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第134話:魅せられる戦闘
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「ここがあたし達が泊まってる宿ニャ。
あたし、結構気に入ってるのニャ~」
「酒場付きだもんな」
セリーヌに手を引かれ、彼女が利用している宿屋へやって来た。
酒場と兼用してるだけあって、建物はそれなりに大きい。
しかも中に居る客のデカい声が外にまで聞こえてくる。
なんで俺はこんな目立つ宿屋を見つけられなかったんだ…。
そして、セリーヌは入口の扉を開けて元気よく手を上げた。
「ただいまニャ!」
「おっ?おいみんな!
『酒樽食いのセリーヌ』だぞ!」
「よお!待ってたぜ!
今夜は負けねぇかんな!」
「おい、今日は俺が先だ!
てめぇはどうせ3杯目で潰れんだろ!」
「ちげぇねぇ!ガハハハハ!!」
酒場に入店した途端、どえらい客の盛り上がりようだ。
セリーヌの奴、こんな所でも飲み明かしてたのかよ。
なんか変なあだ名も付けられてるし。
「レイト君、こっちニャ」
またセリーヌに手を引っ張られ、カウンターに座らされた。
おい、飲むなんて言ってないぞ?
ジト目でセリーヌを見るが、気分良さげにニコニコとしている。
ハァ、少しくらい付き合うか。
しばらく大人しくしていると、この店のオーナーと思われるダンディーなおじさんがカウンター越しに近づいてきた。
「マスター。
この人がフレイちゃんの言ってた人ニャ」
「ああ、話は聞いている。
若いの、俺の甥っ子どもを地下のヤバい所から助け出してくれたんだってな?
礼をさせてくれ。今日は俺のオゴリだ」
「え…、え!?」
「ニャハッ!やったニャレイト君!
ねえ、なに飲むニャ!?」
「良いのかな…」
セリーヌはバンザーイしている。
…まさかこの人も闘技者の知り合いなのか!?
なんとまぁ、世間は狭いな…。
感謝されるのは良いけど、いい加減むず痒い。
どちらかというと、俺も巻き込まれた側だし…。
でもせっかくのご厚意だし、遠慮するのも悪いか。
ここはありがたくゴチに…
「おいなんだぁ…?ヒック!
樽食いがオトコ連れてきたと思ったら、人族じゃねぇか。
ここはぁ、てめぇが来ていい場所じゃねぇんだぞ…?」
突然、後ろから酔っ払った客の一人が俺に突っかかってきた。
うげっ、酒クサ…。完璧に出来上がってんな。
この大男…『山人』か。
男の差別的な物言いに、俺が返事するより先にセリーヌが文句をかました。
「そんなこと言うのは失礼ニャ!
人間は仲良くしないとダメニャ!」
「ああ?
んだよ、てめぇだって猫人なら人族に恨みの一つや二つ持ってんだろ?
ちょっと酒に強いくらいで、良い子ぶってんじゃねぇぞクソガキ」
…ヤバい、酒場でケンカになりそうだ。
と、止めないと!
でも、俺が何か少しでも喋ったら、すぐ火が付きそうな気がする。
どうしよう…。
「…お客さん。
俺の店ののれんをくぐった以上、それが誰であれ、みんな大事な客だ。
楽しい酒の席で揉め事はよしてくれるか?」
店主さんがフォローしてくれた!
めっちゃ良い人じゃん!
「おいおい、マスターまでなにネムいこと言ってんだ?
俺たち亜人族が人族どもとなんて馴れ合えるわけねぇだろうが」
しかし酔った男はそれでも威勢を崩さない。
他の客を見ると若干名、さっきの言葉に頷いている奴がいた。
…世知辛いよ、まったく。
「オラ、早く立てや小僧ぉ。
黒い髪なんてカッコつかしやがってぇ、生意気なんだよ…。ヒック!
山人流の歓迎の仕方を教えてやるぜ」
「……!」
俺はこの時、『山人流』という発言が少し鼻についた。
なぜかは分からないが、俺と一緒に仕事をしたヴァイパーの爪の傭兵団長…マルクスさんをバカにされた気がした。
「店の迷惑だ。…とっとと表に出ろ」
「レイト君!?」
「若けぇの、無理は…」
俺がこんなくだらない喧嘩を買う発言に、セリーヌは意外に思ったのだろう。
親切な店主さんも心配してくれたが、ここで暴れるわけにはいかないからな。
「おうおう!
