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第128話:ジオンの悩み

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☆シルヴィア・ゴードンsides☆


「こ、これぐらいでしょうか?」

「充分だ。
 あとは点火イグニの温度を一定に保ちつつ残りの素材を加える。
 鷲獅子グリフォンの鉤爪には依存中毒症を緩和させる成分作用があるんだ。
 この調合が終わったら休憩しようか」


 私はシト姉のラボで一緒にお薬の調合を行なっている。
 回復魔法だけじゃなく、薬学にも精通しているなんてさすがシトロン姉さん…。
 やっぱり私はまだまだですね。

 お鍋で煮騰させたお湯の中に、彼女から言われた分量と素材を次々と加えていく。
 強い魔物の素材は、毒にも薬にもなる効果のものが多い。
 それを見分けるには、本来『薬剤士ファルマ』の職業ジョブを修めている人じゃないとできない。
 きっとシト姉は独学で学んだのかもしれない。

そういえば、フレデリカさんのお友達にも1人、お薬屋さんがいましたね…。
 ラムジーさん。彼女は元気でしょうか?

 私はコトコトと煮込まれる素材が、お薬に昇華されていく工程を目に焼きつけていた。
 …いずれ、こういう知識が役に立つことがあるかもしれないから。


☆☆☆


 区切りの良いところで休憩を挟むことになり、私は外の空気を吸うためバルコニーへ向かうことにした。
 調合する時のあの匂いを嗅ぎ続けるのは、ちょっと大変でした…。

 バルコニーへ続く階段を登ってドアを開くと、新鮮な空気が私の肺を清涼に癒してくれた。
 今日は曇り空ですが、暑過ぎず寒過ぎないちょうどいい気温ですね。

 さらに一歩踏み出した途端、人の気配があることに気付いた。

 バルコニーのテーブルとセットになったイスに誰か座っている。
 サラサラの金髪ヘアーの長身エルフ…。
 あ! ジ、ジオンさんだ!
 なんだか物憂れげな顔しているような…?

 う…、どうしよう…。
 そういえばさっきはレイトさんのせいで、せっかく彼が私の服を持って来てくれたのにお礼を言えずじまいでした…。

 だって、私が普段着用している物をあんな大事そうに抱えて…。
 ふつうに恥ずかしいじゃないですか!!
 お、オマケに洗濯もしたって…!

 どんな顔で話しかけるべきか入り口で悩んでいると、先に彼の方が気づいてしまった。


「おお!ゴードン殿!
 もしかして君も休憩かい?」

「あ…は、はい!
 一応、キリの良いところでしたので…。
 ジオンさんもですか?」

「ああ。スケジュール調整は終わったからな。
 あとでレイト殿と君に明日の日程について話そうと思う。
 そんな所に立っていないでこちらへ来てはどうかな?」

「そ、そうですね。お邪魔します」


 ジオンさんの隣のイスへ着席する。
 そうでした…。
 王都に着いてからドタバタしてたけど、明日はいよいよ亜人の国ヘルベルクの王と謁見する日だ。

  き、緊張する…。
 レイトさんは理の国ゼクスで2回も王様と喋ったようですけど、いったいどんな心境を持てば、あんな図太い気持ちになれるんだろう…。

 そんな私の焦燥を感じたのか、ジオンさんは柔らかく微笑み、優しく言葉を掛けてくれた。


「ふふ、もしや緊張しているかい?
なにも不安に思うことはないさ。
君と僕はカジノで連れ去られ、牢屋に監禁されたうえ、アリーナで闘わされた。
 そんな昨日の非常事態に比べたら、たかが人間1人と会うくらい大したことないと思わないか?」

「…ま、まあ…そう言われると…?」


 確かに昨日の状況ほど、明日はひどくはならないと思いますが…。
 私は頭に浮かんだことをそのまま口にした。


「まるでレイトさんみたいな励まし方ですね…」

「ハハハ!
 確かに彼が言いそうなセリフかもな!
 僕は彼からは良い刺激をもらっているよ!」


 あら?
 明るい口調とは裏腹に、少しだけ目を暗くしたのに私は気付いた。
 この目はさっき1人でただずんでいた時と同じ…。


「あの…、ジオンさんこそ少し元気ないように感じますが…。
 何かあったのですか?」

「ん…?ハハ、参ったな…意外と君は鋭いな」

「私で良ければ話してください。
 お力になれるかは分かりませんが…」

「うーん、そうだな…」


 ジオンさんは少し悩むように腕を組んで、ワケを話してくれた。


「実はラミレス嬢のことでね…。
 やはり彼女はレイト殿に気があることが分かってしまってな。
 それで少しだけ落ち込んでいたんだ」

「…な、なるほど…。
 それは…お辛いでしょうね」


 まさかモネさんのことで悩んでいたとは…。
 以前、モネさんは私にレイトさんのことで相談してきたことがあった。
 そのこともあり、私は彼女の想いを知っていたけれど…。
 ジオンさんはなぜこのタイミングで分かったんだろう?
 彼女はすでに帰国している。


「いつからモネさんの気持ちにはっきり気付いたんですか?」


 私が訊くと、なぜかジオンさんはバツが悪そうに応えた。


「…実はレイト殿とキスを交わしたらしい」

「えええええ!?
 それレイトさんが言ったんですか!?」


 ジオンさんはコクンと頷いた。

 …あの男…ッ!!
 人の気持ちを知っておきながら、なんで片思いをしている人の前でそんなことを話すの!?
 どう考えても馬鹿にしている!!
 
 バン!!

 「ゴードン殿!?」

「レイトさんに直接文句言ってきます!!
 彼もジオンさんの想いは分かっているはず…。
 その上でジオンさんの前で話すなんて、そんなの人をおちょくっているとしか思えません!!」


 テーブルを拳で叩き、私はその場を後にしようとした。
 すると…

カバッ!

「ま、待ってくれ!!」

「キャッ!?ジ、ジオンさん!?」


 抱きついて来た!!???
 い、いきなりなにを…?


「ぼ、僕の言葉が足りなかった!
 正確には僕とエリザベスで彼を問い詰めてしまったんだ…。
 喋ったのは別に彼の意思じゃない。
 だからそんなに怒らないでくれ」

「だ、だとしても!
 ジオンさんの気持ちは…」

「良いんだ」

ギュッ

 「!!?」


 さらに抱き締められた…!
 低い私の身長だと、ジオンさんに包み込まれてしまっている。
 え…え!私なんでこんなことに??


「彼女の目がレイト殿に向けられていたのは、君達と出会ってからすぐ気付いたんだ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。
 きっと彼女はレイト殿と話すうちにだんだん惹かれていったんだと思う。
 実際、君らと旅をしてみて、僕も彼のことを好きになったからその気持ちは分かる」

「…………」


 ……まさか、ジオンさんじゃありませんよね?
 あまり詳しく聞くのはやめよう…。


「だけど、君が僕のために怒ってくれたことは、すごく嬉しいよ。
 ありがとう、シルヴィア」

「……っっ!!?」


 な、名前を!???
 あ…これ、まずいかもしれない…。

 わ、私、今すごい顔が赤いかも…それに体温も熱く感じる…!
 チラッとジオンさんの顔を見上げると、引き込まれそうな翡翠色の瞳が、私の視界を支配してきた。
彼もこころなしか顔が赤くなっているような…?

トクン、トクン…

 心臓の音がやけにうるさい…。
 もしかしたら、彼の音も混じっているのかもしれない。
 私、私…!
 
ガチャ

「おーい、ジオン~。
 ザベっさんがご飯だっ……失礼しました」

「レイトさん!?ちょっと待ちなさい!!!」










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