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第115話:極上の死

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ルカの暴れっぷりを見た警備たちは、蜘蛛の子を散らすようにアリーナから居なくなった

まるで化け物を見るような目で…
魔物たちに秘密部屋の穴を空けてもらった時もそうだけど、なんか俺のやってることってまるで………
いや、考え過ぎか

残った連中は魔物たちはもちろん、別れた仲間たちも無事に合流し、勝利できたことを喜び合っている

……俺以外は


「いだだだだぁ!!!
は、早く治してってシトロンさん!」

「あ、焦らせるんじゃない!
私も先ほどの戦闘でかなりの魔力マナを消費しているんだ!
これ以上暴れると余計治療が遅れるぞ!」

「ぐおおおお……!!いだい…!」

「男の子だろう、我慢しろ零人!
無様に喚き散らすな!
それでも私の契約者か!?」


うるせぇ!痛いもんは痛いんだバカタレ!

ルカと『癒着コンキロ』を解除し、俺は背中に重傷を負った身体へと戻った

もちろん激痛が襲う

そして今は、上半身を脱がされルカに押さえつけられながら、シトロンさんの回復ヒアルを受けている


「シト姉。
私もお手伝いしますよ。
レイトさんの治療はよくやっていますから」

「助かるよシルヴィア…
…ああ、本当に…本当に立派な聖教士クレリックになったのだな。
私の後ろをついて回っていたあの可愛いシルヴィアが…」

「も、もう!シト姉!
私の昔のことは良いですから、早くレイトさんを治してあげましょう!
彼がうるさくてゆっくりお話もできませんよ!」


シルヴィアは暴れる俺を見かねたのか、ジオン達と会話をしているところをわざわざ抜け出してヘルプに来たようだ
すみませんね、こんなとこまで世話かけて…

ちなみにアリーナの下にいた人質たちは全員無事なようで、闘技者たちはそれぞれの大切な人を探している

無論、彼らはただ眠らされているだけなので、覚醒用の回復薬ポーションを飲ませるとすぐに目覚めると、シトロンさんは言っていた

ウチのネコも回収してとっととホテルに帰りたいぜ
今日はマジで働き過ぎた
明日はハルートの所でゆっくりしよう

あ…王様との謁見、明後日か…
またトラブル巻き込まれると嫌だから、やっぱ大人しくホテルに閉じこもってようか…
うん、そうしよう


「ギャウッ!」

「シャアッ」

「ひっ…!?」


頭の中で予定を組み立てていると、近くに魔物たちがやってきた

突然やって来たので、シトロンさんが小さく悲鳴をあげた

あ、そか、今は外骨鎧エグゾ・アーマー脱いじゃってるから怖いのか
コイツらは大丈夫なのに

改めて魔物たちを見てみると、多少ボロボロの奴もいるが、ほとんどは命に別状ないようだ

二ツ犬オルトロスが代表者になったのか、俺の前へやって来た


「レイトくん!
僕たちを助けてくれて…本当にありがとう!
おかげでみんなそれぞれの生活に戻れるよ」

「おう、そうか…
ちなみに今、この国の魔物たちは『サバト』で忙しそうだけど…
もしかしてお前らも戻ったら参戦するのか?
場所知ってんなら教えてくれないか?」

「へっ?」


確か子分だか警備の誰かが言っていた気がする
アリーナの魔物たちは『サバト』で気が立っていると

もし、こいつらも参戦する気なら止めはしないが、せめて開催場所だけは把握しておきたいと思ったのだ


「うーん…僕、ここに閉じ込められて長いから、外のことは分からないや…
ゴメンね」

「そうか…」


シュンとうなだれてしまった
な、なんかこっちが悪いことしてしまったみたいじゃないか


蛇女ラミア。お前は?」

「…へっ…えっ!?」


牛魔獣ミノタウロスの影に隠れながらコソコソとこちらを見てくるヘビ女に聞いてみる
なんでこっち来ないんだよ…


「ア、アタシも亜人の国ヘルベルクに着いた途端、あいつらに攫われたから…
分からないわ」


少しだけ蛇女ラミアも申し訳なさそうに眉をひそめた
うーん…
やはりそう簡単に情報は手に入らないか


