追憶のquiet

makikasuga

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復活のコールサイン

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 マキと桜井を伴って、レイは地下駐車場からエレベーターに乗った。
 十五階のボタンを押せば、マキが察したように小さく頷く。扉が閉まって上昇が始まると、マキは真剣な表情で桜井に詰め寄った。
「なんだよ、そんなに近づいてきて」
「僕らについてくるってことがどういうことか、本当にわかってる?」
 マキの言葉が意外だったのか、桜井は苦笑いを浮かべた。
「わかってるからあんな真似したんだよ。一介の刑事が警視総監に銃口突きつけたんだ、タダで済むわけ──」
「そんなの、脅されたって言えばいいだけじゃん!」
 桜井の言葉を遮って、マキは叫ぶ。
「一緒に来てくれて嬉しかった。でも、ナオには待ってる人がいる。その人達を置いていくってことがどういうことか、本当にわかってんの!?」
 マキの気持ちを受け取めてのことだろう、桜井は神妙な顔つきになった。
「ここで引き返して。もう十分だから」
「待てよ、俺は」
「ナオを殺したくないって言ったじゃん!」
 顔を見られたくないとでも言うように、マキは深く俯いた。
「こんな風に考える事自体間違ってるけど、正直ホッとした」
 シラサカの懸念通りだった。マキは桜井に心を開いてしまった。このまま突き進めば、マキは桜井をバラさなくてはならなくなるだろう。
「今日言ったことは僕の本心だよ。でもナオは刑事だから、草薙の命令には絶対従うと思ってた」
 レイが通信を切った後、マキは車中で桜井に何か言ったのだろうか。
「蓮見さんのお嬢さんがまだ中にいる。俺が行かなきゃ、おまえらの姿を見られることになるぞ」
 一番の懸念はそこである。当初はそのつもりで桜井を連れてくるようマキに頼んでいた。
「そのことだがな、ボスと合流したシラサカが、まだJTRと遭遇していないと言っていた。あいつは蓮見桜と面識があるから、なんとかなる」
 JTRの目的はレイを引きずり出すこと。そのために花村がいるホテルを襲撃させた。かき回した連中の処分は済んでいる。後はレイが出て行けばいいだけ。
「草薙が何を言ったのかはわからないが、誰に対しても容赦ないボスが折れたんだ。奇跡を無駄にするな」
 草薙から花村を動かす方法を教えろと言われ、ヤスオカの名前を出したが、その程度で花村が揺らぐことはないと思っていた。
 だが花村は折れた。捜一の刑事を解放しろとレイに言った。処分ではなく解放という言葉を使ったのは、無傷で返せということなのだ。
「そうだよ、ナオ。僕に引き金を弾かせたりしないで」

 マキと同じで、俺もおまえに生きていてほしいんだよ、ナオ。

 レイは想いを口にはしなかった。マキが十分すぎるほど伝えてくれたはずだから。
「俺達は先に降りる。あんたは上まで行ってから引き返せ」
 レイは本来の行き先である九階のボタンを押した。エレベーターは既に七階を過ぎており、すぐ目的地に到着した。
「俺は、何の役にも立てなかったんだな……」
 桜井は説得を聞き入れたようだった。悔しそうに唇を噛みしめている。
「そんな事ないよ。この二日間楽しかった。さようなら、刑事さん」
 扉が開くと、先にマキが降りた。マキはもうナオとは呼ばなかったが、笑顔は忘れなかった。
「草薙が言ったように、俺達のことは全て忘れろ。誰にも話すなよ」
 最初はあんなに嫌がっていたのに、犯人を捕まえたい一心でついてきた。まっすぐな上に純粋で恐れを知らない。傷ついても這い上がり、決して信念を曲げない。

 あんたは堕ちてくるな、俺達の世界に。

 心で呟いて、レイがエレベーターから降りた瞬間だった。照明が落ち、周囲が暗闇に閉ざされた。
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