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第26話:占術士のお仕事

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 『占術士フォーチュナー』モネ・ラミレスと邂逅してから1週間後、俺とルカはようやく彼女からお呼び出しを受けた。

 呼び出しまでの日数がかかったのは、モネ曰く出張した分、大学の授業の遅れを取り戻すためらしい。

 アルタイル大学も単位制なのだろうか?
1週間程度で遅れって取り戻せるもんなのかね…。


 てか、俺の場合は1週間どころか、ふた月以上も音沙汰無しでこの世界に迷い込んでしまっているから、下手したら留年…最悪退学になってしまうかも…。
仮に帰れたとして、元の生活を送れるか不安だなー。


「どうした零人?浮かない顔をしているが…」

「ん、いやなんでもない。
それより、待ち合わせ場所はホントにここで合ってるのか?
あいつ中々来ないけど…」

「そうだな。
まったく、時間にルーズな奴は困ったものだ」


 俺たちは現在、モネとの待ち合わせで3区にある公園のベンチに座っている。

 公園と言っても、鉄棒やブランコなどの遊具があるいわゆる子供たちが遊ぶような場所ではなく、大きな噴水を中心に花壇や木々が生え茂っていて緑が溢れる所だ。

 通行人を見てみると、ペットと思われる小型の魔獣を散歩している人や、家族連れ、手を繋いで歩いているカップルなどが花を愛で楽しんでいる。


「しかしさー、なんだってわざわざこんなのどかな公園を指定したんだろな。
あいつ、ブルー・ベル知ってるんならそっちでも良くね?」

「まぁ良いではないか。
私はこの公園を気に入ったぞ。
この姿で一緒に歩いていると、零人の小説にあったような『デート』を体験している気になれたからな」

「る、ルカ?」


 俺が愚痴をこぼすと、ルカは俺の手に細い指を搦めながら肩をくっつけてきた!

 なに!?

 最近ルカはこんな感じで妙にボディータッチが多い…
そんなにベタベタされたら、俺だって変な気に…!


「こらー!!!
抜けがけはダメって言ったでしょ!!」

「「!?」」


 突然ベンチの後ろの草むらからフレイが飛び出してきた!


「フレイ!?なんでここに!?」


 俺が訊くとフレイはハッとして再び草むらに潜った。
いやもう見えてるから。


「チッ…妙に馴染みのあるエネルギー反応が付きまとってると思ったが、やはり君だったかシュバルツァー」

ブン!

「きゃっ!」


 俺とルカは立ち上がって、ベンチを空けた所にフレイを転移テレポートさせた。
気づいてたのかよ!
ため息をつきながらフレイに問いかける。


「なんで俺たちを付けてきたんだ?
お前今日はセリーヌ達とクエスト行くんじゃなかったのか?」

「そ、それはその…色々と、心配というか…」

「心配?」

「君が危惧するような事は、特に何も無いぞ。
安心しろシュバルツァー。
…分かったら早くモービル達の所へ戻れ」

「どの口が言ってんのよ!
さっき良い雰囲気だったじゃない!」

「あっ!やめろフレイ!」


 フレイがルカの頬をびろーんと左右に広げた。
前も同じことしてなかったっけ?


「ひ…ひみはいふもいふも…!(き…きみはいつもいつも…!)
ほんはにわらひのはおはにふいは?(そんなに私の顔が憎いか?)」

「はひっ!?
はにふんのよ!(何すんのよ!)フハ!(ルカ!)」


 ルカも負けじとフレイの頬を引っ張って応戦した。
…良い歳して何やってんだコイツら。

 ていうか周りの人からジロジロ見られて恥ずかしいんだけど!


「2人ともこんな子供みたいな喧嘩すんな!
いいから離れろ!」

「「ふるはい!!(うるさい!!)」」

ボゴッ!

「ぐえっ!!」


 彼女たちからダブルナックルを貰ってしまいぶっ飛ばされた。


「いちち…ったくアイツら…ん?」


 吹っ飛ばされたあと仰向けのまま目を開くと、水色のT型の布が見えた。
いや…これって…!


「朝からお盛んだね~。
そんなにボクのパンツ見たかったの?」

「モネ!?」


 パンツの主はお待ちかねの天パ女だった。
ちょうど俺の頭の所でしゃがみこんで、スカートの中をわざわざ見えるように待ち構えていた。

 まさかコイツ…!

 モネはすうっと息を吸い込むとわざとらしい大きな声で叫んだ。


「マミヤ君のエッチー!
そういうことは誰も居ない所でって言ったでしょー!」


 やりやがった!

