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第145話:説明書

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☆間宮 零人sides☆


「おら、マミヤ、ルカ。水だ」

「お、サンキュー」

「感謝する」


 鎧を脱ぎ、元の姿に戻ったハルートからコップを受け取り水で喉を潤す。
 …ぷはぁ…!
 こんな気持ちの良い汗を流したのは久しぶりかもしれない。
 『テスト』なのについ熱くなってしまった。

 ハルートは俺らにコップを渡すと、俺たちが座っている横の椅子に座り煙草を口にくわえた。


「『点火イグニ』。
 で、あたいの創った武器はどうだった?
 率直な感想聞かせろ」


 フウウ~と、煙を吐きながら俺の顔を覗き込んできた。
 その煙はなぜかフレイの方へ漂っていき、鼻をつまみながら手で扇いだ。
 ガレージに換気扇ないのかな?


「めっちゃ使いやすかったよ!
 展開するスピードも速いし、かなり頑丈だな。
 ルカはどうだった?」

「私も同意見だ。
 今回はあまり転移テレポートを活用できない状況だった。
 しかしこれほど汎用性がある武器ならば、私のエネルギーを使わずともあらゆる敵に対応可能だろう。
 君が魔物と闘わせなかった理由が分かった」


 俺たちの感想を聞いたハルートは、ニヤリと口角を上げる。
 そして、肩をバンバンと叩いてきた。
 ちょ、痛い痛い。


「へっ、それなら創ったかいがあるってもんだ。
 オメーらとの戦闘データも無事に得られたからな。
 これからの創作オーダーメイドに役立たせてもらうぜ」


 ハルートは指で自分の頭を突ついた。
 頭の中にストレージでも内蔵してるってか?
 常人には考えられない脳ミソしてるんだな。


「ねぇ貴女、あれほどの魔力マナ持っているのに、なんでこんな所で物作りなんてしてるの?
 アンタの雷属性…とんでもなく洗練されてるわ」
 

 煙草の煙を『乾燥トロクネ』で逸らしながらフレイが質問した。
 お、そんな使い方もできたのか。


「あれはあたいというより、外骨鎧エグゾの力だ。
 魔石マナ・ストーンに蓄積した魔力マナを消費して闘ってたんだ。
 …ったく、軽く使うつもりだったのにさっきの戦闘でスッカラカンだ。
 また『充電チャージ』しとかなきゃな…」


 ボリボリと頭を掻きながら、ハルートは先ほど脱いだ鎧に視線を向ける。
 高さが2mあるかないかぐらいの全身鎧。
 今は二本足でカラの状態のまま立っている。
 …なんというか、あれは鎧というよりもパワードスーツって感じなんだよな…。


「そうだ、俺たちが闘ったType Cコールド よりアレめっちゃスリムなんだけど、お前どんだけ魔改造したんだよ?
 背丈ぐらいしか原型ないじゃんか」

「ゴツいのはあたいの趣味じゃなくてね。
 それと持ち運びしやすいように、変形マキナの技術をふんだんに盛り込んだんだ。
 にしし、すげーだろ?」


 得意気にニカッと笑うハルート。
 もちろんすごくないわけがない。
 ザベっさんの武器を見て心躍った感覚は忘れちゃいない。
 ほんと発明家にでもなりゃいいのになー。


「…私も貴女に依頼しようかしら。
 創作オーダーメイドはいくらなの?」


 お、マジか。
 もしかして、フレイも俺のおニュー見て羨ましくなってきたのかな?
 しかしハルートは笑顔から一転、すごく嫌悪感にまみれた表情をフレイに向けた。


「ああ?オメーになんか創るわけねーだろ」

「なっ!?なんでよ!
 レイトには創ってあげたのに!」

「そもそもあたいは武具屋じゃねー。
 創作オーダーメイドはあたいが認めるヤツとだけ商談する。
 初めはマミヤにだって創ってやるつもりなんか無かったんだ」


 え、そうだったの!?
 …って、ザベっさんと一緒に来た時、めっちゃ不機嫌そうなツラしてたっけな。


「それじゃあなんで俺はOKしてくれたの?」


 するとハルートは、若干気まずそうに…いや恥ずかしそうに?視線を逸らした。


「オメーはジオンと同じで『分かる』側だし…。
 それに…」

「それに?」


 おでこから生えたツノを指でなぞりながら、ボソッと答えた。


「こんな薄汚くてめんどくさいあたいのこと…『スキ』って…」

「「「!?」」」


 瞬間、ルカとフレイからとんでもない殺気が飛んできた!


