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第20話:融解《メルトロ》

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☆間宮零人sides☆


「『融解メルトロ』」


ルカがそう呟くと、髪の毛が掛かるくらいに近づき、俺の唇に柔らかい感触を押し当てた

これ…キ…キスされてる…?

何が起きたか理解を始めた瞬間、ルカの身体が蒼のエネルギーと化し、俺に『融けていく』のを感じ取れた

トポン…

あれ…『同調シンクロ』じゃない?
あれよりも、深く…もっと身体の奥深くに浸透してきている

長いような短いような時のもと、俺たちは融け合い、ひとつになった

ボン!!!

俺の身体から蒼のエネルギーが爆散した

…違う
ルカと『同調シンクロ』した時と、全然感覚が違う
蒼のエネルギーが身体の奥底からどんどん湧いて、頭の中も随分とクリアだ

そしてなによりも違うのは…
俺は


「レ、レイトなの?その髪…」

「ニャア…」


フレイとセリーヌが呆気にとられてポカンとしている

髪?
手で触ってみると、以前と髪型が変わっていた

肩の辺りまで髪が伸びている
そういえばさっきのルカ?の髪型もかなり長かったし、その影響か?


「零人。私の声は聴こえるか?
敵性魔族、『吸血鬼ヴァンパイア』イザベラを撃破する」


ルカの透き通った声といつもの台詞が頭に響いた
けどその瞬間、思わず彼女にまくし立ててしまった


「ああ…ていうか質問だらけなんだけど!
何さっきの人間形態!?
何であの女あんなモンスターなってるの!?
つうか、お前さっき俺にキス…」


「落ち着け零人。
ここを切り抜けた後に全部説明してやる。
今は目の前の敵に集中するんだ」


ルカは持ち前のクールな言動で俺を諌めた


「いいか?
この『融解メルトロ』はいつもの『同調シンクロ』とは違う。
より高機動、より立体的、より攻撃的な戦術が使用可能だ」

「…ああ、なんか俺空中に浮いちゃってるしな」


なんとも不思議な感覚だ
足が地面についていないのにも関わらず、姿勢が安定している…
地面に『落ちる』という感覚がない
人が土を踏んで歩くのと同じように、行きたい方向に空中を飛べる


「ころスコロすころすコロスコロす!!!!」


バキバキバキバキ!

異形化したイザベラは欠損した右腕を生成した骨で補い、歪な巨大包丁を形作った
エグすぎる…


木偶でくが…零人、敵の攻撃は必ず避けろ。
この形態は高機動なぶん、耐久力は『同調シンクロ』より弱い」

「言われなくてもあんなの食らいたい奴なんていないよ」


右手に俺のファルシオンを転移テレポートさせる
それに合わせて、シルヴィアが俺の傍に来た


「レイトさん、ルカさん!
吸血鬼ヴァンパイア』は光属性の魔法が弱点です!
ですがあれほどの巨体となると、通常の魔法では効果が薄いでしょう」


なるほど…
俺も先ほどから眼にエネルギーを集中させて観察しているが、全然脆弱性のポイントを確認できない
あの分厚い肉のせいだろうか?

シルヴィアは魔導杖を前に突き出し、キィィンと魔力マナを練り上げ始めた


「これから私が特大の光魔法を『詠唱』します!
魔法が完成するまで時間を稼いでください!」

「了解だ。零人、ゴードンを援護するぞ」

「ああ!」

「矮小な人間ドモ!蹴散らシてくれル!!」


そしてイザベラとの決戦が始まった


☆☆☆


「作戦開始。
奴にゴードンの事を気取られてはダメだ。
周辺の環境を利用し、できるだけ攻撃を引きつけろ」

「あいよ!」


部屋中に設置してある燭台付きの柱を数本イザベラに向けて転移テレポートさせる

ドゴドゴドゴ!!!

「ギャアウゥ!!…なメるナ若造!!!」


右腕の包丁を俺にめがけなぎ払ってきた
巨体のわりに意外と速えじゃねぇの!

ブン!

転移テレポートして躱し、イザベラの顔に設置した座標から出現する


「でりゃあああ!!!」


ファルシオンを両手で握り、身体を回転させ顔面に連続で斬りつける
…!?こんなに速く身体を動かせるのか!


「アアアァァ!!!
こノ…ニんゲン…がぁ!!」

ブオッ!!

