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第114話:蒼の悪魔

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☆間宮 零人sides☆


ブン!


「ここが『裏武闘会ファイトクラブ』…
闘いのショーを行なっている割には、雑な造りのアリーナだな」

「ホントだよ。
あ、足場悪いから気をつけろよ?」

「むぅ…そのようだな」


俺はルカに身体を預け、アリーナ中心の穴付近へ転移テレポートした

ルカの中に居るって感覚どんなもんかと思ったけど、こいつはすげぇや!

ルカの周り360度、全てが見渡せる

それだけじゃなく、エネルギーに憑依している状態のおかげか、生き物のエネルギー反応を敏感に察知して、『構成』を知ることができる

前にルカが宝石スフィアの契約する候補者を探すには、そいつの魔力マナの質が大事って言ってた理由が分かる気がする

一人一人のエネルギーの流れ方、量、淀み、果てには『感情』まで理解できる…

モネとかザベっさんとかは例外だけど、今まで出会った人達の魔力マナなんてほとんど似たようなエネルギー構成だと思ってたぜ

ちなみに融解メルトロとは違い、この『癒着コンキロ』では宙を飛ぶことはできないようだ
ルカverの同調シンクロと言えるな


「あれが君の言っていた外骨鎧エグゾ・アーマーか…
なるほど、確かに戦闘力があるようだ」

「ああ。
反則だぜあんなん」


ルカは周りを見渡し、仲間と魔物達が闘っている状況を確認している

戦況は先ほどザベっさんが言っていた通り、人間サイドの門は守られているが、魔物サイドから敵が侵入して来ていた

しかも、軽装の敵より『外骨鎧エグゾ・アーマー』を装備している敵の方が多い

俺がアリーナへ来た時は、ミノちゃんがたった1匹で連中を引き受けてくれたが、やはり数には勝てないようで、壁へもたれ掛かるようにぐったりと横たわっていた

ありがとうな、ミノちゃん…
お前のおかげで、時間稼ぎができたよ


「はああああ…!!
輝光線ルミナス・レイ』!」

「雑魚どもが!沈みやがれ!
瞬速霞牙フラッシュ・ファング』!」

「いいぞ我が友よ!
雷弾ライトニング・ボール』!」


アリーナの西側では、シルヴィア、テオ、ジオンがトリオを組み、敵を迎撃している

魔法に長けたシルヴィアとジオンが、近接戦闘で闘うテオを援護しているようだ
武器は持ち込んでいないので、全員素手だ

ちなみにテオは、『人狼ウェアウルフ』のため、身体を〝魔物化〟させて闘っている

灰色の毛並みが鮮やかに戦場を彩り、凄まじいスピードで敵をなぎ倒していく様は、とても貴族とは思えない野性味溢れる獰猛さを感じさせられた

つか、狼なると身体めっちゃデカくなるんだな


逆サイドの東側では、シトロンさんを筆頭にナディアさんとリックが看守長へ3人がかりで挑んでいた


「『炎撃フレイム・インパクト』!
くっ……!硬い…っ!!」

「『竜式回し蹴りドラグ・ソバット』!
チッ!なんだァ、クソ!」

「2人とも無理をするな!
こいつは私が相手をする!」

「フン、無駄だ!!
貴様ら雑魚が何人集まろうと、俺のアーマーは破れん!」


シルヴィア達に比べて、こっちはだいぶ苦戦してるようだな
リックはともかく、ナディアさんが丸腰のままでは危険だ

怪我をする前に助けへ行った方がいいかもしれない


「ルカ。
リックん所をまず片付けよう。
あいつらヤバそうだ」

「了解。
ちなみに近くで闘っているあのピンク髪の女は仲間なのか?」

「ああ。
あの人が俺らの探してたブラ…いや、ドクターだよ」

「ほう。ならば死なせる訳にはいかんな」


ルカは座標を看守長の頭上へ作成した
同時に周りの景色が蒼く歪み出す

ブン!

「「「!?」」」

「なんだ貴様は!?」


ルカは看守長のまんま頭上に両足で着地した
すごいバランス感覚だな!


「よくも私の仲間たちを痛ぶってくれたな。
叩きのめしてくれる」

ドッ、ドン!

「ぐっ…!!」


ルカは地団駄のように踏みつけ、サマーソルトキックで蹴り飛ばして、シトロンさん達の傍へ華麗に着地した

おお、カッコいい!


「「「………」」」


シトロン含め、リックとナディアさん顔が驚愕の表情になっている
どうしたんだろう?


「お前は…マミヤ…なのか?
先ほどと様子がずいぶん違うようだが…」

「しかし、今の声はルカ殿だったぞ?」

「まさかおめェ、また新しい力に目覚めやがったのかァ?」


あ、そっか
外見は俺に似てるけど、動かしてるのはルカだからみんな戸惑っているのか


「4-706……?いや…貴様、何者だ?」


突然の襲撃に頭を振りながら、看守長は問いかける

ゴウッ!

