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第47恐怖「みーつけた!」
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体験者:カカシシさん
まだ幼い頃の話だ。
私たち一家は、田舎にある母方の実家で休暇を過ごすことがあった。広々とした古い日本家屋で、私は外よりも家の中で遊ぶことが多かった。とくに、兄とかくれんぼをするのが楽しみだった。
私は隠れるのが大の得意なのだが、兄は探すのが大の苦手。だからこそ、私はいつもかくれんぼを提案し、そして、無理やりに兄を探す役にまわらせる。それが常だった。
ある日、いつものようにかくれんぼをして遊んでいた。もちろん兄が鬼。
私は押し入れの下側に潜り込み、布団の間に身を潜めた。ちょっと息苦しく、時間がたつと汗だくになるほど暑かったが、活発な子どもだった私には、さしたる問題でもない。
しばらくして、離れたところから兄の声が聞こえてきた。
「みーつけた!」
私は口をおさえながらクスクスと笑ってしまった。というのも、見つけてないのに見つけたフリをするのは、兄のよく使う手だったからだ。そうして私が自ら出てくるのを待つのだ。いまさらそんな手には乗らない。
「おい、もう見つけたって言ってんだろ、はやく出てこいよー」
兄はすでに探すのが面倒になっているようだった。
しかし、ここで出ていくと、まんまと罠に引っかかったと囃《はや》されるのは目に見えている。私は布団にくるまって身を小さくしたまま、その場を動かなかった。
やがて、兄が私を探しまわっているなか、なんだかまぶたが重くなってきた。押し入れの中の暗闇加減と、それまでの遊んでいた疲れとが相まったのだろう。ぬるま湯のような心地よいまどろみが、すっかり脳を浸してしまった。
「みーつけた!」
不意に、すぐ近くで声がした。ふすまを隔てた向こうからだ。
まずい!
どきんと心臓が脈打つ。慌てて息をひそめる。
「みーつけた!」
ふすまの向こうで、兄がもう一度言った。
だけど、なんだかおかしい……私はそこではじめて違和感をおぼえた。兄の声の調子が妙なのだ。なんだかやけにガサガサと掠れていて、それに、なんというか、不安定だ。
「みーつけた!」
またその言葉が繰り返された。その瞬間、私は全身に鳥肌がたった。
さきほどは、眠気で頭がぼんやりしていたせいか気づかなかったが、そもそも、兄の声ではない。あきらかに声質がちがう。それに、ふすまを開けないでいるのはどう考えてもおかしい。さすがの兄も、そこまでの面倒くさがりではない。
そのときだった。
ドンッ
ふすまが、音をたてて大きく揺れた。まるで向こうから蹴ったみたいに。
私は恐怖で固まった。心臓は早鐘を打ち、全身嫌な汗でびっしょりだった。
ドンッ
ふたたび、ふすまが蹴られたように揺れる。
もうたまらず、いよいよどうにかしなきゃと思った。でも、どうしたらいいのだろうか。ふすまを開けたとき、そこに何がいるのか……考えたくもない。
ドンッ
三回目──そのとき、ふすまの端っこに隙間ができた。淡い光が押し入れのなかに差し込む。
私は意を決し、布団から頭を出して、その隙間まで顔を寄せる。怖くてたまらなかったが、同時に、強烈な好奇心とでもいうか……何が起きているのかを確認しなくてはという思いに駆られたのだ。
胸を突き破りそうになっている心臓をおさえながら、ついに、私は隙間を覗きこんだ。
──誰もいない!
ふすまの向こうには、誰もいない。
──今が逃げ出す絶好の機会だ!