優男が張り切ってみっともねぇなぁ!
カノジョの前で恥かかせてやるぜ!」
「恥かいてんのはてめぇだ。
産まれた時からそんな息臭いのか?
公害レベルの悪臭だぜ、ソレ」
鼻をつまんで手をパタパタ扇ぐと、男の額に青筋が浮かんだ。
右手を握り締め、ブルブルと震わせている。
…これは今から殴りかかってくるな。
「クソガキが!!ぶち殺…」
ブン!
☆リック・ランボルトsides☆
「998、999、1000…、ふう…!」
ポタッ…
オレのいつものルーティンの一つである、逆立ち腕立て伏せ1000回が終わった。
身体から滲み出る汗は、すでに床に染み渡っている。
あとで拭かなきゃなァ。
タオルを首に掛け、ベッドに腰掛ける。
ケツが沈み込むのに合わせて、ギィ、と若干ベッドが軋んだ。
…ったく、もっと頑丈な造りだと安心して眠れるんだが…。
身体作りはオレの職業では欠かせない。
元々オレは筋トレをして身体をいじめ抜くのが好きだ。
トレーニングした結果は、キチンと身体に現れるからなァ。
…だが…。
「あいつらに抜かれちまったんだよなァ…」
頭に思い描くのは二人。黒毛とデカキンだ。
オレは冒険者を始めて3年くらい経つが、アイツらは1年どころか半年も経っていない。
それなのにあれよあれよという間に、冒険者ランクを抜かれてしまった。
…理由はあのおっかないギルドの女から聞いたが、とにかくオレはもっと強くなりてェ。
本当ならオズベルクの野郎について行って、武者修行をしながら魔族を追いかけたかったが…。
奴はそれを許しちゃくれなかった。
やみくもに筋肉を付けるだけじゃ強くなれねェことなんて分かってる。
だからこそ、オレは奴について行きたかった。
魔法が得意なドラゴンのくせに、オレの土俵である肉弾戦で叩きのめされたのは衝撃だった。
オズベルクの強さの秘密を、オレは見つけだしたい。
グウ~…
盛大に腹の虫が鳴っちまった。
オレはデカい身体だから燃費が悪い。
「…まあ、まずは腹ごしらえをするかァ」
上着を着て金をポケットに突っ込んだ時だった。
外から騒がしい喧騒が部屋に響いてきた。
「ケンカだぁぁ!!
人族と山人がやり合ってる!」
「おい!どっちが勝つか賭けようぜ!」
「んなもん山人一択だろ!
人族が亜人に勝てるわけねぇよ!」
…ケンカ?しかも人族とだと?
下の酒場が妙に静かだと思ったらそういうことか。
いや待て…?
たしか今日はデカキンが黒毛をこっちの宿屋に呼びつけたって話だったな。
すると、今相手しているのは…!
オレは窓を開けて外の様子を窺った。
道の真ん中で大勢の人だかりが男2人を囲っている…。
周りのヤツらがヤジを飛ばしたり、吠えたりして2人の闘いを煽っていた。
「てめぇ!!なんで反撃してこねぇ!
俺をナメてんのか!?」
「俺が攻撃したら一瞬でカタつくからだよ。
ほらほら、悔しかったら1発くらい当ててみな」
「ぬがあああああ!!!!」
つーかやっぱり黒毛じゃねェか!
あの野郎、こんな往来でなにやってやがる…?
まさか下の客に絡まれたのか?
黒毛の相手はどうやら山人みてェだ。
アイツらは、オレら蜥蜴人ほどじゃねェが、強靭な肉体を持ってる奴が多い。
魔法も使わねェで、しかもステゴロでケンカに勝つのは難しい。
難しい…はずなんだが…
「がああっ!!オラぁ!!」
「ちゃんと目玉付いてんのか?オジさん。
そんな大振りじゃあ疲れるだけだぜ?」
「うるせぇっ!!!」
黒毛は転移すら使わずに山人を圧倒していた。
ストレートを弾き、掴みをすり抜け、ハイキックをスウェーで躱す…。
男の攻撃を黒毛はいなし続けて、汗ひとつかかずに優位なポジションで立ち続けている。
アイツの格闘術はガルドで習ったとか抜かしてやがったが、傭兵の戦闘技術ってのはあそこまで応用が利くのか?
