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第二章:帝王の玉座
第八話:新時代の幕開け
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ミッドガル帝国は、既に末期的だった。
ラスティの生まれは帝都。家は王国の官僚として働く、一般市民寄りのエリートといった具合。簡単に言えば裕福な一家だ。
故にラスティは不自由無く育てられ、父の官僚を継ぐ為に政治の勉強を幼い頃から始めていた。転生者であったからラスティは頭の回転や要領が良かった。
父曰く「スポンジのようにあらゆる知識を吸い取っていった」らしい。
だからこそ、ラスティは幼い頃から帝国の違和感、歪さを感じ取っていた。それを知る為に、ラスティは自主学習で帝国の現状や情勢も調べ始めた。最初は幼い事もあって全くもって上手くいってなかったが…歳を重ね、経験と知識を積み、理解を重ねて行った。そうして私は王国を知った。
そして、確実に破滅の道を歩んでいる帝国の現状に唖然とした。
広がる貧富の差。地方から容赦無く搾り取る重税。王国臣民と異民族の差別。周辺国…否、異民族との途絶えぬ紛争。帝国内部に根付く腐敗。
子供のラスティでも理解していた。このままでは帝国は滅ぶと。しかし父の地位は官僚の中でも低く、父に相談しても帝国そのものを動かす事は出来ないし、そも子供の言い分をそっくりそのまま採用するかと言えば、無理だろうとも理解していた。
そして官僚である父は、「妥協」していた。自分達の生活が平穏であればそれで良いと。自分が死ぬまで帝国が平穏であればそれで良いと。確かに、自分が関わらない所に自分から首を突っ込まなければ余計な問題などは生まれない。余計なリスクは生まれない。平穏を求めるならそれが一番だろう。
だが、ラスティの心はそれに否と応えた。
ノブレス・オブリージュ。
高貴さは義務を強制する。言葉の意味は違えど、しかし国を導く者ならば、其れ相応の覚悟と義務は背負わねばならない。父は、其れには相応しくなかった。
そして、ラスティは決心した。
私も父と同じく政治の世界に飛び込む。しかしそれは、父の地位のままに留まらない。いずれ帝国の大臣の席に座り、そして帝国を少しでもマトモにしてみせると。
その道が困難であることは容易に想像出来た。ラスティは明確に腐敗と敵対する立場になる。その腐敗が、腐敗を取り除こうとするラスティを放っておくはずが無い。いつか必ずラスティを殺しにかかり、そして私の立っていた場所には都合の良い人物に差し替えるだろう。仮に帝国大臣になれたとしても、今度は帝国全体の問題の解決がある。詳細は調べなければ分からないが、それでも膨大かつ困難な事になるのは既に分かりきっていた。
手段を選ばないのなら革命軍に与した方が良いかも知れないが、それでは多大な流血を生み出してしまう。進んでそれをするよりは、時間が掛かってでも流血が少ない方をやってみたい。それで駄目なら……いや。こんな事を考える前に、まずはスタートラインに立たなければ意味が無い。大臣では無くとも、何かしらの権力を掴まなければ内側からボロボロになっていく帝国を変える事は出来ない。
まずはより一段と勉強だ。この国の事を、政治の事を、異民族の事を、可能な限りに知り尽くす。
次に身体を鍛えよう。この国を変える事を阻止せんとする者達から身を護る為に。
そして政治の舞台に上がっていく。この国の膿を取り出し、洗浄し、次の千年の繁栄と平穏の礎となる為に。
やる事は無尽蔵だ。時間は有効に使わなければならない。
そして、時は数年を経過した。
「これで、最後か」
帝都の宮殿の一室。
帝国大臣となった私の執務室にて今日一日の書類の山の処理、最後の一枚の内容を精査した後に私の署名を入れ、横の紙束に重ねる。これで、書類関係の仕事は終えた。
