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第43話:新たな仲間

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「ナディアさん、俺たちってどんぐらい寝てたんですか?」

「丸1日だ。
一昨日の夜から今までずっと眠っていたのだ…」

「ええ!?そ、そんなに!?」

「ふっ、久しぶりの大睡眠だったな零人」


とんでもない爆睡かましちゃってた…

ついでにナディアさんに町の状況について軽く説明してもらった
けが人が数名出てしまっていたが、シルヴィアのおかげで大事にはならなかったらしい
死者が出なかったのは本当に良かった

ふう、とりあえず危険は去ったようで一安心だな

ていうか、あいつら本当に何しに来たんだ?
イザベラの部下がいるってことは、あの女もこの国に潜んでいる可能性が高い

またあいつと闘うのかな…

コンコン


部屋の扉を叩く音がした


「は…(ガチャ)」


あ、返事をするより先に扉が開いた


「おはようございます。
無事、お目覚めになられたようで何よりでございます」

「ザベっさん!
あ、てことはここジオンの屋敷?」

「はい。
坊っちゃまは大層心配なさっておいでです。
お体にさわりなければ、面会して頂けると…」


やっぱりそうだったか
妙に部屋の造りが凝ってると思ったんだ

ザベっさんのお願いに、ルカが口を挟んできた


「面会もいいが、その前に極めて重要なミッションがある。
まずは、それを遂行しなければならない。
分かるな、零人?」

「ん?ああ、そだな。
…ったく、起きて早々元気だなお前も」


ルカの言わんとする事はアレしかない
ザベっさんは無表情の顔から僅かにピクリと眉を動かした


「重要と申しますと…
まさか、魔族の残党が…?」

「な、なんだと!?
それならば、急ぎ装備を支度せねば!」


ザベっさんの言葉に今度はナディアさんが釣られた
いや、全然違うんだけど…

俺とルカは、ほぼ同時に口を開く


「「腹が減った」」


☆☆☆


ザベっさんに食卓に案内されてしばらくすると、彼女と同じメイド服を着た女性達が次々と料理を運んできた

たしか…『戦乙女ヴァルキュリア』だっけ?
特殊部隊なんて言ってたから物騒なイメージだったけど、普通に給仕の業務もこなすんだな

そして彼女たちの主、ジオン・オットーが乾杯の音頭をとった

……朝のテンションじゃねぇよコレ


「さぁ、諸君!
遠慮せずにどんどん食べてくれたまえ!
今日はレイト殿とルカ殿の快気祝いだ!」

「えぇ…寝起きでこの量はキツイって…」

「良いではないか。
私たちは今の今まで何も食していないのだぞ?」

「そうそう。
ボクたちは身体が資本なんだから、元気付けるために食べないとだよマミヤ君」

「栄養は人体にとっていちばんの薬です。
私の魔法にだけ頼らず、自身でも治していきましょう」


腹は減ってるんだけどねぇ…
今はあんまりガツガツ食えないんだよな


「ウォルト様。
調理を手伝っていただき、感謝致します。
随分と手際も良く、慣れていらっしゃるようでしたが、もしや貴方様も『給仕』の仕事を?」

「ああ。我が王より、直々に『マミヤ邸』に仕えるよう命令を受けた。
もっとも、貴公の方が腕は上のようだがな…」


ズーンとナディアさんは落ち込んでしまっている

腹が減ったと言ったあと、ナディアさんはジオンに厨房を貸してくれと頼み込んでいた

ついでに俺たちが目覚めたことも伝えると、彼は大喜びで『戦乙女ヴァルキュリア』を総動員させ、宴の準備を始めてしまった

気持ちは嬉しいんだけど、ちょっと大げさなような…


「フゴフゴ、モゴ(心配するな、ウォルト)。
モゴモゴモゴ(君の料理も引けを取らない)。
モゴモゴモゴモゴ(私は毎日、君の作る夕食を楽しみに帰っているのだぞ)?」

「ル、ルカどの…!」


再び目をうるうるさせるナディアさん

うん、言ってることはとても良いんだけど、ハムスターみたいに食べ物口に入れたまま喋んなよな
よそ様の家でみっともない…


「(ゴクン)、どうした零人?
先程から料理に手をつけていないようだが」

「あー、うん。食べたいんだけどさ…
その…俺の手、今こんなだから」


ルカに包帯で包まれた両手を見せる

そう、先の戦いで俺の両手はヤケドを負ってしまった

指を動かすだけでけっこう痛い
おまけに完治まで数日掛かるそうだ
シルヴィアの魔法でも治せないなんてどんだけだよ、炎獣イフリートさんよ


「これは…申し訳ありません、レイト様。
私どもの配慮が足りませんでしたね」

「別に謝ることなんてないよ。
パンくらいなら何とか掴めるし…」

「いえ、そうは参りません。
僭越ながら、私が食事の補助をさせていただきます」

「は、はぁ?」


ザベっさんはパチンと指を鳴らした

すると、メイドの1人が椅子を俺の隣に設置した
そしてザベっさんはその椅子に座り、とんでもない事をしてきた


「さぁ、レイト様。お口を開けて下さい。
あーんですよ、あーん」

「「「!?」」」


ザベっさんはお肉を刺したフォークを俺の口元に近付けた!
どういうつもりだこのエルフ!?


