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第47話:王都ノルン

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「皆様、まもなく目的地へ到着します。
 各々ご準備をお願いいたします」

「あれが『亜人の国ヘルベルク』の王都ノルンか…。
 ここからの見た目はそこまでレガリアと変わらないな」

「ああ、そうだな。
 だが話によれば、あそこの住民は我々に厳しい態度になるとのことだ。
 気休め程度だろうが、ここに居る間は宝石形態で過ごすぞ」

「だな。それが良いと思うよ」


 長い旅路も終わり、ようやく俺たちは王都にたどり着いた。
 初日のオットー町で充分に補給ができたため、ほぼ寄り道することなく到着できた。

 車両2台に加えて人数もそれなりにいたから、スピードはゆっくりめだったけどね。

 フレイ達はとっくに到着してるはずだ。


「さて、最初の関門は王都の入口にある検問所だ。
 君たち、腕章は忘れずに付けているな?」

「ああ、バッチリだぜ」

「よし、ウォルト殿達にも伝えてくれるか?」

「おけ」

ブン!

 馬車の屋根に転移テレポートし、前方にいるキャラバンに向けて声を張り上げた。


「ナディアさーん!
 ジオンが腕章付けとけだってー!」

「ああ! 承知した!
 あ、危ないから早く馬車に戻ってくれ!」

「ういーす!」

ブン!

「おし、ただいま。言ってきたよ」

「「………」」


 なぜかジオンとザベっさんは、じぃー…と、俺とルカを交互に見比べた。


「…その転移テレポートとやらは本当に魔力マナを使っていないのだな。
 今更ながら不思議な能力だ」

「ラミレス様の仮面の魔法も同様ですが、お二方は私どもが存じているものとは異なる根源の力を備えていらっしゃる…。
 なんともミステリアスです」

「んなこと言ったら俺だって、地球以外でこうやって人間が暮らしている星が存在してることこそ驚きだよ」

「フッ。私こそ君と共に流れ着いたこの星で、まさか自分の兄弟が居るとは思わなかったぞ」


 それぞれ驚き自慢をすると、ジオンは高らかに笑いだした。


「ハッハッハ!
 どうやら僕たちは数奇な運命の元に集まったようだな!
 みんな胸の内で感じることは違うだろうが、僕は君達と出会えた事を誇らしく思っているぞ!
 君たちが好きだ!」


 前も思ったけど親父さんそっくりの笑い方だな。
 こんなキラキラと純真な瞳で言われると、悪い気はしない。

 …けどよくもまぁこんな小っ恥ずかしいセリフ思い付くもんだ。


☆☆☆


「よし、腕章は本物だな。
 此度は何の目的で来訪した?」

「ええと…仕事です」

「仕事か。何の職種か言ってもらおうか」

「冒険者ですよ…。
 ほら、カードも本物でしょ?」

「確かに…よし、通っていいぞ。
 だが、妙なマネはするなよ?
 ここは我ら亜人のための国…。
 特に王都は人族が足を踏み入れることなど本来許されんのだからな」

「は、はいはい。ちゃんと大人しくしますよ」


 威圧がすごいおっさんだな。
 長い長い職務質問を終えて、ようやく門を通してくれた。

 …ったく、モネたちは割とすぐ通してくれたのに、なんで俺だけあんな質問攻めにあわにゃならんのだ。

 ちなみにルカは俺のポケットに忍び込んでいる。
 ルカの人間形態の見た目はド派手だからな。

 門を抜けると、レガリアとは似ても似つかない雰囲気を感じさせる街並みだった。
 住民が全員亜人なのはもちろんだが、レガリアと建物の建築様式が違うように感じる…。
 木造や石造りがほとんどでちょっと古臭いデザインだ。

 そのまま道なりに進むと、2台の車両とみんなが俺達を待っていてくれた。


「ずいぶん時間がかかったなマミヤ殿。
 大丈夫だったのか?」

「アハハ…。
 最初に髪の色でとやかく言われてしまって…。
 まったく、平成とか昭和の教師じゃないんだから」

「……?
 よく分からんが無事に通してもらえたようで何よりだ」


 初見で出会う人に必ず髪の色で突っ込まれるのちょっと疲れてきたな。
 今度、イイ感じの帽子でも被ろうか?


