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第77話:世界機関《マスターギルド》

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「な、な、なんだと…!!!
てめェら俺のランク越しやがったのか!?
クソったれ!
やっぱお前の所に行きゃ良かったぜ!」

「まさか、こんなに早く〝飛び級〟して私の記録を抜くとは…!
皆、すごいじゃないか!良くやったな!」

「おめでとうございます、皆様。
これは素晴らしい快挙です」


俺たちは報酬の金の受け取りを取り敢えず保留にしてもらい、まずは酒場にいるナディアさん達に『昇級ランクアップ』の報告を行なった

ザベっさん以外めっちゃ良い反応ですね~


「ありがとう。
だけど、これからなんかギルド長と面談しなくちゃいけなくなってさ。
呼ばれたのが『蒼の旅団』のメンバーだから、悪いけどナディアさんとザベっさんは待っててもらっていい?」

「ああ、承知した。
くれぐれも失礼のないようにな?」

「かしこまりました。
坊っちゃまがこちらに到着した際は、その旨を伝えておきましょう」


地団駄を踏んでいるリックを何とか引き連れて、2階の応接室とやらに向かった


☆☆☆


「なーリック。そんなむくれるなよー。
次はお前もクエスト連れてくからよー」

「ケッ!さすが『堅・冒険者アドバンス』サマは下々の者にお優しいこって!」


2階の廊下を歩いて応接室を探している最中、何とかリックの機嫌を取ろうと声を掛けるが、ずっと拗ねたままだ

よっぽど俺らに先を越されたのが悔しいらしい

思えばコイツもいち冒険者として、様々なクエストに手を出してる割りには、中々昇級ランクアップできずにもがいていた

その立場からすると、リックの焦る気持ちは少しは分かる

はぁ、こんな時シルヴィアが居れば…


「あっ!ここね!
上の所に『応接室』ってプレートがあるわ」

「でかしたシュバルツァー。
おいみんな、こっちだ」


ルカの集合命令がかかり、フレイ達の所へ全員集結する

木製の簡素な造りのドアの上に金属のプレートが嵌め込まれている
さすがにそこに書かれている字が読めないほど、俺は勉強を怠ってはいない

軽く深呼吸して、皆へ問う


「それじゃあ、みんな。
準備はいいか?ノックするぞ」


俺の言葉にみんなが頷いた

コンコン

2つほど叩くと、すぐに返事が来た


「はぁい。どうぞ入ってぇ」


…女の人?
ノブを捻り部屋へ入ると、中には長テーブルを囲んだソファーに1人、妖艶な雰囲気漂う女性が足を組んで座っていた


「失礼します…うおっ」


ギルド長って聞いてたから何となくお年寄りのイメージがあったけど、これは…良い意味で裏切られた!

身体のラインに沿ったデザインのスーツ…
大きく開かれた胸元から豊満なパイオツが強調して、少し目を凝らせば見えちゃいそうなタイトスカートの奥から伸びた、程よい肉付きの両脚にも釘付けになる

こ、こんなエロマンガから飛び出してきたみたいな人が存在するなんて…!

モネ…お前の『おまじない』、たしかに効果があったぜ!
帰ったらあいつにお礼しなきゃな!


「んん?どうしたのぉ?
ほら、早く座りなさいな」

「はっ、はい!」


ギルド長から促され、俺とルカは向かい合わせのソファーに、左右のソファーにはそれぞれフレイ達が座った

リックの方は身体がデカいせいでソファーじゃなくて個人のイスに変貌してる…

全員が着席したことを確認すると、ギルド長はぽってりとした肉厚の唇に手をやり、咳払いをひとつ打った


「オホン、初めまして。
私は冒険者ギルド『亜人の国ヘルベルク』ノルン支部ギルドマスター、アンナ・フェザリィよ。
いきなり呼んじゃってゴメンなさいねぇ」

「い、いえいえ!とんでもないです!
こちらこそウチのメンバーを評価していただいて…なんと言えば良いのか…」


しゃ、喋ってもセクシーだ!
ただの挨拶なのに彼女のねっとりした声色が俺の耳の中で燻っている…
ここまでの色気…もしかするとガルド村のローズさんを超えたかもしれない


「おい、零人。
さっきから獣のような目をしているぞ?」

「ちょっ、こら!」


余計なこと言うな!仕方ないだろ!
あんな格好してたら男なら誰でも…あ、リックは気怠げに窓を眺めてるな…

あいつ自分と同じ種族じゃないと興味持てないのか?