顔を左手で押え悶えると同時に、包丁を振りかぶった
ん…?動体視力も上がってる…?
包丁の動きがよく見えるぜ!


「こっちだよマヌケ!」

ドゴ!!

転移テレポートを使わず、前方に移動しながら体を捻って躱し、後ろから追加の柱をおみまいさせた


「がァァァァァァ!!!
なゼ…ナゼあたラん!?」


へっ、すっかり頭に血が上ったようでなによりだ
おかげでシルヴィアから視線を外させることができた
それにしても…


「最初、あいつに斬りかかった時は素手で弾かれたのに、なんで今の攻撃は効いたんだ?
これ、同じ武器だよな?」


ファルシオンを見るが、たしかに俺がスタンリーさんとこで買った武器だ

「それも『融解メルトロ』の効果だ。
私の兄の『撃の宝石パワー・スフィア』程ではないが、身体能力をある程度底上げし、蒼の力で武器を握ればあの程度のコウモリなど容易く切り裂ける」

「へぇ!結構便利な能力だな!」


俺が関心していると、イザベラが左手の指をバチン!と鳴らした


「屍ドモ!こいツらを八つ裂キにしロ!」

屍人起こしネクロズマ』か!
再び部屋中にわんさかアンデッドが湧き始めた!
くっ!?まずい!シルヴィアが無防備だ!


「『3点バースト・雷光射ライトニングショット』!」

「『鉄線掴みワイヤー・スナッチ』!『分解オーバーホール』!」


フレイが雷属性の矢を3方向に撃ち、セリーヌもワイヤーを使ってアンデッド共をバラバラにした
2人ともシルヴィアの傍に立ち、アンデッドを迎撃するようだ

あいつら…


「レイト、ルカ!こっちは任せなさい!
あんたはイザベラに集中して!」

「ニャ!あたしが闘える『盗人シーフ』ってことを思い知らせてやるニャ!」

「どうやらゴードンの方は二人に任せても良さそうだな。
私たちは奴に集中するぞ!」

「了解!!」


ファルシオンを握り、再びイザベラへ突撃した
頼んだぜ2人とも!


☆シルヴィア・ゴードンsides☆


レイトさん達が時間を稼いでくれているおかげで、もうじき魔法を完成させられる

もう少し…もう少し…!


「ああもう!キリがないわね!
シルヴィアまだ!?」

「*******(スッ)」


フレデリカさんが訊いてきたが、詠唱中のため口頭で答えることができないので、人差し指と親指を近づけてジェスチャーで伝えた


「こノ虫ケラどモめ…!
ムッ!?ソノ魔法は!?」


吸血鬼ヴァンパイアの首がこちらに向いた
いけない!
私の魔力マナの気配に気づかれてしまった!
あと少しなのに…!


「フレイちゃん!まずいニャ!
あいつこっち来るニャ!」

「くっ!?レイト!」

「分かってるよ!オラぁ!」

ドゴ!ドゴ!ドゴ!

レイトさんが柱を転移テレポートさせ、吸血鬼ヴァンパイアにぶつけるが、意に介さずこちらに突進してきた


「ソレを消セぇぇぇ!!!」

「クソ!止まれよ!」

「レイト!?
そいつを転移させて向こうへ飛ばせば良いじゃない!」

「こんだけデカいと無理だ!
重すぎんだよこいつ!」

「何ですって!?」


吸血鬼ヴァンパイアはなおもこちらへ向かってきている
…もうこうなったら、威力は落ちてしまうけどこのまま撃ち出すしかない!

魔導杖を敵に向けた時、セリーヌさんが正面に立った
何をする気ですか!?


「セリーヌ!?何してんの!
シルヴィアを連れて逃げるわよ!」

「………」

パァァ!

フレデリカさんが叱るのと同時に、セリーヌさんの身体が光に包まれ、銀色の毛並みの獣に変身した
…あれはまさか…!


「隠しててゴメンなさいニャ。
シルヴィアちゃん。
だけど、シルヴィアちゃんはあたしが必ず守るニャ!」


妖精猫ケット・シー』!?
彼女はガトー族ではなかったというのですか!?


「『鉄線拘束ワイヤー・バインド』!
ニャアアアアアア!!!」

ヒュッッ!!

