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第45話:星空の約束

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「そうだ、木枝はそこへ置いてくれ。
 よし、ジオン殿。
 貴公はテントの設営を手伝ってくれるか?」

「もちろんだ!
 遠慮なくどんどん指示してくれ!」


 ジオンの『珍魔法』がお披露目になったその日の夜、俺たちは野宿するためのキャンプを設置していた。
 意外にもジオンの手際が良く、作業はスムーズに行なわれた。

 うーん、男手ひとつあるだけでやっぱ違うな。
 俺も手が無事なら…


「ほら、レイトさん。
 手を動かさないでください」

「あ、ゴメン。
 やっぱり皆が動いてるの見てるとソワソワしちゃってさ」

「ふふっ、心配せずともあなたの手が完治したら、たくさんコキ使ってあげますよ」

「…もうちょっとゆっくり治療して」


 そして俺は、キャラバンの中でシルヴィアに『回復ヒアル』をかけてもらっている。

 最初は包帯を取ると皮膚がただれていたり変な膿があったりと、あまり直視したくない見た目をしていたが、彼女のおかげで少しずつ元の手に戻りつつあった。

 痛みも少しはマシになったし、この分なら王都に着くまでには武器くらいは握れそう。


「はい、今日はこれでおしまいです。
 私、皆さんを手伝ってきますね」

「ああ、サンキューな」


 シルヴィアに手を振って彼女を見送る。

 はー、ケガで普段できることができないというのは辛い…。
 もし今度炎獣イフリートと喋る機会があったら文句言ってやる。

 密かに文句の内容を考えていると、なにやら疲れた表情のモネがシルヴィアと入れ違いでこちらにやって来た。

ガチャ

「ふひー、ちょっときゅーけー。
 お料理って大変なんだね~」

「なんだお前抜け出してきたのかよ?
 ダメだろー、ちゃんと仕事しないと」

「今はお鍋を煮込ませてるのー。
 大丈夫だよ、シルヴィア君に見ててってお願いしてきたし」


 こ、こいつ……ちゃっかりしてんな。


「それより手の具合はどう? 痛くない?」

「ああ、最初に比べたらだいぶ良くなってきてるよ。
 そういえばシルヴィアだけじゃなくて、お前も治療してくれたんだってな?」

「あはは、まぁね。
 ボクの方はまだまだ下手っぴですけどね~」


 モネは少し恥ずかしそうに頭をかいた。
 2人に今度何かお礼しないとだな。


「へっ、謙遜するなんてお前に似合わないぜ。
 ありがとうな、モネ」

「わっ…」


 あちらこちらに毛先が向いている、パーマヘアの頭に手を置く。
 するとモネはパチクリと鳩が豆鉄砲を食らったような表情になった。


「もー、そういうとこだよ…。
 出会ったばかりの頃のマミヤ君はしょっちゅうムキになって噛み付いて来たのに、最近は随分変わったよね?」

「そうか?
 お前には色々と痴態をさらけ出しちまったからかもな」

「ああ、マミヤくん大号泣事件ね」

「変な名前付けんな…。
 でも、お前が慰めてくれたお陰でだいぶ心持ちが変わったのは確かだよ。
 ひっじょーに不本意だけどな」

「えへへ、ボクも自分の夢を他の人に話したのは初めてだったよ。
 笑わないで聞いてくれてありがとね」

「笑うもんかよ。
 ロマンがあって良いじゃねぇか。
 それはそうと、零人くん大号泣事件のこと誰にも言ってないだろうな?」

「う、うん。もちろん…」


 モネは僅かに目を逸らして、指で前髪をくるくる弄り出した。

 …まだ付き合いは短いから断定できないけど、今ウソついたような仕草しやがった。
 まさか言ったのか!?


「…モネ?」

「アハハ、なんでもないよ。
 それよりボクも魔法かけてあげる。
 ほら手ぇ出して」

「お、おう」


 明らかにいま誤魔化したな…。
 ま、いっか。
 ルカとフレイとセリーヌは俺の泣き癖を知ってるし、そこまでのダメージじゃない。

 モネが両手をかざしている間へ俺の手を置いた。


「『流水回復アクア・ヒアル』」

トプン…

 モネの両手から水属性のエネルギーが放出され、俺の両手をじんわり包み込んだ。

 おー、ぬるま湯に浸されてるみたいで気持ちいい…。

 あ、そうだ!
 あの事、オズのおっさんには言いそびれたけど、この際だからモネに言ってみるか。


「なぁ、モネ。
 俺、前から思ってたんだけど、この魔法って『洗浄ウォッシュ』に似てない?」

「ええ? そうかな…?
 だって『洗浄ウォッシュ』ってお掃除とか、身体を洗ったりする魔法だよ?」

「まぁ、そうなんだけどさ…。
 ラムジーって、お前知ってるっけ?」

「んん?
 もしかしてルイス君のバーに来たって子?
 ブリジット君から、その子とヨハリア君が喧嘩したって聞いたけど」

「そうそう。
 その子の『洗浄ウォッシュ』なんだけどさ…」


 俺はラムジーのテクニシャンな一面を伝えた。
 するとモネは『水回復アクア・ヒアル』を止め、考え込むように手を顎にやった。


「生活魔法でそこまでの効果を感じるならもしかして…。
 たぶん、その子『水精霊ウンディーネ』を宿してるのかもしれないよ」

「『水精霊ウンディーネ』?
 あれ、たしかそいつって究極魔法に出てくるヤツだったか?」

「うん。究極魔法『精霊スピリット』。
 ナディア君の『召喚サモン』と似てるけど、こっちは力の制御がとにかく大変な魔法なんだ。
 精霊は性格がしっちゃかめっちゃかなのが多くてね…。
 たしかヨハリア君に掴みかかったんでしょ?」

「う、うん。
 初めて会った時は全然そんな事するような子には見えなかったけど…」

「だとすると多分知らないうちに『水精霊ウンディーネ』の意識が出てきてたのかもしれないね」

「ええ!?」


 おいおい…それって危険じゃないのか?

