上 下
89 / 243

第86話:勝負師

しおりを挟む
「んーヒットで…あっ!死んだ…」

「私はスタンドをお願いします」

「それでは手札をオープンしてください。
センチュリー様、20。こちらは19となり…
お見事、お客様の勝利です」

「ありがとうございます」


説明を受けたあと何ゲームか遊んでみたが、やはりこちらの世界でいう『ブラックジャック』だった

さすがにこれくらいなら俺でも勝てると思ったが、カード絵柄の役割がうまく覚えられなかったのと、零人くん持ち前の『不幸』で、連敗を喫していた

逆にザベっさんはセンスがあるみたいで、絶妙なところでカードを追加したり、勝負を掛けたりして、快勝を続けている

ぬぐぐ…!
ちょっと悔しい!


「レイトさん」

「ん?」

「私は今まで遊戯を遊んだことがなく、今回が初めてなのですが…
正直ここまで楽しいものとは思いもよりませんでした。
今日はこんなステキな場所へ連れてきて下さりありがとうございます、レイトさん」

「エリー…」


演技なのか本心なのかは分からないが、そう語るザベっさんの表情はとても柔らかい
いつもスンとしてるからまるで別人に見える


「…さて、次のゲームは参加いたしますか?」

「当たり前だ!次は勝つ!」

「はい、参加します」


参加表明をし、ベットするチップを差し出す

……!?

ザベっさんはごっそりと溜まったチップを前面に押し出した
コイツ正気か!?
半分も賭けてどうするんだ!


「…私と『勝負』をしませんか?
こちらが勝ってもチップはいりません。
代わりに一つだけ『情報』を頂きたいのです」

「情報、ですか?
……ふむ、どうやらお客様は単に遊びに来たわけではないようですね。
おもしろい、良いでしょう!
ゲームマスターとして突きつけられた挑戦は受けて立ちます!」


情報って、まさか…
高らかな返しと共に、ディーラーさんは華麗にカードのシャッフルを始めた

シャララララッ!

おお、ショットガンシャッフル!
カッコイイ…


「あそこのテーブル…
どうやら盛り上がっていますな」

「あれは『霊森人ハイエルフ』?
この地区では見かけない者だ…」

「しかし、あのチップ量をご覧ください!
彼女は勝負を掛けていますよ!」


いつの間にか周りに貴族たちが続々と集まって野次馬を形成し始めていた

ちょっとちょっと!
あんま変に悪目立ちしたくないんだけど!

シャッフルされたカードがそれぞれ配られ、手札の確認と行動を促される

…ええと、この絵柄は10扱いだったか…?
それともう1枚は…あーダメだ!
15かよ…なんで毎回微妙な数字しか来ないんだ


「ヒ、ヒット…」

「かしこまりました」


カードを受け取り少し深呼吸する…
そしてバッと手札に重ねる
こ、これは!


「バーストっす…」

「残念。またの挑戦をお待ちしております」


くそぅ!
やっぱアナログゲームなんて嫌いだ!
俺の敗北に野次馬どもが嘲笑う


「フフフ、どうやら男の方は全くツキがないようで…」

「まあ、そう言ってやるでない。所詮は人族。
亜人にかなうわけがないのだから…!」

「「ハッハッハ!!」」


あんのブタども…!
クソ…ここがガルド村なら迷わず鉄拳くらわしてやってるのに…!


「さて、貴方はいかがなさいますか?」

「『ダブルダウン』でお願いします」

「「「!!」」」


ダブルダウンって…!
賭けたチップを倍にして、1枚だけカードを追加する…
ザベっさんは何の躊躇いなく残りのチップを差し出した

そのあまりにも度胸が過ぎる行いに、ディーラーさんの目つきが変わった
い、今までの優しい目じゃない…
眉間にしわを寄せた険しい表情だ…


「『勝負師』を気取りたいのでしたら、小説や演劇の中だけで済ませておくことです。
しかし、ここは現実。
一度宣言された言葉を取り消すことはできません。
よろしいですね?」