セリーヌさんは目にも止まらぬスピードで吸血鬼ヴァンパイアに突っ込み、ワイヤーを巨大な両脚にぐるぐると巻き付けた

両脚を封じられた吸血鬼ヴァンパイアはバランスを崩し、ドオオンと床へ転んだ!

す、すごい…


「グウ!?キサま…『妖精猫ケット・シー』ノ分際で我に抗ウか!」

「レイト君を苦しめた痛み、少しはお前も味わえニャ。
麻痺アネスト』!」

「グアアァァァ!!!」


ワイヤー伝いに雷属性の魔力マナが送られる
あの魔法は本来、敵の動きを一時的に止めるだけの効果のはず…
だけど、確実にダメージを与えている…
…もしや『妖精猫ケット・シー』の力でしょうか?


「*******!」


セリーヌさんのおかげで魔法を完成させられた!
しかもちょうど、吸血鬼ヴァンパイアは動きを封じられている!


「『輝火砲ルミナス・カノン』!!」


私の魔力マナを凝縮させた光属性の『砲弾』を吸血鬼ヴァンパイアへ撃ち出す

お願い、当たって!


「ムゥ…!オオオオ!!!!!」

ドン!!

吸血鬼ヴァンパイアは自らに、骨で形成した巨大な塊を激突させ、身体の位置をずらさせて攻撃を躱した

そ、そんな…!


「よく頑張ったセリーヌ!うおらぁぁ!!」

ブン!

レイトさんが『輝火砲ルミナス・カノン』を転移させくれた!
あ…いや、あの位置では…!


「クソ!
もっと近距離に座標を置くんだった!」


転移先が吸血鬼ヴァンパイアから若干遠く、あれでは再び躱されてしまう!

そしていつの間にか、セリーヌさんの拘束も右腕の包丁で解いていた


「ゴミムシドモ!もうイイ。
こうナレば、コノ屋敷ごト潰しテ…グッ!?」


動き出そうとした巨体は再度動きを止めた
足元に誰かいる…リック!


「おう、さっきはよくもオレの腹に食らわせてくれたなァ?
おかげで派手にゲロっちまったぜ」

「は、離セ!!」


脚を掴んでいるリックをたたっ斬ろうと、包丁を振り下ろした!

危ない!!


「オレはやられたらァ、必ず100倍にして返すんだよォ!『竜式回転投げドラグ・スイング』!」


ブォン!

リックはその場で脚を持ちながら回転し、自分の何倍もある巨体を軽々と投げ飛ばした!
その先は…『輝火砲ルミナス・カノン』だ!


「ウ、ウアアアアアアア!!!!!」


吸血鬼ヴァンパイアは光に呑まれ、塵となって消えていった…


☆間宮零人sides☆


「敵エネルギー反応消失。作戦成功だ」

「や、やった!倒せた…」


安堵感からか気が抜けた
するとゆっくりと地面に向かって身体が沈んでいった
やがて地面に尻もちをつく


「『融解メルトロ』解除。零人、よくやったな」


すうっと、身体から蒼のエネルギーが抜け、俺の後ろに人間となったルカが現れた
ちょうど俺と背中合わせになった


「今回は皆の力のおかげだよ。
もし誰か一人でも居なかったら負けてたぜ」

「ああ、そうだな。
良いチームワークだったぞ」

「レイト!」


声のした方向に顔を向けると、フレイが走ってきた
他のみんなは歩きながらこちらに向かってきている
やっぱりフレイは体力あるな…
さすがフィジカルゴリラ


「よぉ、おつかれさん。怪我してないか?」

「ええ、大丈夫よ…
それよりも私、やらないといけない事があるわ」

「ん?」


フレイはルカの正面に移動ししゃがみ込んだ
そして何故か彼女の両頬をつまんだ

ビローン

「いひゃいのらは?(痛いのだが?)
ふはるはー(シュバルツァー)」

「あんた…
何レイトとキスしちゃってるのよ!」


あっ!!
そうだ!
俺も色々と聞かないといけないことあった!