 恐る恐る身体を起こしてルカとフレイに目をやると、とんでもない形相になっていた。


「毎度毎度、懲りないわねレイト…?
そんなに私の拳が気に入ったのかしら?」

「やはり君はいちど、大気圏外から落とさなければその女癖の悪さは治らんようだな?」


 ポキポキと拳を鳴らしながら2人は歩み寄ってくる。

 嗚呼…やはり俺は、異世界で女の子にとことん殴られることを神様に運命づけられたんだな…。

 ……つか天パ〇ね。


☆☆☆


「アハハハ!遅れてゴメンね2人とも!
実はワザと遅刻したんんだー」

「ワザとかい!
また星の導きとか言うんじゃないだろうな?」

「ん?そうだよ?
おかげでまた修羅場コメディ見れたからめっちゃ面白かったよー!」

「てめー!!」

「ほら、暴れないの」


 ケラケラと笑うモネに掴みかかろうとした瞬間、フレイに羽交い締めにされた。
は、離せ!


「落ち着くのだ零人。
要するに、この茶番劇は君が作った…いや『予知』していたというところか」

「うん!マミヤ君っていつもこんな感じで不幸な目に合ってるみたいだし、絡めば絡むほどおもしろい人だね!」

「ぐぬぬぬぬ…!」


 かつてフレイと『婚儀の刃ウエディング・ダガー』で揉めた時以上に、俺の中で怒りの炎が燻っていた。
この女、人をおちょくりやがって…!

 オホンと咳をひとつ打つと、モネは話を切り出した。


「それで、仕事の話に移りたいんだけど…
フレデリカ君も手伝ってくれる感じ?」

「えっ…い、いいの?」

「うん。元々ボクはマミヤ君に助手を頼みたかっただけだしね。
依頼人の素性さえ秘密にしてもらえれば、他の人は誰でも構わないよ」


 なんだよ、それならセリーヌ達も巻き込めば良かったかな。
てっきり人選は厳しいのかと思ったぜ。


「そ、それなら…でもなんでレイトなの?」

「それはヒミツ♡ねっ、マミヤ君?」

「いや『ねっ』じゃねぇよ。
俺も知りたいくらいなんだけ…ちょちょちょ待てフレイ、拳を握るな」


 どうやらモネは、いかにも思わせぶりに言うのが好きなようだ。
うん、俺の嫌いな女の性格第1位だわ。
ルカがため息をつきながらフレイの肩に手を置いた。


「シュバルツァー、ラミレスがひとこと何か言う度に零人を殴っていては話が進まん。
続けてくれ」


 あなたも殴ったんだけどね。


「それじゃまず、依頼人さんの所へ向かおうか。
移動しながらボクの魔法と、大まかな仕事の流れを説明するよ」


☆☆☆


 依頼人のいる目的地までは、そこまで遠くないようで、公園のエリアに居るようだ。
俺たちは歩きながらモネの説明を聞いた。


「初めて会った時にも言ったけど、ボクは星の導きによって占いを行うんだ。
この世に存在する全ての星には、意思がある。
もちろん、ボクらが生きているこの星もね」

「『意思』とは?
自我があるということなのか?」

「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。
明確な姿とか言葉は無くて、一種の蜃気楼に近い存在かな。
キミなら何となく理解できるんじゃない?
星の宝石スター・スフィア』のルカ君」

「「「!!」」」


その名前は…。


「もしかしてあなたもその絵本を読んでたの?」

「うん!まさか本物に会えるとは思わなかったけどね~。
それにお兄さん…だっけ?紅の宝石の。
彼にも会ってみたいなぁ」


 モネが空を見上げて願い事をするかのように手を組んで言うと、フレイは少し嬉しそうな表情を浮かべた。


「ふ、ふーん…
そう、あなたも読んでたんだ…」


 そういえばフレイとラムジーは初めてルカと会った時、めっちゃ喜んでたな。
意外とこの世界にファンがいるんだなー、ルカさんは。


「…せっかくなので、君にも教えておこう。
私の本当の名称は『翔の宝石ジャンプ・スフィア』。
兄の名は『撃の宝石パワー・スフィア』だ。
星の宝石スター・スフィア』自体については詳細不明だが…」

「へぇ!その話、詳しく聞きたいけど、今はお仕事中だからね」


 フレイが話の腰を折ったのを修正しながら、モネは続ける。


「それで肝心の魔法だけど、ボクは星と『交信エンボワ』を行えるんだ。
依頼人から占いたい内容を星に伝えて、回答が返ってきたら、できるだけ依頼人に理解できるように言葉で説明する。
意外とけっこー難しいんだよ~」

