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第32話:涙と夢

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「はぁ!?『マミヤ邸』だぁ!?
お前、いつの間にそんな成金になっちまったんだ!」

「なってねぇよ!
たまたま盗賊団のボスがヘマしただけだ!」


ルイス君の経営する『ルイス・ザ・バー』にて、俺はこれまでの経緯を彼に教えていた

王都でアジトを構えたこと、『宝石スフィア』の候補者を探していること、魔族と闘ったりドラゴンが俺たちの師匠になったことなど、伝えることは山積みだ

そして全てを伝え終わると、ルイス君ははぁ~とため息をついた


「少し会わねぇ間に随分と逞しくなったんだな…
『紅の魔王』に挑むっつーのは、ここまで劇的な展開になるのか」

「まっ、黒毛の野郎に巻き込まれたことは否定しねェよ。
だがオレはただ、オレの力を試したいだけだ。
あの人…『炎獣イフリートの騎士』のようになァ」

「リック…」


そうか、前にリックとシルヴィアはナディアさんについて強い関心を持っていたな
こいつも彼女に憧れて冒険者になったのかも

さて、そろそろこっちも近況を聞きますか


「そういえばラムジーはどうしたんだ?
てっきりルイス君と一緒に居るのかと思ったけど」

「あぁ、あいつは今王都に出掛けてるんだよ。
驚かせようと思って、当日までお前が来ること秘密にしてたら、まさか入れ違いになるなんてな。
あいつも運が悪いぜ」

「ははは、そっか。
まぁでも今回は『合コン』だし、ラムジーは居ない方が色んな意味で良かったかもね」

「へっ、だな。
さて、俺はそろそろ会食用のつまみやら酒やら準備するからよ。
寛いでてくれや」


ルイス君は立ち上がり、カウンターの方へ消えた
ラムジーに会えないのは少し残念だけど、また機会があるだろう

リックがポンポンと肩を叩いてきた


「なぁ、その女はお前の知り合いなのか?」

「ん?うん、フレイの幼なじみだよ」

「…マズイんじゃねェか?
もし、そいつがデカキン共に出会ったとしたら、このこと奴らにバレるんじゃ…」

「えっ!?だ、大丈夫でしょ…
当日まで秘密にしてたってルイス君言ってたし…」

「「…………」」


な、なんだよ、これから楽しい時間がやって来るってのに、不安になるような事言うなよな…

その後、俺とリックは心の中に微妙なしこりができたような感情を抱えながら、静かに待機した


☆ラムジー・カルメスsides☆


「それでは通行証か身分証を提示してください」

「は、はいっ。これでいいですか?」

「たしかに…
本日はどのような件でご来訪ですか?」

「はいっ、今日は村のおつかいと…
あと、お友達に会いに来ました!」

「了解しました。
それではどうぞお通りください」


クルゥさんに乗って『理の国ゼクス』の中心、王都レガリアに到着した

わぁ…やっぱり賑やかな街…
都会には人がいっぱい居るけど、私はいかにもお上りさんに見えてるだろうなぁ

っといけないいけない、ボーッとしてたら日が暮れちゃう!

厩舎にクルゥさんを預けたあと、5区に向けて歩みを進めた

私とフーちゃんは文通をして、ささやかな交流をしている
そして今日は、フーちゃんが新しく住み始めたという家に招待されたので遊びに来た

ふふっフーちゃん元気してるかなぁ?
それにルカさんとレイトさんも…
もっ、もしかしたら、またレイトさんに『洗浄ウォッシュ』をさせてもらえるかも!

うへへ…


☆☆☆


邪なことを考えつつ歩いていると、やがて手紙に書かれた住所の所へ到着した

…………………………

あ、あれ?私、住所間違えたのかな…
こんな立派なお屋敷、どう考えても大貴族様が住んでるとしか…
で、でも、手紙に書かれている住所は何回確認してもここだ

屋敷の入口でウロウロしていると、後ろから声が掛かった


「お姉さんどうしたのニャ?迷子ニャ?」

「ひゃっ!?ご、ゴメンなさい!私、その…」

「落ち着いてニャ。
別に通報したりしないニャ」


びっ、びっくりしたー…
この子はガトー族かな?
銀色の頭髪の上からピンと可愛らしい耳がたっている
手には買い物袋を提げていた
もしかしてこの子もおつかい?


