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第三章
第十一話
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桐秋の返事に満足し、笑みを浮かべる千鶴だったが、一転、しゅんとして
「昨日は、桐秋様のお心を傷つけてしまい、申し訳ありませんでした」
と頭を下げた。
その姿に桐秋はまたも呆気にとられる。
が、次の瞬間には吹き出してしまい、声をだして笑ってしまった。
桐秋の頭がやっと目の前の現実に追いつく。
――なんという娘だろう。
昨日、自分からあれだけ理不尽に攻められたのに、反論するどころか、自分の研究を認めさせるため、父に直談判に行くとは。
いや、昨日、ここを出た時の彼女の表情を思い返すと、打ちのめされたのかもしれない。
それでも彼女は桐秋のためを思って心に鞭を打ち、父の元に頼みにいってくれたのだ。
桐秋でさえ諦めてしまった父に、何度もぶつかって互いに歩み寄れなかった父に。
だから、桐秋は誰にも知られないように独り、閉じこもって研究していた。
しかし、彼女は父に認めさせた。
彼女のまっすぐに人を思う心が、強い意志を宿すまなざしが、父を動かしたのだろう。
桐秋の心を慮り、とことん真摯にむきあってくれる。
そのためなら誰とでも戦う。千鶴の在り方が、桐秋の冷え切った心に小さな灯りをともす。
久しぶりに心が温かくなる。
そして現在、そんな強い彼女からは一転、自身の言動が桐秋を傷つけたと泣きそうになりながら謝罪している。
その落差に桐秋は驚き、呆れ、それでも終いには笑みが浮かんだ。
明るい感情が桐秋の心を埋め尽くしたのだ。
あんなにも今まで、暗い感情が胸の内を支配していたのに。
――ああ、まったくなんという娘だろう。
笑い続ける桐秋の姿に千鶴は戸惑い、どうしてよいかわからず、慌てている。
桐秋はひとしきり笑い、それが収まると、自身も千鶴にまっすぐに居直り、昨日のことを頭を下げて謝罪する。
それから病になってはじめて、頬を上げ、感謝の言葉を述べた。
「ありがとう」
千鶴は、桐秋から自分に向けられたいっとう整った柔らかな笑みに、少し照れて赤くなりながらも、どういたしまして、とはにかむ花の笑顔で答えた。
「昨日は、桐秋様のお心を傷つけてしまい、申し訳ありませんでした」
と頭を下げた。
その姿に桐秋はまたも呆気にとられる。
が、次の瞬間には吹き出してしまい、声をだして笑ってしまった。
桐秋の頭がやっと目の前の現実に追いつく。
――なんという娘だろう。
昨日、自分からあれだけ理不尽に攻められたのに、反論するどころか、自分の研究を認めさせるため、父に直談判に行くとは。
いや、昨日、ここを出た時の彼女の表情を思い返すと、打ちのめされたのかもしれない。
それでも彼女は桐秋のためを思って心に鞭を打ち、父の元に頼みにいってくれたのだ。
桐秋でさえ諦めてしまった父に、何度もぶつかって互いに歩み寄れなかった父に。
だから、桐秋は誰にも知られないように独り、閉じこもって研究していた。
しかし、彼女は父に認めさせた。
彼女のまっすぐに人を思う心が、強い意志を宿すまなざしが、父を動かしたのだろう。
桐秋の心を慮り、とことん真摯にむきあってくれる。
そのためなら誰とでも戦う。千鶴の在り方が、桐秋の冷え切った心に小さな灯りをともす。
久しぶりに心が温かくなる。
そして現在、そんな強い彼女からは一転、自身の言動が桐秋を傷つけたと泣きそうになりながら謝罪している。
その落差に桐秋は驚き、呆れ、それでも終いには笑みが浮かんだ。
明るい感情が桐秋の心を埋め尽くしたのだ。
あんなにも今まで、暗い感情が胸の内を支配していたのに。
――ああ、まったくなんという娘だろう。
笑い続ける桐秋の姿に千鶴は戸惑い、どうしてよいかわからず、慌てている。
桐秋はひとしきり笑い、それが収まると、自身も千鶴にまっすぐに居直り、昨日のことを頭を下げて謝罪する。
それから病になってはじめて、頬を上げ、感謝の言葉を述べた。
「ありがとう」
千鶴は、桐秋から自分に向けられたいっとう整った柔らかな笑みに、少し照れて赤くなりながらも、どういたしまして、とはにかむ花の笑顔で答えた。
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