「そうか…
ところでなんでお前さっきからチラチラ俺を見てくるの?」

「はぁ!?べ、別にそこまで……
というか、なんで上半身何も着てないのよ!
そんな格好してたらただの変態じゃない!」

「お前だって上は似たような格好だろうが!
無駄にデケェ乳付けやがって…けしからん…」

「なっ…!?
やっぱりアンタイカレてるわ!
いくらアタシが魅力的だからって魔物に欲情するなんて…
変態通り越してケダモノよ!」

「んだとメス蛇!
爬虫類に欲情するバカいるわけねぇだろ!」

「ああ!?
アタシの美貌にケチ付ける気!?」


俺と蛇女ラミアは睨み合った
つーかシトロンさんが傷の具合診るから脱げって言ってきたから脱いだんだし!
お医者さまの言うことはちゃんと聞かなくちゃだろ?


「……おい、貴様。
よく見ると以前、零人を誑かそうとした蛇女ラミアだな。
いつの間にそこまで仲良くなっている?」


何言ってんのこの宝石まで!
俺は全力で否定した


「「仲良くない!!」」


ちくしょうハモった


「…どこかで同じやり取りを見た気がするのだが」


ルカは呆れたように呟く
確かになんかデジャブ感はあるけど…

その後他の魔物にも聞いてみたが、有力な情報をあまり得られなかった

…ある一匹を除いて


「ブモモッ」

「なに!?本当かミノちゃん!」

「なるほど…そちらか…
ますます怪しいな」


情報を教えてくれたのは牛魔獣ミノタウロスことミノちゃん

ミノちゃんはなんと、亜人の国ヘルベルクにあるダンジョンの1つ、『黒の洞窟』の迷宮主ダンジョンマスターだった!

彼は国内にいる魔物たちの動向を、ある程度把握していたようだ


「???
あの、レイトさんにルカさんも…
魔物の言葉が分かるのですか?」

「ん?
ああ、言葉というよりイメージに近いかな」

「私たち宝石スフィアは、契約者とのコミュニケーションに支障をきたさないように、使用する言語に決まった概念はない。
その性質は契約者にも引き継がれるのだ」


相手がこちらに何かを伝える意思と多少の知能があれば、何を言っているのか理解することが可能だ

敵対した魔物とコミュニケーションを取れるのはレアだけど


「はぁ、そんな能力が…
それで、その…ミノさん?は何と言っていたのですか?」

「こっから東側の何処かで開催するみたいだぜ。
東側と聞いて何か気付かないか?」

「東…?あっ!
もしかして、私たちが向かおうとしている…」

「さすがゴードン。賢いな。
そうだ、魔物どもは『紅と黒の騎士』に呼ばれたのかもしれん」


あいつらは魔族であることは間違いない

魔物を集結させているってことは、やはり騎士は『紅の魔王』…?
武力蜂起しようと動いているのだろうか?

しかしそうなると、イザベラの部下とガイアが『紅と黒の騎士』を探していた理由が益々分からない

呼ばれたのなら当然そいつらの場所を知っているはず
探しているのは騎士じゃないのか?

俺らの会話を聞いていたシトロンさんが手を止めて参加してきた


「お前たちは…いったい何者なんだ?
マミヤもだが…特に宝石人間のお前…ルカだったか?
宝石スフィアとは何だ?」

「ドクター。
君の疑問には答えるが…
零人の治療を怠ってくれるなよ?」

「あ、ああもちろん…」


☆☆☆


それから1時間

俺の治療はシトロンさんとシルヴィアのおかげで背中の傷は塞がった

ただ、貧血気味で少しフラつく…

シトロンさんから安静にしていろと言われたので、秘密部屋のベッドで一時的に休息をとっている

あの後、人質たちはそれぞれ闘技者に抱えられ、俺らに深く感謝を述べたあとクラブから脱出した

案内はアシュリーが務めてくれたようだ

ちなみに彼女が元々救おうとしたグエルという人物は無事だったのだが、やはり同じように眠らされており、彼らにお願いして共に連れて行ってもらうことになった

セリーヌも連れてってもらおうか迷ったが、目覚めて誰も知り合いが居ないのでは可哀想だろうということで、彼女だけは俺らで預かった


「ニャア……
えへへ、オタカラ…いっぱいニャ…」


このネコめ!
呑気に夢なんか見やがって!