「あたし、セリーヌ・モービル。
よろしくニャ」


にぱっと笑顔で小さな手を差し出してくれた


「は、はい、ラムジー・カルメスです…」


おずおずと手を握ると彼女はクイッと手を引いてきた

えっ!?


「お話は中でゆっくり聞くニャ。
上がってニャ」

「ふええっ!?」


まさか、こんな小さな子の家だったの!?
見た目はなんだか冒険者っぽいけど…
実はお嬢様…?


大きなドアを開け中に入ると、豪勢なエントランスが私を包み込んだ
わぁ…


「ただいまニャ!
セリーヌちゃんが帰ってきたのニャ~」

「お、お邪魔します…」


セリーヌさんに手を引かれて中央のドアを開ける
そこには、長テーブルを大きなソファーが囲んで、奥にはルイス君のお店のような簡易バーカウンターが設置されてある、素敵なリビングルームが展開していた

す、すごい…!
まるで夢みたいなお家…


「戻ったか、モービル」


私が呆然としていると、前から蒼いロングヘアーの女性が目の前にやってきた
はぁ…なんて綺麗な女の人なんだろう…

……ん?あれ、この人歩いていない?
宙に浮いている!?


「ん、客人か?…カルメス!?」

「ふぇっ!?
どうして私のこと…あれ、その声…」


な、なんかすごく聞き覚えのある澄んだ声…
まさか…


「フフ、久しぶりではないか。私だ、ルカだ」

「えええ!?ルカさん!?ひ、人の姿に!?」

「ニャ?2人とも知り合いだったのニャ?」

「ああ、エステリ村で宿を取らせてもらった事があってな。
元気そうで何よりだぞ」

「は、はいっ!私もまた会えて嬉しいです!」


よ、良かった…知ってる人に会えて…
まさかルカさんが人間になってるなんて!
こんなことってあるんだ…


「それで、君はなぜ王都に?」

「はい、実は今日はフーちゃんにご招待されてお邪魔させてもらいました。
…フーちゃんは居ないんですか?
それにレイトさんも…」

「シュバルツァーなら今は屋敷の地下室トレーニングルームで暴れている。
零人に関しては分からんな…
今日は見ていないのだ」

「レイト君ならあたし見たニャ。
リック君と一緒に居たニャ」

「ランボルトと?
珍しい組み合わせだな…まぁいい。
とりあえずシュバルツァーを呼んでこよう」

ブン!

あっ!消えた!
この独特な音と蒼い残滓…やっぱりルカさんなんだ!


「あたし、買い物してきた物キッチンにしまってくるニャ。
ラムちゃんはここでゆっくり待っていてニャ」

「は、はい!ありがとうございます」


ラムちゃん……

セリーヌさんに勧められた椅子に座って少し待っていると、再びブン!と部屋の中に響き渡った
彼女の隣に背の大きい金髪のエルフが少し息を荒くして立っていた
ルカさんがフーちゃんを連れてきてくれた!


「ラムジー!久しぶり!」

「フーちゃん!会いたかったよぉ!」


ガシッと私達は抱き締め合った
ふふ、フーちゃん運動してたのかちょっと汗臭いなぁ
でも、全然嫌じゃない!
やっと…大好きな幼なじみに会えたんだから!


