Fの真実

makikasuga

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終焉~Fの遺言~

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 刑事という仕事柄、何度か発砲したことはある。だがそれは相手を止めるためのものであり、明確な殺意を持って撃ったのはこれが初めてだった。

 これが人を殺すという重みか。

 マキの拳銃の発砲時の衝撃は非常に重く、腕が痺れが止まらない。
「気を抜くな、まだ終わってねえぞ!」
 シラサカの厳しい声で直人は我に返る。和臣はこちらを睨みつけていた。左肩が赤く染まってることからして、当たったのはここらしい。
「あの男を殺せ!?」
 和臣の体はもう震えていなかった。言葉もはっきり話せている。銃弾を受けたことで薬の効果が断ち切られたのか、ひどく興奮していた。
「あれは捜査一課の刑事、ハナムラの人間に傷を負わせた極悪人だ!?」
 こんな状況ではあるのだが、どっちがだと叫びたい衝動に駆られた。どうやらそれは直人だけではなかったようで、和臣側についていた男達も困惑していた。
「命令が聞けないのか!? 私はハナムラの──」
「何度言えばわかってもらえるのですかね、和臣さん」
 和臣の声を遮り、花村が直人の側にやってきた。
「彼はハナムラの人間です。私の命令で動くように躾ている最中でしてね」
 反論しようとした直人の右腕を掴み、花村は何も言うなと目で訴えかけてきた。
「その証拠に、彼が持っている拳銃を見てください」
 花村は直人の手に握られてる拳銃を取り上げ、全員に見えるように掲げた。
「グロック17。オーストリアの銃器メーカーが作った自動拳銃です。フレームやトリガーとその周辺機構、弾倉外側がプラスチック製で軽量化されているのが大きな特徴ですが、この拳銃はカスタムパーツである金属フレームをあしらった特注品です。グロックの特徴であるプラスチックを敢えて捨て、金属製のフレームに付け替えるなんて真似をするのは……」
「はーい、僕でーす!」
 マキが手を上げて、大きな声を発した。
「プラスチックだと軽すぎて撃った気しないんだよねぇ」
 マキは満面の笑みを浮かべながら、直人の側にやってくると、花村から拳銃を受け取った。
「それにしてもだよぉ、こんな近距離で外しちゃうなんてさぁ、ナオは始末屋向きじゃないね。どうする、サカさん?」
「どうするもこうするもねえよ」
 続いてやってきたシラサカは、いきなり和臣の額に銃口を突きつけた。
「シラサカ、何をする!?」
「決まってんだろ、出来の悪い後輩の後始末だよ」
「私を殺せば、浅田が黙って──!?」
 言葉の途中で、シラサカは躊躇なく引き金を弾いた。呆気なく和臣は絶命した。
「はい、終わった終わった。後は頼んだぞ、サユリ」
 そう言って、シラサカは拳銃を収める。
「あの、シラサカさん」
「俺達の処遇は?」
 そんな中、未だ困惑の中にいるのは、和臣についていた男達である。
「この場で全員バラすつもりだったけど、気が変わった。おまえら、レイだけじゃなく、ナオにも手出さなかったからな」
 レイはハナムラのナンバー3だから撃てないのは当然だが、直人は違う。レイやシラサカと繋がりがあるものの、警視庁の刑事である。
「まさか、和臣さんを撃つ刑事がいるとは思わなくて」
「刑事のわりに根性あるなと」
 直人が取った無謀ともいえる行動が、彼らの心を動かしたようである。
「それなら、まとめて私に貸し出してもらえないかしら」
 サユリの提案に、シラサカは厳しい目を向ける。
「面倒な後始末は全て請け負うわ。あなた達に迷惑をかけたお詫びも兼ねて」
「おまえんとこの新人とイかれた殺人鬼は、きっちり処分しろよ」
「勿論。どうかしら、レイ?」
 サユリはシラサカだけでなく、レイにも同意を求めた。
「シラサカが了承するならかまわないが、いくつか要望がある」
「いいわよ。あなたの言う通りにしてあげるわ」
「まず、草薙を始めとする警察の人間はこの場に居なかったことにしろ。それから、和臣は銃の暴発による事故死とすること。それから──」
「待って、そんなの私一人じゃ無理よ!?」
 レイの申し出にサユリは慌てた。
「だったら、俺の言う通りに動け」
「せっかく面倒事を引き受けてあげたのに、自分から足を突っ込むわけ?」
「全て請け負うというのはこういうことだ、覚えておけ」
 はいはいと言って、サユリは肩をすくめた。レイの頭の中では、既に後始末の構想が出来上がっているのだろう。
 そうこうするうちに、レイは直人を睨みつけてきた。勝手に花村のところへやってきた上、和臣に発砲してしまった。花村の機転のおかげでなんとかなったが、面倒に面倒を重ねてしまったため、怒って当然だろう。
「えっと、レイ、色々と──」
「謝罪なら後で聞く。マキ、車でナオと草薙を先生のところへ連れていけ。ナオは俺がいいというまで草薙を見張ること」
 直人の言葉を遮り、レイはマキに指示を出す。
「りょーかい。そこの刑事さんはどうすんの?」
 藤堂に支えられた草薙は、深く俯いたまま反応しなかった。
「ナオと草薙だけでいい。刑事さんは警視庁に帰れ」
 レイの返事に直人は反論した。
「でも、藤堂さんは!?」
 シラサカは草薙の息子だと言ったし、藤堂も否定しなかった。どういう事情にせよ、草薙に付き添うのは藤堂の役目だろう。
「ハナムラが関わるのは、草薙直属の部署である特殊事件捜査二係だけ。それ以外の人間と関わるつもりはない」
「そうだな。桜井、草薙総監のこと頼んだぞ」
 藤堂は反論することなく、草薙を直人に引き渡す。ここでも草薙はされるがままだった。
「シラサカとカナリアは、刑事さんを警視庁に送っていけ。カナリアは車中で刑事さんにモニターをつけろ。そして、俺がいいというまで監視を続けること」
「何もそこまでやらなくても……」
 シラサカは不服を訴えたが、レイは厳しい視線を向け、こう言い放った。
「外部の人間にハナムラの実情を知られたんだぞ。即刻処分になるところを、監視だけで済ませたんだ。十分過ぎるほど配慮したと思うが?」
「はいはい、わかりましたよ」
 シラサカもサユリと同様に肩をすくめてみせた。次にレイは蓮見を見やる。
「蓮見さん、公安に使えるツテはまだありますか?」
「ああ。藤井の情報を流してくれた奴なら使える」
 蓮見は腕組みをして言った。
「藤井と公安二名の偽装工作の手伝いをお願いしたいのですが、かまいませんかね?」
「そういうことなら、橋渡し役として俺も加わるぜ」
 レイは了承を示すように頷いた後、花村の側へやってきて一礼する。
「ボス、お体の方は?」
「問題ない。半分は芝居だったからな」
「念のため、先生に診察を受けていただいた方がよろしいかと。この後の予定は全てキャンセルして、車を用意させます。それまでハナムラコーポレーションの方で待機してくださいますか?」
 草薙のこともあってか、レイは花村も松田の診療所で向かわせるようである。
「わかった。全ておまえに任せるよ」
 まもなく、レイは和臣側についていた人間達を集め、こう言い放った。
「おまえらがまずやることは、社長室の掃除だ。管轄外だろうがなんだろうが全員でやってもらう。これだけで終わると思うなよ。一時とはいえ、ハナムラに反旗を翻した罰はきっちり受けてもらうからな!」
 レイより年上の人間がほとんどだというのに、異論を唱える者は一人もいなかった。
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