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第73話:理の指輪《ゼクス・リング》

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「ラミレスと共に星を巡る冒険か…
なかなか悪くない夢ではないか」

「へへ、だろー?
モネの占いは信憑性絶大だし、なによりロマンがある!」


ルカはどうやら俺がモネにみそ汁を持ってった時点で目を覚ましてたみたいで、ほぼ全部会話を聞かれていた

起きてたならすぐ声掛ければ良いのに…

そして俺はルカにモネの『夢』について詳しく教えてあげた
ルカも無関係じゃないだろうしな


「しかし、それとこれはまた別の話だ。
どうして君は毎度毎度、女性から唇を奪われるのだ?
少しは君も自身で警戒するべきだと思うが」

「知らねぇよ!
いつも気付いたら口塞がれてんだよ…
というかなんで皆そんなすぐキスできるの?
普通もっとこう…段階とか踏まない?」

「……………」


素朴な疑問を口にすると、ルカは押し黙ってしまった
腕を組み、じーっと、俺の顔を凝視してくる
な、なんだよ…


「ラミレスは知らんが…する方からすれば、したいと思ったからしたのだろう。
なんでだの段階だの、細かい理屈は考えずに、ただ自分の気持ちに正直に行動を起こした…
多分、それだけだ」

「なんてこった…
お前までセリーヌ理論持ち出すとは…」

「…?なんだそれは?」

「あ、いや何でもない…」


以前、セリーヌにフレイのアプローチについて相談したことがある
セリーヌだけじゃなくてルカも同意見ってことは、俺が間違ってるのだろうか…?

俺の今まで常識を改めて洗い直していると、ルカが少し頬を膨らませて腕をつねってきた
あら、珍しく可愛い顔するな


「それはそうと…2人だけズルいぞ」

「は、はい?何がズルいって?」


さりげなくつねってきた手をどけるが、今度は顔を両手で掴まれた!


「……君の世界の食べ物だ!
2人にはご馳走しているのに私には無いのか!?
私は今、腹が減ってフキゲンなんだ!」

「あ、ああ!はいはい!
ただいま用意しますよ、お嬢様…」


ルカもみそ汁飲みたかったのね…
宝石のくせに食い意地は誰よりもあるんだからまったく…


☆☆☆


「お久しぶりです、ウォルト総隊長!
亜人の国ヘルベルク』の遠征任務、お疲れ様でした。
お身体は大丈夫ですか?」

「ああ、ありがとう。私なら大丈夫だ。
警備隊や王都の方は変わりないか?」

「はい!」


昼食を食べた後、俺たちはゼクス・キャッスルへとやって来た
イザベラ戦以来だな、ここへ来るのは

ナディアさんは部下の警備隊の人と挨拶を交わしている
そうだった、いつもナディアさんが黄金の鎧を装備してるから見慣れているだけで、この国の衛兵はみんな白い鎧がスタンダードなんだっけ


「おーホントにナディア君って警備隊の上司だったんだね~。
なんか新鮮に感じるねっ、マミヤ君!」

「…俺からすれば、お前がここに居るのも新鮮だけどな」


最初は俺とルカ、ナディアさんだけで行くつもりだったけど、モネも付いてきたいと言い出したのだ

理由を聞いたら今日はヒマだから付いてくと抜かしやがった
王様との謁見をピクニックとでも思ってるのか?

というかコイツ、さっきあんな凄い事してよく平然としてられんな…

さすがに直前にキスした女と何食わぬ顔で話すのはちょっと気恥ずかしい…


「ん?どうしたのマミヤ君?
…さっきのチュー、思い出した?」

「バッ…!?」


急いでモネの口を手で塞ぐ
ナディアさんは部下さんと会話を続けている

ホッ…危ねぇ危ねぇ…
よく考えてみれば、俺はとんでもない爆弾を連れてきたのかもしれない


「やっぱお前居ると心臓もたないから強制的にマミヤ邸に帰すわ。あばよ」

「あっ!?ゴメンゴメン!!
あとからかわないから転移テレポートしないで!」


右手にエネルギーを集中させると、モネは大慌てで手にしがみついた
調子のいいヤツめ


「はぁ…ラミレス。
君が浮かれる気持ちは分かるが少し大人しくしていろ」

「あ、そか。
キミには見られちゃったんだったね。
はいはーい!」

「3人とも何を話し込んでいる?
謁見の許可が降りたぞ、貴公ら早く来い」


手招きするナディアさんについて行き、俺らは謁見の間へと足を踏み入れた


☆☆☆


「我らがゼクスの偉大なる王に…敬礼!」

ババッ!

ナディアさんの号令で周りの警備隊はゼクス式の敬礼のポーズをとった

おお、すげぇ、映画とかでよく見るやつだ


そして俺たちは、豪華な飾りが施された椅子へ座っている『理の国ゼクス』の国王、ロラン王に頭を垂れた


「おもてをあげよ。
息災であったか、マミヤ殿。
そして蒼の宝石、ルカ殿」

「はい!お久しぶりです、陛下!」

「ああ、久しぶりだなゼクス王」


相変わらず凄い貫禄を感じさせる御仁だぜ

歳はそれなりにいってるはずだけど、まったく老いを感じさせない毅然とした雰囲気を持っている

王様は俺の横に居るモネへ目を向けた


「む…?汝のその魔力マナ
汝は『占術士フォーチュナー』か?」

「おおー、さすが王様!
一目で分かるなんてスゴいね!
アルタイル魔法大学三年期生、モネ・ラミレスです!」


モネは国のトップが相手でも変わらない態度で自己紹介をした
モネとセリーヌの物怖じしない性格がたまに羨ましくなる


「貴様…!我が王になんて口のきき方だ!
警備隊!この女を捕らえろ!」


王様の近くにいる家臣がそんなモネの態度に反感を買ってしまった
おいおい…、早速これか


「よせ、バリアード。
占術士フォーチュナー』は傭兵団と同じく、特定の国へ属さない者たちだ。
我らに彼女を咎める権利などない」

「しかし王!!
あのような態度を許し…」

「…二度言わすな」

「「「!!!」」」

ビキ…

王様から全身に突き刺さるようなエネルギーが放出された!
なんだこの魔力マナは!?