「ゴメンね、本当はあなたを迎えに行くつもりだったのよ。
けど、ナディアと決着が付くのにちょっと長引いちゃってね」

「ううん!
無事に家に辿り着けたし全然いいよ!」

「ふむ、積もる話もあるだろうが…
その前にシュバルツァー。
まず、これはどういうことだ?
私は何も聞いてないが…」

「えへへ、ゴメンね。驚かそうと思って、あんたとレイトにはラムジーが遊びに来ること秘密にしとこうと思ったのよ。
まったく、レイトったらどこほっつき歩いてんだか」

「それならモービルが見たそうだ。
あとで詳しく聞いてみよう」

「そうね、ラムジー待ってて。
いまお茶用意するから!」

「う、うん。あ、待って!
これ…みんなで食べて?」


手荷物の中から村の特産のミルクを使ったケーキを渡した
喜んでくれるかなぁ


「わぁ…ありがとうラムジー!
ルカ、見なさいよコレ!美味しそうよ!」

「ほう、見事なスイーツだな。
君が作ったのか?」

「は、はい。
せっかく皆さんと会うならと思いまして…」

「相変わらず流石の腕前じゃないの~!
ルカ、私ケーキ切るからあなたはお茶の方お願いして良い?」

「了解だ。それではまたあとでなカルメス」


☆☆☆


「ええっ!
レイトのやつリックと一緒に居たの!?」

「そうニャ。
2区にある喫茶店から出てきたのニャ」

「リックがわざわざそんなお店に?
何を企んでいるのでしょうかあの人達は?」

「ふむ、休日はいつもマミヤ殿が起床する時間は遅いはずだが…」


フーちゃんとルカさんがお茶とケーキを持ってきたと同時に、セリーヌさんの他に2人、この屋敷の住人さんもリビングルームにやってきた

ここの住人は様々で、元冒険者の王国警備隊総隊長、『蜥蜴人リザード』と『聖教士クレリック』の冒険者、アルタイル大学生の『占術士フォーチュナー』、そしてなんとセリーヌさんがガトー族ではなく、『妖精猫ケット・シー』だということには驚いた

今日は居ないみたいだけど、ドラゴンのおじさんも最近住み始めたとか…
な、なかなか濃い人たちだなぁ…

そして現在、私、フーちゃん、ルカさん、セリーヌさん、ナディアさん、シルヴィアさんの6人でテーブルを囲っていた
ちょうど持ってきたケーキも足りたみたい

ふふ、ちょっとしたお茶会みたいで楽しい
だけど…


「できることなら、レイトさんにもお会いしたかったです…」

「ふふ、まぁほっときましょ。
どうせそのうち帰ってくるわよ。
それより最近どう?そっちは変わりない?」

「うん!
でも、私よりフーちゃん達の方がすごい事になってる気がするんだけど…
詳しく教えてくれない?」

「そうね~。
それじゃあ、私達が王都に着いてからのことから話していきましょうか」


☆☆☆


それから私はフーちゃん達からこれまでの冒険の数々を聞かされた

すごい!冒険譚を聞くのはやっぱり楽しい

…なぜかレイトさんはドラゴンに好かれてるのか、異状に関わり過ぎてるような気もするけど


「そういえばルイスはどうしたのよ?
あいつも誘うんじゃなかったの?」

「誘ったんだけどなんか今日予定あったみたいで…
ルイス君、妙にソワソワしてたよ」

「ソワソワと言えば、レイト君たちも変だったニャ。
ニャんかちょっとお洒落してたし…
少し問い詰めたら転移テレポートして逃げてったニャ」

「なんだと?
そこまでするほど焦っていたのかあいつは?」

「ふむ、もしかするとレイトさん達はに行ったのかもしれませんね」

「「「!?」」」


シルヴィアさんが片手で輪っかを作ってその穴に指を通してナニかを示した

えっ!?なになに!?
先程までのほんわかムードから一転、殺気が場を支配しだした!


