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第140話:一喝

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 寡黙な騎士団のおっさんについて行くこと数刻、見た目通り城の内部は広々としていて、壁にはよく分からない絵画やタペストリーなんかが掛けられている。

 今は廊下を連れられているが、そこには多くの扉が並んでいる。
 会議室や寝室、事務室など、ひとつひとつが用途が異なる造りになっているんだろう。
 騎士団の人も王族もすげぇな。
 よくこんな迷路みたいな城で迷わないな。

 そして、ある扉の前でピタッと足並みが止まる。
 どうやら終着点のようだな。


「着いたぞ、ここが謁見の間だ。
 我が王は多忙ゆえ、時は有限だ。
 貴殿らの要件を手早く伝えるように」

「ええ、分かりました。
 レイト殿、みんな、準備はいいか?」


 ジオンがみんなへ確認する。
 ふん、そんなこと言って、今からトイレ行きたいなんて言っても無駄だろうに。


「おっけー」

「問題ない」

「万端です」

「は、はいっ!」


 全員が頷くと、おっさんは扉を開いて俺らを中へ招き入れた。


☆☆☆


 謁見の間。

 理の国ゼクスの城と比べると、こちらの方はそこまで広くない。
 これならいきなり今ここで闘え!なんて言われることはないだろう。
 ただ、問題は……


「くっ…蒼…いや人族め…!
 まさかこのような場所で出くわすとは」

「オットー卿は何を考えている?
 神聖な王の御前へ2人も人族を…」

「口をつぐめ。まもなく彼らの番だ」


 俺らの他にも謁見に来ている貴族達が居たのだ。
 しかも、その中には『裏武闘会ファイトクラブ』のアリーナに居たらしい観客も何人か来ていやがった。

 もちろん俺らの方は面識は無いが、聞こえてくる会話の内容から推測できる。
 周りには警察機関である騎士団も控えている。
 …もし、この場で裏カジノの話を始めたら、こいつらどんな顔になるかな?

 ま、自分でそんなわざわざトラブルになるようなことはしないけど。

 そして肝心の王様は、室内のいちばん奥にカーテンで仕切られた空間があり、どうやらその向こう側に居るようだ。

 貴族の謁見は交代制で行う感じだ。
 王様が忙しいというのはマジみたい。


「次!ジオン・オットー卿とその一行。
 入りたまえ」

「はっ。行こうみんな」


 カーテンの入り口から騎士団の1人が毅然とした口調で、俺達をお呼びになった。
 さぁて、行くか!


☆☆☆


 『ディミトリ・ヘルベルク・オークス32世』
 それが亜人の国ヘルベルク国王の名前だ。
 ジオンによれば彼は非常に懐疑的な性格で、特に人族に対してはその比は倍になるらしい。
 ちなみに『理の国ゼクス』の人族がいちばん嫌いなんだとか。


 そして目の前には、重々しい装飾が施されたデザインの椅子に1人の大男が腰掛けている。
 この人が国王…。
 ジオンとザベっさんに倣い、俺とシルヴィアも膝を着いて頭を下げた。
 王様の許可があるまでは頭を上げてはいけない。


「陛下、私はクオン・オットーが息子、ジオンと申します。
この度、魔族による我が領地の被害と、最近巷で騒がれている『サバト』の情報をお伝えしたく、謁見の機会をいただきました」

「…おもてをあげよ…」


 ズシリ…と、腹に響くような声音だ。
 許可を得られたので顔を上げる。
 重苦しい威圧感を感じさせる鋭い目つき…。
 歳の方は思ってたよりは若く見えるけど、貫禄はロラン王に全然負けてねぇな。

 ジオンが指輪の件を提案しなかったのは、あくまで彼は亜人の国ヘルベルクの国民だから。
 もしそれを進言すれば、理の国ゼクスの手先と捉えられてしまう恐れがあるからな。

 ちなみにこちらの発言も、ジオン以外は好き勝手に喋ってはいけない。
 王様に質問を当てられるか、発言の許可をいちいち申し出ないとならないのだ。
  このあたりは理の国ゼクスと大きく違う。
 非常にめんどくさいシステムだぜ。


「…貴様の領地はオットー・タウンだったな。
 その被害はどの程度だ?」

「はっ、そちらについては私の侍女から説明を…エリザベス」
 
「発言の許可を頂きたく存じます陛下」

「許す。申してみよ」


 ザベっさんがオットー町が受けた被害の詳細を細やかに説明を始めた。
 つっても、建造物が多少壊されたくらいで、人的被害はナディアさんのおかげでほぼ無い。
 応援を派遣してくれるかは微妙だ。

 説明をしている間チラッと横を見てみると、シルヴィアが冷や汗をかきながらプルプル震えていた。
 どうやら緊張が頂点に達しているようだった。

 俺は小声でシルヴィアに話し掛けた。


(おい…おい。シルヴィア、大丈夫か?)

(…は、はい…。すごく怖いですけど…)

(無理すんなって。
 なんだったらお前だけ退席してもいいか、王様に進言しようか?)

(ダ、ダメですよ!
 それで陛下のお怒りを買ってしまってはいけません!)