「さて、ひとまず王都に潜入できた訳だが…。
 ここからは別行動をとることを提案する」


 ポッケに入っていたルカが、ピョンと飛び出して皆の前に浮かんだ。


「私、零人、ウォルト、センチュリーで冒険者ギルド。
 ゴードン、ラミレス、オットーで宿屋探しはどうだ?」


 なるほど…それならフレイ達を探すことも、寝床確保も同時にこなせるな。


「任せろ! 宿にはひとつ当てがある。
 クルゥ達も満足できる厩舎付きの高級宿場ホテルがな!」


 フフンと胸を張るジオン。
 …そうだった。
 今回クルゥとキャラバン付きだから、厩舎に預けることも考えなくちゃいけなかった。


「あの…お気持ちは嬉しいのですが、私たちあまり持ち合わせがありませんよ?」

「そうそう。
 まぁ、転移テレポートでレガリアの銀行まで金おろしに行くって方法もあっけど、ほぼフレイのだから勝手に使えないんよな…」


 俺とシルヴィアが難色を示すが、ジオンは心配ご無用とばかりに拳で胸を打った。


「安心したまえ!
 先方のオーナーとは知り合いでな。
 多少は融通を効かせてくれるはずだ!」

「それなら…。
 あ、でもフレイ達と合流するならあっちと一緒でも良いんじゃね?」

「いえ、おそらくセリーヌさんが居るので厩舎付きの高い宿屋は選ばないと思います。
 意外と彼女は倹約家ですから」


 ああ、確かにそうだ。
 セリーヌはお金の使い方に関して、ちょっとうるさかった記憶がある。
 レガリアに流れ着いた時の経験が身に染みてるんだろうな。


「それでは私がギルドまで案内致します。
 皆さま、こちらへ」

「君たちはこっちだ!
 クルゥを連れてついてきたまえ」


 俺たちはそれぞれチームを分け、行動を開始した。


☆☆☆


 ザベっさんについて行くこと三十分、目的地に到着した。
 『冒険者ギルド』。
 レガリアのギルドよりやや小さいくらいか?


「あちらが王都ノルンの冒険者が集うギルドになります。
 ここまでご足労様でした」

「ザベっさんも案内ありがとね。
 さーて、早速入って…」


 入り口のドアに手を掛けた瞬間、ナディアさんに襟足をグイッと引っ張られた。

 いでで!


「待て待て! 忘れていないかマミヤ殿?
 我々の種族は人族…。
 ここでは歓迎されないのだ。
 特にギルドなど血の気が多い冒険者の溜まり場なのだから、もう少し慎重にだな…」

「ええっ? 慎重って言われても…」

「らしくないなウォルト。
 普段の君ならばそのような風評など、気にせずに行動すると思ったが」


 ルカの言うとおりだ。
 『亜人の国ヘルベルク』に入る前から、どうもナディアさんは周りの反応に対して神経質になってるように感じる。


「…実はレガリアを発つ前、我が王より厳重に警告されたのだ。
 『くれぐれもノルンの民を怒らせるな』と…。
 私が思っている以上に『理の国ゼクス』と『亜人の国ヘルベルク』の関係は悪いらしい。
 下手を打てば戦争にもなりかねないと…」

「「なに!?」」


 せ、戦争だって!?
 そこまで仲悪かったの!?


「そうだ。
 何が火種になり戦争に繋がるか分からん。
 もしそんな事になれば…魔族どころか人類同士の殺し合いに発展してしまうだろう」

「「………」」


 俺とルカは絶句して黙ってしまった。
 マ、マジかよ…。
 んな事言われたら、確かに慎重にならざるを得ないな…。

ガチャ

 突然、入り口のドアが開いた!
 やべ! 離れ…


「よーし、今日も元気に…(ゴン!)ニャア!?
 ああっ! レ、レイト君!?」

「いたた…ああ!? セリーヌ!」


 扉を開けたのは俺たちのマスコット猫、セリーヌ・モービルだった。


☆☆☆


「ニャハハ! ゴメンニャ!
 まさかすぐ外にレイト君が居るとは思わなかったのニャ!」

「良いって別に。
 そっちは相変わらず元気だなセリーヌ」

「もちろんニャ!」


 セリーヌに案内され、ギルド内の酒場に腰を落ち着けた。

 俺達が建物内に入った時は、予想通りというか周りの冒険者達の反応はピリピリと明らかに良い顔をしなかった。

 しかしこいつはそんなことはおかまいなしとばかりに、俺の手を取ってそのまま引っ張って行った。

 ふふ、こういうところセリーヌらしいぜ。


「モービル。
 早速だが、シュバルツァーはどうしたのだ?
 それにランボルトとダアトの姿もないようだが…」


 当初の予定では、冒険者ギルドで亜人組と合流する手筈だった。
 しかし、セリーヌは見知らぬ冒険者と行動を共にしていた。
 ま、まさか…!