まるで、オズベルクみてェな身体の使い方だ。
体格的に不利な状況の中で、アイツは攻撃の起点を正確に見極めてやがる…。
蒼の姉さんと合体しないであの戦闘力…。
どんな訓練受けたらあんな動きができる?
「あの人族…、職業はなんだ?
さっき酒場で変な瞬間移動使ってたよな」
「ああ、あんな魔法は見たことがない…。
魔道具を使ってもいなかったぞ」
「なぁ、よく見たらあいつ蒼のナンタラって呼ばれてる奴なんじゃないか?
俺の姉貴が噂してたぜ!」
最初は黒毛にヤジを飛ばしていた野郎どもも、ヤツの闘いを見ているうちに魅せられ始めているようだった。
「……っ!」
かくいうオレも、自分のパーティーメンバーが絡まれてるってのに、ずっとこの闘いを傍観してしまっている事に気付いた。
何をやってんだオレはァ…?
「クソが!!おい、てめぇらも手伝え!
ふくろにしてやんぞ!!」
「はぁ、しょうがねぇなぁ」
「あとで1杯奢れよ!」
「へっ、ようやく出番だ」
なかなか攻撃が当たらない黒毛に痺れを切らした山人は、仲間と思われる連中を数人呼び寄せた。
おいおい、それはダサ過ぎだぜ!
「はっ、自分からケンカ吹っかけておいて、結局お仲間頼りですか。
俺の知ってる山人なら、そんなこと絶対にしないよ?」
「バカが!勝てれば良いんだよ!
やれお前ら!」
「あいよ!『土拘束』!」
戦闘魔法を使いやがった!
こんだけ衆目のある所で使うのはバカとしか考えられねェ。
錬成された土の魔力が黒毛へ向かっていく。
「そんな魔法で俺が…うわっ!?」
すてん!
「…!?はっ、独り喜劇でもやってんのか!
傑作だぜ!自分から掴まれやがった!」
転がってた空き瓶を踏みやがった!
何やってんだあのバカ!?
「ニャー!ニャーっ!レイト君!!」
あいつは…?
人だかりの外側で銀ネコがピョンピョンと跳ねている。
助けたいみてェだが、人の壁にジャマされて中に入れないようだ。
チッ、しょうがねェな!!
オレは2階建ての窓から飛び降りた。
あたし、結構気に入ってるのニャ~」
「酒場付きだもんな」
セリーヌに手を引かれ、彼女が利用している宿屋へやって来た。
酒場と兼用してるだけあって、建物はそれなりに大きい。
しかも中に居る客のデカい声が外にまで聞こえてくる。
なんで俺はこんな目立つ宿屋を見つけられなかったんだ…。
そして、セリーヌは入口の扉を開けて元気よく手を上げた。
「ただいまニャ!」
「おっ?おいみんな!
『酒樽食いのセリーヌ』だぞ!」
「よお!待ってたぜ!
今夜は負けねぇかんな!」
「おい、今日は俺が先だ!
てめぇはどうせ3杯目で潰れんだろ!」
「ちげぇねぇ!ガハハハハ!!」
酒場に入店した途端、どえらい客の盛り上がりようだ。
セリーヌの奴、こんな所でも飲み明かしてたのかよ。
なんか変なあだ名も付けられてるし。
「レイト君、こっちニャ」
またセリーヌに手を引っ張られ、カウンターに座らされた。
おい、飲むなんて言ってないぞ?
ジト目でセリーヌを見るが、気分良さげにニコニコとしている。
ハァ、少しくらい付き合うか。
しばらく大人しくしていると、この店のオーナーと思われるダンディーなおじさんがカウンター越しに近づいてきた。
「マスター。
この人がフレイちゃんの言ってた人ニャ」
「ああ、話は聞いている。
若いの、俺の甥っ子どもを地下のヤバい所から助け出してくれたんだってな?
礼をさせてくれ。今日は俺のオゴリだ」
「え…、え!?」
「ニャハッ!やったニャレイト君!
ねえ、なに飲むニャ!?」
「良いのかな…」
セリーヌはバンザーイしている。
…まさかこの人も闘技者の知り合いなのか!?
なんとまぁ、世間は狭いな…。
感謝されるのは良いけど、いい加減むず痒い。
どちらかというと、俺も巻き込まれた側だし…。
でもせっかくのご厚意だし、遠慮するのも悪いか。
ここはありがたくゴチに…
「おいなんだぁ…?ヒック!