「おっと…怖がらせてしまったか?
すまないな、ハッハッハ」

「あ、アハハ…
王様も変わらないようで…」

「うむ。
それでは早速だが、汝らは『亜人の国ヘルベルク』へ潜入し、魔王の疑いがある魔族の捜索をしてきたのだろう?
何か得た情報はあったか?」

「はい!まずは…」


俺はナディアさんと一緒に王様に途中経過を伝えた

亜人の国ヘルベルク』内で村や町に襲撃が相次いでいること、『サバト』が開催されること、王都内で『薬』が出回っていること…この数週間で得た情報はかなりある

そして全てを伝え終えると王様はこめかみを押さえた


「まったく…あの阿呆め…
亜人の国ヘルベルク』と連絡を取らずにいたのは失敗だった…
まさかそのような事態になっているとは」

「…?君は『亜人の国ヘルベルク』の王と親しい仲なのか?」


ルカは疑問を投げると、王様は頷いた


「我が若かりし頃からの付き合いだ。
この大陸では何年かに一度、国際会議サミットを開催している。
魔族の国アルケイン』以外の国の王族が一同に会し、それぞれの状況近況、そして今後の付き合い方を決める場だ」


サミットか
俺らの国でもそういったものはあるな


「その会議は年端もいかない王族の子供も参加するように決められていてな。
今のそれぞれの現国王達はみな我の幼なじみだ」

「なるほど…
幼少期の内に交流を持たせ、次代の王になる際に国同士が衝突しないための計らいか?」

「ふふ、その通りだルカ殿。
単純だが効果のある策だ。
…我が言っても説得力はないがな」


王様は苦笑いで肩を竦める
本当にルカってよく頭が回るな
たまに話についていけない時がある


「だが、お互い意地を張ってる場合ではないな…
マミヤ殿、こちらに」

「は、はい?」


王様に招かれ近くに寄ると、手に何かを握らせられた

本のエンブレムの指輪…?
なんだろうコレ?


「これは『理の指輪ゼクス・リング』という。
マミヤ殿の得た情報の通りならば、人類国際法第1条が適用される。
魔族の襲撃があり人的被害が出た場合、国領域と国交に関わらず、他国の武力介入を認めること…
その指輪はそれを宣言するための証だ。
亜人の国ヘルベルク』の王へ渡してくれ。
もし奴が指輪を受け取れば、我々も亜人の国ヘルベルクへ援軍を送ることができる」

「ええええ!?」


そ、そんな超大事なモンを俺に!?
絶対失くせないじゃないか!


「王!正気ですか!?
その者は異世界人ですぞ!
占術士フォーチュナー』より得体の知れない者です!
そんなよそ者に我が国の大使をさせようというのですか!?」


さっきモネにイチャモン付けてた家臣だ
よく見たらあいつ前も居たな
たしか宰相だったか?

フレイにガン飛ばされてた奴だ


「バリアード…貴様、調子に乗るなよ?
私の前でマミヤ殿を侮辱するとは…
痛い目をみたいのか?」

「貴様こそ黙っていろウォルト!
普段暴力でしか解決できん貴族の落ちこぼれが偉そうに口を出すな!」

ピリッ…!

やべぇ!
宰相さんとナディアさんが一触即発だ!
部下の警備隊の人たちもハラハラとしている


「よさんか2人とも。
我は彼に大使をさせるわけではない。
マミヤ殿は争いの元となる魔力マナを持たぬ上に、宝石を武器とする魔王に対をなす特異な人間だ。
あの堅物も、興味を持てば話くらい聞こうて」

「…しかし、王!
経歴が不明の男に軍事を任せるのは…
もし、この者が隣国の『竜の国ドライグ』のスパイなどであれば、この大陸は戦争になりますぞ!」


俺がドラゴンの国のスパイだって?
ハハッ、笑える…いや笑えない冗談だな


「『魔を憎み、人を憎まず』…
我が友ウィルム・シュバルツァーに教えられた、ガルドの『理念スローガン』だ。
そしてその教えに忠実なあやつが自信を持って送り出した者がマミヤ殿だ。
政治に不干渉を貫き通す、ガルド村から彼はやって来た。
余計なしがらみの無い真っ白な彼だからこそ、我は指輪を託したのだ」

「王様…」


そんな風に思ってくれてたなんて…

ひねくれた意味で聞けば、俺はこの世界で孤独だと言ってるようにも聞こえるけど、きっとこの人はそういう意味で言ったんじゃない

寄せられた信頼には、応えたい


「王様。分かりました!
必ず亜人の国ヘルベルクの王様に指輪を渡してきます!」

「ふふ、頼んだぞ。
それと奴に会った時にはこう伝えてくれ。
『いい加減機嫌を直せ、ガンコ頭』」








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