「ニャハハ。
 レイト君、そんな顔しなくても大丈夫ニャ。
 フレイちゃん達はあたしと別行動をとってるだけニャ」

「ええ!? なんでまた…?」

「最初あたし達が王都に着いた時は、しばらくは一緒のパーティーでクエストをこなしつつ、情報を集めていたのニャ。
 けど、あんまり有力な情報が得られなかったのニャ。
 そこで少し趣向を変えて捜査にあたることにしたニャ」

「『趣向』?」

「フレイちゃんはノルンの傭兵団、リック君はこの街の盗賊団にそれぞれ聞き込みをすることにしたニャ」

「なるほど…。
 冒険者では得られない情報網があるやもしれんな」


 ナディアさんが顎に手をやり納得したように頷く。
 んー…フレイは分かるけど、なんでリックが盗賊団?
 現役で冒険者だろうに。


「ちなみになんでセリーヌは冒険者こっちなんだ?
 リックの方が良かったんじゃない?」


 ちょうどセリーヌの職業ジョブも『盗人シーフ』だし…。


「あたしも最初はそのつもりだったけど、リック君が嫌がったニャ。
 『そっちの方が面白そう』って」

「あいつ…」

「はぁ、奴らしいといえば奴らしいがな」


 酒場のテーブルにふよふよと浮いているルカがため息をついた。
 ついでに注文したメシも食っている。
 その形態での食い方見るの久しぶりだな。

 ん? 待てよ、まだあの人を聞いていない。


「あれ、おっさんは? 合流してないのか?」

「オズおじさんはまだ会っていないニャ。
 ちょっと心配だけど…多分、大丈夫ニャ!」

「そっか。
 まぁ、おっさんのことだから俺もやられることはないとは思うけど」

「そうだな。
 なんと言っても彼は零人が最も恐れている『ドラゴン』だからな」


 ルカはイタズラっぽい口調で言ってきた。
 宝石形態でも分かる…絶対いま意地悪い顔してやがるな。


「そういえばレイト様は以前『飛竜ワイバーン』に対して酷く脅えていましたね。
 何か理由でも?」

「あんまその事は話したくないよザベっさん…。
 単純にドラゴン恐怖症なだけだよ」

「…出過ぎた真似を致しました。
 申し訳ございません」


 ザベっさんは席を立つと深々と頭を下げた。
 ちょ!? なにもそこまでしなくてもいいのに!
 セリーヌはその様子を興味深そうに見ている。


「あの、ところでこのお姉さんは?
 またレイト君メイドさんを雇ったのニャ?
 あ~やらしーニャ」

「違ぇよ! 『また』ってなんだ!
 ナディアさんのこと!?」


 俺が突っ込むと、ザベッさんはスカートの裾を摘み、優雅に礼をして自己紹介を始めた。


「失礼、申し遅れました。
 エリザベス・センチュリーと申します。
 この度、レイト様御一行を『ドノヴァン・ヴィレッジ』までご案内するよう我が主より仰せつかりました。
 冒険業については至らない点もあると思いますが、どうか主共々よろしくお願い致します」

「ニャア…」


 セリーヌはポケーっと、ザベっさんに釘付けになっている。
 あの礼をする時の動きに惹かれてしまう気持ちは分かる。
 流れるように綺麗だしな。


「おーい? 帰ってこいセリーヌ」

「ニャッ。セリーヌ・モービルですニャ!
 よろしくニャ!」


 少し慌てた様子でセリーヌも自己紹介をした。
 するとなぜか席を立ち、俺の所にやって来た。
 顔を寄せて小声でコソコソ耳打ちをしてくる。


「ナディアちゃんよりすごく『給仕メイド』って感じがするニャ。
 ホンモノのメイドさんってお上品ニャ」

「あ、超わかる。
 なんていうか上流階級って感じするよな。
 それに比べて…いだだだだだ!?」

「フニャアアア!! 離してニャー!!」

「聞こえているぞ2人とも?
 そうか、そんなに『メイド』が好きか。
 ならば貴公たちに特上の『おもてなし』を味わせてやろう」

「「ひぃっ!?」」


 ニッコリ笑顔のナディアさんが俺とセリーヌの頭を鷲掴みにしてきた!

 …って、あっつぅ!?

 手だけを『炎獣イフリート』モードにして、とんでもない温度の魔力マナを送り込んで来てる!

 い…いやだ…もう熱いのはいやだァァ!!

ジュウウウウ!

「「ギャアアアア!!!」」


 俺は二度とセリーヌの口車に乗らないと心に誓った。









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