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ひとつめの国

24.帰路

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 朝食を食べたわたし達は早々に帰路に着いた。大変後ろ髪を引かれたが、それを何とか断腸の思いで引き返していく。
 さすがに両手を塞がれるのは困るので、お互いベルトを縄で繋いで移動した。デカい男を二人も引っ張って山を登るのは非常にしんどい。
 わたしは思わず立ち止まる。

「はぁはぁ……重い……」
「ハハッ体力ねーな!」

 一体誰のせいだと思っているのか。呑気に笑っている男性、仮称大剣にイラッとする。ちなみに大剣には周りが全く見えていないので、マーレが道案内をしていると思っている。自分を引っ張っているのがわたしだと言うことを知らないので、先程の発言に悪気はないのだ。
 しかし、分かっていてもイラつくものはイラつく。何か小さい報復をしてやろう。覚えていたら。

「ラウム、アイツの縄切る?」
「いや、そこまでは……」
「そう……」

 縄を辿って近寄ってきたマーレが物騒なことを言う。
 マーレは昨日の夜から、何故かとってもご機嫌ナナメだ。特に、大剣に対する態度がトゲトゲしい。
 大剣はちょっと無神経なところがあるから、何か気に障ることがあったのかもしれない。
 何はともあれマーレが陰鬱なオーラを出しているせいで、一行の空気はとても悪い。ベルトを縄で繋ぐ時も非常にぶすくれていた。

「はぁ……、進もう」
「ワフッ」

 ルシアが慰めるように返事をくれる。スライムも気遣ってくれているのか、ぽよぽよの身体を擦り寄せて来た。

「頼りになるのはお前達だけさ」

 二匹の優しさが心に染みる。スライムとルシアを撫でて重い歩みを進めた。
 ルシアは昨日まではわたしの影に入って貰っていたが、今日はハーネスをつけて一緒に歩いている。昨日普通に大剣に紹介してしまったし、ずっと気配が消えていたら不審に思われるかもしれない。
 それにいくら霧が深いとはいえ、人前でルシアの能力は使いたくなかったのだ。
 ルシアの能力は希少で有用。欲しがる輩はごまんといる。有象無象にルシアがどうにかされるとは思わないが、追い払うのが面倒だし、目立ちたくない。
 また、大剣が悪巧みをするとも思えないが、どうも悪気なく口が軽そうなので、できるだけ知られたくないのだ。
 途中、昼休憩を挟みつつ、午後三時頃には四階層に到達した。

「おお!このくっせぇ腐臭、二年ぶりだ!」

 もはや久々すぎて腐臭にすら感動し始めた大剣を引きずり、迷路をすいすい進んでいく。
 霧が多少薄くなったので、ベルトの縄は外してある。しかし離れすぎればまた見失うくらいには視界が不明瞭なので、お互いに近寄って行動している。

「お前らよく迷わねぇな」
「一回通った道だからな」
「俺なんか何回通っても覚えらんねえよ」

 まあ、わたしの場合初見でも迷うことはないのだが。さらに言えば道順も覚えているわけではない。そもそも興味のないことはなかなか覚えられない。今だって、観ながら正解のルートを歩いているだけだ。
 しかしマーレは違う。素晴らしい記憶力で一度見聞きしたことはすぐに覚えてしまうのだ。わたしとは頭の出来が違う。

「マーレの記憶力は凄まじいからな」

 まあ、今回に限ってはわたしが行きにショートカットしたせいで、道順を覚えるもクソもなかったわけだが。
 たまに寄ってくる魔物を聖水の霧吹き追い払いながら、二時間程で四階層を抜けた。

「もうすぐ日没だ。セーフティゾーンまで急ごう」

 泥に足を取られながらも、懸命に先を急ぐ。セーフティゾーンまでも道のりを確認していたその時、前方に人が倒れているのに気づいた。しかもそれは見覚えのある人物だ。
 泥を蹴って早足に駆け寄る。

「猫目……」

 あまりにも変わり果てた姿をしている猫目を抱き起こす。服も身体も所々焼け焦げ、泥と血で汚れている。しかし、脈も呼吸も弱いが止まってはいない。

「鋭い歯で噛まれた跡に、電撃を受けたような火傷のあと……泥潜電気鰻か」

 近寄ってきた大剣が猫目を見てそうつぶやく。

 泥潜電気鰻。泥の中を自在に移動することが出来る電気鰻。体長は小さいものでも三メートル以上。身体全体から強い電気を発することができる。また口にはびっしりと鋭い牙があり、噛まれると危険。その巨体と電撃に加え、泥沼での移動速度で人間が勝つのは非常に困難。単独討伐推奨ランクはBランク以上。

「……とりあえず死んではいないようだな、急いでセーフティゾーンに運ぼう」
「かせ、俺が運んでやる」

 見るからに怪力そうな大剣に大人しく猫目を渡し、セーフティゾーンへ急ぐ。
 既に冒険者達が野営の準備を始めているセーフティゾーンの端に陣取ると、地面に猫目を寝かせた。

「わたしが処置するから、マーレ達は野営の準備を」
「わかった」

 指示を終えると、猫目の状態を診る。外側の傷も酷いが、体内の損傷が結構深刻だ。迷わず上級回復薬を飲ませる。さらに効果をあげるため、精霊茸を煎じた薬湯を追加で飲ませる。

「おい、まかせて大丈夫なのか?」
「……ラウムは凄腕の薬師だ。いいからお前はテントを張れ」

 訝しげにこちらを見ている大剣に構わず処置を続ける。
 体表の傷を治すため、ボロボロの衣服を引き裂いて脱がした。

「スライム、頼めるか?」

 スライムはぷるんと揺れると、霧を発生させ、ピカっと光る。
 泥や血の汚れ落ちて綺麗になった猫目に、中級回復薬をかけて傷を治していく。火傷がかなり酷かったが、わたしの回復薬なら問題なく治る。傷跡も残らない。

「っと、裸のままではマズいか」

 治療を終えた猫目には、とりあえずわたしの服を着せておく。胸元のボタンが閉まらなかったが、概ねサイズは丁度いいと言える。
 着替えさせた猫目を大剣が張ったテントに運んだ。

「へぇー、すげえ効き目だな!お前の薬」
「そうだろう。お前も薬がいる時はわたしを尋ねてくるといい」
「ハハッ抜かりねえな」
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