「『交信エンボワ』って…たしか究極魔法のひとつじゃなかったか?」


 ガルドの授業で魔法を学んでいる時に耳にした単語だ。
魔法の授業はとても面白かった。

 …まぁ俺は魔力マナが無いから、実習の時は他のガキンチョ共が魔法を使っているのを指をくわえて眺めていたけど。

 フレイの方を見ると首を縦に振って肯定した。


「ええ、その通りよ。
何キロも離れた場所ですら、人と人を繋げて意思の疎通を可能にする魔法…
まったく、何で私の周りにはこうも究極魔法を扱えるヤツばっかりなのかしらね」


 たしかにナディアさんや王様、イザベラも使っていたな。
でも正直、『交信エンボワ』に関してはあまりすごみを感じられなかった。
だってスマホとネット使えれば通話できるし…。


「そして、回答を伝えた時の依頼人の態度によってそこからの展開は変わるんだ。
ちょっとでも、心の中で不信感を抱いてしまうと、星はそれを察知して怒ってしまうんだよ」

「なるほど…先のランボルトのように、『不幸』な目に遭ってしまうのだな?」

「うん、その通り!
ところで、ボクが指示した物は持ってきた?」

「ああ、武器と薬だろ?
なに、やっぱりこれが必要なくらい物騒な『不幸』が起こるってこと?」

「ちょっとした勘だよ。
占術士フォーチュナー』やってるとこの勘は大事になってくるんだ」


 モネからは前日に手紙で巡業の報せと、この2つの持ち物を指定してきた。
まるで、討伐クエストに行くような装備じゃないか。
イヤな予感がする…。


「さて、説明が終わったところでちょうど着いたね。
ここが目的地の場所だよ」


 モネが立ち止まったその先には小さなボロ小屋が鎮座していた。
まさか、依頼人ってこんな所で暮らしてるのか?

 するとモネはノックもせず、いきなりドアを開けてズカズカと侵入した!


「さぁ、みんなも入って入って」

「ちょ、お前、人様の家にこんな…」

「違うから。いいから入ってきてよ」

「行こう、2人とも」


 ルカに促され、しぶしぶ入るとそこには……


「誰も居ないじゃない?
というか何も無いじゃない」

「ふふふー。
まぁ、焦らないでよフレデリカ君」


 モネは端の方に移動して、床の板を掴むと横にスライドさせた。
すると、中には鉄でできたプレートのようなものが見えた。


「おお…そんなギミックあったのか。
その鍵穴みたいなのはなんだ?」

「『みたい』じゃなくて鍵穴だよ。
さて、これに…」


 ゴソゴソとローブのポケットから束になった鍵を取り出すと、ひとつ選んで穴に差し込んだ。


「『解錠アンロック』」


 その魔法はセリーヌが使っていたやつの…?
ガチャリ、と音が鳴り、鍵穴のプレートが動き出し、さらにスライドした。
そして、地下へ続く階段の入口が現れた。


「ええっ!階段が…こんな仕掛けだったの」


 なんだこの隠し扉!?
不覚にもちょっとワクワクしちゃったじゃねぇか!


「この先に依頼人さんは待っているよ。
行こうみんな」


☆☆☆


 階段を降った先は水が通っている巨大なトンネルだった。
中央のラインに水が流れ、両端に人が歩く歩道が設けられている。
うん、香ばしい香りがするしここは下水道なのかも…。

 今日は浴室の温かいシャワーで念入りに洗おう。


「まったく、ひどい場所に待ち合わせてくれたものだわ。
ニオイが髪に付いちゃいそう…」

「同感だ。
もしここで暮らしているとしたら気が知れんな」


 パワフル女子なふたりは愚痴を零している。
さすがにこれはキツいよな…。


「大丈夫、早く終わったらキミたちに『洗浄ウォッシュ』してあげるよ♡」


 モネは手でこちょこちょするような仕草を見せて提案してきたが、絶対くすぐりまくって楽しむ気だ。


「ちょっと!
ルカには別に良いけど、レイトはダメよ!
私の役目なんだから!」

「私も宝石スフィアの形態で、零人に綺麗にしてもらえればそれで構わないのだが…」

「おやおや?
キミたちって結構やることやってるんだねー。
身体の洗いっこなんていやらしいっ」

「いやらしくねぇよ!
ただの生活魔法だろ!?」


 ていうかルカもただ布で拭きあげてるだけだし!

