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28話:戦い守るべき理由②

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 戦技競技会。
 魔導士同士の実力を測るスポーツ形式のテストだ。それはお遊びに見えて実戦で必要とされる技能が必要だったりする緻密に考えられたお遊びだった。
 結梨も参加して競技を行なっていくが、初心者にも関わらず高い技量でポイントをゲットしていっていった。

 試作魔導杖による派手なデモンストレーションが行われ、ユグドラシル魔導学園のアーセナルや工房科の技術力の高さを見せつけていた。
 クローバーは微妙な気持ちになっていた。
 色々な装備を作るのは良いだろう。だがあまりにも尖りすぎではないだろうか? と。

 GE.HE.NA.では一部の例外を除き生産性を重視している。一人の強い衛士に専用装備を作るよりも、実力が平均的な衛士に持たせて全体が強くなる魔導杖開発を行なっている。
 デュエル世代が廃れ、チーム戦術が台頭してきたのが良い例だ。強い一人ではモンスターには勝てない。平均的だが、仲間や味方が全体的に強ければ勝てる戦いがある。

 モンスターはネスト戦を除いて、ケイブからテレポートしてくる。その量には限りがあり、大型のモンスターが出れば出るほど小型のモンスターは少なくなる傾向にある。
 勿論ケイブ自体が大量発生してれば意味ないのだが、魔導杖は専用ではなく汎用性と拡張性に重きを置くべきというのがクローバーの主張だった。

 だからクローバーは専用機ではなく、ストライクイーグルを使っている。オプションパーツをつけていないのはやり過ぎにしても、代替機を用意するのが容易な第二世代機の代名詞とも言えるストライクイーグルを使っているのだ。

 それは火の巨人山麓での群生ケイブでの戦いでの経験が大きい。魔導杖を使い捨てにして、長時間戦い続けることが必要な場面が来た時に専用機がないから弱くなりました。が失敗しましたじゃお話にならないからだ。

「クローバーお姉様、出番ですよ」
「あ、そうなんだ。各レギオンから選抜されたチーム戦?」
「そうです」

 クローバーはストライクイーグルを持ってフィールドに立つ。
 そして競技開始と共にアールヴヘイムのメンバーが一斉にクローバーに襲いかかった。

「私とお手合わせお願いしますクローバー様!」
「こんな時でもないと構ってもらえませんから!」
「倒しちゃったらごめんなさいです~」

 クローバーは最後の青髪の子には興味があった。彼女はモンスターの声が聞こえるという独特な特徴を持っている。確か強化魔導士だった筈だ。クローバーの記憶違いではなければだが。

「うん、全力で来て良いよ」

 クローバーはステップ回避を駆使して、三人の攻撃を避けて反撃に打って出る。クローバーの強さは二次元での高速戦闘にある。速度で圧倒して、正確さで勝敗をつける。
 速度が早ければパワーも上がっていく。ただの腕力による鍔迫り合いは苦手だが、ヒットアンドウェイによる超高速戦闘は得意中の得意だった。デストロイヤーに打撃を与えて距離を取る。その繰り返しで囲まれず、敵を減らしていくのだ。

「つ、強い!? 流石はクローバー様」
「その様子だとまだ地獄の一週間は超えてないみたいだね。あれを耐え抜けばもっと強くなれるよ」

 最後の一人の戦術機を蹴り飛ばし、首元にストライクイーグルをつきつける。

「いやー、流石クローバーだわ。派手な戦いじゃないけど堅実さが凄い。あれを突破するには圧倒的火力で消し飛ばすのが一番なんだけど、亜羅揶が別の人と戦ってからなー」
「すごいです」
「……」

 ソラは笑いながら、樟美は感心しながら、衣奈は苦虫を噛み潰したような表情でそれを見ていた。衣奈はスランプ中だ。同じくアールヴヘイム解散して一人で活動した同士交流はあった。しかしクローバーはクフィアを失ったことで狂気に走り、それは一種の自暴自棄だと思っていた。それを衣奈は自分と重ねていた。初代アールヴヘイムに固執する仲間だと思っていた。しかし今のクローバーは新しい仲間と共に笑っている。
 それがなんとも気に入らなかった。
 勝手に裏切られたような気持ちになっていた。

「はぁ、駄目ね、こんなんじゃ」

 衣奈はため息をついた。
 時間は経ち、午後のエキシビションマッチには百由が改造を施した模擬デストロイヤーと結梨が戦うことになっていた。
 戦闘フィールドが特殊な檻で囲まれて逃げることはできない。

 そこには金属でてきた巨大と紫のストライクイーグルを構えた結梨が対峙していた。本来ならエミーリアがやる筈だったのが前の競技で力を使い果たし結梨が闘うことになっていた。

「エキシビションだから当然クローバーが勝つようにセッティングして……ありますよね!?」
「いいえその逆よ! ゴリゴリにチューニングしてイチコロのはずだったのに……結梨ちゃんが危ないわ!」
「わしをどうする気だったんじゃ! って慌てるのが遅いわ!」
「結梨なら大丈夫ですよ」