「え、エリザベス殿!
何をしているのだ貴公は!?」

「…?見ての通り、お客様が食事が出来ずに困っておいでなので、少しでも助けになればと」

「まったく、どいつもこいつも…!
どけ、センチュリー!
それは相棒である私の役目だ!」

「待て!
そもそもマミヤ殿の怪我は私が原因だ!
ならば私が補助するのが筋というものだろう!」


ルカとナディアさんは俺の近くに来ると、それぞれフォークをこちらに向けて構えた
ま、まさか…!


「お、おい…ムゴゴッ!?」


3人同時に突っ込んできやがった!
ぐ、ぐるじい……!!


「おい、邪魔をするな!
零人が苦しんでるだろう!」

「こちらの台詞だ!
貴公はそこのパイでも食べていろ!」

「お二方、落ち着いてください。
元々、今回のお食事はお客様方の為にご用意したものです。
ここは私におまかせください」

「モゴゴー!!」


3人は言い争いながらどんどん俺の口へ食い物を運んでくる
し…死ぬ…!


「むう…やはり、レイト殿は主に女難の不幸がついて回っているようだ。
ゴードン殿、君たちはいつもこうなのか?」

「そうですね。
今は別れている仲間にも女性のエルフがいて、その方もこんな感じで争ってますね」

「だね~。ホントどんな星の元に生まれたらここまでの不幸?を作れるんだろうね」


向こうで呆れながらも楽しく食事をしている3人とは対照的に、こちらは地獄絵図と化していた…


☆☆☆


「さて、宴は楽しんでくれたようで何よりだ。
そろそろ本題に入らせてもらいたいが…」

「ゲップ…
あれが楽しんでるように見えたのか?
医者に行け」


妊婦さんの如く腹を膨らました俺は、ルカとザベっさんと一緒にジオンが普段仕事をしている書斎室に来ていた
今回の事件の整理と、今後の予定を立てるためだ

ちなみに俺たち以外のメンバーには、食べ物やら薬やらの補給をお願いして、旅の準備を始めてもらった


「まずは今回の襲撃についてだが…
襲ってきた魔族のうち1人は知っている者だったのだな?」

「ああ。
吸血鬼ヴァンパイア』イザベラの部下だ。
イザベラは『理の国ゼクス』の迷いの森にある屋敷の迷宮主ダンジョンマスターだった奴だ。
しかもそいつ、紅の魔王に仕えてたらしいぜ」

「そうか…
やはり、君の魔道具アーティファクトで見せてもらった映像は、紅の魔王で間違いないのかもしれないな…」


ジオンはこめかみを押えながらグラスの水を飲んだ

確かにそう考えるのが自然だけど…何かが引っかかる


「しかし、奴らの目的は不明だ。
今回の襲撃は町の支配よりも、何者かを探す方に重点を置いていた。
私と零人でないとすれば…他に誰が居る?」

「ふむ…正直見当もつかないな。
この町の住民で『魔族の国アルケイン』にゆかりがある者は居ないはずだ」

「そっか…まぁ、それはあとで考えるとして…
問題はこれからだな」


改めて自分の両手を見てみる
ふぅ…闘ってる時は気付かなかったけど、結構ひどい怪我してたんだなぁ


「そうだな。
君の怪我では満足に武器も握れまい…
いや、それも壊れたのだったな」

「そうそう。
別にナディアさんに恨みはさっぱりないけど、さすがに丸腰で旅を続けんのはキツいべ」


2人で頭を悩ませていると、ジオンは待ってましたと言わんばかりに手を挙げた


「ふふふ!そこでだ!
是非とも君たちの旅路に我々を加えて欲しい!」

「ええ!?我々って…ザベっさんも!?」

「……初耳です。
恐らく毎度のように思いつきで提案したのでしょう。
坊っちゃま、それは却下です。
貴方様が留守にするということは、町を護る者が居なくなってしまうのですよ?」

「それならば心配無用だ!コレを見たまえ!」


ジオンは1枚の書簡を俺たちに見せつけた
……なんか重要な内容らしいけど読めない


「まぁ、旦那様が本日中にお戻りになられるのですね。
確かに、それならば…」

「ふふん、だろう?
レイト殿、僕は今回の事件を王都に居る国王に伝えなければならない。
そして、君たちの目的の場所もエリザベスの故郷だ。
道中の護衛も兼ねて、彼女の案内があれば無事にたどり着けるはずだ」


うーん、筋は通ってるか…
ジオンはともかく、ザベっさんの戦闘力は折り紙付きだ
力を借りられるなら、確かにありがたい


「願ってもいない。
ちょうど私も君の同行を依頼するつもりだった。
この話を受けよう、零人」

「ルカがそう言うなら…
よろしく、2人とも」

「そうこなくてはな!
おお…久しぶりの冒険だ!」

「こちらこそよろしくお願いいたします。
ドノヴァン村まで長い旅路になりますが、できる限り力を尽くしましょう」


最強の『幸運』を持つ男、ジオン
霊力エーテルを操る女、エリザベス

新たに2人、仲間が加わった

…なんだかんだ、これから賑やかになりそうで、実は俺も内心嬉しかったりする

そして、これから俺たちが向かうのは王都だ
フレイ達とも合流しないと


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