 騒ぎながら歩き続けること数分後、前方に人影ひとつが見え始めた。


「ようやく依頼人さんだね。
さーて、お仕事お仕事」


☆☆☆


 依頼人は中年の男だった。
カウチン帽を深々と被り目元はあまり見えない
あれ、この人どっかで見たような…?


「アンタが『占術士フォーチュナー』かい?
今日はよろしく頼むぜ」

「うん、よろしくねー。ところで…」

「皆まで言わなくても良い。
ちゃんと用意してある」


 男は背負っている荷物を降ろし、金がぎっしり詰まった袋を手渡した。
するとモネはお金を律儀に数え始めた。
…やっぱり金のことには徹底してんだなこいつ。


「うん、約束通りの金額だ。
たしかに承ったよ」

「そうかい。
それならすぐ占いに入ってほしいところだが…。
そこの3人は誰なんだ?」

「ボクのボディーガード兼、助手くん達だよ。
大丈夫、キミの秘密は厳守するから」

「…まぁ、いいか。
それで占いたいことなんだが…」


 男の話を要約するとこうだ。

 最近、5区にある喫茶店に気になる店員ができたらしい。
しかし、その子と男の年齢は離れているに加え、自分のルックスにまったく自信が持てない
この先、どういう行動を起こせばこの恋は実るのか…といった具合だ。

 ……まさか、これって…!

 フレイも同じ結論に至ったのか俺とルカを端に呼んで小声で話してきた。


「ね、ねぇ。
この気になる店員ってもしかして…」

「ああ。十中八九、セリーヌの事だろうな」

「待て、それならば何故あの男は一緒に働いていた私たちに気づいていないのだ?
先程しっかり目は合ったはずだが…」

「多分だけど、恋は盲目ってやつじゃないか?
思い出したよ。
あのおっさん、セリーヌに釘付けだったぜ」


 服装は違うが、帽子は同じだった。
もっとも、他にもセリーヌの虜になった男どもはたくさんいたけど。
もしかして、年齢はセリーヌに近いんじゃね?


「ふむふむ、おっけー!任せて!
それじゃあ占ってみるよ」


 モネは懐から以前セリーヌとリックを占った時と同じ水晶玉を5つ取り出した。


「『予知フォーウィス』」


 円を描いて水晶玉が空中を廻る。
数分後、それらはモネの懐に戻って行った。


「占いの結果が出たよ。
聞く準備は良いかい?」

「(ごくっ)。ああ、聞かせてくれ」

「まず、王都の床屋さんに行ってそのハゲ散らかった髪を整えてもらおう!
そしたら次は…」

「な、な、な…!!てめぇ!
俺の頭髪の情報をどこから得やがった!?」


 男はモネの言葉を遮り、激昂して飛びかかった!
あいつ、もっとオブラートに言えねぇのか!?

 仕方ない…仕事するか。
右手にエネルギーを集める。

ブン!

「なに!?今何が起き…ゲフッ」


 フレイがおっさんの腹にボディーブローを食らわせ、気絶させた。
いや、何してんのお前?


「えーと、フレイ?」

「なによ」

「いや、何で殴ったお前…」

「騒がれても面倒だったしね。
こうした方が早いと思ったのよ」

「………」


 やっぱりコイツは置いてきた方が良かっただろうか。
危険すぎる女だ。


「あーあ。やっぱりこうなっちゃったかー。
みんな、覚悟しておいてね」


 モネが心底残念そうに言うと、俺の側にやってきた。


「あー、これから『不幸』な事が起こるの?
まだ何も無いみたいだけど…」

「うん、多分そろそろじゃないかな?」

ザブン…

 モネがその言葉を言った直後、いきなり中央のラインにある水の流れが激しくうねり出した。
ほぼ同時にルカの表情も一変する。


「零人!シュバルツァー!
後方100メートル先より高エネルギー反応が急速接近!
戦闘の準備をしろ!」

「ええっ!?な、何が来るって言うのよ…」

「分からんが…おそらくかなり強い。
最悪、逃げることを優先するぞ」

「水に生息している魔物だろ?
ここに居れば別に襲ってこないんじゃあ…」

「来たぞ!!構えろ!」

ドォン!!

 俺の希望的観測を裏切るかのようにそいつは水の中から姿を現した。

 空中に飛び上がり、しなるような五肢と碧色に煌めく鱗を見せつけながら、背中にある2対の翼でホバリングを開始する。

こ…これ…コイツは…!


「ギャオオオオオオン!!!!」

「ドラゴンじゃねぇかぁぁぁぁ!!!!」





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