「まさか…あの変態…!そういうこと!?
セリーヌ、王都でその…×××の店ってある?」

「交尾するお店ニャ?もちろんあるニャ。
たしか2区に有名な娼婦館があったはずニャ」

「ちょっと!
はっきり言わないでよ!…って2区!?」


セリーヌさんが答えた直後、さらに殺気が強まった


「どうやら我々の行き着いた予想は同じようだな…!
あれほど叱ったのに、マミヤ殿は懲りていないようだ」

「ああ…!
いつも寝床を共にしていながらなぜ私の方を…!
…じゃない、奴の女癖の悪さはいい加減治さなねばなるまい!」

「あんのアホンダラ!
ラムジー、ゴメンちょっと出かけてくるわ!」

「えっえっ!?フーちゃん!?」


そう言うと、フーちゃん、ルカさん、ナディアさんは部屋を後にしてしまった
フーちゃんはいつも怒りんぼだけど、なんか、ルイス君に向けるものとは違うような…


「あーあ。
レイト君が血祭りになっちゃうニャ。
可哀想そうに…んー、美味しいニャ!」

「そうですね。
まぁ、私達は気にすることではありません。
ラムジーさんから頂いたケーキを召し上がるとしましょう」


心配?する言葉とは裏腹に、セリーヌさんとシルヴィアさんはパクパクと私の持ってきたケーキを食べている

い、いいのかなぁ?


☆間宮零人sides☆


ルイス君が合コン用の料理とお酒を用意し終わった頃、コンコンと店のドアを叩く音が鳴った

…来たか!


「おっすー、マミヤ君!
お待ちかねの美女軍団だぞ~!」

「ハッハー!
どうやら到着したようだな、出迎えるか!」

「「おう!」」


☆☆☆


「いやー、ここまで遠かったよマミヤ君!
その分ちゃんと楽しませてよね?」

「ヘヘッ、任せろよ!
まぁまずはゆっくりしてくれ」


モネ達アルタイル生一行は、ここまで運行馬車で来てくれた
さすがにちょっと距離あったみたいだな、申し訳ない

彼女たちを丸太でできた長テーブル席へと案内し、ルイス君とリックは料理とお酒を運んだ

そして、俺たちも彼女たちの向かいに着席する


「それじゃあ軽く自己紹介といきますか!
俺は間宮 零人です!
特技はゲームと心理分析です!」

「ルイス・モルゲンだ。
この店のオーナーやってるぜ」

「リック・ランボルトだぜ!
趣味は筋トレと魔物狩りだ」

「わぁー!モネちゃんが言った通りね!
本当に黒い髪だわ!
ねぇ、ちょっと触ってもいい!?」

「えっ!?は、はいっ」


真ん中に座っている巨乳の人族のお姉さんからわしゃわしゃされてしまった
しかも彼女は男なら1度はお目にかかってみたいであろう、胸のラインがくっきりとでたニットセーターを着用しているお姉さんだ
自然と目線がその2つのたわわにロックされる

……最高かよ


「こら、リア、いきなりがっつくんじゃない。
彼女がすまないなレイト君」

「い、いえ!」


テーブルから身を乗り出した彼女の襟首を掴んで席に戻したのは、リックと同じ『蜥蜴人リザード』のお姉さんだ

随分とハスキーな声…
黒い革ジャン、口元にピアス…なんかパンクというかこちらの世界で言う、V系みたいな人だな

体つきは流石にリックと比べると線は細いが、筋肉や鱗の付き具合はしなやかにかつ丈夫に見える
この人ももしや冒険者なのだろうか?


