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第116話:鷲獅子《グリフォン》

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「キシャアアアア!!!!」


 急いでアリーナへ戻ると、空中に大型の魔物が羽毛で覆われた巨大な翼を羽ばたかせ、仲間たちを見下ろしていた。

 鷲の頭を冠し、獰猛なライオンの身体と鉤爪で獲物を仕留める、鳥型の中でも特に危険な魔物…。

 ああ、マジか…こいつは…!


「『鷲獅子グリフォン』!?
こんなでかい奴牢屋に居なかったぞ!?」

「ウソでしょ…!」

「アタシも見たことないわ…
どこに隠してたのよ、あんな魔物!」


 さすがの百戦錬磨のフレイも蛇女ラミアも、アレには慄いている。
あんなのどっから持ってきたんだ!?


「零人!
奴はアリーナの天井を突き破って来たのだ!
…それと、背中に注目してみろ」

「背中…?」


 近くに来たルカに言われ鷲獅子グリフォンの背中を見てみると、蝶ネクタイのクソ野郎…ジョナサンがむちを持って跨っていた。

 あの野郎…!
リベンジしにノコノコ戻ってきたか!


「マミヤ・レイトさん!!
既におかえりになったかと心配しましたよ!
貴方には是非ともこの『特別ショー』を味わって頂きたかったのです!」

「お前の方こそ逃げたままかと思ったぜ!
戻ってきたからにはもう逃がさねぇからな」


 なんて虚勢を張ってみたが、戦力的には明らかにこちらが不利だ。
 闘技者たちはもう地上へ行ってしまったし、魔物たちも半数以上が帰還して、残ってるのは俺らのパーティーと傷ついた魔物のみ。

 こちらで闘えそうなのは…


「現れたのならちょうどいいわ。
あのチビ引きずり下ろして、皮を剥いでやりましょう」


 まずフレイ。
とんでもないこと口走ってるけど。


「フン、なら一時休戦ね。
アタシもアイツを引き裂いてやるわ」


 蛇女ラミア
意外とこいつも体力残ってそうだ。


「ドルルルルル……ッ!!
レイト、俺も闘うぞ!
鳥野郎を叩き落としてやる!」


 狼に変身したテオ。
この男のスピードなら!


「お供いたします、レイト様。
今回の私のミスを少しでもすすがせてください」


  俺と似たデザインのドレスを着たザベっさん。
ミス…?何のことかは分からないけど、彼女が参戦してくれるなら百人力だ。


「よし…零人。怪我の具合はどうだ?
もうひと仕事、こなせるか?」


 最後に相棒のルカ。
へっ、愚問だぜ!


「もちろんだ!
相手は空中…ってことは、あの形態じゃなきゃダメだろ?」

「そういうことだ。
戦闘支援オペレートは私に任せろ。
私は元々そちらの方が性に合っているからな」


 俺とルカは手を握った。
いつも俺の隣に居てくれる相棒。
ルカとならどんな奴だって打ち破れる!


「くっ…!わ、私だって…!」

「無理しないでくださいナディアさん!
あなたは身体にダメージが残っています!」

「ざけんじゃねェ!オレはまだ…!」

「ランボルト殿!
君も下がった方が良い!」


 ナディアさんとリックも参戦したいようだが、さっきの看守長との戦闘でだいぶ消耗しているようだ。
 ここはシルヴィアとジオンに任せよう。

 闘うメンバーが決まったところで、ルカがいつもの口上を言ってくる。


「さあ、心を合わせろ」

「おう、とっくに合わせてるよ」

「「『融解メルトロ』!!」」

ボン!