「ウフフ、礼には及ばないわ。
あなた達を評価したのは私じゃないしねぇ」

「えっ!?」


そうなの!?
だって受付嬢から『昇級ランクアップ』の報せを受けるのに…


「あなた達の今回の活躍…『ヴァイパーの爪』の皆さんから聞いているわ。
黒竜ブラック・ドラゴン』改め『悪魔竜デビル・ジョー』…
撃退とはいえ、魔族を相手によく生き残れたものだわ」


そうか!
元々このクエストはマルクスさんが応援要請したものだったな
あの人が俺らを担ぎあげてくれたのか…


「その口ぶりから察するに、どうやら君はあのドラゴンを知っているようだな?」


ルカが腕を組みながら聞くと、ギルド長は頷いた


「知っているどころか闘ったわ。
私、昔は結構ヤンチャしてた女だったの。
『紅の魔王』に挑んちゃうくらいに…ね」

「「「!!」」」


なに!?
この人もフレイの親父たちの仲間!?


「フフ、驚いたかしら?
私、こう見えて結構歳いってるのよ~」

「「「…………」」」


クスクスと笑う彼女は美魔女そのものだ
え…すげぇ年齢気になる…
でも聞いたら失礼だろうしなぁ…


「待って!
じゃああなたも私のマ…母を知っているの!?」

「母?
まさか、あなたの名の『シュバルツァー』って…」


フレイが質問すると、今度はギルド長が驚いて目を見開く


「私は『ガルドの牙』ウィルム・シュバルツァーの娘よ。
そして私の母は…レティ・シュバルツァーなの」

「あらまぁ…!」


ギルド長は徐ろに立ち上がり、フレイの傍にやってきた
どうしたんだ?


「あ…あの?」

「どれ、お顔をよく見せてちょうだい。
ああ…本当だわぁ。
たしかにあなたにはレティの面影があるわね」

「あっ…その、ありがとう…」


ギルド長がフレイの頬に両手を添えてまじまじと見つめると、さすがに恥ずかしかったのか、フレイは顔を赤くして目を逸らした


「そっか…
あの二人、結婚する約束を交わしていたわね。
そして、あなたが産まれて…会えて…
レティの友人として今日ほど嬉しいことはないわ」

「………はい、私も会えて嬉しいです」


ギルド長は優しくフレイを包み込むように抱いた
…毎度思うんだけど、なんでフレイはブルー・ベルのマスターの時といい、『理の国ゼクス』の王様の時といい、その人達を知らないんだ?

村長…フレイに昔のことあまり教えてやらなかったのかな


「ウフフ、ゴメンなさいねいきなり…
年甲斐もなくはしゃいじゃったわ」


ギルド長は元のソファーに戻ると、いよいよ本題を切り出した


「今回あなたたちが〝飛び級〟できたことには、ちゃんと理由があるわ。
なんだか分かる?蒼の打撃士ストライカーさん」

「え!?いや、分かんないですけど…
あの、蒼の打撃士ストライカーって何のことですか?」

「最近貴方がギルド内で呼ばれているあだ名よ。
ウチの職員でも呼んでる子がチラホラいるわ。
ウフフ、貴方黒髪なのにおかしいわよね」

「ニャハハ!また新しいあだ名ニャ!
レイト君、いっぱい名前持ってるニャ!」


俺いちおう剣士ソード・ファイターなんだけど…
……なんかもう、いちいち訂正するの面倒くさくなってきたな
もう何て呼ばれてもいいや


「そういえばあんた前にセリーヌの昇級ランクアップさせるようにギルドに掛け合ったことあったじゃない?
たしかその時は実績作れって言われてなかった?」

「あ、そうだな。
よく覚えてたなお前…」


まだリックとシルヴィアがウチに加入する前、俺とフレイだけが昇級ランクアップしたのに不服を立て抗議したことがある

同じクエスト内容をこなして俺らだけってのもおかしかったからな


「そいつはオレも気になるとこだ。
何をすればランクを上げられるんだ?」


ようやくリックはギルド長に向き直り、会話に参加してきた
興味無いことだと、とことんツレない奴だぜ


「本来、これは極秘だから教えるわけにはいかないんだけど、今回だけ特別に教えてあげる。
フレデリカさんの言った通り『実績』が大事。
そしてその『実績』はただクエストをこなして得られるわけではないわ。
世界機関マスターギルド』と呼ばれる組織が作った、『課題』をクリアする必要があるの」