現在、俺はセリーヌの隣のベッドで寝ている

お前を救うためにみんなどんだけ苦労したか分かってんのかー?
ムカつくから起きたらくすぐってやろう


「ねえ、その子…『猫妖精ケット・シー』なんですって?
なんで魔物とニンゲンが冒険パーティー組んでるのよ?」


そんで何故か俺の寝てる横に蛇女ラミアが座り込んでいる

魔物たちも、二ツ犬オルトロス蛇頭ナーガなど、怪我をしている奴を除いてクラブからほとんど居なくなったのに、こいつは今だに居座り続けている

特に怪我もしていない

なら早く森にでも帰ればいいのに


「こいつ最初に出会ったとき『猫人ガトー族』って言ってたんだよ。
だから、魔物って聞いた時はビックリしたけど…今は俺の大事な仲間だ」

「ふーん…
だからアンタは魔物が相手でも、物応じしないで接することができるのね」

「正直、俺には魔物でも人族でも亜人でも、話すことができるのならみんな同じ存在に感じるよ」


これは俺とルカだけの感覚かもしれないが
地球では魔物や亜人族なんてもちろん居ない
目にする魔法、生き物、文化、全てが新鮮だ

だから、種族による明確な差別化はない

……ドラゴンだけは別ですけどね

横に顔を向けて蛇女ラミアの顔を見ると、パチクリと縦に開いた瞳孔を瞬かせていた


「……ニンゲンなのに変なの。
普通、アタシを見たニンゲンは畏れて会話しようなんて思わないわよ?」

「いや、最初は怖かったよ。
だけど前と違って今回は俺の仲間だろ?
だから今は別にお前のこと怖いと思わないよ」

「なっ!?何を言ってるの!?」


正直な気持ちを言うと、蛇女ラミアは青白い顔を真っ赤に染め上げた
……あ、違うか


「いや、俺を食べようとしたんだったな。
どうする?今の俺は無防備だぞ?食べる?」


冗談のつもりで笑いながら言うと、蛇女ラミアはますます紅くなった


「は、はぁ!?あ…そ、そうよ!
アンタはアタシが殺して食べるんだから!!
…だから、その時まで死ぬんじゃないわよ。
マミヤレイト…」


蛇女ラミアは遠慮がちに俺の頬へ細い指を添わせた
……くすぐったい
殺すと言ってる割には優しい仕草のような…

でも、どこか心地よかったので目を瞑り、指に顔を寄せると、彼女はものすごく小さく何かを呟いた


「カワイイ…」


蛇女ラミアの手が首筋へ伸びた
そして…


「何をしているのかしら…?」

「「!?」」


殺気!?敵か!

ベッドから身体を起こして声のした方を見ると、フレイが…般若の如きツラになっていた


「どこに消えたのかと思ったら…やっぱり。
私、言ったわよね?
レイトに指1本でも触れたら殺すって。
覚悟はできてんでしょうね…!」

ゴゴゴゴ!

あんなに闘ったあとなのに、フレイはそれを感じさせないエネルギー量を展開している!
こいつの体力底なしか!?


「な、なによ!
ちょっとくらい味見したって良いじゃない!」

「どんな反論してんだ!?
早く逃げろ!あいつ本気だぞ!」

「くたばりなさ…」


フレイが蛇女ラミアに距離を詰めたその時

バアアアアアアアアアアン!!!!

「「「!?」」」


ぶつかった音!?
上からだ!


「お、おいおい…!!やべェぞこりゃ…!」

「ギャウウウ!」

「シト姉さん!
このアリーナにはも居たのですか!?」

「いや、知らされてはいない!
おそらく臨時のプログラムだ…!」


穴越しにみんなの怒声も聴こえて来る
そして、次に聴こえてきたのはみんなの嫌われ者の声…奴だ!


「ご来場の皆さん!!お待たせしました!!!
このジョナサン・プルーロ…
自らの鞭で『特別ショー』をお披露目するべく再び参上致しました!!
もっとも、観客の皆さんはいないようですが、せっかくです!
残ったウジ虫あなた達全員に…極上の『死』を楽しんでもらいましょうか!!
フハハハハハハハハハハハハハ!!!」











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