

 そして現在来ているのは、裏…いや、〝カジノ〟だ。
 営業を再開できるまでは、まだ時間が掛かるようで、アシュリーを初めとする様々な協力者たちが、お店の為に日々尽力している。

 なんでもカジノの居を、地下ではなく地上で構える計画にするらしい。
 もし実現できれば今までより利用してくれるお客さんが増えるだろうな。
 

「ちなみに明日は何時に出発するんですか?」

「早朝7時だ。天候次第では前後するがな」


 アシュリーの質問に人間形態のルカが答える。
 この世界で天気予報を知るには、高額の料金を『占術士フォーチュナー』に払って依頼するしかない。
 衛星でもあれば〝気象予報士〟なんて職業ジョブも存在したかもね。


「7時ですか…うーん、起きれるかな…」

「お見送りなどであれば結構です。
 談話する時間が惜しいので。
 以前のように書類の山の中でお眠りください」

「エリザベスさん、なんかあたり強くないですか!?」


 再就職したダミアンがツッコミを入れるが、ザベっさんは素知らぬ顔でスルーした。
 たしかにザベっさんはアシュリーに対して容赦ないことをズバズバ言う。
 俺は仲が良い証拠だと思ってるけど…。


「ま、まあまあ、ザベっさんよ。
 アシュリーには大金預かってもらってるし、あんまキツく当たってやんな」

「……承知いたしました」


 あらら、プイッてそっぽ向いちゃった。
 まさか拗ねたのか?


「うふふ、レイト君ならどんな仕打ちでも罵倒でも、私は喜んで受け入れますよ!
 もし、手頃なサンドバッグが欲しくなったらいつでも呼んでくださいね♡‬」

「…!?寄るんじゃねぇメス犬が!」

「はぅ…っ!うぇへへ、良いですねぇ(ジュルリ)」


 ヨダレを垂らしてこっちに近づくアシュリーを遠ざけて、次の目的地の座標を検索した。
 気持ち悪いから早くお暇しよう。


「……どうしてマミヤ殿はいつも女性から気に入られるのだろう…?
 まさか闇の魔法を使って誘惑している…?」

「あの手の早さはある意味『魔法』かもしれないわね。
 そのうち男相手でもオトすんじゃない?」

「な、なんてことだ…」


 遠くからヒソヒソと、フレイとナディアさんの話し声が聞こえてきたけど、俺はなぜかその内容を理解することを拒否した。


☆☆☆


 次の目的地は…というか最後に訪れたのは『スラム街』に住むご当主さま、テオの屋敷だ。
 そして、『裏医者ブラック・ドク』と呼ばれるシトロンさんが滞在している所でもある。
 最後に会ってから少し経ったけど、地下にいる患者さんの容態は良くなったのかな?

コンコン

 シルヴィアが屋敷の正面扉をノックする。
 すると、10秒も経たないうちにガチャリと扉が開いた。


「おお…シルヴィア様。それに、皆さま方も。
 ようこそ、マスカット邸へ。
 その節はお世話になりまして、誠に有難うございます」

「は、はい。ご無沙汰してます…」


 出てきたのは使用人さんだ。
 使用人つっても、どう見てもカタギではなくヤーさんにしか思えない風貌の男。
 しかも、屋敷に務める使用人はもちろん、スラム街の門番さんまで、ほとんどこんな強面だ。

 どうやらシルヴィアは強面さんが苦手らしい。


「本日はなんのご入用で?」

「えっと、実は私たち明日王都を発つ予定でして、最後にテオさんにご挨拶をしたく、お伺いしたのですが…」

「なるほど、そうでしたか。
 しかし、わか…いえ、当主は現在シトロン様とお出かけになられておりまして…。
 もうじきお戻りになると思いますので、どうか中でお寛ぎください」

「そ、そうなんですか…。
 分かりました、それではお言葉に甘えて…」


 シルヴィアがこちらに振り向いた瞬間、荷物を持っていたリックがニヤリと笑った。
 あ、これ意地悪する顔だ。


「んだよ、チビ狼居ねェってよ。
 それなら帰るかァ。おい黒毛。
 ホテルまで頼むぜ」
 
「あいよ。じゃあな、シルヴィア。
 あとでまた迎えに来る…いだだだだだ!!!」

「貴方たち私をここへ置いてく気ですか!?
 どうして男ってすぐそうやって子供じみた嫌がらせするんですか!」

「ほ、ほーはん(冗談)!
 ほーはん(冗談)はからぁぁ!!」

「ギャハハハ!!!
 ヘンテコなツラになったなァ!」


 クソ、リックに乗っかるんじゃなかった!
 シルヴィアから思い切り頬っぺつねられてる!
 俺はただでさえ気の強い女どもに暴力振るわれてるんだぞ!
これ以上ブサイクになったらどうすんだ!


「…プフっ!
 ちょっとシルヴィアやめなさいって…!
 アハハハハハハ!!」

「おお、零人の顔は変幻自在だな」

「ああっ!それ可愛い顔ニャ!」


☆☆☆


 以前もお邪魔したことのある客間でみんな思い思いに過ごして待っている。
 出されたお茶をご馳走になりながら、スマホをいじってると、ナディアさんが話しかけてきた。


「マミヤ殿。
 午前中に武器を受け取ったのだろう?
 良かったら少し見せてもらえないか」


 そっか、ルカとフレイ以外の人にはまだお披露目してなかったな。
 ナディアさんは興味津々のようだ。


「いいっすよー。
 んじゃ、ちょっと離れててくださいね」

「…?ああ、分かった」


 ナディアさんが少し距離をとったのを確認し、俺はガントレットの『安全装置セーフティ』を解除した。
 そして右手首のスナップをきかせる。

ガキャン!