「『課題』?」


リックがオウム返しに聞き返す


「『課題』とは世界の益になる『何か』よ。
ちなみにマミヤさんとフレデリカさんは何のクエストで最初に昇級ランクアップしたのかしら?」

「私は『怒れる竜ニーズヘッグ』の討伐で、レイトは『盗賊団ベンター』の頭領の逮捕よ」


ああ、そういえばフレイの奴、1人であのおっかないドラゴンやっつけてたな
俺のは勝手にとっ捕まっただけだったけど
あのオッサン牢屋で元気にしてるのかな


「なら恐らくその2つは、『世界機関マスターギルド』にとって重要なクエストだったに違いないわ。
あの組織は何よりも世界の『調和』を大切にするの…
それが未完のままでは、世界に何かしらの悪影響を及ぼすと判断したんでしょうね」


あの間抜けな盗賊とドラゴン1匹がねぇ…

まぁ百歩譲ってドラゴンは分かるとしても、俺みたいなガキにやられる盗賊が世界に悪影響って…とんだ笑い話だぜ


「ってこたァ、その『課題』とやらが入ってそうなクエストをこなせばそいつが『実績』になって昇級ランクアップできる…そういうことか?」

「ええ、そうよ。
因みに昇級ランクアップに必要な『実績』は上がるにつれて増えてくから、もし上げたいなら根気強く頑張ってちょうだいねぇ」

「クソ…!まさか、ンな仕組みだったとは…
あとで栗メガネと相談しねェとな」

ピシィ!

リックがブツブツと言っていると、突然ギルド長の目つきが変貌した
先ほどまでの柔らかいモノではなくなり、鋭く…視線だけで人を殺せそうな目に変わった

一瞬で場の空気が変わったのを感じられた


「…繰り返しになるけど、今の話は秘密よ?
決して他言無用と思ってちょうだい…?」


ギルド長はゆらりと立ち上がり、リックの傍へ歩く…
お、おい…あれ、まずいんじゃ…


「……もし、誰かに言ったら…?」


あろうことか、リックはわざわざ挑発とも取れる発言をしやがった!
何考えてんだコイツ!?




………………………………………………




「殺すわ。貴方たち全員を」





ゴウッ!!

「うっ!?」

「ニャア!?」


凄まじい魔力マナがギルド長から発せられる

背筋に嫌な汗が流れる…

ここから離れるべきだ!
立ち上がりろうとするが、圧力がハンパなく重く、全然動けない…!

それでも、俺はエネルギーを手に纏わせる

いや…これもう魔力マナの殺気って言ってもおかしくないレベルだぞ!?

ギルド長はリックから一時も目を離さなかった

それは少しでも怪しい動きを見せれば今言ったことを実行に移すことを示唆しているように思えた


「………ぐぅ……!」


張り詰めた殺気に耐え忍んでいるのか、リックは冷や汗をダラダラと流して、俺と同じくピクリとも動かない

このまま膠着状態が…




「なーんて冗談よっ♡
ウフフッ、びっくりした?」

「「「え!?」」」


全員、ポカーンと虚ろになってしまった


「殺すなんて、そんな酷いことするわけないじゃないのぉ~」

「お、おおおお!?」


ギルド長はリックの顔をグリグリと手で揉み始めた
え、さっきのアレなに?


「でもぉ…」


彼女はリックの耳元に顔を近づけ、惹き込まれそうな妖しい表情でそっと口を開く


「****……」

「ヒィッ!?わ、分かった!!
い、言わねェ!!絶対言わねェ!」

「ンフフフフフ…良い子ね、坊や」


何かを耳打ちされたリックは完全に青くなっていた
あいつ、何言われたんだ!?


「さ、さすがの私も今の殺気には驚いたぞ…
零人、我々も今の話を漏らさずに努めよう」

「だっ、だな!あーびっくりした…」


ルカと小声で他言無用を誓い合った
さっきのアレ…
下手したらドラゴンの威嚇よりおっかなかった

フレイ達は大丈夫か?


「びっくらこいたニャ…
人間にあそこまでの迫力があるなんて…」

「ええホントにね…
まったく、オシッコ漏らしたかと思…」


フレイがなぜかピタッと固まった
あれ?フリーズしてんぞ?

かと思いきや、いきなり立ち上がり、無言で応接室のドアを開けた
あれ、帰るの?


「フレイ?どうした?」

「…何も聞かないで」

「え?」

ギロッ!!

「次何か聞いたらブチのめすわよ………!」

「はい!!!」


フレイはなぜか涙目になりながらこの場から消え去った



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