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第66話:魔力失殺《マナロスト》
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「『シード』…!
『裏市場』で変な薬が出ていたのはコレか…!」
「アン?なんだ、お前も知ってたのか?」
「もちろんだ。
…既に俺の領民の何人かが犠牲になっている」
リックからシードを受け取ったテオさんは、忌々しそうに薬を眺めた
そんな…もう被害が出ていた…?
それなら黙っているわけには!
「テオさん!
この街で他に苦しんでいる方はいませんか?
私は『聖教士』です!
私なら…治せるはずです!」
「シルヴィア殿…
貴方の申し出は有難いが、こちらも高い金を払って『回復士』を雇って診てもらったんだ。
しかし、全員お手上げだ。
一度でもコレを摂取すれば…治療法は存在しない」
「それでも…!
容態だけでも診させてください!」
私はテオさんの手を握り、彼の青みがかった綺麗な瞳を見つめた
すると彼は気迫に押されたのか、承諾してくれた
「そこまで言うのなら…
だが、見ていてあまり気持ちの良いものではないぞ?」
「ええ、構いません」
☆☆☆
それから私たちはテオさんに案内され、屋敷の地下室へやって来た
そこには病床が並んでおり、骨と皮だけのやせ細った亜人達が横になっていた
ひどい…!
「クスリを…クスリをもっと…」
「お願いだぁ…クスリをくれぇ!」
言葉が出ない…
その光景は、かつて私が居た故郷とよく似ていた
金のない者からどんどん飢えていく国民達…
求めているのは『薬』ではなく、食べ物なだけまだこちらの方がマシに見える
私は1人の患者の所へ寄り、具合を調べた
「中毒症状に加えて、魔力の大幅な減衰…
こんな状態が続けば…!」
「ああ、そうだ。
『魔力失殺』が起こる。
人間も魔物も、身体に魔力が残っていなければたちまち死を迎える…」
「なんてことだ…!テオ!
なぜ今まで僕に相談しなかった!?」
「坊っちゃま。落ち着きなさい。
ここには病人が寝ています。
お体にさわるやもしれません」
ジオンさんはテオさんの胸ぐらを掴みあげたが、エリザベスさんがそれを止めてくれた
その様子を見ていたリックが無言で踵を返した
…?どこに…
「リック?」
「ここは臭すぎてオレの鼻が曲がりそうだ…
悪ィが、退散させてもらうぜ」
「リック…!あなたは…!
…?ちょっと…どうしたのですか?」
あまりな言いように思わず私も激昂しかけたが、リックの顔が青ざめているのに気付いた
リックは何も言わずにその場から立ち去った
「シルヴィア殿、これが現状だ。
出来ることといえば、『裏市場』で手に入れた『魔石』を改造して、患者に魔力を透析するくらいなんだ」
「テオさん…」
私にはなにも出来ない…
薬の中毒は時間を掛ければ治療可能だが、魔力の補充は不可能だ
そもそも魔石は魔力の透析目的になんてできていない
魔道具や魔導兵器などに使われる物だ
ましてや魔石は一般人には買えないはず…
おいそれと手に入れられる代物ではないはずだ
「そうか…
亜人がすんなり魔族を受け入れたわけだ。
そういうことだったのか!」
「ジオンさん…?」
「とりあえず客室へ戻ろう。
そちらで説明する」
☆☆☆
客室へ戻ると、そこには誰も居なかった
あれ?リックはどこへ…?
「リックが見当たりませんが…」
「リック様は外の空気をお吸いにお出掛けになられました、シルヴィア様」
「きゃっ!?あ…はっはい」
近くにいた屈強な使用人さんが私の独り言に反応した
びっ、ビックリしました…
「おいてめぇ!
お嬢さんを怖がらせてんじゃねぇぞ!!
気安く客人に話し掛けるな!!」
「はっ!!申し訳ありません!若!」
「ええっ!?」
『若』!?
き、貴族の当主ってそんな呼称がありましたっけ??