「このクソ男!!
 あんたこんな所でも口説いてたワケ!?」

「いい加減にしろ!
 女を翻弄してそんなに楽しいのか!?」

「ま、待てえぇぇぇぇぇぇ!!!誤解だ!
俺は…ただハルートのが好きって言っただけなんだ!!」


………………………………………………………


「…って、やっぱり口説いてんじゃないのよ!
 私にも好きって言ったのに…信じられない!」


 ああっ!?
 てめっ!なに誤解招く言い方してんだ!!


「シュバルツァー!?それはいつの話だ!
 いつの間に君たちの仲が進行している!?」

「ルカ!ルカ!
 それサンドイッチ!サンドイッチの話!」

「なによ!あの時私嬉しかったのに!
 あの言葉は嘘だったの!?」

「そんな…私は零人と何度も身体をいるのに、私はまだ『好き』の〝す〟すら言われていない…。
 ぽっと出のマキナにすら先を越されて…」

「はああ!?ちょっとどういうこと!
 アンタたち私が見てない間に…!」

「だああああ!!!
 頼むからあともう口閉じろってぇぇ!!」


 膝を付いて落ち込むルカと胸ぐらを掴み上げるフレイ…。
 こんなんどう収集つけりゃ良いんだ!!
 俺か!?俺が悪いのか!?

ガチャリ

「ハルートさん、お邪魔しますね。
 レイトさん方は…ってどうしたんですか!?」


☆☆☆


 帰りが遅い俺達を心配してシルヴィアが来てくれた。
 た、助かったぁ…!
 なんかあのままだと刺されそうな雰囲気だったからな…。
 

「こちらの荷造りは完了しましたよ。
 あとは明日の朝にすぐ出発できます」

「助かったぜシルヴィア。色々な意味で…」

「けっ、またオメーか…。
 もうジオンは帰っていねーんだろ?
 さっさとオメーも消えろや」


 ハルートはシルヴィアを見た途端、口汚い口調になった。
 あっ、そういえばシルヴィアはジオンを迎えにガレージに来たことがあったんだっけな。
 詳しくはまだ聞いてないけど、あの時どうなったんだろう?


「…言われずともそうします。
 貴方こそ、ジオンさんにこれ以上ちょっかいかけないでくださいね…?」

ギロッ

「…っ…!?
 だ、だからその目をやめろや…。
 別にアイツはただの顧客だつってんだろ…」

「「「………」」」


 蛇に睨まれた蛙の如く、ハルートの身体がビクリと震えた。
 そのハイライトが消えた目にビビったのは俺だけじゃなく、ルカもフレイも同じに違いない。
 もしかしてハルートの奴シルヴィアが苦手なのか?
 いったい一昨日に何があったんだ…?


「オホン…。それじゃあハルート。
 俺たちそろそろお暇させてもらうぜ」

「お、おう。あ、ちょっと待てマミヤ」


 ハルートはそう言うと、創作室の方へ駆け込んで行った。
 もしや何か渡し忘れ?

 そしてすぐに戻ってくると、彼女の手にはヒモで括られた薄い冊子があった。


「ほら、コイツは『仕込み鎧手ヒドゥントレット』の手入れの仕方を記載した説明書だ」

「えっ…ありがとう…。
 もしかしてお前書いてくれたのか?」

「たりめーだ。
 あたいが創ったんだから、あたいにしか書けねーだろーが」


 あ、そういわれるとそっか。
 パラパラと軽くページをめくってみる。
 …………あークソ…。


「読めない…」

「なっ!?わ、悪かったな!
 どうせあたいは字が汚いよ!」


 カーッと褐色の顔を真っ赤にするハルート。
 いや、汚いとかじゃなくて!


「マキナ、そういうことではない。
 零人はまだこの世界の文字を勉強してるんだ」

「ん、んだよ…勘違いしたじゃねーか」

「そうよ、あんたも覚悟しときなさい。
 コイツ勘違いさせることしか言わないから、それにいちいち翻弄されちゃダメよ?」

「君が言うな」

「貴女が言わないでください」


 2人に突っ込まれてしまったフレイさん。
 苦笑いしていると、ハルートがちょいちょいと手招きをしてきた。
 近づくと耳元に顔を寄せてきた。


(オメー明日出発するんだろ?
 その前にちょっと見てもらいてーもんがある。
 今夜6時にガレージに来てくれるか?
 もちろん独りでだぞ?)

(うん…?別に良いけど…)


 わざわざ内緒話するってことは他の人には見せられない物なんだろうか?
 説明書をリュックに入れて、俺たちはガレージを後にした。







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