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第64話:不良貴族

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ギルド受付への報告を済ませた

報酬はパーティーが多いためその日はまだ用意されていなく、後日受け取ることになった
他の冒険者たちはやはり少し残念がっていた
せっかく待っててくれたのに悪いね

そして、冒険者たちと別れて酒場スペースへ向かうと、フレイ組はすでにリックも含め、全員揃っているようだ


「おはよう、みんな。遅れて悪ぃな」

「おはよう。
いいわよ、昨日の時点でナディアがそうなるのは分かってたしね」


フレイが少し呆れたようにナディアさんに目を向けると、青い顔のまま目を伏せた


「うぅ…すまない、皆…
やはり私はもう若くないのだな…」


ズーンと、ナディアさんはめちゃくちゃ落ち込んでいる
若くないって…5歳くらいしか違わないじゃん


「大丈夫っすよ、ナディアさん。
そもそも酒が強い方こそ年齢が高めというか、さすがセリーヌは年の功があいだだだ!!」

「フシャアア!!!
またレイト君はあたしをババァ扱いして!!
人間に例えたら10代だって何回言えば分かるのニャ!」

「分かった分かった!!
俺が悪かったから頭かじるなァァ!!」


ブリブリ怒ったセリーヌを何とか宥めつつ、俺らは昨日の出来事をリックとシルヴィア、ジオンとザベっさんへ伝えた


☆☆☆


「『悪魔竜デビル・ジョー』だァ!?
クッソ!そっちの方が面白そうじゃねェか!」

「ううむ…
やはり、レイト殿はなぜかドラゴン族と縁があるようだな」

「冗談でもそういうこと言うのやめて!?
もうこれ以上ドラゴンと関わるのヤダよ!」


俺らの報告を聞いたリックは地団駄を踏み、ジオンは神妙な面持ちで感心したように呟く

2人ともドラゴンと闘うってのがどんだけ大変なのか分かってんのか!?


「恐れ入りました、レイト様。
やはり貴方様こそが『蒼の竜殺しドラゴン・スレイヤー』でございます」

「待てぇぇぇ!!
なぜアンタがその呼び名を知っている!?」

「あ、あはは…
実はこちらでもレイトさんの異名がチラホラ聞こえてきまして…」


な、なんだと!?
ただでさえそれのせいで今回先鋒役を命じられたってのに…

けど、広がったウワサってのは消すことが中々難しい
ましてやSNSなんて存在していない文明だ
いくら俺がそれは違うと吠えても修正できる範囲には限度がある


「我輩は別に悪い事には思えないがな。
冒険業を続けるならなおさら、知名度が高い方が仕事も舞い込んでくるではないか」

「だからそれでドラゴンと闘うハメになんだろうが!
つうか、リックとおっさんは何とも思わないの!?
『竜殺し』だよ!『竜殺し』!」


リックは半人半竜、オズのオヤジにいたってはまるっきりドラゴンじゃん
自分の種族の殺し屋なんて気に食わなくならないんだろうか?


「オレは特に何とも思わねェなァ。
大体、ドラゴンってのは強ェヤツに従う習性があんだぜ?
んなあだ名が付けられる程なら、オレの実家の『竜の国ドライグ』に行きゃあ大歓迎されるだろうよ」

「ああ、その通りだ。
我々ドラゴン族は強き者に負けることこそ誉れ。
だからこそ、誰とも馴れ合わずに孤独に…自由に現世を生きるのだ。
…たまに我輩のような例外もいるが」

「イ、イカれてる…」


ドラゴンの考えってまるで理解できる気がしない…
これ以上余計な悪名が拡がらないように余程のことがない限りドラゴンとの戦闘は避けよう


「さて、私たちが得た情報はこれで以上だ。
そちらの話も聞かせてもらおうか?」


宝石のルカが俺の頭にピョコッと乗っかった
よくこの行動するけど、もしかしてルカのやつ俺の頭を座布団とでも思ってるのか…?


