Fの真実

makikasuga

文字の大きさ
上 下
8 / 43
始まり~Fの呪縛~

しおりを挟む
「心配しなくていい。花村は君に危害を加えることはしないから」
「俺のことより、自分の体を心配してください。明日からどうするんです?」
 直人は草薙をリビングのソファーに横たわらせ、寝室から持ってきたタオルケットをかけた。
「勿論、仕事をするよ」
「せめて、明日は休まれた方が!?」
「私には立場がある。警視庁の長としての責任がある」
 桜井の訴えに、草薙は静かに笑みを浮かべた。おそらく、何を言ってもノーとしか言わないだろう。
「だったらせめて、捜査をさせてください」
「捜査とは?」
「あなたを刺した犯人を捕まえることです」
「事件にもなっていないのに、どうやって捕まえるのかな?」
 怪我の治療を松田に依頼してきた以上、犯人に関しても草薙は口を割らないだろう。
「特殊捜査二係は、捜査一課に所属していますが、基本的に独立した組織です。どんな捜査をしているのか、報告する義務もありません」
「大事なことを忘れていないか、特殊捜査二係は、私が作った組織だよ。ここへ滞在することは認めたが、捜査は認めない」
 草薙は鋭い視線で直人を見つめる。
「そういうことなら、草薙総監、休暇をください。仕事じゃなければ、事件にもなっていない事案を調べても、問題ありませんよね」
 権力で締めつけてくることは、わかっていた。ならば、特殊捜査二係としてではなく、直人が個人的に動けばいい。
「頼む、無茶をしないでくれ、桜井君」
 直人の行動を察して、草薙は起き上がった。常に冷静な彼にしては、ひどく焦っているように見えた。
「私は、君を失いたくないんだよ!」
「だったら認めてください。今回の事案、特殊捜査二係で捜査させてください」
 捜査をすれば、草薙の過去に踏み込むことになる。プライバシーに立ち入るのは気が引けるけれど、このまま黙って見ていることなんて出来ない。

『ナオは、俺らが護ってやる』
 そのとき、どこからともなくレイの声が聞こえてきた。花村が来るからと早々に辞したものの、この部屋の持ち主はレイだし、奥の部屋にデスクトップパソコン一式が揃えられていることからして、今までのやり取りを聞いていたようだ。
『別にあんたの味方をするわけじゃない。ボスから連絡がきて、ナオが捜査をすると言い出すから、サポートしてやれと言われたんだよ』
『この俺がついてやるんだ、傷一つつけねえよ』
 そこに、シラサカの声が混じる。
『ナオが捜査するなら、当然ハスミンも一緒でしょ。そっちは僕に任せて』
 続いてマキ。どうやら彼は蓮見に就くようである。
『あんたがくたばると、大事な金づるがいなくなる。権力と金は、いくらあっても困らないからな』
「反対しても、無駄と言うことか……」
 草薙は小さく息を吐いた後、苦笑いを浮かべて言った。
「最後の忠告だ、桜井君。この件に首を突っ込めば、後戻り出来なくなるよ」
 事の始まりは、草薙から強引に違法捜査を押しつけられたことだった。事実上のクビを言い渡されて、レイ達と出会った。自分とは真逆の位置にいて、決して許されないことをしているというのに、彼らには彼らなりの正義があることを知った。
「今更ですよ。それに、上司を傷つけられて、平気でなんかいられませんから」
 レイ達と出会わなければ、こんな気持ちにはならなかった。誰かを救うということが、自分の天職だということにも気づかなかったはずだから。
「わかった。捜査を許可しよう。だが、私は何も話さないよ」
『そういうことなら、勝手に調べるまでだ』
 ここぞとばかり、レイが言った。ハナムラの情報屋である彼の手にかかれば、わからないものはないと言ってもいいだろう。
『はーい、話決まり。ナオ、サカさんの部屋においでよ。歓迎パーティーのやり直ししよう』
 マキの誘いは有り難かったが、怪我人を置いてはいけない。直人が断ろうとする前に、草薙が言った。
「だそうだよ、桜井君。明日からの仕事に備えて、私はここで休ませてもらうから」
「でしたら、ソファーでなく寝室の方に」
 怪我人だからこそ、草薙はベッドで休むべきだと直人は思っていた。
「この部屋の主は君だ。私はここで十分だよ。着替え等は松田が運んでくれることになっている。あいつにも伝えておくから、行っておいで」
 部屋が別とはいえ、上司であり警視総監でもある草薙と同じ屋根の下で暮らすのは、緊張感を伴う。
『ほら、お許しも出たんだし、早くおいでよぉ』
 マキに急かされたこと、今後のことをレイと話したいこともあって、直人はシラサカの部屋を訪ねることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友よ、お前は何故死んだのか?

河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」 幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。 だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。 それは洋壱の死の報せであった。 朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。 悲しみの最中、朝倉から提案をされる。 ──それは、捜査協力の要請。 ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。 ──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?

笛智荘の仲間たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
 田舎から都会に出てきた美優が不動産屋に紹介されてやってきたのは、通称「日本の九竜城」と呼ばれる怪しい雰囲気が漂うアパート笛智荘(ふえちそう)だった。そんな変なアパートに住む住民もまた不思議な人たちばかりだった。おかしな住民による非日常的な日常が今始まる!

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり
キャラ文芸
 刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。  それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。  ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。  警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。  事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

魔法屋オカマジョ

猫屋ちゃき
キャラ文芸
ワケあって高校を休学中の香月は、遠縁の親戚にあたるエンジュというオカマ(本名:遠藤寿)に預けられることになった。 その目的は、魔女修行。 山奥のロッジで「魔法屋オカマジョ」を営むエンジュのもとで手伝いをしながら、香月は人間の温かさや優しさに触れていく。 けれど、香月が欲する魔法は、そんな温かさや優しさからはかけ離れたものだった… オカマの魔女と、おバカヤンキーと、アライグマとナス牛の使い魔と、傷心女子高生の、心温まる小さな魔法の物語。

喫茶店オルゴールの不可思議レシピ

一花カナウ
キャラ文芸
喫茶店オルゴールを舞台にしたちょっぴり不思議なお話をお届けいたします。

処理中です...