樽食いがオトコ連れてきたと思ったら、人族じゃねぇか。
ここはぁ、てめぇが来ていい場所じゃねぇんだぞ…?」
突然、後ろから酔っ払った客の一人が俺に突っかかってきた。
うげっ、酒クサ…。完璧に出来上がってんな。
この大男…『山人』か。
男の差別的な物言いに、俺が返事するより先にセリーヌが文句をかました。
「そんなこと言うのは失礼ニャ!
人間は仲良くしないとダメニャ!」
「ああ?
んだよ、てめぇだって猫人なら人族に恨みの一つや二つ持ってんだろ?
ちょっと酒に強いくらいで、良い子ぶってんじゃねぇぞクソガキ」
…ヤバい、酒場でケンカになりそうだ。
と、止めないと!
でも、俺が何か少しでも喋ったら、すぐ火が付きそうな気がする。
どうしよう…。
「…お客さん。
俺の店ののれんをくぐった以上、それが誰であれ、みんな大事な客だ。
楽しい酒の席で揉め事はよしてくれるか?」
店主さんがフォローしてくれた!
めっちゃ良い人じゃん!
「おいおい、マスターまでなにネムいこと言ってんだ?
俺たち亜人族が人族どもとなんて馴れ合えるわけねぇだろうが」
しかし酔った男はそれでも威勢を崩さない。
他の客を見ると若干名、さっきの言葉に頷いている奴がいた。
…世知辛いよ、まったく。
「オラ、早く立てや小僧ぉ。
黒い髪なんてカッコつかしやがってぇ、生意気なんだよ…。ヒック!
山人流の歓迎の仕方を教えてやるぜ」
「……!」
俺はこの時、『山人流』という発言が少し鼻についた。
なぜかは分からないが、俺と一緒に仕事をしたヴァイパーの爪の傭兵団長…マルクスさんをバカにされた気がした。
「店の迷惑だ。…とっとと表に出ろ」
「レイト君!?」
「若けぇの、無理は…」
俺がこんなくだらない喧嘩を買う発言に、セリーヌは意外に思ったのだろう。
親切な店主さんも心配してくれたが、ここで暴れるわけにはいかないからな。
「おうおう!
優男が張り切ってみっともねぇなぁ!
カノジョの前で恥かかせてやるぜ!」
「恥かいてんのはてめぇだ。
産まれた時からそんな息臭いのか?
公害レベルの悪臭だぜ、ソレ」
鼻をつまんで手をパタパタ扇ぐと、男の額に青筋が浮かんだ。
右手を握り締め、ブルブルと震わせている。
…これは今から殴りかかってくるな。
「クソガキが!!ぶち殺…」
ブン!
☆リック・ランボルトsides☆
「998、999、1000…、ふう…!」
ポタッ…
オレのいつものルーティンの一つである、逆立ち腕立て伏せ1000回が終わった。
身体から滲み出る汗は、すでに床に染み渡っている。
あとで拭かなきゃなァ。
タオルを首に掛け、ベッドに腰掛ける。
ケツが沈み込むのに合わせて、ギィ、と若干ベッドが軋んだ。
…ったく、もっと頑丈な造りだと安心して眠れるんだが…。
身体作りはオレの職業では欠かせない。
元々オレは筋トレをして身体をいじめ抜くのが好きだ。
トレーニングした結果は、キチンと身体に現れるからなァ。
…だが…。
「あいつらに抜かれちまったんだよなァ…」
頭に思い描くのは二人。黒毛とデカキンだ。
オレは冒険者を始めて3年くらい経つが、アイツらは1年どころか半年も経っていない。
それなのにあれよあれよという間に、冒険者ランクを抜かれてしまった。
…理由はあのおっかないギルドの女から聞いたが、とにかくオレはもっと強くなりてェ。
本当ならオズベルクの野郎について行って、武者修行をしながら魔族を追いかけたかったが…。
奴はそれを許しちゃくれなかった。
やみくもに筋肉を付けるだけじゃ強くなれねェことなんて分かってる。
だからこそ、オレは奴について行きたかった。
魔法が得意なドラゴンのくせに、オレの土俵である肉弾戦で叩きのめされたのは衝撃だった。
オズベルクの強さの秘密を、オレは見つけだしたい。
グウ~…
盛大に腹の虫が鳴っちまった。
オレはデカい身体だから燃費が悪い。
「…まあ、まずは腹ごしらえをするかァ」
上着を着て金をポケットに突っ込んだ時だった。
外から騒がしい喧騒が部屋に響いてきた。
「ケンカだぁぁ!!