ルカは前へ一歩出ると、全身に蒼いエネルギーを展開させた


「私は間宮 零人と契約を結びし宝石…
翔の宝石ジャンプ・スフィア』、ルカだ」

「なに…スフィア…?何を言って…?」


ルカの名乗りに看守長は動きを止めた
よし、こっからは俺の仕事だな


「ルカ!
あいつは『Type Cコールド』って外骨鎧エグゾ・アーマーを身に付けている。
氷属性の攻撃に加えて鎧が異常に硬ぇ!
エネルギーの動力源は胸部の中心に内蔵されているぞ!」


俺がさっき闘った情報をルカにフィードバックすると、短く『了解』と呟いた


「誰であろうと、闘技場をここまで破壊してくれた連中の仲間ならば生かしておけん!」


看守長は右腕に青白い魔力マナを纏わせた


「『冰針フロスト・ニードル』!」


看守長の左右から尖った氷柱が複数出現する

ハン、つまらない魔法だ

さっきまでの俺だったら驚異的だったが、今ここにいるのはたっぷり寝てエネルギーを蓄えたルカ様だぞ?

俺は出現した氷柱全てに座標を作り、出口をセットした

ブン!

「なっ!?クソ…ッ!!!」

ドドドドドド!!!

こちらに放った氷柱は全て看守長の背後から襲いかかる
予期せぬ奇襲に彼は鈍重な身体を転がし、自らの攻撃を回避した

……ん?いや……

なるほどな、勝つための道筋が見えたぜ


「ありがとう零人。
…どうやら君も気づいたようだな?」

「ああ。
あいつ立体機動に慣れてなさそうだし、それに…」


おっと、作戦をバラすわけにはいかないな
俺は沈黙してルカに任せよう


「…やってくれる…!
ならば、貴様に直接攻撃をするまでだ!!」


看守長は魔力マナを展開させながらこちらに接近する


「くっ…!下がれ!
奴の攻撃は私が食い止める!」


シトロンさんは前へ出て、看守長から守ろうと立ち塞がった
気持ちはありがたいんだけどね…


「ピンク髪の、邪魔だ。奴は私が仕留める」

「お前…?」

「ここは彼女に任せようお医者殿。
我々では足手まといのようだ」

「ケッ、しょうがねェ…
仕留め損なったらオレがきっちり終わらしてやるよ」


さすが付き合いが長いナディアさんとリックは、こちらの意図を組んでくれた
サンキューな、2人とも


「はあああーっ!!『冰式拳《フロスト・ブロウ》』!」

「ノロマが」

ブン!

「はっ…!?ここは…!?
う、うああああああ!!!」

ドゴッ!

ルカは自分と看守長をアリーナの天井ギリギリへと転移テレポートさせ、無防備のところを両脚で地上に蹴り飛ばした

そして彼女の右手には、こっそり転移テレポートしておいたある物が握られている


「す、すげェ!!
あんな上から突き落としやがった!」

「おい!ルカ殿も一緒に落ちて来ているぞ!?
あの形態では飛べなかったのか!?」

「…………」


下でナディアさんとリックがこちらを見てはしゃいでいる
シトロンさんは口を開けてポカンとしているな
珍しくアホ面だ

ドォン!!

「がはっ!!」


看守長は重力の力を乗せて、地面へ仰向けに叩きつけられた
それなりに重量があったのか、身体が少し地面へ沈んでいる

ブン!

そしてルカもまた、地上の看守長を追いかけるように、転移テレポートを発動する

出現地点は奴より少し上…

右手に持った〝得物〟を逆手に持ち直し、両手で矛先を胸の中心へ向けた!

ズドッッ!!

「ぐあああっ!?
バカな…!なぜこの装甲を!?」

「これは貴様がくれた『武器』だ。
安易な攻撃をするべきでは無かったな」

「それ…は…!『冰針フロスト・ニードル』!?」


俺が最初にカウンターでおみまいした際、1本だけ腰あたりに突き刺さっていた
もっとも、動き回っていたからすぐ抜けたけど

俺とルカはそれを見逃さなかったのだ

突き刺した箇所からはコアが破壊された影響で、バチバチとエネルギーが迸り始めている
あーこれ、まずいな


「ルカ、離れて」

「ああ、分かっている」

ブン!

「く、クソぉぉぉぉ!!!!」

ボォォォン!!

おお、魔力マナが爆発した!
…って、あいつ死んでないよな?

ルカは再びシトロンさん達の所へ戻り、つまらなさそうな顔で腰に片手を当てる

クールぶっちゃってこの宝石め


「なんという…お前は本当に人間なのか?
生身で外骨鎧エグゾ・アーマーを圧倒するとは…
今だにこの目が信じられん」

「私は宝石スフィアだ。
契約者に釣られて身体は人間だがな」


彼女の目は恐れているようにも見えなくない
まあ、こちらの素性はあとで聞いてもらうとして…


「ナディアさん、リック!
残りの敵を片付けてくれ!
俺はちょっとこの人に治療してもらうからさ」

「あ、ああ、了解だ。
しかし怪我をしてるようには見えないが…?」

「アハハ…実はこう見えて死にかけでして。
シトロンさんならすぐ治してくれると思います」


頭に???マークを浮かべているナディアさんを尻目に、リックはなぜか嘲笑している

どうしたんだ?


「どうやら手伝いは必要ねェみてェだぜ。
奴らを見てみろよ」

「ん?」


リックが顎で示したところはシルヴィア達だ

なぜか、彼女たちもエグゾたちの連中もこちらを見て固まっている


「あ、ああ………!!!
看守長が…看守長がやられたぞ!?」

「バカな…
あの方のアーマーはType Cコールドだぞ!?
それを…たった一人の人間が……?」

「あ、悪魔だ……!!
『蒼の悪魔』だッッ!!!」

「「うああああああああああ!!!!!」」


次の瞬間、まるで雪崩が崩れたようにアリーナ内にいる全ての警備達が戦闘を放棄してその場から逃げ始めた

あ、悪魔って…ひどい…







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