 クローバーは冷静に言った。

「確かに競技での動きは良かったですが、それが模擬とはいえモンスター相手だと違うのでは?」
「たぶん、変わらないよ。そういう子だから」

 人造魔導士。
 その素体となったのはクローバーの魔力だ。
 その魔力を通して伝わったのは肉体構成情報だ。つまりクローバーの戦ってきた経験が全て体に刻み込まれている。スキルもラプラスの再現とはいかないが、見ただけで再現できる機能もある。
 負ける要素はなかった。
 それを知らないレギオンメンバーは不安そうにしている。

「さぁ、始まるよ」
「マネッティア! 私やるよ! 私も魔導士になりたいの。魔導士になってみんなのこともっとよく知りたいの。だから見てて!」
「マネッティアちゃんに懐いているね」
「お世話したのが最初だからでしょうか」
「カルガモやヒヨコの子供みたいだね」

 結梨は模擬モンスターに向けて駆け出した。攻撃してくる模擬モンスターの攻撃を全てステップ回避で避けて、その攻撃の先端ではなく途中の部位を切り飛ばしていく。

「あれは、クローバー様のステップ回避」
「それにあの堅実な戦い方は」

 常に動いて相手の力を削ぎ落として、弱らせていく。そして全てが無くなった時に全力の一撃で敵を粉砕する。
 結梨のストライクイーグルが模擬モンスターを切り裂いた。
 粉々に砕け散った金属片がキラキラと輝く。

「マネッティア! みんな! 見てた?」
「見てたわ。クローバーお姉様の動きをよく再現できた」
「これで魔導士になれるかな!?」
「ええ、立派な魔導士になれるわ」

 マネッティアは歩いてくる結梨の頭を撫でながら笑った。
 そして戦技競技会は葉風がコスプレ部門で最優秀衛士に選ばれ幕を閉じた。

 クローバーは部屋で理事長代理の部屋を盗聴していた。

「解析科から結梨ちゃんの解析結果が届きました。彼女は平均的な人の女性であるのは確かです。が…どこか不自然で。何というか平均的すぎるんです。普通の人間はどこかしら偏っているのが当たり前なのに」
「要点を頼む」
「彼女はモンスターに由来する個体、というのが私の結論です」
「人化したモンスターというわけか」
「驚かれません?」
「残念だが先手を打たれた」
「研究機関GE.HE.NA.と魔導杖開発メーカー・クレスト共同研究していた実験体の紛失を国連に届け出た」
「連中……彼らが言うには彼女はモンスターから作り出した細胞をもとに生み出された人造魔導士だそうだ」
「その表現……胸くそ悪いです」
「可能なのか?」
「モンスターは多層ゲノム重複を起こしていてこれまで地球上に現れた全ての情報を備えているといわれています」
「その中にはもちろん人のものもあって箱舟に例える学者もいるほどです。ああ……まあどうやったかは知りませんけど行為としては可能です」
「倫理を無視した完全な違法行為だ。しかも連中は己共の不始末を晒してまで彼女の返還を我々に要求してきおった」
「どうします?」
「彼女が人でないとなるとユグドラシル魔導学園は彼女を守る根拠を失うことになる」

 そこまで聞いてクローバーはため息をついた。

(今更気付いたか。どう考えてもモンスターの残骸から流れ着いた正体不明のモンスターという時点でモンスターの可能性を疑うべきなのに。まぁ、クフィア様を模倣するモンスターと出会ったレギオンメンバーですら、疑った様子がないから仕方ないことかな)
『それで、クローバーはどうするんだい?』

 ふわり、とクフィアが現れた。

「研究所に明け渡します。少なくとも外部からの圧力に歯向かわないようにする程度しか私にできるとこはありませんけど」
『クローバーの心は痛まないかい?』
「結梨を人間、モンスターとして見ろと? 微妙ですね。可哀想だと思いますが、これはルドベキアちゃんとお父様にも言った事ですが、誰かがやらないといけない事です。理想だけでも、外法だけでも駄目なんです」
『バランスが大切ってことか。うん、クローバーの判断を尊重するよ』
「ユグドラシル魔導学園には善人が多すぎる。誰かが汚名を被らないといけないんです」
『クローバーが、その汚名を被る必要はあるのかい? 別の誰かに任せても良いじゃないかな』
「それで、みんなが傷つくのは嫌ですから。私なら最小限に抑えられる」
『そっか。わかった。最後に一つ忠告だ。近いうちに大きなモンスターが来るよ』
「ギガント級が、来ると? 何故お姉様がそんなことがわかるんですか?」
『モンスターを魔導杖を通して狂わせたのはボクだからね。多少の時期はわかるさ。そろそろネストが暴走を始める』
「激戦になりますね」
『少なくとも二体。強いやつがやってくる。備えておいた方が良いよ』
「わかりました。全ての手札を切って、ユグドラシル魔導学園を守り切ります」
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