「……先程の『融解メルトロ』を発動させるには契約者の心により深く、私を刻み込ませる必要があったからな。許せ」

「だ、だからって…!
よりによってキスなんて…!」


何故かフレイは納得いかないようで、ルカの頬を何度もビローンと引っ張っている

次は俺の番だ


「ほら、フレイ。
勝てたんだからキスの1つくらい別にいいだろ?
それでルカ、俺も聞きたいんだが…そもそもなんでルカさんはその…人間?になれたの?」

「よくな…モゴゴっ!?」


フレイの口元を手で抑えて疑問を投げる
何とこの質問を伝えれば良いか分からず、変な文になってしまった
するとルカは少し困ったような表情で答えた


「私もつい先程思い出したばかりなので、正直説明しにくいのだが、宝石スフィアは感情を爆発させ覚醒すると、このような形態に変身できるのだ。
元の宝石の形態になることも可能だぞ」

「マジか!?
…ってことは、ルカの兄弟ってみんな人間ってこと?」

「いや、契約者の種族によって形態は変わる。
もし、仮にモービルと契約していたとすれば、私の今の姿は『妖精猫ケット・シー』となっているはずだ」


と、とんでもねぇ…!
人間や魔物にも変身できるのか宝石スフィアって…


「でもなんで契約者によって姿が変わるんだ…?」


独り言のつもりだったが、ルカはそれに反応した


「分からないのか?」

「え?う、うん」

「本当に?」


ずいっと切れ長の目を細めて、端正な顔を近づけてきた
え、何か少し怒ってる?


「だから分からないって…教えてくれよ」

「………嫌だ、自分で考えるのだな」

「ええ!?」


プイッとそっぽを向き、身体をエネルギー体にさせると、元の宝石の形態へ戻った
何で怒ったのだろう?


「レイト君!」


お、セリーヌ達も来たな
シルヴィアとリックも大事なさそうだ

俺たちはその後、互いの無事を喜び、屋敷を後にした


☆☆☆


転移で森に繋いでおいた、クルゥ達の元へ戻り装備をクルゥのバッグにしまっていると、フレイがこんなことを言ってきた


「そういえばあのイザベラってやつ、『迷宮主ダンジョンマスター』じゃなかったのかしら?
アンデッドは減ったけど、屋敷は元に戻らなかったわよね?」

「たしかに…あの強さなら確実に『迷宮主ダンジョンマスター』でもおかしくはないですが、もしや他のエリアにいたのでしょうか?」


うーん…と女子ふたりが悩んでいると、突然セリーヌが大声をあげた


「ニャアアア!!!
しまったニャ!忘れてたニャ!」

「ど、どうした銀ネコ?」


セリーヌが頭に手を置いてわなわなしている


「クエスト!そもそもあたしたちは『吸血鬼ヴァンパイア』の討伐じゃなくて、落としたネックレスの回収の依頼でここへ来たはずニャ!」

「「「あ…」」」


フレイ達がやっちまったという顔になっている


「ど、どうしましょう?
もう1回戻って探しますか?」

「おいおい、あの戦闘で部屋ん中ガレキだらけだぞ?
そんな中から見つけられるわけねェ」

「で、でもこのままノコノコ帰ったらギルドからお笑い者ニャ!」


ズーンとみんな雰囲気が暗くなってしまった
やっぱり忘れてたか


「やれやれ、零人。
そのポケットに入れてる物を見せてやれ」

「ああ。ほら、これなーんだ?」


チャリンと手にネックレスを掛けて皆に見せつける


「ニャア!それ依頼のネックレスニャ!」

「あんたいつの間に回収してたのよ!?」

「さすがですレイトさん!」

「やるじゃねェか!黒毛!」


皆から絶賛の嵐をもらった

実はルカと『融解メルトロ』して戦った際に、イザベラの近くに落ちていたネックレスを見つけ、ポケットに転移しておいたのだ

さすがにルカにはお見通しだったみたいだけど


「これで安心してギルドに報告できます。
私が依頼報告をしますので、皆さんは酒場で待っていてください」

「おっけー…あ、わり。
俺とルカは後で合流するわ」

「どうしてよ?」

「王様にこの付近に魔王の部下が潜んでたことを一応報告しといた方が良いと思ってな。
ナディアさんに取り次いでもらってくる」

「それなら私も…」

「いや、ちょっと報告するだけだから俺たちだけで充分だ。
先に待っててくれ」

「そ、そう…」


フレイは寂しそうに荷物をクルゥに載せた
まったく、たまに変なところで寂しがり屋になるんだからこのデカエルフは


「全員の積み込み終わりましたニャ!
ルカ隊長、お願いしますニャ」

「なんだモービルその口調は…?
…まぁいい。皆、私の近くへ来てくれ」


ブン!

そして長い闘いを終え、俺たちは王都レガリアへ帰還した
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