というか、いきなりテオさんの口調が…
私が驚いていると、ジオンさんはクスッと笑った
「これが『不良貴族』と呼ばれる所以だ。
先代の父君の頃からこの調子でな。
まったく…こんな所が面白くて敵わないんだ」
「ジオンさんって…変な人が好みなんですね」
うーん…
私もあれくらいはっちゃければ、もしかしたら振り向いてくれたり…
いえ、そんなわけありませんね
ジオンさんはため息を一つ吐くと、説明を始めた
「ふむ、ランボルト殿も居れば良かったのだが…仕方ない。
おそらく、『裏市場』に居る何者かが魔族と手を結んだんだ」
「なに!?どういうことだジオン!」
「魔族の目的まではまだ分からんが、手引きした黒幕…そいつの狙いは読めた」
魔族を王都に迎え入れた者…
本当にそんな人が居るのでしょうか?
魔族は人類にとっての『敵』
普通に考えれば絶対に馴れ合わないはずだ
「君が今講じている対策が狙いだ。
『裏市場』では魔石も扱っている。
前に捕らえた賊から聞いたことがあるんだ。
プレミア品の割には売れ行きが悪いと」
「なるほど…
そこで魔族の『シード』を利用したわけでございますね。
マスカット様のように、やむを得ず魔石を手に入れる状況にする為に…」
「「な!?」」
私とテオさんは絶句した
全て、計算づくで…?
「バカな…
俺は…嵌められたのか…!」
地面に両手を付いてテオさんは嘆いた
そんな彼の背中を、ジオンさんが優しくさする
「君のせいじゃない。
全ては魔族…そして、『亜人の国』の裏切り者に責がある」
「ジオン…」
ジオンさんはテオさんの手を掴み、立ち上げた
2人のその瞳には…強い怒りの炎が覗いていた
「僕は…不幸は大歓迎だが、悪意にまみれた人為的な不幸には、腸が煮えくり返るんだ…!」
「フン、相変わらずの変態貴族め…
だが、概ね同意だ。
俺の領民に手を出した報いは…必ず受けさせる!」
『裏市場』で変な薬が出ていたのはコレか…!」
「アン?なんだ、お前も知ってたのか?」
「もちろんだ。
…既に俺の領民の何人かが犠牲になっている」
リックからシードを受け取ったテオさんは、忌々しそうに薬を眺めた
そんな…もう被害が出ていた…?
それなら黙っているわけには!
「テオさん!
この街で他に苦しんでいる方はいませんか?
私は『聖教士』です!
私なら…治せるはずです!」
「シルヴィア殿…
貴方の申し出は有難いが、こちらも高い金を払って『回復士』を雇って診てもらったんだ。
しかし、全員お手上げだ。
一度でもコレを摂取すれば…治療法は存在しない」
「それでも…!
容態だけでも診させてください!」
私はテオさんの手を握り、彼の青みがかった綺麗な瞳を見つめた
すると彼は気迫に押されたのか、承諾してくれた
「そこまで言うのなら…
だが、見ていてあまり気持ちの良いものではないぞ?」
「ええ、構いません」
☆☆☆
それから私たちはテオさんに案内され、屋敷の地下室へやって来た
そこには病床が並んでおり、骨と皮だけのやせ細った亜人達が横になっていた
ひどい…!
「クスリを…クスリをもっと…」
「お願いだぁ…クスリをくれぇ!」
言葉が出ない…
その光景は、かつて私が居た故郷とよく似ていた
金のない者からどんどん飢えていく国民達…
求めているのは『薬』ではなく、食べ物なだけまだこちらの方がマシに見える
私は1人の患者の所へ寄り、具合を調べた
「中毒症状に加えて、魔力の大幅な減衰…
こんな状態が続けば…!」
「ああ、そうだ。
『魔力失殺』が起こる。
人間も魔物も、身体に魔力が残っていなければたちまち死を迎える…」
「なんてことだ…!テオ!
