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第44話:男の趣味

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「えーというわけで、今日からウチのパーティーにジオンくんと、エリザベスちゃんが加わることとなります。
2人は初めての冒険なので、分からない所はみんなで色々教えてあげてください。
それじゃあ今日も元気に冒険へしゅっぱーつ!」

「はーい!」


モネは手を挙げて大きな声で返事をしてくれた
うむ、結構結構


「は、はーい…?
ルカ殿、どういう反応をすれば良いのだ?」

「私に聞くな」


もー、ルカとナディアさんはノリが悪いな

ついでにシルヴィアも頭を押さえて半分呆れ顔になっていた


「修道院に新しく子供が入った時の先生じゃないんですから…
ゴメンなさい、お二人とも」

「ハッハッハ!なに、構わないさ!
初めてパーティーに加入しての冒険…
先程から胸がときめいてしまって仕方ない!」

「はい、どうかお気になさらず。
私も冒険業は初めてですが、過去に『戦乙女ヴァルキュリア』の遠征任務をこなした事があります。
その経験を活かせるよう務めましょう」


2人とも心強いな
さて、出発しますか!


☆昨日のお昼☆


補給組に合流して今後の予定と新しい加入メンバーを伝えた
モネ以外は面食らったようだ


「なんと…ジオンさんとエリザベスさんが…
確かに助かりますが…い、良いのでしょうか?
特にジオンさんなんて貴族様ですよね?」

「それを言ったらナディアさんもなんだけどな。
正直、アウェーでの街で活動するには、やっぱり現地の人が居た方が良いと思うんだ」

「そうだねー。
王都はボクも行ったことあるけど、あそこ人族アンチがすごいのなんのって。
でも近くにジオン君が居れば、流石に悪さはしてこないと思うよ」

「ううむ…矢よけにしてるようで些か申し訳ないが、ここは彼らに甘えよう。
いずれ何らかの形で恩を返せば問題あるまい」


どうやらみんなも納得してくれたようだ
良かった良かった

あれ、とモネが指を口に当てた


「でも、マミヤ君の武器はどうするの?
確か壊れたよね?」

「ああ、それについてはザベっさんが何かアテがあるって…
そういえばお前、ジオンに言ったのか?」

「ん?ああ、もち言ったよ。
予想通りめちゃくちゃ喜んでたよ~」

「そ、そうか…」


先日の魔物及び炎獣イフリート戦で、俺とモネは『仮面遊戯ペルソナ』を使って闘った
モネの持つ異世界由来の力で強力だけど、その代償も大きい

なんと力を使えば使うほど、モネのお金が無くなってしまうのだ
それもあって、基本的にこいつは守銭奴なんだけど、この間に限っては大盤振る舞いをしてくれた

その理由は、町の『防衛費用』として金持ちのジオンに直接請求するという、とんでもない悪徳金策だった

俺は今回、起動と1回だけ『仮面遊戯ペルソナ』の魔物をチェンジしただけだけど、モネはチェンジに加えて魔法をボンボンぶっぱなしていた


「ちなみにいくらだったんだ?」

「んふふ、聞きたい?」

「……やっぱいいです」


なんとなく、知らぬが仏のような気がしたのでスルーする事にした
ていうかなんでジオンは喜んでんだよ
不幸っつうか、ただ金を毟り取られてるだけじゃん


「レイトさん。
こちらの準備は完了しましたが、いつごろ出発する予定ですか?」

「ジオンの親父さんが今日の夕方に、戻ってくるらしい。
だからせっかく準備してもらって悪いけど、出発は明日の朝イチで出ることになった」

「分かりました。
それでは今日はあなたの手の治療に専念することにします。
少しでも早く治れば良いのですが…」

「おお、わりーなシルヴィア。
よろしく頼むぜ」


☆☆☆


そして現在、俺たちは王都に向けてキャラバンを走らせていた

けど、ジオンとザベっさんは自前のキャラバン…つうかド派手な馬車をお持ちだったので、運転のできない俺とルカはこっちに相乗りさせてもらってる

向かい合わせの座席なのは、俺たちのキャラバンと変わらんけど、室内の装飾と座り心地はダンチや…

子どもの頃、従兄弟が新しく買った高級セダンを自慢しにやって来て、ドライブに連れられたことを思い出した