 んー、そうは言ってもシルヴィアさんガクブルだしなぁ…。
 でも、元々謁見はジオンとシルヴィアが依頼したから、その本人が出ていくのはまずいか。


「…すめ…。人族の娘。返事をしろ」

「へっ!?あっ…はっ、はい!!」


 やべっ!?
 いま王様がシルヴィアを呼んでたのか!
 ご、ごめんシルヴィア!


「…オットーの報告によれば、『聖の国グラーヴ』の出でありながら、貴様の尽力で民の被害を押さえられたらしいな。
 なにゆえ貴様は異国の人間を救う?」


 ギロリと、メンチだけで殺せそうな視線をシルヴィアに浴びせる。
 シルヴィアは服の裾をギュッと握りつつ、口下手に回答を始めた。


「わ、私は『聖教士クレリック』です…。
 こ、故郷の修道院で、ある恩人から教わりました。
 『人助けを美徳にせず、自らの正義に従って行動しろ』…。
 でも…私のせ、正義は『人助け』です。
 国や人種に関係なく、目の前に困っている人が居るなら私は…全て救いたいだけなのです…」

「…………」


 シルヴィアの拙いながらも芯のある心意気に、王様は口を結んだ。
 その心中は測れないが、きっと悪い印象ではないはずだ。


「…フン、甘い戯言を…。オットー。
 貴様の来た目的は、我が騎士団を領地へ派遣しろということか?」

「はっ。
 つきましては陛下には是非ともお力添えを…」

「…ふむ…」


 王様は腕を組んで思案を巡らせているようだ。
 あれ?もしかしていける?


「…もう1つの件についても聞こう。
 『サバト』の情報を掴んだとな?」


 ありゃ、返事伸ばされた。
 検討するということなんだろうか?
 ジオンは大した動揺もせず、王様の質問に応えた。


「こちらの情報は、『堅・冒険者アドバンス』の冒険者である彼と…彼女から説明をいたします」

「アドバンス…?この若者がだと?」

「信じられん…。
 大した体つきには見えないが…」


 お、やっと発言の機会が得られたな。
 わざわざ〝アドバンス〟って単語も付けたのはジオンなりの手助けだろう。
 その証拠に少し、周りの騎士団や家臣たちにどよめきが走った。

 これでちょっとは言葉に箔が付くってもんだろう。
 さて、ここで指輪の件もうまく伝えられるかな?


「発言の許可をお願いします、国王陛下」

「…許そう。名を名乗れ若僧」


 先ほどのシルヴィアに浴びせたものよりさらに険しい視線を俺にぶつけてきた。
 ふん、その程度でビビるほどヤワじゃない。
 フレイのオヤジに比べたら可愛いもんだ。


「間宮 零人と申します。
 俺はガルド・ヴィレッジから来ました」

「…マミヤ・レイト…?
 やはり、巷で民が噂をしている黒髪の男というのは貴様のことか」

「その噂とは何のことかは分かりませんが、今はもう1人の紹介をさせてください」


 少し強引に自己紹介の続きを申し出ると、王様の眉間にシワが寄った。
 同時に騎士団からも緊張が伝わってくる。
 ピョン!と、俺の頭から一つの宝石が飛び出して、宙に浮いた。


「お初お目にかかる、ヘルベルク王。
 私はルカ。『翔の宝石ジャンプ・スフィア』だ」

「「「!!!」」」

ジャキッ!!

 ルカの行動と発言に驚いた騎士団が、一斉に剣を抜いた!
 やっぱり警戒されちゃったか…。
 でも、人間形態のルカだと、人族扱いだし謁見自体流れてしまう恐れもあったんだよなぁ。


「宝石が喋った!?なんと面妖な…」

「や、やはり人族は我々の敵だ!
 この場で打ち首にするべきだ!」

「捕らえるぞ!」


 おいおいおい!?
 少しはこっちの話も…!


「…待て」


 静かながら覇気のある声で騎士団を止めたのは…王様だ。
 あ、危なかった…。

 すると王様は立ち上がりズシンズシンと、ルカの目の前までやってきた。
 おお!?背デケェ…。


「王!?お離れを!危険ですぞ!」

「…宙に浮き、主人に追従する宝石…。
 昔、ロランからそんな話を聞いたことがある。
 紅の魔王と闘ったあの阿呆から…」

「「「!?」」」


 『魔王』という言葉にさらに場がざわめいた。
 …って、もしかしてこれマズイか?
 魔王の仲間として間違われたんじゃ…


「け、敵襲の鐘を叩け!!
 魔族が潜り込んできたぞ!!」

「はっ!!」

「王を守れ!!」


 やっぱり!?
 ヤバい!はやく誤解を解かないと!


「わめくな莫迦ばかどもが!!」

「「「ひっ!!?」」」

シン…

 王様の一喝が謁見の間全体にビリビリと響き渡った。
 誰1人として、そこから喋ろうとする者はいない。
 …今ちょっと俺、ビビっちゃった。
 さっきは舐めててスミマセンでした。


「…『サバト』について聞く前に、貴様らの素性について詳しく説明してもらおうか」

「ほう?
 事前の情報より、どうやら多少は聞く耳を持っているようだな」

「ちょ、ルカ!あんま失礼なこと言うなって」


 さっきの一喝で完全にビビった俺を尻目に、ルカは淡々と王様に俺らの素性を説明した。
 …ちなみにチラッとシルヴィアの方を見ると、目に涙が浮かんでいた。
 うん、俺もさっきのあれは怖かったよ…。




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