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第80話:服飾士《スタイリスト》

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ギルドを出て数刻、俺たちはジオンの知り合いが経営している仕立て屋があるという事で、そちらに向かっている

なんでもそこの店主は『オットー・タウン』から出店しているらしく、俺ら人族にもきちんと対応してくれるのだとか

冒険者ギルド以外では除け者にされてるから助かるぜ…


「しかしこうして見ると、我々の一行は随分と色々な種族で構成されているな。
レイト殿の世界では人族以外にどんな種族がいたんだい?」


隣を歩くジオンがキョロキョロと俺たちを見回す
宝石スフィア1人、人族3人、森人エルフ2人、妖精猫ケット・シー1人、蜥蜴人リザード1人、霊森人ハイエルフ1人、人狼ウェアウルフ1人…
そう言われるとそうだな


「俺たちの世界は人族だけで、あとは知性を持たない動物だけだよ」

「そうなのか!?
いやはや…世界は広いな…」


ハァーっと、感嘆したのかよく分からないため息をつく
そしてジオンと同じエルフのフレイも会話に参加してきた


「前からちょっと疑問だったんだけど、レイトと初めて会った時、私も似た質問したじゃない?」

「え?なんだっけ?」

「覚えてなさいよ…
ホラ、あなたの世界にもエルフは居るの?って」

「ああ、そういえば聞いてきたね。
それがどうかしたの?」

「アンタはゲームとか漫画で知ったって言ってたけど、よく考えたらおかしくないかしら?
なんでレイトの世界には人族しか居ないのに、私たちみたいなエルフとかドラゴンとかの知識があるのよ?」

「え…」


……………………………

なぜ俺はフレイの疑問に今まで気付けなかったんだ?
たしかにそうだ

当然のように接してきたけど、フレイ達は俺にとって地球外生命体…つまり宇宙人だ

もちろん彼女たちから見ても俺もまた宇宙人…

そもそも、なんで俺の世界でファンタジーとか魔法などの概念があった?

エルフもドラゴンも全て空想上の生物だ
地球に居ないならその存在すら知り得るはずもないのに…


「レイト?どうしたのボーッとして…」

「いや…ゴメン、俺には分からないな。
なんで俺知ってるんだろうな、アハハ…」


乾いた笑いをフレイは不思議そうな顔で見つめていた


☆☆☆


さらに歩くこと数分、人通りがあるメインストリートまで進んだ

そして、ある一角に華やかな装飾が為された大きな店があった

ショーウインドウには煌めくジュエリーで彩られたドレスや、シックな黒で構成された男性用のチョッキなどが並んでおり、それが貴族御用達の店であることは一目瞭然だった

ジオンとザベっさんは、その店先で開店の準備をしていると思われる女性へ声を掛けた


「まぁ、坊っちゃま!それとエリザベスも!
これはこれは、お久しゅうございます!
あら?また一段と背が大きくなられましたか?」

「ははは!
オババはいつもその台詞を言うではないか!
それより、突然大人数で押し掛けてしまいすまないな」

「なんのなんの!
坊っちゃまのご友人ならいくらでもお連れくださいな。
して、本日はどのようなご入用で?」

「貴方の腕を見込んで依頼があります。
坊っちゃまを除いた、ここにいる方々へ服を仕立てて頂きたいのです」

「まあ…それはまた、随分と急ですこと…」


ザベっさんがジオンを抜いたのはそのままの格好でも問題ないと判断したからだろう

そしてこの人がおそらく店主だ
店主のおばちゃんは俺らを一人一人見回す

その反応にジオンは苦笑いになった


「やはり、流石の君でも厳しいか?」

「何をおっしゃいますか!
私は元オットー邸専属の『服飾士スタイリスト』ですよ!
必ずや皆さまにピッタリの服をあてがって見せましょう!
このオババにおまかせくださいな!」


☆☆☆


おばちゃんに招き入れられて、俺たちは店の中へ足を踏み入れた

わあ…
外で見るよりゴージャスだ
ショーウィンドウで見かけた服以外にも色々なサンプル品が店の中に並んでいるし、これは買い物するのが楽しいだろうな


「ええと、今回は坊っちゃま以外全員の服をご用意するということですね?
それでは…」

「待ってくれ。私も除いてもらって構わん」


おばちゃんの言葉を遮ってルカが異を唱えた
なんで…あっ、そうか!


「どうしてよルカ?
アンタ、そのままで行くつもり?」

「私は『宝石スフィア』だ。
零人のポケットに隠れていれば問題ないだろう」

ボン!

ルカは蒼の宝石形態に変身した
隠密で潜入するクエストならルカがいちばん適しているんだよね

ボン!

「この通りだ。
私は君たちの準備が終えるまで待機している」


再び人の姿に戻ったルカは店内を物色し始めた
1人だけ何も買わないってのも可哀想な気が…


「まぁ…人族が宝石の姿に…?
ジオン様あのご友人はいったい?」

「ハハハ…話せば長くなってしまうのでな。
とりあえず今は僕とルカ殿を除いた者たちをお願いする」

「仰せのままに、坊っちゃま。それでは皆さん。
まずはサイズを計測させて頂きますので、どうぞこちらへ!」


おばちゃんに案内されるままについて行くと、途中で他の従業員に担当が変わって男子と女子に別れた

スリーサイズ測るんだから当然だけど


☆☆☆


「はーい!これで終わりですよっ!
あとは着て頂いても大丈夫ですからね~」

「あ、はい。どうも…」


測定室と呼ばれている部屋に案内され、そこで俺とリックとテオのサイズを測ってくれたのはうら若きエルフの女性だった

2人は男らしく脱ぎ脱ぎしてたけど、俺はさすがに抵抗を感じた
女の人の前で脱ぐのはもちろん、初めて男友達と銭湯に入りに行った時みたいな妙な気恥ずかしさがあったのだ

よくあんな堂々と脱げるなアイツら…


「お疲れ様でございます、皆様!
ここからはオババが皆様の服をいよいよ『創作オーダーメイド』させていただきますよ!」

「うわぁ!ビックリした…」


ズボンを上げた瞬間、突然おばちゃんが台車をガラガラと押して乱入してきた!

し、心臓に悪い…

あれ…?
創作オーダーメイド』ってハルートも言っていた…


「まずは黒髪のお兄さんから参りますよ!」

バッ!

おばちゃんは台車から1枚の布地を掴み、空中に放り投げた


「『嵐刃エリアル・カッター』!」

スパパッ!

「「「なっ!?」」」


すげぇ!!
布が一瞬で服の形に!?

いや、まだあれは縫う前の原型だ…
切られた布が舞い落ち始める瞬間、おばちゃんは次の魔法をすかさず発動した


「『糸線通しフィーロ・ダイヴ』!」

シュルルルル!

「「「おおっ!!」」」


空中に投げた糸がまるでセリーヌの『鉄線掴みワイヤー・スナッチ』みたいな生きてる動きで切られた布地に融合し、みるみると立派な服の形へ昇華させていく

こんな離れ業ができるなんて…!

自然と俺たちは拍手を送っていた


「おばちゃんすげぇな!
俺こんなすごい魔法見たことないよ!」

「ああ!
普通の仕立て屋だともっと時間が掛かるぜ!
とんでもねェスピードだぜ…」

「さすがジオンお抱えの元『服飾士スタイリスト』…
その腕は話に違わないようだな」


皆がおばちゃんを絶賛すると、彼女は手を振って照れくさそうに喜んだ


「あらヤダ、皆さまお上手ですこと。
ですが、まだこれは完成ではありません。
まだまだ創作オーダーメイドしていきますよ~!!」


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