あれもめっちゃいい匂いでシートもカッコよかったなぁ


「ふふ、どうしたレイト殿?
そんなにキョロキョロして…
もしかしてこの馬車を気に入ってくれたのか?」

「ん、まぁね。
オットー町を出発してからほとんど揺れないし、『衝撃吸収機構ショックアブソーバー』でも付いてるのか?」


何気なく質問したつもりだったけど、ジオンは驚愕の表情で目を見開いた


「まさか君も男なのかい!?
そうだよそうなんだよ!
足周りにはこだわって調整チューニングしていてね!」

「あーやっぱり?
でもオットー町ってすごいな、こんな丁寧な馬車を造れる技術があるなんて」


俺らのキャラバンは積載性能はあるものの、乗り心地はお世辞にも良いとは言えなかった
フツーに羨ましいぜ


「ふふふ、ありがとう。
だが、この車両を造ったのは僕らの町ではないんだ。
これから向かう先にある…なぁ、エリザベス」


ジオンが顔を横に向けると、隣には相変わらず無表情のメイドが着席していた

ちなみに馬車の運転席には誰も居ない

なんでクルゥの手網を握らなくても走らせられるかというと、こっちのクルゥは中々利口で、前方の先導車…つまり俺たちのキャラバンに特殊な目印の付いた平板を取り付けると、それを頼りにクルゥが自分で『前進』と『停止』を行ってくれる

すげーよ、訓練次第でこんなクルゥにも育てられるなんて


「ええ、そうです。
王都にある『ガレージ・マキナ』。
私の使用武器もそちらで創作していただいた物です」

「マジか!
あ、もしかして昨日言っていた俺の武器のアテって…」

「お察しの通りです。
しかし、当のオーナー様は大変気難しい性格でして、本来は一般層に販売を行わない方針なのです」

「え、そうなの?
金持ちだけにしか相手にしないとか?」


職人さんは気難しいって良く聞くしな
まぁ、偏見かもだけど…
スタンリーさんなんて結構気さくだったし


「そうではありません。
ただ、なんと申せば良いのか…
とにかく、彼女に認めてもらわなければこちらの依頼を受けてくれないのです」

「そ、そうなのか…がんばるよ」

「フフ、心配する必要はない。
個人的な勘だが、きっとすぐに君を気に入るはずだ。
なにせ、この馬車のこだわりをすぐ見抜いたのだからな!」


うーん…確かに、車に興味なかったら分かんなかったかも

まぁ何はともあれ、まずは現地に着くことが重要だ
先はまだ長い

……ところで俺の隣に居るルカはなんでさっきから全然喋ってないのだろう?
妙に大人しいな


「おいルカ?どした?さっきから静かだけど」

「い…いや…大したことではない…」

「??」

「わ、笑わないでほしいのだが…
その…腹が減った…」


☆☆☆


「『点火イグニ』。
モネ、シルヴィア、食材は切ったか?」

「まだー!焦らせないでよ~。
ボク普段あまり料理なんてしないんだからさ」

「ふふ、ゆっくりで大丈夫ですよモネさん。
包丁の持ち方を少し変えましょうか」


ルカの空腹警報が発令されたため、道端に寄って一時休憩することになった
ちょうど時刻も昼時だったので、クルゥ達にも餌をあげた

こいつらは雑食で、なんでも食べてくれるから助かる
ジオンんとこは骨付き肉か…豪華なこって

ルカとザベっさんは以前ナディアさんと闘った、川の場所に水を汲みに転移テレポートで向かった

ちなみに魔力で生成する水はあまり飲まない方が良いらしい
人によってはお腹を壊してしまうこともあるのだとか

まぁ、やろうと思えばマミヤ邸まで水を取りに帰れんこともないけど、せっかく天気も良いし、なにより旅の醍醐味のひとつだからな
野暮は言わんとこ

怪我をしてる俺とお坊っちゃんのジオンは、エサやりが終わるとやる事がなくなってしまった

みんながわたわたと働いてるのを2人してポケーと眺めていた


「なぁ、レイト殿。
せっかくだから君の世界について聞かせてくれないか?
考えてみれば君は特別な魔道具アーティファクトを持っている。
そこはどんな世界なんだい?」

「んー、そうだな…
城みたいな建築物が並んで建っていて、道路には車が、線路には電車が、空には飛行機が飛んでるんだ。
そんでもってお前が言ったこれはスマホつってな。
本来は親とか友達とか、コミュニケーションをとるための道具なんだよ」


