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第82話:フレデリカ達の約束

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「オババ、今回は急な依頼を引き受けてくれて感謝するよ。
また、こちらに寄らせてもらう」

「はいな。皆さま、どうかお気を付けて。
エリザベス、ちゃんと主人とお客様をお守りするのですよ?」

「心得ています、オババ。
貴女こそもう若くないのですから、あまり無茶をしないように」

「まぁ!相変わらず小生意気な娘ですこと!
貴女が心配するなんて10年早いですよ!」


俺たちはおばちゃんに手を振って、店を後にした
私服は持っていくとジャマになるので、とりあえずお店に預けてもらった

それにしても、お金随分と勉強してもらった気がするけど…良かったのかな?
相場が分からないから、提示された金額をそのまま払うつもりでいたのに


「さて、ここからは別行動だ。
『貴族街』はこの近くにある。
僕たちは先に街へ潜入して、カジノはテオに見つけてもらう。
現地で合流することにしよう。
エリザベス、彼らを頼むぞ」

「かしこまりました」


ジオンはシルヴィアと、テオはセリーヌと、ナディアさんはフレイと、それぞれペアを組んで出発した
後ろから見る分には結構みんなお似合いだ


「それでは皆さま。
私についてきてくださいませ」


☆☆☆


ザベっさんが引率しているメンバーは、俺・ルカ・リックの3人だけだ
人数が少ない分、動きやすい

そして彼女に案内された場所は、なんと普通の喫茶店だった!
なんでただの公共施設が抜け道になるのか疑問だったが、2階の開放テラスに案内されてその理由が判明した


「こちらが裏ルートになります。
足元に気を付けてお登りください」

「い、いいのか?
不法侵入罪で通報されない?」

「素早く動けば見つかりません。
できるだけ音を立てないようにお願いします」

「チッ…
こういうのはオレの分野じゃねェんだがなァ」


オレとリックは彼女の後について、建物の屋根に登る
ザベっさんの知ってる裏ルートってのは、民家の屋根を伝って『貴族街』に潜入することだった

忍者じゃねぇんだぞ俺らは!

落ちないようにそっと足を踏み出そうとした瞬間、上着に隠れていた宝石のルカが突然飛び出した


「わっ!?ちょっと、脅かすなよ…」

「すまない。だが、移動が面倒だろう?
途中まで私が転移テレポートで連れてってやる。
センチュリー、方角はこちらでいいんだな?」


なるほど!
たしかにその方が見つかりにくいかも
転移テレポートする時の音には注意が必要だけど

ザベっさんが頷くと、ルカはエネルギーを集中し始める


「全員その場から動くなよ?」

ブン!


☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆


レイト達と別れてから数刻、私たちは現地の貴族であるテオに案内され、『貴族街』の検問所に到着した

さて、まずは第一関門ね…
うまく突破できるかしら?


「ナディア嬢。
最初は俺たちから先に検問を受ける。
その次はジオンとシルヴィア嬢、最後にアンタらだ。
2人ともできるだけ貴族らしく自然に振舞ってくれ」

「承知した」

「分かったわ…
でも、『らしく』って言われてもねぇ…」


今さら考えても仕方ないんだけど、私に貴族らしい振る舞いなんてできるかしら?
自分で言うのもアレだけど、私かなりガサツだし…


「なに、そう構える必要はない。
聞かれたことに素直に答えるだけだ」

「わ、分かったわ!」


テオは私の緊張を読み取ったのか励ましてくれた
はぁ、こんな子供に励まされてるようじゃ…
って、私より歳上だったわね

彼はセリーヌの所へ戻って軽く打ち合わせを始めた
こうして並んで見ると、本当に兄妹に見えてきたわ
もっとも、実年齢でいったらセリーヌの方が思い切り歳上なんだけど…


「フレイ殿」

「ん?なに?」

「いや…私に話があるのではなかったのか?」


あ、そうだった
うっかり検問所のことばかり考えてたわ
ナディアにどうしても確かめたいことがあったから、私はこっちに来たんだ


「それじゃあ早速聞くけど、あんたレイトとどこまでいったのよ?」

「ど、どこまでとは…?」

「そんなの言わなくても分かるでしょ…」

「ええと…?」

「だ、だから…!
その…あいつと…エ、エッチしたのって聞いてるの!」

「なあっ!?」


察しが悪いナディアにイライラして、ついどストレートに訊いてしまった
私ったら、もう!
なんでもっとオブラートに聞けないのかしら…

ナディアは顔を真っ赤にして俯く
この反応だと大丈夫そう…よね?


「わ、私はキスしか、し、してない…」

「本当に?」

「本当だ!
ちょ、ちょっとだけ危なかったが…」

「はぁ!?」


危ないって何よ!?
ううう~っ…!!
どいつもこいつも私を差し置いてくれちゃって…
ほんとムカつくわね!!

…でも、ルカに聞いた通りだし、とりあえずは信じて良いみたいね

ここからが本題だ


「…もうひとつ聞くわ。
貴女レイトのことちゃんと好きなの?」


私はかつてルカに投げた同じ内容の質問をした
これに関してはもはや聞く必要も無いけど、一応彼女の言葉から聞いときたいしね


「………わ、私は、その……
知っての通り、今まで戦いに明け暮れて生きてきた。
そのうえ、実家でも父から斡旋された見合いの話は全て断ってきたので、正直男女の惚れた腫れたに関してはよく分からない…」

「………………」


ナディアは俯きながらも言葉を紡ぐ


「しかし、闘うこと以上に大事なモノがあると、私は最近になってようやく気づいた。
私を炎獣イフリートから救ってくれた彼の傍に…
マミヤ・レイトのほのおとなりたい」


拳を胸の前に握り締めながら、真っ直ぐ…とても澄んだ目で私を射抜く
これは…ルカのあのと同じだわ…

ルカがレイトに対する気持ちを自覚した時に向けてきた眼差し…

まったく…
なんでみんな最初は素直じゃないのかしらね


「…そう。
貴女のレイトに対する想いは分かったわ。
でも、貴女からキスしたってことは、結局アンタもレイトとそういう関係になりたいんでしょ?」

「そ、それは………
ゆ、許されるなら…?」

「何に許してもらうのよ…
エッチしたいのしたくないのどっちなの?」

「…………シタイデス」


再び真っ赤になったナディアは、俯いてものすごい小声でやっと認めた
フン、アンタがムッツリなのは知ってるんだから、最初からそう言えば良いのよ

私はため息をつきながら話を進めた


「気付いてると思うけど、私とルカもレイトと一緒になりたいの。
でも取り合いになってケンカするのは嫌だからあの子とひとつ、ある約束を交わしたわ」

「や、約束?」

「『初めての夜は一緒にすること』。
キスとかは…まぁしょうがないとして、それ以上のことは一緒にしようって決めたのよ」

「な…………!?」


ナディアは絶句したのか口をポカーンと開けて固まってしまった
…まあ、そうよね
自分でもイカれてる考えだとは思うわ…


「それで、貴女もこの約束守れる?
守れるならあとはレイトにアタックしても別に文句ないわ」


まあ、そもそもレイトが私たちをなんとも思ってなかったら無効になる約束事だけど…
牽制の意味も込めて私はナディアに尋ねた


「……しょ、承知した…
その…もし、その時が、き、来た時…
上手くできるかは分からないが…
私も、マミヤ殿と一緒になりたい!」


ナディアは服の裾をギュッと摘んで絞り出すように告白した


「フフ…言ったわね。
もう取り消させないわよ!
さあ、覚悟してなさい。レイト!」




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