「それじゃあボクたちも挨拶するね!
モネ・ラミレスだよ~。
知る人ぞ知る、美人で噂の『占術士フォーチュナー』とはボクのことさ!」


はっ倒してやりてぇ
けど、いつものローブじゃなく、ネイビー色のジャケットにショートパンツを組み合わせて普通にお洒落してきたみたいだ

…ま、まぁちょっとだけ、可愛いかもだけど


「私はヨハリア・マーベリックよ!
大学では『踊子士ダンサー』を学んでいてね。
将来はモネちゃんみたいに、色んなところへ巡業するのが私の夢なの!」


巨乳のお姉さんは『踊子士ダンサー』なのか!
そういえば王都の2区の劇場にそんな職業ジョブの人が居たかもしれない

職業ジョブ』とは何も闘うことが全てじゃない
商売に応用したり、創作に利用したりと様々だ


「ブリジット・レボルバー。
大学ではリアと同じく音楽を学んでいてな。
専攻は『歌手士ボーカル』だ。よろしく」

「『歌手士ボーカル』…
どおりであんた良い声してると思ったぜ!」


はは、リックはすっかり彼女が気に入ったようだな

…それにしても、アルタイル大学は『魔法』大学のはずだ
勝手に魔法使いがいっぱい居るイメージがあったけど違うみたいだ
職業ジョブ』を育てている教育機関なのか?


「おーし、全員の自己紹介終わったな?
乾杯しようぜ!」


☆☆☆


ルイス君が音頭を取って俺たちは乾杯したあと、お互いの暮らしや大学のことについて教え合いながら、ルイス君の用意してくれたおつまみに舌鼓を打った

やはり、俺は異世界からやって来たからか物珍しいようで、モネ以外の2人は何度もこちらの世界について聞いてきた

なかでも『歌手士ボーカル』であるブリジットさんは、俺の世界の音楽にかなり関心を示した

スマホの音楽アプリでロック調の曲をかけてあげると、なんと彼女は一度聞いただけで耳コピして、日本語だろうが英語だろうが完璧に歌い切ってしまった!

すげぇ…

さらに彼女は、風の魔法を少し加えてスマホの音を増幅させ、酒場を音響空間へ変貌させた
そこからはちょっとしたカラオケ大会になって、めちゃくちゃ盛り上がった


「♪♪♪~!!」

「すげぇ…!これが『歌手士ボーカル』…
俺のオキニの曲をカンペキに歌えてる…」

「おい、レイト!
こんなにバーが騒がしいのはホント久しぶりだぜ!」

「…………やべェ…惚れたぜ」

「良かったねリック君!
連れてきたかいがあったよ~」

「ブリジットったら、はしゃいじゃって…
でも、不思議な曲調ね!
彼女のためにあるような歌だわ!」


これが合コン…楽しい!


……………………………………………………


……しかし、俺も久しぶりに喉を使ったせいか少し疲れてしまった
ブリジットさんにアプリの使い方を教えたあと、外の空気を吸いに店を後にした


☆モネ・ラミレスsides☆


「♪♪♪♪~!!!」

「ヒューッ!!イカすぜェ!」

「ハッハー!
何回聴いても飽きねぇなブリジットの歌は!」

「ブリジットちゃん素敵よ!
ねぇ次、私にも歌わせて!」

「アハハ、みんなはしゃぎすぎだよ~」


マミヤ君がお店を出ていった後も、みんな休まずにずっと歌い続けている
ここまで来るのはちょっと大変だったけど、ボクの友達はすごく楽しそう

有言実行とはやるじゃん、マミヤ君

……彼はどうしたのかな?
なかなか戻ってこないけど

ちょっと様子見に行ってみようかな

ヨハリア君にひと言伝えて、ボクもマミヤ君の後を追いかけた


☆☆☆


えーと、マミヤ君はー…と
居た!