「もちろんです。
意外とこちらも収穫がありましたよ。
まず…」


☆シルヴィア・ゴードンsides☆


「ジオン・オットーだ!
短い間だが、よろしく頼むぞ!」

「おう、オレはリック。
今日は頼むぜお坊っちゃんよ」

「リック!失礼ですよ!」


レイトさん達と別れて私とリック、ジオンさんとエリザベスさんと共に、王都で流行りだしている『シード』という薬の調査を開始した

リックが調べた情報によると、この薬は魔力マナを吸い取り、快楽を与えながら衰弱死させるというかなり危険な物らしい

しかも、その出処が私の故郷…『聖の国グラーヴ』だなんて…
信じたくない情報だった

聖の国グラーヴ』は財政難ではあるが、医療分野においては他の国を抜きん出ており、病気やケガを治すための薬の開発も国王が力を入れるよう直々に命令している

そしてその開発された薬だけが『聖の国グラーヴ』を支える財源と化していた

まさか私の故郷がその『シード』を造ったのではないか…
そう頭によぎるといてもたってもいられず、嫌がるリックを連れて、調査に乗り出していた

その薬はここ王都ノルンに存在する『裏市場ブラック・マーケット』という非合法な商品を扱う市場で出回っているらしい

市場の正確な場所は決まっておらず、衛兵の目を逃れるため、王都内を転々として普通の一般人では入ることすら出来ないのだとか

大体そんな所に用があるのは盗賊や山賊など、裏社会で生きる者達だろう
正義と規律を重んじる『聖教士クレリック』としても、今回の件は放っておけない

そして現在、私たちは『裏市場ブラック・マーケット』へ潜入するため、ジオンさんのツテを頼ろうと王都内を歩いている


「どうしたゴードン殿?
顔色が優れないようだが…」


ぬうっと、ジオンさんが私の目線に合わせるように姿勢を少し低くして具合を聞いてきた
その端正な顔立ちはもちろん、スタイルも抜群の長身…いかにも絵に書いたような美形エルフだ


「い、いえ…お気になさらず…
少し私の故郷について考えていただけです」


やや緊張気味に答える
へ、変な表情になっていませんよね…?

オットー町を旅立ってしばらく過ごすうちに彼の人となりが分かってきて、私は徐々に惹かれていた

といっても、私とジオンさんでは身分の違いが大きい
いや…そもそもジオンさんはモネさんにアタックしていた…
それならこの気持ちは大事にしまっておいて、今はやるべき事をしなければ


「レイト殿が教えてくれたぞ。
冒険業ではパーティーメンバーの心持ち次第によって、その日の成果が変わると。
だから悩みがあるならば話してくれないか?
僕にも力になれることがあるかもしれない」

「ジオンさん…そうですね。
でも今回は、冒険ではなく個人的な調査に皆さんに付き合ってもらっているんですよ?
冒険業ではないのでは?」

「むむっ!そう言われるとそうだな…
でも…いやしかし…」


ジオンさんは顎に手をやり、うーんうーんと彼が悩み始めた

…フフッ
やっぱりこういうところに私は弱い
他者を思いやる気持ち、貴族でありながら領民の子供たちとまるで友達のように接する純真さ

その温かい心に、私は射止められたのだ


「よォ、坊っちゃん。
『裏市場《ブラック・マーケット》』を知ってる『お友達』って奴はどんなヤツなんだ?」


リックが空気を読まずにジオンさんへ乱暴な口調で質問した
…もうっ!
せっかく私に話してくれていたのに!


「そうだな…
例えるなら『不良貴族』と言ったところか。
彼はお家の束縛を嫌い、少年の時からよく僕を連れては色々な所へ出掛けていたんだ。
あの頃は、僕も色々と悩んでいてね…
彼とは馬が合って今でも手紙でやり取りをしているよ」

「ほほゥ。
堅苦しいだけが貴族じゃねェってこったな。
そいつとは俺も仲良くなれる気がするぜ」


ジオンさんはしみじみと懐かしむように語ってくれた
そういえば彼も『幸運体質』で色々と苦労をしたと言ってましたね


「そして大人になった今、彼は僕より先に家を継ぎ、領地を治めているんだ。
その領地とは王都内で『スラム街』と呼ばれている地区でね。
経営の為色々と悪どいことをしてるようだが…
彼は信用に足る人物だ。僕が保証する」

「なるほど。それでは今私たちが向かっているのはその『スラム街』なんですね?」

「その通りだ。もうすぐ着くぞ。
あの門を抜けた先だ」


ジオンさんが指をさした先に、物騒な顔つきの男の人が槍を持って立っていた
王都内で見るような騎士や守衛とは違い、防具を最低限に身に付けて門を守っている
…?衛兵…にも見えませんが…


「気になるか?ゴードン殿。
あれは彼の私兵だ。
エリザベスと同じだと思ってくれて構わない」

「は、はあ…?」


エリザベスさんと…?
あ、『戦乙女ヴァルキュリア』と同じということですね

私は貴族には疎いが、たまにジオンさんの家のように国から派遣された兵士の他に、自らの私兵を雇用して領地内に配置すると聞いたことがある

お国の人間より、自分たちで雇い入れた人間の方が信用できるからでしょうか


「クックック…楽しみだぜ。
黒毛もこっちに来れば良かったのになァ」

「レイト様は悔しがっておられました。
しかし、シュバルツァー様に必ずクエストに参加するよう念を押されたそうで」

「あァ?何言ってんだ人形女。
てめェこそ悔しがってんじゃねェのかァ?」

「……さあ、どうでしょう」


『人形女』…
新しく会った人に付けるリックのネーミングセンスは最悪だと思う
でも、エリザベスさんは特に気にしてはいないようですね

それよりもレイトさんの事で少し弄られたのが気に食わなかったのか、彼女の表情に若干陰りが見えた

レイトさん…
いつか刺されても知りませんよ?




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