 蒼のエネルギーが霧散し、弾け飛ぶ。
残滓を舞い上がらせながら、足が地面から離れていく。


「レイト…!?髪型が…??それに浮いて…。
さっきとはずいぶん様変わりしているな…」

「アンタそんなことできたの!?
究極魔法で人間と合体する魔法なんてあったかしら…」

「ギャウウウ!(マミヤレイトガ変身シタ!)」

「グオアアア!!!(カッケー!!!)」


 この姿の初見組は驚いて目を見開いている。
ついでに闘えない魔物たちも横たわりながら、歓声を送ってきた。


「何ですか、その姿は?
蒼の…そうか、どうやらベンターを滅ぼしたという噂は本当のようですね」

「俺は何もしちゃいないよ。
仲間とブローチを盗みにアジトへ入っただけだぜ?」

「おやおや、謙虚なんですねぇ。
貴方はこの国では英雄に等しい存在だと言うのに…」


 別に謙虚でもなんでもないんだけどな。
嘘もついていないし。
どうやらこの姿を照らし合わせて、俺に掛けられたウワサを信じたようだ。

クイッ

 ズボンの裾を引っ張られた。
シトロンさん?
降下して彼女の隣へ近づく。


「マミヤ…いやルカなのか?
どちらかは分からんが、聞いてくれ」

「今は俺だ。どうした?」

「今回お前たちが私を訪ねて来た理由は『シード』で犠牲になった患者を治療して欲しい…そうだな?」

「うん、そうだけど…」


 おいおい、今それどころじゃないんだけどな…
シトロンさんは俺の肩を強く掴んできた


「口上だが、シルヴィアからカルテを聞いた。
私の予測が正しければ…治療するにはあの鷲獅子グリフォンの素材が必要だ。
できるだけ傷付けずに奴を倒すことはできないか?」

「ええ!?
傷付けないで倒すってそんなこと…」

「可能です」


 無理と言おうした途端、ザベっさんが代わりに答えてしまった。
ちょ、何を勝手に…
…って、ああ、そういうことか!


「私が鷲獅子グリフォンの霊体を攻撃します。
ただし、今回は霊弓銃エーテル・ボウを持ち合わせていないので、敵を直接攻撃する必要がございます」


 そうだ。
ザベっさんは他のみんなとエネルギーの種類が違い、霊力エーテルを扱う霊森人ハイエルフ
炎獣イフリートとだって渡り合った力だ。
この人ならいけるな。


「ならば零人と私で君を奴の元へ運ぶ。
他の者は我々を援護してくれ」

「任せろ!跳躍力には自信がある。
鷲獅子グリフォンの気を引けばいいんだな?」

「私と蛇女ラミアは下から魔法で援護するわ。
アンタ魔法はちょっとくらい使えるわよね?」

「はん!バカにしないで。
アタシは肉弾戦ばかりしてるそこらの蛇女ラミアとは違うのよ」


 各々の役割を決め、改めて俺たちは上に居る鷲獅子グリフォンへ構えをとった。
そして、暴れているナディアさんとリック含め、全員に聴こえるように声を張り上げる。


「戦闘に参加できない奴らはアリーナから離れてくれ!
巻き添え食らわないように避難するんだ!」

「ああ!?だからオレはまだ…」

「リック!いい加減にしなさい!
ホラ、さっさと行きますよ!」

「これしきの怪我で戦線離脱など…!」

「ウォルト殿!
君の気持ちは分かるが今回は彼らに任せよう」

「ギャギャギャ!
(ガンバッテ、マミヤレイト!)」

「シャアアアッ!(オレモ闘ウ!)」

蛇頭ナーガくん!落ち着いて!
レイトくんならきっと大丈夫だよ!」


 みんなドタバタとしつつも、退避を始めてくれたようだ。
よし、これで…


「おや、誰1人とも逃がしませんよ。
撃ちなさい!!」

ドン!

 安堵した瞬間、鷲獅子グリフォンが彼ら目掛けて魔法を放ってきた!
風のエネルギーを凝縮した球体…。
チッ!『嵐弾エリアル・ボール』か!


 転移テレポートで防ごうと俺が座標を作るより前に、蛇女ラミア魔力マナを展開した。


「『嵐波エリアル・ウェイブ』!」

ヒュオオオッ!

「な、何!?」


 同じ風属性の魔法で、鷲獅子グリフォンの魔法を散らした!
ヘビなのに風属性使えるのかい。


「へぇ…やるじゃない。ちょっと見直したわ」

「フン、アンタに褒められても嬉しくないわ。
こんなの鳥女ハーピーの見よう見まねよ」


 フレイと蛇女ラミアは再びタッグを組んで魔法を放つための魔力マナを練り出した。
意外と良いコンビなのかもな。


「ウジ虫どもめ…まあ、いいでしょう。
貴方がたを屠ってからじっくりと奴らを狩るとしますよ!!」







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