私はすぐさまふすまを開け放ち、押し入れから飛び出して、そのまま駆け出そうと立ち上がった。
が、そこで、何かバサバサしたものが顔にかかり、私はぎゃっと悲鳴をあげて尻もちをついてしまった。
一体なんなんだと思って、上を見上げると……
「みーつけた!」
天井から、髪の長い女の頭が、逆さになって生えていた。
その女の充血した目と私の目が、しっかりと合った。私は一瞬、そのまま硬直してしまったが、泣き声とも威嚇の雄叫びともつかぬ悲鳴をあげながら、部屋を飛び出した。
「なんだよ、なに泣きわめいてんだよ。虫でもいたか?」
別の部屋にいた兄を見つけたとき、私は必死になって、さっき見たありのままを伝えようとした。しかし、うまく言葉にならなかった。
「虫じゃなくて、女の頭! ぶら下がってんの! こんなふうに!」
兄はやれやれといった具合にため息をついた。
「何もなかったら百円な」
そう言うと、兄は女の出現した部屋へ向かった。
ところが、天井には何の異常もない。押入れも開けてみたが、そちらも特に目立ったことはなし。
兄は「寝ぼけてたんだって」と言うが、私は絶対にそうは思わない。髪の毛の束が顔に当たったときの、気色の悪い感触だってハッキリと覚えている。
言うまでもないが、その後、私はかくれんぼをやらなくなった。
まだ幼い頃の話だ。
私たち一家は、田舎にある母方の実家で休暇を過ごすことがあった。広々とした古い日本家屋で、私は外よりも家の中で遊ぶことが多かった。とくに、兄とかくれんぼをするのが楽しみだった。
私は隠れるのが大の得意なのだが、兄は探すのが大の苦手。だからこそ、私はいつもかくれんぼを提案し、そして、無理やりに兄を探す役にまわらせる。それが常だった。
ある日、いつものようにかくれんぼをして遊んでいた。もちろん兄が鬼。
私は押し入れの下側に潜り込み、布団の間に身を潜めた。ちょっと息苦しく、時間がたつと汗だくになるほど暑かったが、活発な子どもだった私には、さしたる問題でもない。
しばらくして、離れたところから兄の声が聞こえてきた。
「みーつけた!」
私は口をおさえながらクスクスと笑ってしまった。というのも、見つけてないのに見つけたフリをするのは、兄のよく使う手だったからだ。そうして私が自ら出てくるのを待つのだ。いまさらそんな手には乗らない。
「おい、もう見つけたって言ってんだろ、はやく出てこいよー」
兄はすでに探すのが面倒になっているようだった。
しかし、ここで出ていくと、まんまと罠に引っかかったと囃《はや》されるのは目に見えている。私は布団にくるまって身を小さくしたまま、その場を動かなかった。
やがて、兄が私を探しまわっているなか、なんだかまぶたが重くなってきた。押し入れの中の暗闇加減と、それまでの遊んでいた疲れとが相まったのだろう。ぬるま湯のような心地よいまどろみが、すっかり脳を浸してしまった。
「みーつけた!」
不意に、すぐ近くで声がした。ふすまを隔てた向こうからだ。
まずい!
どきんと心臓が脈打つ。慌てて息をひそめる。
「みーつけた!」
ふすまの向こうで、兄がもう一度言った。
だけど、なんだかおかしい……私はそこではじめて違和感をおぼえた。兄の声の調子が妙なのだ。なんだかやけにガサガサと掠れていて、それに、なんというか、不安定だ。
「みーつけた!」
またその言葉が繰り返された。その瞬間、私は全身に鳥肌がたった。
さきほどは、眠気で頭がぼんやりしていたせいか気づかなかったが、そもそも、兄の声ではない。あきらかに声質がちがう。それに、ふすまを開けないでいるのはどう考えてもおかしい。さすがの兄も、そこまでの面倒くさがりではない。
そのときだった。
ドンッ
ふすまが、音をたてて大きく揺れた。まるで向こうから蹴ったみたいに。
私は恐怖で固まった。心臓は早鐘を打ち、全身嫌な汗でびっしょりだった。
ドンッ
ふたたび、ふすまが蹴られたように揺れる。
もうたまらず、いよいよどうにかしなきゃと思った。でも、どうしたらいいのだろうか。ふすまを開けたとき、そこに何がいるのか……考えたくもない。
ドンッ
三回目──そのとき、ふすまの端っこに隙間ができた。淡い光が押し入れのなかに差し込む。
私は意を決し、布団から頭を出して、その隙間まで顔を寄せる。怖くてたまらなかったが、同時に、強烈な好奇心とでもいうか……何が起きているのかを確認しなくてはという思いに駆られたのだ。
胸を突き破りそうになっている心臓をおさえながら、ついに、私は隙間を覗きこんだ。
──誰もいない!
ふすまの向こうには、誰もいない。
──今が逃げ出す絶好の機会だ!
私はすぐさまふすまを開け放ち、押し入れから飛び出して、そのまま駆け出そうと立ち上がった。
が、そこで、何かバサバサしたものが顔にかかり、私はぎゃっと悲鳴をあげて尻もちをついてしまった。
一体なんなんだと思って、上を見上げると……
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天井から、髪の長い女の頭が、逆さになって生えていた。
その女の充血した目と私の目が、しっかりと合った。私は一瞬、そのまま硬直してしまったが、泣き声とも威嚇の雄叫びともつかぬ悲鳴をあげながら、部屋を飛び出した。
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ところが、天井には何の異常もない。押入れも開けてみたが、そちらも特に目立ったことはなし。
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