人族と山人がやり合ってる!」
「おい!どっちが勝つか賭けようぜ!」
「んなもん山人一択だろ!
人族が亜人に勝てるわけねぇよ!」
…ケンカ?しかも人族とだと?
下の酒場が妙に静かだと思ったらそういうことか。
いや待て…?
たしか今日はデカキンが黒毛をこっちの宿屋に呼びつけたって話だったな。
すると、今相手しているのは…!
オレは窓を開けて外の様子を窺った。
道の真ん中で大勢の人だかりが男2人を囲っている…。
周りのヤツらがヤジを飛ばしたり、吠えたりして2人の闘いを煽っていた。
「てめぇ!!なんで反撃してこねぇ!
俺をナメてんのか!?」
「俺が攻撃したら一瞬でカタつくからだよ。
ほらほら、悔しかったら1発くらい当ててみな」
「ぬがあああああ!!!!」
つーかやっぱり黒毛じゃねェか!
あの野郎、こんな往来でなにやってやがる…?
まさか下の客に絡まれたのか?
黒毛の相手はどうやら山人みてェだ。
アイツらは、オレら蜥蜴人ほどじゃねェが、強靭な肉体を持ってる奴が多い。
魔法も使わねェで、しかもステゴロでケンカに勝つのは難しい。
難しい…はずなんだが…
「がああっ!!オラぁ!!」
「ちゃんと目玉付いてんのか?オジさん。
そんな大振りじゃあ疲れるだけだぜ?」
「うるせぇっ!!!」
黒毛は転移すら使わずに山人を圧倒していた。
ストレートを弾き、掴みをすり抜け、ハイキックをスウェーで躱す…。
男の攻撃を黒毛はいなし続けて、汗ひとつかかずに優位なポジションで立ち続けている。
アイツの格闘術はガルドで習ったとか抜かしてやがったが、傭兵の戦闘技術ってのはあそこまで応用が利くのか?
まるで、オズベルクみてェな身体の使い方だ。
体格的に不利な状況の中で、アイツは攻撃の起点を正確に見極めてやがる…。
蒼の姉さんと合体しないであの戦闘力…。
どんな訓練受けたらあんな動きができる?
「あの人族…、職業はなんだ?
さっき酒場で変な瞬間移動使ってたよな」
「ああ、あんな魔法は見たことがない…。
魔道具を使ってもいなかったぞ」
「なぁ、よく見たらあいつ蒼のナンタラって呼ばれてる奴なんじゃないか?
俺の姉貴が噂してたぜ!」
最初は黒毛にヤジを飛ばしていた野郎どもも、ヤツの闘いを見ているうちに魅せられ始めているようだった。
「……っ!」
かくいうオレも、自分のパーティーメンバーが絡まれてるってのに、ずっとこの闘いを傍観してしまっている事に気付いた。
何をやってんだオレはァ…?
「クソが!!おい、てめぇらも手伝え!
ふくろにしてやんぞ!!」
「はぁ、しょうがねぇなぁ」
「あとで1杯奢れよ!」
「へっ、ようやく出番だ」
なかなか攻撃が当たらない黒毛に痺れを切らした山人は、仲間と思われる連中を数人呼び寄せた。
おいおい、それはダサ過ぎだぜ!
「はっ、自分からケンカ吹っかけておいて、結局お仲間頼りですか。
俺の知ってる山人なら、そんなこと絶対にしないよ?」
「バカが!勝てれば良いんだよ!
やれお前ら!」
「あいよ!『土拘束』!」
戦闘魔法を使いやがった!
こんだけ衆目のある所で使うのはバカとしか考えられねェ。
錬成された土の魔力が黒毛へ向かっていく。
「そんな魔法で俺が…うわっ!?」
すてん!
「…!?はっ、独り喜劇でもやってんのか!
傑作だぜ!自分から掴まれやがった!」
転がってた空き瓶を踏みやがった!
何やってんだあのバカ!?
「ニャー!ニャーっ!レイト君!!」
あいつは…?
人だかりの外側で銀ネコがピョンピョンと跳ねている。
助けたいみてェだが、人の壁にジャマされて中に入れないようだ。
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