 つい先日ナディアさんと闘ったから分かるけど、人ならざる存在の力は半端ない。
 あの人みたいに『暴走』なんてしてしまったら…!


「まぁでも、べつにそこまで心配しなくても大丈夫でしょ。
 精霊は気まぐれだから、飽きたらすぐ引っ込むと思うし」

「全然大丈夫に思えないんだけど…。
 ラムジーにそれ教えといた方が良いのか?」

「いや、自覚してないならそれに越したことはないよ。
 同化してる精霊を変に拒絶なんてしてしまったらそれこそ危険だからね」

「そういうもんなの…?」


 うーん…。
 一応フレイには言った方が良いのかなぁ…?
 いやでも、もし教えてあいつがラムジーの前でボロ出したらマズイか。

 モネが水回復アクア・ヒアルを再開しようと手をかざした瞬間、シルヴィアの声が届いた。


「お二人ともー! ご飯できましたよー!」

「ありゃ、治療の続きはまた今度だね」

「だな。ふぅ、腹減ったー」


☆☆☆


 ご飯も食べ終わり(今度はルカにあーんされた)、就寝する時間になった。
 基本的に野外で寝る時は、見張りを1人立てるのが鉄則だ。
 寝込みを魔物に襲われたらたまったもんじゃないからな。


「さて、これから見張りの当番を決めたいのだが…」

「それ俺がやりますよ、ナディアさん。
 今回、全然みんなを手伝えなかったので」


 ナディアさんが全部言う前に申し出た。
 せめてこれくらいは働かないとな。


「いえ、お客様にそのようなことはさせられません。
 ここは私におまかせを」


 ザベっさんは俺の提案を退けた。
 その気持ちは嬉しいんだけどね。


「ザベっさん。
 今の俺たちは『客人』じゃない。
 『冒険者』だぜ? 特別扱いはナシだ」

「…左様ですか。
 それではお言葉に甘えさせてもらいましょう」


 ザベっさんはスカートの裾をつまみ上げて優雅に礼をした。
 おお、やっぱモノホンはすごくお上品だ…!


「零人が起きると言うなら私も付き合おう」

「ええ、別にいいのに…」


 ルカはさも当然と言わんばかりに俺の肩を抱いてきた。

 …まぁ、いいか。
 ルカは生き物を索敵するのも得意だしな。
 隣に居てくれると俺も助かる。


「よし、それでは今晩は貴公らに任せる。
 明日も日が昇り次第、早めに出発するぞ」


☆☆☆


 皆が就寝してから2時間、特に敵の気配もなく周囲は安全を保っていた。
 ナディアさん達はそれぞれ男女別のテントに入っておねんねしている(ジオンと俺のテントはふたり用サイズ)。

 そして俺とルカは、焚き火の近くに座って炎を眺めながら静かに会話していた。


「今日は一日中天気良かったからか、星が輝いてんなー」

「そうだな。
 あの無数にある星の中で、いったいどれが君の故郷なのだろうな…」

「さすがにそれは分かんないけど、地球の色は青色なんだよ」

「そうなのか?」

「ああ。
 俺も生で見たことあるわけじゃないけど、ルカと同じですごく綺麗な色なんだぜ」

「……!」


 なぜかルカはボッと、頬を薄く染めた。
 すると、彼女は俺の肩に頭を乗せて体重を預けてきた!
 ちょ、ちょ…! なぜに?!


「『綺麗』か…。
 君はすぐそうやって口説いてくるから困ったものだ…」

「え、くど…?
 俺、ルカの『蒼』と地球の『青』が似てるって意味で言ったんだけど…」

「なっ!?
 まどろこしい言い方をするんじゃない!」

「ルカ! みんな寝てるんだから! シーッ!」


 今度はルカの顔が茹でダコみたいに真っ赤になってしまった。
 そんなに怒らせるようなこと言ったかな…?


☆☆☆


 さらに数時間が経過し徐々に眠気が襲ってきた。
 ねっむ…。
 日が昇るまでもう少しのはずだけど…。

 ちなみにルカは眠くないのか、ずっと俺に喋り続けている。


「おい、聞いているのか零人」

「んー…? なにー…?」

「もし君が地球に帰れた時…。
 最初に何をしたい?」

「えっ…うーん。米食べたいかな…ルカは?」

「ああ、おにぎりか…。
 確かにあれは美味だったな。
 私のやりたい事は決まっているぞ」

「ん、なにー…」

「その…。
 君と2人だけで、デ、デートをしたいのだ。
 君が暮らしてきた世界を共に巡ってみたくてな…。
 私の『願い』、叶えてくれるか?」


 やべー…マジ眠い…。
 話半分くらいしか分かんなかった…。
 何かしたい…だったか?


「ん、いいよ…」

「そうか…! 『約束』だぞ?」

「うん、やくそく…ね…」


 ダメだ…限界だ…。


「あっ…? 零人?」

「スゥ…スゥ…」

「まったく、仕方のない男だ。
 ほら、私の膝を貸してやる。
 …無論、タダではないがな」

チュッ

 完全に寝落ちする前、口に何か柔らかい感触が押し当てられたような気がした。











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