Fの真実

makikasuga

文字の大きさ
上 下
37 / 43
終焉~Fの遺言~

しおりを挟む
「というわけだから、よろしくね、ハスミン」
 マキの言葉は、背後にいた蓮見と藤堂に向けられたものである。直人に何かあったときのためにと、二人を待機させてあったのが幸いした。
「藤堂、草薙さんを止めてくれ」
 顔を見られないようにするためか、藤堂は深く俯いていた。
「聞いていただろう。このままでは草薙さんが罪を犯すことになる」
「無理だ……」
 蓮見の問いかけに答える藤堂の声は、震えていた。
「桜井の言葉に耳を貸さないのに、俺が何を言っても無駄だろ」
 それを聞いてシラサカは藤堂に駆け寄り、胸倉を掴んだ。
「おまえは草薙の息子だろ」
 藤堂はようやく顔を上げた。強く唇を噛みしめ、目の前のシラサカを睨みつける。
「あいつを止められるのは、おまえしかいねえだろうが!?」
 シラサカの言葉に思うところがあったのか、藤堂の顔つきが変わった。
「これはあんたら警察が手を汚す問題じゃない。和臣は俺がバラす。ハナムラの始末屋のリーダーがやれば文句ねえよ」
 果たして本当にそうだろうかとレイは考える。正直、和臣側の人間が組織内にここまでいたとは思いもしなかった。掃除屋のリーダーであるサユリのことは、寝耳に水であった。

 あいつが会社に顔を出さなかったのは、そういう事情があってのことか。

 だが、サユリは和臣ではなく花村を選んだ。側にいる時間が長かったからこそ、情だけではない感情を持ってしまったのではないだろうか。

(責任は私が取る。存分にやりたまえ)

 それでも希望はある。相次郎がどこまで抑え込んでくれるのかで、ハナムラの行く末は決まる。だからこそ、花村と草薙は和臣に直接手を下してはならないのだ。

「言いたい放題言いやがって」
 シラサカの手を振り解く藤堂。表情から不安も迷いも消えていた。
「ダメです、草薙さん!?」
 そのとき、直人の切迫した声が響いた。草薙は和臣に被さり、彼の額に銃口をあてがっていた。
「それ以上、手を出してはいけない。あなたは、ここで終わってはいけない!」
「桜井君と蓮見と三人での仕事は、とても楽しかったよ」
 直人の言葉に微笑んだ後、草薙は表情を一変させ、引き金を弾こうとしたが……
「させるかよ」
 間一髪のところで、藤堂が草薙の拳銃を素手で掴んだ。
「あんたの苦しみの半分は、俺が背負ってんだぜ」
 藤堂が発した言葉に、草薙は驚愕した。
「離れてくれ、藤堂君」
 草薙は藤堂を振り切ろうとするが、彼は手を離そうとしなかった。
「離れろと言っているんだ!?」
「俺には、あんたを止める権利がある」
 藤堂の母であった文香は、草薙をよく理解していた。血縁を嫌い、断ち切ろうとする彼を止めるためには、新しい血縁が必要だということを。
「頼むから、これ以上、私を苦しめないでくれ……!」
 現に、直人の言葉に耳を貸さなかった草薙が、藤堂の言葉に揺れ動き、引き金を弾けずにいる。
「その苦しみの半分も俺が引き取ってやる。だから、あんたは罪を犯すな」
 そう言って、藤堂は草薙を和臣から引き剥がした。
「おまえに、息子が、いたとはな……」
 草薙が躊躇いを見せたことで、和臣は反撃に出た。どこに隠し持っていたのか、右手に拳銃が握られていた。薬のせいで体の震えが止まらないこともあり、引き金を弾けば、弾がどこへ飛んでいくかわからない。
「まとめて、殺して、やる!?」
「シラサカ!?」
 レイが叫ぶと同時にシラサカは拳銃を構え、引き金を弾こうとした。そこに直人が立ちはだかる。
「邪魔をするな、ナオ!」
 直人はシラサカに向かって不敵に微笑んだ後、マキの拳銃を右手に握りしめ、和臣に向けて発砲した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彩鬼万華鏡奇譚 天の足夜のきせきがたり

響 蒼華
キャラ文芸
元は令嬢だったあやめは、現在、女中としてある作家の家で働いていた。 紡ぐ文章は美しく、されど生活能力皆無な締め切り破りの問題児である玄鳥。 手のかかる雇い主の元の面倒見ながら忙しく過ごす日々、ある時あやめは一つの万華鏡を見つける。 持ち主を失ってから色を無くした、何も映さない万華鏡。 その日から、月の美しい夜に玄鳥は物語をあやめに聞かせるようになる。 彩の名を持つ鬼と人との不思議な恋物語、それが語られる度に万華鏡は色を取り戻していき……。 過去と現在とが触れあい絡めとりながら、全ては一つへと収束していく――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。 イラスト:Suico 様

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

今日からユウレイ〜死んだと思ったら取り憑いてた⁉︎〜

さこゼロ
キャラ文芸
悠木玲奈は気が付くと、 とある男性の部屋にいた。 思い出せるのは、迫り来る大型トラックと、 自分の名を呼ぶ男性の声。 改めて自分の様子を確認すると、 その身体は透けていて… 「え⁉︎ もしかして私、幽霊なの⁉︎」

グルメとファッション、庶民派王様一家とチヨちゃん

古寂湧水 こじゃくゆうすい
キャラ文芸
四越百貨店や高鳥屋に渋谷の西急本店、南武デパート池袋を買収し日本一に! まもなく完結する”世界グルメ食べ歩き、庶民派王様一家とチヨちゃん”に続くものですので、毎日蒸かし芋を食べている庶民派の王様一家とチヨちゃんの、世界のグルメとファッションが中心です。前巻に関わらずにこちらからでもスンナリと、入って行けるように組み立てています。大手のデパートをほとんど買収するとともに、イトー羊羹堂にスーパーオゾンも傘下に収めます。

処理中です...