「おおっ!?手首から剣が…。
 これは…どういうカラクリなんだ??」


 手首から飛び出した両刃剣にナディアさんは目を丸くした。
 構造の詳しい説明はハルートじゃないとできないな。

 
「いやー俺も説明は軽く受けたんですけどさっぱりですよ。
 磁力で折り畳まってるとかなんとか…」

「そうか…。
 いや、実に見事な仕掛けだな。
 これほどの刀身が手首に収まるとは…」

「剣だけじゃなくて盾もあるんですよ。ほら」

ガキャン!

 同じように左手をスナップさせる。
 殴打にも使える、四角い盾が出現した。


「す、凄まじい技術だな…。
 これほどの物を創れる技術者が我が国にも居てくれれば…」

「ナディアさん?」

「あ…いや、なんでもない。忘れてくれ」


 慌てたようにナディアさんはブンブンと手を振る。
 ハルートに『理の国ゼクス』へ来てほしいということなのだろうか?
 でもアイツはクソ気難しいから、そう簡単に動かないだろうな。


「それより…ここから本題だが、この武器はいくらだったのだ?」

「え?なんでですか?」


 キョトンしながら尋ねると、ナディアさんは目を伏せて縮こまるように腕を抱いた。


「貴公の…大事なファルシオンを壊してしまったのは私だ。
 しかし貴公は弁償をさせてくれないし、それならば新しく購入した分の代金を私が払おうと思って…」

「ナディアさん…」


 この話は何回もしたのにー。
 あれは『炎獣イフリート』が壊したのであって、ナディアさんがやったわけじゃない。
 変なとこで頑固な人だ。


「んなもん要りませんて」

「し、しかしだな…!」

「そもそも、コレ値段が分かりませんよ。
 あいつタダで創ってくれたんで」

「な、なんだと!? 馬鹿な…。
 商いをしている人間が無償で商品を提供するなど…」


 ガーン!とショックを受けるナディアさん。
 おや? 信じてないっぽい?
 それなら証人がちょうどいる。


「ザベ…」

「お呼びでしょうか?」

「早いよ!? いつの間に隣来たんだ!」


 思わず椅子から立ち上がって後ずさる。
 まさか、『亜人の国ヘルベルク』にいる間ずっとザベっさんの気配に怯えなきゃいけないの?


「……まあ、いいや。
 それでさ、ハルートが俺の武器を無償で創ってくれたの本当だよな?」

「いえ、きちんとレイト様はお支払いになられたかと」

「え」


 あ、あれ?
 俺別に金出した覚えないぞ…?


「いくらだエリザベス殿?」

「そうですね…およそ20万Gジルほどかと」

「「にじゅうまん!?」」


 は!?そんな大金払った覚えねーぞ!?
 まさか口座から抜かれた?


「むむむ…。
 あいにく今は持ち合わせが無い…。
 すまない、帰国してからでもいいか?」

「いや、ちょっと待ってくださいって!
 俺そんなの払ってませんよ!
 ザベっさん!訂正してよ!」


 まさかザベっさんのやつテキトー言ってんじゃないだろうな?
 ウソは良くないぞ。


「いえ。その金額と同等の仕事を完遂なされたので、マキナ様はお認めになられたのかと存じます」

「「仕事?」」


 何のことだ…って、まさかアレのことか!


「もしかしてサスペンションの交換を手伝ったからか?」


 思わず指をパチンと鳴らして答えを合わせると、彼女は頷いた。


「左様です。
 この国では整備の技術を持ち合わせている人間は多くありません。
 危険で泥臭く決して華やかでは無いお仕事…。
 不人気な職種故に求人を出しても来なかった。
 マキナ様はずっとお独りで仕事に取り組んでいたからこそ、貴方様の助力に深く感謝し、報いたいと思われたのかと」

「「…………」」


 そうか…ずっと独りでか…。
 元々は由緒正しい工房だったとは聞いてたけど、やる人が居なかったからあんな小さい店になっちまってたのか。


「……それを聞いてしまっては、私が金を出すわけにはいかないな。
 そのハルート殿の顔に泥を塗ることになる」

「ええ、そうですね。
 俺、これからも暇な時あいつの仕事手伝おうと思います」


 今夜ちょうどハルートと待ち合わせてるし、夕ご飯はアイツと食べに行こうかな。

 その後、テオ達が帰ってくるまでみんなに武器を見せびらかして盛り上がっていた。
 …リックがオレと闘え闘えって何回も言ってきてとても困りました。
 
 







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

旦那様に勝手にがっかりされて隣国に追放された結果、なぜか死ぬほど溺愛されています

新野乃花(大舟)
恋愛
17歳の少女カレンは、6つほど年上であるグレムリー伯爵から婚約関係を持ち掛けられ、関係を結んでいた。しかしカレンは貴族でなく平民の生まれであったため、彼女の事を見る周囲の目は冷たく、そんな時間が繰り返されるうちに伯爵自身も彼女に冷たく当たり始める。そしてある日、ついに伯爵はカレンに対して婚約破棄を告げてしまう。カレンは屋敷からの追放を命じられ、さらにそのまま隣国へと送られることとなり、しかし伯爵に逆らうこともできず、言われた通りその姿を消すことしかできなかった…。しかし、彼女の生まれにはある秘密があり、向かった先の隣国でこの上ないほどの溺愛を受けることとなるのだった。後からその事に気づいた伯爵であったものの、もはやその時にはすべてが手遅れであり、後悔してもしきれない思いを感じさせられることとなるのであった…。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。 あなたに相応しくあろうと努力をした。 あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。 なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。 そして聖女様はわたしを嵌めた。 わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。 大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。 その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。 知らずにわたしはまた王子様に恋をする。

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

処理中です...