上 下
130 / 243

第127話:光属性の役割

しおりを挟む
 シルヴィアとリックに装備を返却し、俺たちは全員客間の席に着いた。
 シトロンさんが俺たちに話したいことがあるそうだ。


「まずは…本題に入る前に改めてお前達に礼を言おう。
 私だけではクラブで闘う闘技者たちを真の意味で救うことができなかった。
 本当に、ありがとう」


 シトロンさんは感謝の言葉と一緒に頭を下げる。
 はん、水臭いこと言いやがって。


「元々俺たちはアンタに用があったんだ。
 それにルカとセリーヌを取り戻すためでもあったし… 闘技者云々うんぬんは、それの成り行きだよ」

「そうね。
 みんなにあの時のレイトの怒りっぷりを見せてあげたかったわ。
 ホント凄かったんだから」

「 ニャッ!?そ、そんなにあたしの事を…?
 えへへ…なんか、嬉しいニャ♡‬」

「いやどっちかつうと、ルカの方が心配だった。
お前呑気にアホ面でぐーすか寝てたし」

「ニャア!?喜んで損したニャ…」


 セリーヌはぷくっと頬を膨らませた。
 キミが今回のいちばんの戦犯だったことは自覚してるのかい?


「コホン…。
 もちろんお前達の要求には全力で応える。
 この屋敷の地下に収容している患者たちの治療はすでに開始している」

「おお…!それであの者達は治りそうか?」


 ジオンが期待を込めた目で彼女に聞く。
 彼女はそれに応え頷いた。


「薬物中毒と『魔力失殺マナロスト』は治療可能だ。
 昨日マミヤ達が鷲獅子グリフォンを討伐してくれたお陰で、特効薬ワクチンを調合できるからな。
 …しかし私が患者を診たところ、どうも病はそれだけではない気がするんだ」

「なんだと?
 他に何か別の症状があったのか?」

「いや患者の症状自体は変わらん…。
 ただ、残された魔力マナが僅かにも関わらず、光属性の反応がその魔力マナから感じられないんだ」

「「ええ!?」」


 ???
 シトロンさんの言葉の意味と皆がザワつく理由が分からない…。
 どういうことだ?
 そんな俺の反応に気付いたルカが彼女に質問してくれた。


「ドクター。
 我々にも分かりやすく説明してくれ」

「ん?あ、ああ…すまない。
 お前達は異邦の出だったか」


 シトロンさんが立ち上がり俺達の傍に来ると、手の平に小さなエネルギー球を作り始めた。
わ、綺麗な魔法…。


「私たち人族や亜人族、そして魔物…これら全ての生物は魔力マナが身体に流れている。
 その事は分かるな?」

「うん、ガルドで大体教わったよ」

「魔法の基本となる属性は全部で8つあるが、それぞれ言えるか?」


 数ヶ月前にガルド村でガキンチョどもと一緒に魔法の授業を受けた記憶を掘り起こした。
 えーと、たしか…


「火・水・木・土・風・雷…。
 あとは光と闇の2つだよね?」

「そうだ。
得意不得意はあるが、『闇』以外は訓練次第で誰でも扱える。
全て生活魔法を使用する上で必要不可欠だ」

ポン、ポン、ポン…

 おお、すげぇ。

 シトロンさんは手の平に浮かべたエネルギー球を、火の属性からさっき俺がいった順に次々と変えていった。

 ガルド村でローズさんも同じことしてたな。


「その中で生き物の生命活動を司る役目の魔力マナが光属性だ。
 しょっちゅうシルヴィアに治療してもらっているようだし、何となく理解できるだろう?」

「う…ま、まぁそうだな」


 チラッと横目でシルヴィアを見ると、どうやらまだご立腹なようで眉間にシワを寄せていた。
 あーはやく機嫌治らないかな…。


「肌に切り傷ができた際、そこから血が出るのと同じように、生き物が死ぬ間際には必ず魔力マナから光属性が滲むはず。
 なんなら生理現象と言ってもいい。
 しかし、今回の患者全員の魔力マナにそれが含まれていない…。
 私はそれに違和感を感じているのだ」

「な、なるほど…」


 恐ろしく分かりやすい説明だった。
 魔法学校の教師でもこなせるんじゃないか?