「構いません」


即答したザベっさんに応えるようにお姉さんはニヤリと頬を吊りあげた

ザベっさんはカードを受け取り、確認すると手札をテーブルに伏せた

ゴクリと、誰かの固唾を呑んだ音が聞こえる…
もちろん俺もハラハラして見守っていた


「それでは手札を開いてください」


2人は同時にテーブルへカードを広げた


「こちらは20、センチュリー様は…21!
お見事、『ウィーヌス』です!」

「「「おおおおー!!」」」


や、やりやがった!!
しかも21ブラックジャックで決めやがった!
とんでもない快挙に周りにいた貴族たちは歓声を上げた


「な、なんという強運の持ち主…!
まさか『ウィーヌス』で締めるとは!」

「こ、これは…!
是非ともお近づきにならねば!
あの静かながら気品を感じさせる佇まい…
きっと彼女の家柄は王族に違いない!」

「まっ待て!ワシが先だ!」


ぬわっ!?
テーブルに貴族たちがわんさかやって来た!


「な、なんだお前ら!?」

「どけ人族!貴様に用などない!」

「ぶへっ!?」


1人の大柄なデブ貴族に椅子からぶん投げられ、地面に転がされた!
な、何だってんだコイツら…

すると、ディーラーの姉さんがどこから取り出したのか、貴族たちに剣を突きつけた!


「ヒッ!?な、何を…」


よく見ると、お姉さんの立っていたテーブルに窪んでいる形跡があった
テーブルにあんな仕込み武器があったのか…!


「皆さま。
お客様同士の諍いや争い事は断固お断りとしております。
それが例え相手が人族であっても例外はありません。
ここは『裏賭博場ブラック・カジノ』。
テーブルを介したひと時のスリルを味わって頂く場です」

「「「…………」」」


凛としたディーラーさんの言葉に、貴族たちはバツが悪そうにその場から退散し始めた
そして、ザベっさんが俺の所へやってくる


「レイトさん、おケガはありませんか?」

「あ、ああ。俺は大丈夫だ」


彼女は俺の手を取って立たせると同時に耳元へ口を寄せた


(申し訳ありません。
あのような者など蹴散らすことは容易だったのですが、流石にこの場では…)

(分かってるよ、暴れたらまずいことくらい)


本当は俺もぶっ飛ばしたかったけどね
お互いに耳打ちを済ませると、先ほど助けてくれたディーラーのお姉さんもこちらへやってきた


「お客様、お見苦しいところをお見せしてしまいました。
謹んでお詫び申し上げます」


剣はテーブルに格納したようだ
ディーラーさんはペコリと頭を下げて謝罪してきた


「あ、いえいえ~、こちらこそ助かりまし…
オッホン…助かった」

「うふふ。
そう固い口調をなさらなくても結構ですよ。
貴方たちは夫婦を装っていらっしゃるようですが、私の目には初々しいカップルに見えます」

「カップル!?」

「………!」


なんじゃそりゃあ!?
1発でバレてんじゃ変装した意味無いじゃん!

つか、やべぇ…
俺達もはじき出されるか!?

ザベっさんも同じことを思ったのか表情が無表情に戻った
あれは…警戒してる顔だな


「そんな怖い顔をなさらずとも大丈夫ですよ。
それよりも先ほどの勝負はお客様の勝利です。
約束どおり何でもお聞きになってくださいっ」


ディーラーのお姉さんは、犬人アイヌ族特有の愛嬌たっぷりの笑顔を俺たちに見せた




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

(完結)戦死したはずの愛しい婚約者が妻子を連れて戻って来ました。

青空一夏
恋愛
私は侯爵家の嫡男と婚約していた。でもこれは私が望んだことではなく、彼の方からの猛アタックだった。それでも私は彼と一緒にいるうちに彼を深く愛するようになった。 彼は戦地に赴きそこで戦死の通知が届き・・・・・・ これは死んだはずの婚約者が妻子を連れて戻って来たというお話。記憶喪失もの。ざまぁ、異世界中世ヨーロッパ風、ところどころ現代的表現ありのゆるふわ設定物語です。 おそらく5話程度のショートショートになる予定です。→すみません、短編に変更。5話で終われなさそうです。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
ファンタジー
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

処理中です...