なんだ、お店の裏のベンチに居たんだ


「マミヤく…」


声を掛けようとしたが思いとどまる
マミヤ君の様子が変だ…


「う…ふぐっ…うう~…」


マミヤ君…?
まさか、泣いてる?
思わず隠れてしまった
ど、どうしたんだろう…


「うぅ…ぐぅ…」


マミヤ君はポロポロと大粒の涙を地面に零していた
口に手を当てて嗚咽を漏らしながら泣いている

…ダメだ、もう見ていられない


「マミヤ君…」

「はっ!?モ、モネ!?」


マミヤ君はビックリしてボクから距離を少し取った
慌てて右腕で顔を隠して後ろを向いた


「ど、どうしたんだよ?
さてはお前も一服か?」

「ふふふ、あいにくボクは自分の身体は大事にしたいからね。
煙草の類は嗜まないんだ。
マミヤ君もでしょ?」

「お、俺は実はヘビースモーカーなんだよっ!
分かったら早く店に戻れよ、煙吹きかけるぞ」

「ん~、ヤダ♡」

「あっ!?てめっ!?」


すばやくマミヤ君の隣に座って、無理やり顔を隠している腕を剥ぎ取る

すると赤く腫れた目元が露わになった
涙のあとがバッチリ頬を伝っている


「………何だよ、笑えば良いだろ?
大の男が号泣してみっともないって」

「ボク、そんなに酷い女に見えるかなぁ?
教えてよマミヤ君。
どうしてそんなに悲しんでいたの?」

「…………」

「…早く言わないとチューするよ?」

「はぁっ!?わ、分かった言う!
言うから顔近づけてくんな!」


素直になったマミヤ君はポツリポツリと語り始めた


「あの2人に俺の世界のことについてたくさん聞かれたろ?
それ自体はよくある事なんだけど…教えるたびに、俺が地球で暮らしていたことがどんどん『過去』になっていってる気がして…」

「マミヤ君…」

「やっぱり、元の世界のことを喋っているとホームシックになってくるんだよ…
そんで今、店の中はカラオケ状態だろ?
あの感じ…友達とワイワイ盛り上がるあの感じを俺は『懐かしい』って思っちまったんだ…!」


マミヤ君の眼に再び涙が浮かんだ


「俺は…!
もしかしたら、このまま地球に帰れないのかもって…!
それどころか、この星で死んじまうかもしれない…
ネガティブなことばかり考えてたら色々込み上げて来たんだ!」


ボロボロとマミヤ君の目元から雫が滴り落ちる


「どうだ、これで満足か?
あともうお前は…フグッ!」


マミヤ君の頭を、ボクのあまり大きくない胸に引き寄せ、そして、包み込むように抱きしめた


☆間宮零人sides☆


「マミヤ君、『占術士フォーチュナー』のボクが保証してあげる。
キミは必ず元の星に…地球に帰ることができるよ」

「…気休めなんかいらねぇ。
まだ魔王すら倒してないのに帰れるなんて…」


モネの慎ましい胸に顔をうずめながら、吐き捨てるように言ってしまった
ダメだ…今は感情がグチャグチャ過ぎて何を言ってきても否定しかできない…


「マミヤ君。
ボクの『夢』を教えてあげようか?」

「は、夢?」

「うん。ボクはね、この世界を飛び出して空のずっと向こうに…星を巡って旅をしたいんだ」


…!!
世界を…飛び出す…?
こいつは何を…


「ボクの家系は異世界からやって来た人の血が入っているって、前に教えたよね?
ボクは、ご先祖さまのルーツが知りたいんだ。
占いの力と『仮面遊戯ペルソナ』、この2つが本当はどんな力なのか…」

「…………」

「そしてボクはボク自身を占った。
星は、マミヤ君と行動を共にすれば、いずれそれは叶うって導きをくれたんだ」

「…何が言いたい?」

「分からない?
ボクが星を巡れる環境になっているということは、キミも星々を渡れる手段を得たということなんだよ」

「…あっ…」


それはつまり、将来的にルカは星と星を繋ぐためのエネルギーを確保したということなのか…
それとも…

ギュッ

「モ、モネ…?」

「キミとボクは、近いうちに必ずこの星を旅立つ日がやってくるよ。
だから、どうかボクの占いを…ボクを信じてほしい」


モネは俺の頬に両手を添えながら優しく微笑んだ

……ズルい
そんな言葉…そんな表情《かお》…ズルすぎる…!!

3度みたび、涙が込み上げてきた


「うぅぅ…!!!ああ…!!」

「よしよし…
これから一緒に頑張ろうね、マミヤ君」


俺はその後泣き続けた
モネの胸元で…涙が枯れるまで、ずっと、ずっと、ずっと…

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