説明しながら写真アプリを起動させたスマホをジオンに手渡す
口であーだこーだ説明するよりも、こうした方が理解するのが早いからな

写真を見たジオンは目を輝かせ始めた


「これが『異世界』…!
おお、なんと高度な文明なんだ…!
もしかして、車というのはこれか?
君の車か?」


ジオンは白い小さな車の写真を見せてきた
中古で買った俺の愛車だ
はぁ、久しぶりに乗りたいなぁ


「ああ、そうだよ。大変なんだぜー?
学生の身で車買うのはもちろん、それを維持し続けるのは」

「なるほど…
君が僕の馬車を褒めてくれたわけだ。
君もなかなか手を入れているのではないか?」

「へへ、分かっちゃう?
やっぱ弄るなら足からだよなー」

「うむ!全くもって同感だ!
ところで、次はここを変えようかと思うのだが…」


お互い思わぬ趣味が判明し、いかにも男が好きな話題で延々とだべり続けた
すごく楽しい…


☆☆☆


「ハフハフ…美味しい!
さすがナディアさんですね!」

「ふふ、そうか。
貴公に喜んでもらえるとこちらも嬉しいぞ。
さぁ、もう一口だ…あーん」

「くっ…!
私が休憩を言い出したばかりに文句を言えんのが腹ただしい…!
ウォルト!次は必ず私がそれをするからな!」


ルカは怒ってるのか喜んでるのかよく分からない表情で、昼ご飯をかきこんでいた
さすがにみんなの前であーんはめちゃくちゃ恥ずかしいけど、この手じゃしょうがない…

それにナディアさんが満面の笑みであーんしてくるので、こちらも応えないわけにはいかない

ていうかナディアさんはこれ恥ずかしくないのか?


「…!」


静かにご飯を食べていたザベっさんが急に立ち上がった



「皆さま。
お食事中申し訳ありませんが、上空をご覧下さい。
大鷲グレート・アドラー』、敵です」

「なんだと!?むぅ、こんな時に…!」

「えーよりによって風属性なのー?
今ボクの『仮面遊戯ペルソナ』の魔物『鳥獣ガルーダ』なのにな…」


どうやらご飯の美味しい匂いを嗅ぎつけたようだ
でかい鳥が数羽、上を旋回している

空中か…それなら融解メルトロを使えば…
あ、いや、今怪我してんだった
どう闘おう…?

まぁ、それはその時考えるか
とりあえずルカと…

立ち上がろうとした瞬間、ジオンが手で制した


「皆、どうかここは僕に任せてくれないか?
僕だってエルフの端くれ、戦闘魔法は得意だ」

「おいジオン!?何を…」

「ご心配なさらず、レイト様。
おそらく大丈夫です」


どうやらザベっさんはこれからジオンがすることを分かっているようだ
…それならお手並み拝見しようか

キィィン!

ジオンは右手に魔力マナを集中させると、徐々に長い得物…槍を創り出した


「『付与エンチャント』」

バチッ!!

それに加え、雷の魔力マナも付加させたようだ
おお、器用なことするな


「よし、いくぞ!『ライト二ング・ジャベリン』!」

ブォンッ!!

大きく振りかぶった槍を上に目がけて投げつけた!
ここからあんな遠くの鳥に当たるのか!?


「……むっ!?」


投げると同時にルカがビクンと後ろを向いた


「12時の方向より新たな敵影!
まずい…『飛竜ワイバーン』だ!
猛スピードで来てるぞ!」

「あ!?ドラゴン!?に、逃げ…」

「グオオオオン!!!」


げえっ!?
もうそこまで来てんじゃん!

しかし、『飛竜ワイバーン』の狙いは俺たちではなく、今まさにジオンが攻撃しようとした『大鷲グレート・アドラー』だった

バクッ!!

「「「あ」」」


た、食べちゃった…
しかも全羽まとめて…


「オオオオン………!」


飛竜ワイバーン』は止まりもせずに、そのまま進行方向へ飛び去っていってしまった…

サクッ

投げた槍は虚しくも地面に突き刺さる

……………………………………


「まさか『飛竜ワイバーン』を『召喚サモン』するなんて…
やるじゃないかジオン?ぶふっ…」

「ちがーう!!
飛竜ワイバーン』なんて呼んだ覚えはない!
ああ…どうしていつもこうなるんだ…!」


ジオンはガクンと膝と両手を地面についた
なるほど、たしかに毎回これなら、ザベっさんも心配することはないな

それにしても、ぷくくっ!


「ま、まあまあジオンさん。
あなたのお陰で助かったのは事実です。
気を取り直してご飯、食べましょう?」

「うぅ…、うむ…すまないな、ゴードン殿…」


シルヴィアはポンポンと背中を擦りながらジオンを椅子に座らせた
そんでもってシルヴィアとザベっさん以外は俺と同じで必死に笑いを堪えていた

なんだこいつ、面白すぎだろ




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