長時間座っていたせいで、身体が多少の凝りを訴えている。それを解す為に席を立ち、軽く身体を動かして凝りを剥がしつつ、窓から見える帝都を見下ろす。
(こうして見る限りでは、とても平和なんだが)
その実態は逆。こうして見下ろしている今も、複数の犯罪組織が麻薬や人を売り捌き、私腹を肥やし、その金が政治の腐敗を生み出し、そして政治がこの国を腐らせる悪循環。
先代皇帝と皇妃が崩御し、あの子供が現在の皇帝の座に付いた。それと同時にラスティは、次期大臣の座に就こうとしていた腐敗派の官僚を何人か蹴落とし、次期大臣の座につくことに成功した。しかし大臣の座に付いて、帝国全体の事をより詳細に知れるようになって、ラスティは帝国の腐敗っぷりを少々甘く見ていた事を自覚する。
先代皇帝と先代大臣は腐敗に対して有効的な手を打てていなかった。いや正確に言うと、先代大臣が先代皇帝にその腐敗の一部を隠蔽していた、と言うべきか。自分達に都合の良い関係が無い腐敗は粛清し、自分達に都合の悪い関係が有る腐敗は隠すリスクマネジメント。
先代皇帝には腐敗という膿を取り出したように提供し、自分達の私腹と権力を募らせていた。正直先代大臣が急病で倒れなかったら、腐敗派を大臣の座から引き摺り下ろす事は出来なかった。
腐敗派は今も尚、帝国の中では強大な規模と権力を誇る。油断すれば、大臣であるラスティでさえも喰らうだろう。
(良識派、腐敗派、革命軍、慈善活動組織アーキバス、フロイト将軍、イグアス将軍)
それでも、ラスティは何とかここまで来れた。
帝国を少しでもマトモに出来るか、革命に倒れるか、それとも腐敗が進行するか。何処かを間違えれば誰もが不幸になる。だがやらねばならない。1人でも多く不幸な運命を変える為に。1人でも多く救う為に。逃げる事は許されない。投げ出す事は許されない。
「デイ・アフター・デイ」
毎日、毎日、繰り返し。
来る日も、来る日も。
「されど、着実な一歩を」
ラスティの生まれは帝都。家は王国の官僚として働く、一般市民寄りのエリートといった具合。簡単に言えば裕福な一家だ。
故にラスティは不自由無く育てられ、父の官僚を継ぐ為に政治の勉強を幼い頃から始めていた。転生者であったからラスティは頭の回転や要領が良かった。
父曰く「スポンジのようにあらゆる知識を吸い取っていった」らしい。
だからこそ、ラスティは幼い頃から帝国の違和感、歪さを感じ取っていた。それを知る為に、ラスティは自主学習で帝国の現状や情勢も調べ始めた。最初は幼い事もあって全くもって上手くいってなかったが…歳を重ね、経験と知識を積み、理解を重ねて行った。そうして私は王国を知った。
そして、確実に破滅の道を歩んでいる帝国の現状に唖然とした。
広がる貧富の差。地方から容赦無く搾り取る重税。王国臣民と異民族の差別。周辺国…否、異民族との途絶えぬ紛争。帝国内部に根付く腐敗。
子供のラスティでも理解していた。このままでは帝国は滅ぶと。しかし父の地位は官僚の中でも低く、父に相談しても帝国そのものを動かす事は出来ないし、そも子供の言い分をそっくりそのまま採用するかと言えば、無理だろうとも理解していた。
そして官僚である父は、「妥協」していた。自分達の生活が平穏であればそれで良いと。自分が死ぬまで帝国が平穏であればそれで良いと。確かに、自分が関わらない所に自分から首を突っ込まなければ余計な問題などは生まれない。余計なリスクは生まれない。平穏を求めるならそれが一番だろう。
だが、ラスティの心はそれに否と応えた。
ノブレス・オブリージュ。
高貴さは義務を強制する。言葉の意味は違えど、しかし国を導く者ならば、其れ相応の覚悟と義務は背負わねばならない。父は、其れには相応しくなかった。
そして、ラスティは決心した。