「過去に我輩も『魔力失殺マナロスト』と同じ症状を患った魔物を見たことはあるが、貴殿の言う通り『光』の属性になっていた。
 ともすれば、考えられる原因はその摂取した薬物とやらの効能であろうな」

「私も同じ考えだ。
 ………ところで、お前は誰だ?」

「ああ、俺も気になっていたんだが…。
 あんたは『竜人ドラゴニュート』だよな?」


 あ、いけね。
 おっさんをテオとシトロンさんに紹介するの忘れてた。


「申し遅れたな。
 我輩はオズベルク・ダアト。
 今は人間の姿をしているが、海竜リヴァイアサンだ。
どうか悪しからず」

「「なに!?」」


 おっさんの自己紹介が終わると、2人とも口をあんぐりと開きっぱなしになってしまった。
 おお、これが開いた口が塞がらない状態か!


「…何故マミヤの周りには、いつも魔物が付いて回っているんだ?
 こんな冒険パーティ見たことないぞ…」

「セリーヌが『猫妖精ケット・シー』という正体だけでも驚いたが…、まさか海竜リヴァイアサンとは… 」

「ニャハハ~、流石に人里で正体バレるのはまずいから、『おふれこ』でお願いニャ」

「「『おふれこ』??」」


 セリーヌが異世界用語を使っている!?
 あいつよく俺言ったこと覚えてたな…。
 …って、いかんいかん話が脱線しとる。


「それじゃあこれからアンタどうするんだ?
 『シード』を調べてから患者さん治す感じ?」

「…難しいところだが、とりあえず今は目下の症状を癒すための薬を作ろうと思う。
 幸い、屋敷の主のテオから私の宿泊する部屋をラボに使ってもいいと許可をもらったからな」

「当然だ!
 それくらいで俺の領民を治してくれるなら、ドンドン使ってくれ!
 足りない備品は徐々に揃えていくことになるが」

「もし何か手伝えることがあったら言ってくれ。
 まだ数日間は俺たち王都に居るからさ」

「ああ!その時はよろしく頼む!」


 王都で残すイベントは明日の謁見と、その2日後にマキナ・ガレージで行なう『納車』の2つだけだ。
 そして、今いるメンバーで別れる人達は何人か居る。
 

「それじゃあ、私たちはこのあとどうする?
 今日はオズベルクも居るし、久々にみんなで修行しない?」

「良いじゃないか、賛成だ。
 最近私の中に居る炎獣イフリートも煩い。
 存分に暴れさせてもらおう」

「そういうことならオレも交ぜてくれや。
 昨日鷲獅子グリフォンと闘えなかった鬱憤を晴らしてェんだ」

「ほう…?ならば成長した力を見せてみよ。
 如何ほど強くなったか楽しみだ。
 セリーヌ、貴殿も参加するのだぞ?」

「アイアイ、ガッテンニャ!」


げっ!?
まさかフレイがその提案をしてくるとは!
しかもナディアさんもリックもセリーヌもやる気だし!
嫌だ、俺は動きたくないぞ!!

 どうトレーニングを回避するか考えを巡らせていると、いつの間にかテオが俺の傍にやって来ていた。


「…ところで、レイト。
 ちょっと俺と付き合ってくれないか?
 例の『クソ』をこれから尋問する」

「え…?あ、ああっ!
 そうだな!よぉし、すぐ行こう!」


 た、助かった!
 テオのお陰で巻き込まれるのを防げたぜ!
 彼について行こうとした瞬間、誰かに手を引っ張られた。
 …やっぱり逃げられない…?
 

「待て。私も行くぞ。
 あの男には私も聞くことがある」


 あ、ルカだった。
 
 そうして、シルヴィアとシトロンさんは薬調合、おっさん達は外の庭でトレーニング、ジオンとザベっさんは明日の打ち合わせに、それぞれ別れて行動を開始した。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

(完結)戦死したはずの愛しい婚約者が妻子を連れて戻って来ました。

青空一夏
恋愛
私は侯爵家の嫡男と婚約していた。でもこれは私が望んだことではなく、彼の方からの猛アタックだった。それでも私は彼と一緒にいるうちに彼を深く愛するようになった。 彼は戦地に赴きそこで戦死の通知が届き・・・・・・ これは死んだはずの婚約者が妻子を連れて戻って来たというお話。記憶喪失もの。ざまぁ、異世界中世ヨーロッパ風、ところどころ現代的表現ありのゆるふわ設定物語です。 おそらく5話程度のショートショートになる予定です。→すみません、短編に変更。5話で終われなさそうです。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

処理中です...