なぜ今まで僕に相談しなかった!?」
「坊っちゃま。落ち着きなさい。
ここには病人が寝ています。
お体にさわるやもしれません」
ジオンさんはテオさんの胸ぐらを掴みあげたが、エリザベスさんがそれを止めてくれた
その様子を見ていたリックが無言で踵を返した
…?どこに…
「リック?」
「ここは臭すぎてオレの鼻が曲がりそうだ…
悪ィが、退散させてもらうぜ」
「リック…!あなたは…!
…?ちょっと…どうしたのですか?」
あまりな言いように思わず私も激昂しかけたが、リックの顔が青ざめているのに気付いた
リックは何も言わずにその場から立ち去った
「シルヴィア殿、これが現状だ。
出来ることといえば、『裏市場』で手に入れた『魔石』を改造して、患者に魔力を透析するくらいなんだ」
「テオさん…」
私にはなにも出来ない…
薬の中毒は時間を掛ければ治療可能だが、魔力の補充は不可能だ
そもそも魔石は魔力の透析目的になんてできていない
魔道具や魔導兵器などに使われる物だ
ましてや魔石は一般人には買えないはず…
おいそれと手に入れられる代物ではないはずだ
「そうか…
亜人がすんなり魔族を受け入れたわけだ。
そういうことだったのか!」
「ジオンさん…?」
「とりあえず客室へ戻ろう。
そちらで説明する」
☆☆☆
客室へ戻ると、そこには誰も居なかった
あれ?リックはどこへ…?
「リックが見当たりませんが…」
「リック様は外の空気をお吸いにお出掛けになられました、シルヴィア様」
「きゃっ!?あ…はっはい」
近くにいた屈強な使用人さんが私の独り言に反応した
びっ、ビックリしました…
「おいてめぇ!
お嬢さんを怖がらせてんじゃねぇぞ!!
気安く客人に話し掛けるな!!」
「はっ!!申し訳ありません!若!」
「ええっ!?」
『若』!?
き、貴族の当主ってそんな呼称がありましたっけ??
というか、いきなりテオさんの口調が…
私が驚いていると、ジオンさんはクスッと笑った
「これが『不良貴族』と呼ばれる所以だ。
先代の父君の頃からこの調子でな。
まったく…こんな所が面白くて敵わないんだ」
「ジオンさんって…変な人が好みなんですね」
うーん…
私もあれくらいはっちゃければ、もしかしたら振り向いてくれたり…
いえ、そんなわけありませんね
ジオンさんはため息を一つ吐くと、説明を始めた
「ふむ、ランボルト殿も居れば良かったのだが…仕方ない。
おそらく、『裏市場』に居る何者かが魔族と手を結んだんだ」
「なに!?どういうことだジオン!」
「魔族の目的まではまだ分からんが、手引きした黒幕…そいつの狙いは読めた」
魔族を王都に迎え入れた者…
本当にそんな人が居るのでしょうか?
魔族は人類にとっての『敵』
普通に考えれば絶対に馴れ合わないはずだ
「君が今講じている対策が狙いだ。
『裏市場』では魔石も扱っている。
前に捕らえた賊から聞いたことがあるんだ。
プレミア品の割には売れ行きが悪いと」
「なるほど…
そこで魔族の『シード』を利用したわけでございますね。
マスカット様のように、やむを得ず魔石を手に入れる状況にする為に…」
「「な!?」」
私とテオさんは絶句した
全て、計算づくで…?
「バカな…
俺は…嵌められたのか…!」
地面に両手を付いてテオさんは嘆いた
そんな彼の背中を、ジオンさんが優しくさする
「君のせいじゃない。
全ては魔族…そして、『亜人の国』の裏切り者に責がある」
「ジオン…」
ジオンさんはテオさんの手を掴み、立ち上げた
2人のその瞳には…強い怒りの炎が覗いていた
「僕は…不幸は大歓迎だが、悪意にまみれた人為的な不幸には、腸が煮えくり返るんだ…!」
「フン、相変わらずの変態貴族め…
だが、概ね同意だ。
俺の領民に手を出した報いは…必ず受けさせる!」
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