私も父と同じく政治の世界に飛び込む。しかしそれは、父の地位のままに留まらない。いずれ帝国の大臣の席に座り、そして帝国を少しでもマトモにしてみせると。
その道が困難であることは容易に想像出来た。ラスティは明確に腐敗と敵対する立場になる。その腐敗が、腐敗を取り除こうとするラスティを放っておくはずが無い。いつか必ずラスティを殺しにかかり、そして私の立っていた場所には都合の良い人物に差し替えるだろう。仮に帝国大臣になれたとしても、今度は帝国全体の問題の解決がある。詳細は調べなければ分からないが、それでも膨大かつ困難な事になるのは既に分かりきっていた。
手段を選ばないのなら革命軍に与した方が良いかも知れないが、それでは多大な流血を生み出してしまう。進んでそれをするよりは、時間が掛かってでも流血が少ない方をやってみたい。それで駄目なら……いや。こんな事を考える前に、まずはスタートラインに立たなければ意味が無い。大臣では無くとも、何かしらの権力を掴まなければ内側からボロボロになっていく帝国を変える事は出来ない。
まずはより一段と勉強だ。この国の事を、政治の事を、異民族の事を、可能な限りに知り尽くす。
次に身体を鍛えよう。この国を変える事を阻止せんとする者達から身を護る為に。
そして政治の舞台に上がっていく。この国の膿を取り出し、洗浄し、次の千年の繁栄と平穏の礎となる為に。
やる事は無尽蔵だ。時間は有効に使わなければならない。
そして、時は数年を経過した。
「これで、最後か」
帝都の宮殿の一室。
帝国大臣となった私の執務室にて今日一日の書類の山の処理、最後の一枚の内容を精査した後に私の署名を入れ、横の紙束に重ねる。これで、書類関係の仕事は終えた。
長時間座っていたせいで、身体が多少の凝りを訴えている。それを解す為に席を立ち、軽く身体を動かして凝りを剥がしつつ、窓から見える帝都を見下ろす。
(こうして見る限りでは、とても平和なんだが)
その実態は逆。こうして見下ろしている今も、複数の犯罪組織が麻薬や人を売り捌き、私腹を肥やし、その金が政治の腐敗を生み出し、そして政治がこの国を腐らせる悪循環。
先代皇帝と皇妃が崩御し、あの子供が現在の皇帝の座に付いた。それと同時にラスティは、次期大臣の座に就こうとしていた腐敗派の官僚を何人か蹴落とし、次期大臣の座につくことに成功した。しかし大臣の座に付いて、帝国全体の事をより詳細に知れるようになって、ラスティは帝国の腐敗っぷりを少々甘く見ていた事を自覚する。
先代皇帝と先代大臣は腐敗に対して有効的な手を打てていなかった。いや正確に言うと、先代大臣が先代皇帝にその腐敗の一部を隠蔽していた、と言うべきか。自分達に都合の良い関係が無い腐敗は粛清し、自分達に都合の悪い関係が有る腐敗は隠すリスクマネジメント。
先代皇帝には腐敗という膿を取り出したように提供し、自分達の私腹と権力を募らせていた。正直先代大臣が急病で倒れなかったら、腐敗派を大臣の座から引き摺り下ろす事は出来なかった。
腐敗派は今も尚、帝国の中では強大な規模と権力を誇る。油断すれば、大臣であるラスティでさえも喰らうだろう。
(良識派、腐敗派、革命軍、慈善活動組織アーキバス、フロイト将軍、イグアス将軍)
それでも、ラスティは何とかここまで来れた。
帝国を少しでもマトモに出来るか、革命に倒れるか、それとも腐敗が進行するか。何処かを間違えれば誰もが不幸になる。だがやらねばならない。1人でも多く不幸な運命を変える為に。1人でも多く救う為に。逃げる事は許されない。投げ出す事は許されない。
「デイ・アフター・デイ」
毎日、毎日、繰り返し。
来る日も、来る日も。
「されど、着実な一歩を」
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