25 / 59
ひとつめの国
20.四階
しおりを挟む
「おーい、マーレ、ルシア、スライム、しっかりしろ」
呆然と固まっている三者の前に出て、それぞれの顔の前で手を振る。
「ラウム、服着てる……変じゃない……本物……?」
「何言ってるんだ?」
マーレが赤くなった顔で、意味不明な事をブツブツ言っている。何故かほっとしたようでいて残念そうな複雑な表情をしている。一体どんな幻覚を見たんだ?
ルシアは美味しいものが食べられなかった時のしょんぼりした態度だ。相変わらず食い意地が張っている。
「ん?どうしたスライム」
肩に乗ってきたスライムは少しの会いしーんと落ち込んだ様子を見せ、ふるふると身体勢いよく振った後、今度はどこか期待する様子でわたしに擦り寄る。
「ん?なんだ、どうしたんだ?」
話を聞いているのかいないのか、スライムは張り切ったように何度も肩で跳ねる。
何がしたいのかはよく分からないが、とりあえず元気そうなので好きにさせておいた。
今度こそ本当に階段を降り、四階層へとたどり着いた。
四階層は今までの階層とは雰囲気が異なり、人工物で構成されていた。足元には硬い石畳。深い霧の中は、迷路のような廃虚と墓場が広がっている。
「臭いな……」
この階層は死霊系の魔物ばかりが揃っているようで、霧に紛れて腐臭が漂ってくる。
ゾンビにスケルトン、ゴーストなどもれなく一度死んだ人間ばかりだ。おそらく元々あった墓場がダンジョンに飲み込まれ、その濃い魔素が死体や魂に呼応し、魔物になってしまったのだろう。
こういう死霊系の魔物は最初のうちは、身につけている装飾品や墓に埋められた埋葬品など、高価な物品を落とすことでそこそこ人気があるが、それを取り尽くされたあとは、本当に全く素材が取れない上に、中々倒せないことから、最も不人気な魔物と言えるだろう。
聖属性の魔術が使える者や、聖水などを持っていれば別だが、死霊系の魔物は本当にしぶとい。手足を欠損させても、しばらくすると復活してしまうのだ。
しかも聖水はかなり高額な上に、素材による追加収入も無し。ほとんどの冒険者達からすれば、大赤字である。
さらにゴーストは物理攻撃が全く効かないので、魔術師がいなければどんなに強くとも通用しない。
「ま、わたし達にはこれがあるから関係ないが」
わたしが取り出したのは霧吹きに入った、自家製の聖水。そんじょそこらの聖水よりずっと効力が強い。
寄ってきた死霊系の魔物にシュッとやれば、すぐさま浄化されるだろう。
浄化されたゾンビやスケルトンは死体に戻って土に還り、ゴースト魂は天に昇る。それがあるべき姿だろう。
しかし、ダンジョンでは瘴気と化した魔素が邪魔して、完全に浄化することはできない。しばらくしたらまた魔物となり、廃虚を徘徊する。このダンジョンに縛り付けられているようなものだ。
「採取だけしてさっさと下に行こう」
いくら簡単に倒せると言っても、わたし達とてここに長居するほどの用はない。この階層では特に依頼も受けていない。さらに魔物素材だけでなく、漂う怨念のせいでろくに植物も生えていない。
しかしこんな場所にも一種類だけ植物が生息している。
石畳の隙間や墓石の影に咲く、妖しくも可憐な水色の花。
霊附子。透けるような水色の小さな花を咲かせる毒草。死者の魂を引き寄せる性質があり、生者が摂取すればたくさんの死霊に取り憑かれ、生気を吸われて死ぬ。しかし、悪霊に取り憑かれた者に近づければ、霊附子が悪霊を引き寄せ、除霊することもできる。
「ふふ、可愛いな」
厄介な性質を持っているが、帽子のような小さな水色の花がとても可愛らしい。使い方によっては役に立つし、ただ眺める分には良い目の保養だ。
わたしは花がよく咲いているものを選んで採取していった。
「しかし思ったより寄ってこないな」
いくら聖水を持っているとはいえ、常に振りまいている訳では無い。その上、死霊を引き寄せる霊附子を採取しているのに、全くと言っていいほど魔物が寄ってこない。
不思議に思って首を傾げていると、肩に乗っていたスライムがぷるぷると揺れた。急にどうしたのかと見やれば、まるで胸を張るかのごとく身体を反らした。
「……もしかして、お前の水浴びのおかげか?」
そう問えば、スライムは嬉しそうに肯定した。
「なるほど……浄化の効果がある事は知っていたが、まさか魔除けまでできるとはな」
さすがは神聖属性のスライムだ。褒めて欲しそうなスライムを素直に賞賛し、ぷにぷにの小さな身体を撫でた。
「スライムのおかげで、快適に採取できるな」
スライムは感激したように震えた。もしかすると褒められ慣れていないのかもしれない。スライムはとても影が薄いから。やはり少し切ない気持ちになる。わたしも影が薄い上に、マーレやルシアという個性的なヤツがそばにいるせいでなおのこと印象に残らない。隠密としてはかなりの強みではあるが。それはそれとして親近感が湧いているのかもしれない。
「だいぶ採取できたし、そろそろ下を目指そうか」
呆然と固まっている三者の前に出て、それぞれの顔の前で手を振る。
「ラウム、服着てる……変じゃない……本物……?」
「何言ってるんだ?」
マーレが赤くなった顔で、意味不明な事をブツブツ言っている。何故かほっとしたようでいて残念そうな複雑な表情をしている。一体どんな幻覚を見たんだ?
ルシアは美味しいものが食べられなかった時のしょんぼりした態度だ。相変わらず食い意地が張っている。
「ん?どうしたスライム」
肩に乗ってきたスライムは少しの会いしーんと落ち込んだ様子を見せ、ふるふると身体勢いよく振った後、今度はどこか期待する様子でわたしに擦り寄る。
「ん?なんだ、どうしたんだ?」
話を聞いているのかいないのか、スライムは張り切ったように何度も肩で跳ねる。
何がしたいのかはよく分からないが、とりあえず元気そうなので好きにさせておいた。
今度こそ本当に階段を降り、四階層へとたどり着いた。
四階層は今までの階層とは雰囲気が異なり、人工物で構成されていた。足元には硬い石畳。深い霧の中は、迷路のような廃虚と墓場が広がっている。
「臭いな……」
この階層は死霊系の魔物ばかりが揃っているようで、霧に紛れて腐臭が漂ってくる。
ゾンビにスケルトン、ゴーストなどもれなく一度死んだ人間ばかりだ。おそらく元々あった墓場がダンジョンに飲み込まれ、その濃い魔素が死体や魂に呼応し、魔物になってしまったのだろう。
こういう死霊系の魔物は最初のうちは、身につけている装飾品や墓に埋められた埋葬品など、高価な物品を落とすことでそこそこ人気があるが、それを取り尽くされたあとは、本当に全く素材が取れない上に、中々倒せないことから、最も不人気な魔物と言えるだろう。
聖属性の魔術が使える者や、聖水などを持っていれば別だが、死霊系の魔物は本当にしぶとい。手足を欠損させても、しばらくすると復活してしまうのだ。
しかも聖水はかなり高額な上に、素材による追加収入も無し。ほとんどの冒険者達からすれば、大赤字である。
さらにゴーストは物理攻撃が全く効かないので、魔術師がいなければどんなに強くとも通用しない。
「ま、わたし達にはこれがあるから関係ないが」
わたしが取り出したのは霧吹きに入った、自家製の聖水。そんじょそこらの聖水よりずっと効力が強い。
寄ってきた死霊系の魔物にシュッとやれば、すぐさま浄化されるだろう。
浄化されたゾンビやスケルトンは死体に戻って土に還り、ゴースト魂は天に昇る。それがあるべき姿だろう。
しかし、ダンジョンでは瘴気と化した魔素が邪魔して、完全に浄化することはできない。しばらくしたらまた魔物となり、廃虚を徘徊する。このダンジョンに縛り付けられているようなものだ。
「採取だけしてさっさと下に行こう」
いくら簡単に倒せると言っても、わたし達とてここに長居するほどの用はない。この階層では特に依頼も受けていない。さらに魔物素材だけでなく、漂う怨念のせいでろくに植物も生えていない。
しかしこんな場所にも一種類だけ植物が生息している。
石畳の隙間や墓石の影に咲く、妖しくも可憐な水色の花。
霊附子。透けるような水色の小さな花を咲かせる毒草。死者の魂を引き寄せる性質があり、生者が摂取すればたくさんの死霊に取り憑かれ、生気を吸われて死ぬ。しかし、悪霊に取り憑かれた者に近づければ、霊附子が悪霊を引き寄せ、除霊することもできる。
「ふふ、可愛いな」
厄介な性質を持っているが、帽子のような小さな水色の花がとても可愛らしい。使い方によっては役に立つし、ただ眺める分には良い目の保養だ。
わたしは花がよく咲いているものを選んで採取していった。
「しかし思ったより寄ってこないな」
いくら聖水を持っているとはいえ、常に振りまいている訳では無い。その上、死霊を引き寄せる霊附子を採取しているのに、全くと言っていいほど魔物が寄ってこない。
不思議に思って首を傾げていると、肩に乗っていたスライムがぷるぷると揺れた。急にどうしたのかと見やれば、まるで胸を張るかのごとく身体を反らした。
「……もしかして、お前の水浴びのおかげか?」
そう問えば、スライムは嬉しそうに肯定した。
「なるほど……浄化の効果がある事は知っていたが、まさか魔除けまでできるとはな」
さすがは神聖属性のスライムだ。褒めて欲しそうなスライムを素直に賞賛し、ぷにぷにの小さな身体を撫でた。
「スライムのおかげで、快適に採取できるな」
スライムは感激したように震えた。もしかすると褒められ慣れていないのかもしれない。スライムはとても影が薄いから。やはり少し切ない気持ちになる。わたしも影が薄い上に、マーレやルシアという個性的なヤツがそばにいるせいでなおのこと印象に残らない。隠密としてはかなりの強みではあるが。それはそれとして親近感が湧いているのかもしれない。
「だいぶ採取できたし、そろそろ下を目指そうか」
11
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!
幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23 女性向けホットランキング1位
2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位 ありがとうございます。
「うわ~ 私を捨てないでー!」
声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・
でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので
「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」
くらいにしか聞こえていないのね?
と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~
誰か拾って~
私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。
将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。
塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。
私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・
↑ここ冒頭
けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・
そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。
「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。
だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。
この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。
果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか?
さあ! 物語が始まります。

知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!
べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる