5 / 131
第一章
第四話
しおりを挟む
千鶴は台所に入ると、ねずみいらずの上の扉を開け、近所の骨董好きの老人から貰ったティーカップを二客、奥から引き出す。
そして、そのさらに奥から、こちらもいただきものの舶来品の紅茶缶を取り出した。
竹の茶匙でカップ分の茶葉を急須に入れ、熱いお湯を注ぐと同時に、用意していた砂時計を逆さまにする。
砂が落ちきるのを見計らい、お湯で温めておいたティーカップに紅茶を注ぐ。
いただきもののよい茶葉だけあり、注いだそばから、芳しい匂いが部屋いっぱいに拡がる。
どこか果実のような爽やかさも混じる甘い香り。
千鶴は紅茶のティーカップを中心に、小壺に入れた砂糖と醤油さしに入れた牛乳を盆に置くと、用意したそれを持ち、応接間へと向かった。
*
扉を三回指で叩き、入室の許可を得て、洋室の応接間に入る。
父と南山は向かい合って座っていた。
千鶴は上座に座る南山の方から紅茶をそっとテーブルに置く。
南山はそれににこりと微笑みながら礼を言う。
父の方にも紅茶を置くが、こちらは表情も顔色もあまりよくない。
それに千鶴は違和感を覚え、声をかけようとするが、南山から先に尋ねられた。
「君は、西野先生のお嬢さんでよかったかな」
「はい。千鶴と申します」
千鶴が頭を下げると、南山はそうか、と頷きながら、
「利発そうなお嬢さんでうらやましいな。私には息子しかいないから」
とまたしても千鶴に向かってにこやかに笑った。
どこか人を安心させるような笑み。外見は怖いが、内面はとても穏和な人であるようだ。
そんな少し失礼なことを考えながら、千鶴も笑顔を返していると、父が遮るように告げた。
「千鶴。お茶をありがとう。少し下がっていてくれるかい」
いつもの穏やかな声音とは違う、硬質な有無を言わせない声に、千鶴が父の方を見ると、父は両手を膝の上で組み、考え込むような苦しい顔をしていた。
「はい」
千鶴は父の様子が気になりながらも、その声に反論できず、言われるままに部屋を出た。
そして、そのさらに奥から、こちらもいただきものの舶来品の紅茶缶を取り出した。
竹の茶匙でカップ分の茶葉を急須に入れ、熱いお湯を注ぐと同時に、用意していた砂時計を逆さまにする。
砂が落ちきるのを見計らい、お湯で温めておいたティーカップに紅茶を注ぐ。
いただきもののよい茶葉だけあり、注いだそばから、芳しい匂いが部屋いっぱいに拡がる。
どこか果実のような爽やかさも混じる甘い香り。
千鶴は紅茶のティーカップを中心に、小壺に入れた砂糖と醤油さしに入れた牛乳を盆に置くと、用意したそれを持ち、応接間へと向かった。
*
扉を三回指で叩き、入室の許可を得て、洋室の応接間に入る。
父と南山は向かい合って座っていた。
千鶴は上座に座る南山の方から紅茶をそっとテーブルに置く。
南山はそれににこりと微笑みながら礼を言う。
父の方にも紅茶を置くが、こちらは表情も顔色もあまりよくない。
それに千鶴は違和感を覚え、声をかけようとするが、南山から先に尋ねられた。
「君は、西野先生のお嬢さんでよかったかな」
「はい。千鶴と申します」
千鶴が頭を下げると、南山はそうか、と頷きながら、
「利発そうなお嬢さんでうらやましいな。私には息子しかいないから」
とまたしても千鶴に向かってにこやかに笑った。
どこか人を安心させるような笑み。外見は怖いが、内面はとても穏和な人であるようだ。
そんな少し失礼なことを考えながら、千鶴も笑顔を返していると、父が遮るように告げた。
「千鶴。お茶をありがとう。少し下がっていてくれるかい」
いつもの穏やかな声音とは違う、硬質な有無を言わせない声に、千鶴が父の方を見ると、父は両手を膝の上で組み、考え込むような苦しい顔をしていた。
「はい」
千鶴は父の様子が気になりながらも、その声に反論できず、言われるままに部屋を出た。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
【完結】愛されないのは政略結婚だったから、ではありませんでした
紫崎 藍華
恋愛
夫のドワイトは妻のブリジットに政略結婚だったから仕方なく結婚したと告げた。
ブリジットは夫を愛そうと考えていたが、豹変した夫により冷めた関係を強いられた。
だが、意外なところで愛されなかった理由を知ることとなった。
ブリジットの友人がドワイトの浮気現場を見たのだ。
裏切られたことを知ったブリジットは夫を許さない。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる