Fの真実

makikasuga

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真相~Fの言霊~

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 捜査一課の刑事藤堂とシラサカを伴い、レイは直人の部屋にやってきた。滞在しているはずの草薙はおらず、彼を憎悪している藤井が玄関にいた。藤井は全身を真っ赤に染め、震える手でこちらに銃口を向けていた。
「藤井さん!?」
 レイを押しのけ、藤堂は藤井に駆け寄った。
「お、まえ、なん、で、そいつら、と……」
 藤堂の顔を見て気が緩んだのか、藤井はその場に崩れ落ちた。手や服が汚れることをかまわず、藤堂は藤井を抱き止め、腹部の出血を止めようとする。
「すぐ救急車を呼びますから!」
「呼んだところで手遅れだって」
 藤堂は振り向き、言葉を発したシラサカと無言のレイを睨みつけた。
「この状況を見て、なんとも思わないのかよ!?」
「落ち着けよ、刑事さん。救急車なんか呼んだら、面倒が増えるだけだろ」
 シラサカの言っていることは間違っていない。むしろ、頭に血が上ってしまっているのは藤堂の方だ。
「それより、早く聞いておいた方がいいんじゃないの。誰にやられたのか、その返り血が誰のものかってこと」
 全身を赤く染めているものの、藤井の傷は腹部のみ。他はシラサカが言うように返り血だ。藤井の目の前で誰かが傷つき、倒れた可能性が高いのである。
「俺、は、終わっ、てね、え……あいつ、ら、ぜっ、た、ゆるさ、ね……」
 言葉の途中で口から血を吐き出して、藤井は事切れてしまった。
「藤井さん、藤井さん!?」
 藤堂が強く呼びかけ、体を揺さぶっても、藤井は反応しなかった。こちらに銃口を向けることが出来る状態ではなかったのに、藤井の最期の執念と言うべきだろう。
「ほらな。救急車なんか呼んでも無駄だったろ」
 シラサカがやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
「おまえらは、最低の人間だ!?」
 藤井の元を離れた藤堂は、怒りで我を忘れていた。赤く染まった手でシラサカの胸倉を掴んだために、彼の服に血液が付着してしまう。
「最低で結構だけどさ」
 声のトーンが下がると同時に、シラサカの右手が藤堂の首元にかかる。
「あんたのせいで汚れちまったじゃねえか。ハニーが怖がるから、着替えてこないと」
 シラサカは藤堂の首を締め上げる。余程強い力なのか、藤堂は顔を歪めるだけだった。
「やめろ、シラサカ、これ以上面倒を増やすな」
 レイが声をかけると、はいはいと言ってシラサカは手を離した。藤堂はその場で激しく咳き込んだ。
「同僚のショッキングな姿を見て動揺するのはわかるけどな。せめて誰にやられたのか、聞いておくべきだったぜ」
 レイは事切れた藤井を避け、部屋に上がり込む。シラサカも後に続いた。リビングにはそれらしき形跡が何も無かった。床に血液が付着していたが、おそらく藤井のものだろう。血痕は奥の部屋へと続いていた。そこは、寝室として草薙が使用していた部屋である。
「なるほど、ここか」
 扉を開け放てば、室内には大量の血液と争った形跡が残されていた。藤井に致命傷を与えたのはここだろう。全身の返り血からして、藤井以外にも死人が出たことが推測される。それなのに、部屋に残されたのは藤井ひとり。

 他の死体を片づけたのは誰だ? なぜ藤井だけが残されたんだ?

「あーあ、こりゃ掃除しないと使えねえな」
 シラサカが発した掃除という言葉に、はっとするレイ。すぐさまスマートフォンを取り出して電源を入れ、登録してある番号にかける。繋がった瞬間、こう叫んだ。
「勝手に仕事引き受けてんじゃねえぞ、サユリ!」
『久しぶりね、レイ。あなたから直接連絡がくるなんて、いつ以来かしら?』

 普段は影に隠れているが、始末屋の後始末をする掃除屋は、重要な役割を担っている。そのリーダーがこのサユリという女性だ。彼女は医師免許を持つ元科学者で、花村と近い年齢だという噂もあるが、年齢不詳である。整形したのか童顔なだけなのか、外見だけは二十代半ばに見える。死体を解体することに情熱を燃やしており、レイが組織に入った頃から既に中枢にいた。日中は花村の秘書として彼の仕事をサポートすることもあるが、ハナムラコーポレーション内には姿を見せず、要請に応じて現場に行くことがほとんどだ。

「とぼけてんじゃねえ。ナオの部屋にあった死体を掃除したのは、おまえんとこの人間じゃねえのかよ」
 室内の様子からして、とりあえず死体を片づけたとしか思えない。サユリの仕事にしては不完全だが、掃除屋は彼女ひとりではない。指示に従って仕事する人間がいる。しかも、最近になって新人が入ったばかりだ。
『モルモット君の部屋? そんなの知らないわ。それより彼、とっても可愛いわね!』
 サユリは直人とは面識がない。それなのに、なぜモルモットと呼んだのか。
「まさか、そっちにナオがいるのか!?」
『そうよ。花村に会いたいって一人で乗り込んできたの』

 違う、ナオひとりじゃ来られるわけがない。
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