追憶のquiet

makikasuga

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ゼロとJTR

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「住居侵入罪で緊急逮捕だ」
 声の主はそのまま玄関へと侵入し、扉を閉める。夜だというのに帽子を深く被っていて顔がよく見えないが、身長は桜井やレイと同じ位だから一七五センチ位か。動きの機敏さと声のトーン、全体像からして、男だということはわかる。
「よく調べもせずに逮捕とは横暴だな。こんなものを突きつけておいて」
 男はレイと密着していた。レイが「こんなもの」というのだから、銃器を突きつけているのだろう。住居侵入罪、逮捕という言葉からしても、男が警察関係者であることは明らかだった。
「後ろの男は銃刀法違反だな」
 今回はレイの指示に従わなかったマキ。目に見える形で、男に銃口を向けていた。
「仕舞えといっただろうが」
「危険に晒されているのをわかっていて、そのままには出来ないよ」
 そう言った後、マキは男に向かってこう言い放った。
「あんたが引き金を弾く前に、僕がバラすよ」
「ボディーガードというわけか。用意周到だな」
 男は苦笑した後、呆然としていた桜井に視線をやった。
「しかも捜査一課の刑事まで丸め込んで」
 男は桜井を知っている。捜査関係者か、あるいは桜井自身のことをよく知る人物か。
「何が狙いだ、JTR」
 男が発したJTRという言葉が引っかかった。桜井の刑事としての勘だった。
「マキ、寝室のドアノブの鍵穴を撃ち抜け」
 唐突にレイが言った。
「ちょっと何言ってんの? 撃つのは目の前の」
「命令だ、早くしろ」
 シラサカは始末屋のリーダーで、レイは情報屋のリーダーだと言っていた。警察階級に当てはめれば、マキよりレイの方が立場が上ということらしい。
「もう、やればいいんでしょ、やれば!」
 不服そうにしながらも、マキは命令に従い、言われた通りドアノブの鍵穴を正確に撃ち抜いた。
「この部屋に仕掛けられていたカメラは切った。ここの会話は俺達以外は誰も聞いちゃいねえ」
「カメラを切った、だと」
 男は驚いていた。それはマキも桜井も同じだった。
「マキが撃ち抜いた場所に、カメラが仕掛けられていたんだよ。ナオ、確認してこい」
 名前で呼ばれるのは気恥ずかしいものの、レイがいうカメラの存在が気になり、桜井は寝室の扉へ近づいた。
 ドアノブの下の部分を銃弾が突き抜けていた。そのまま寝室のドアを開け放ち、暗い室内に光を通す。電気を付ければいいのだが、下手に触って指紋が残るのはマズい。マキが正確に撃ち抜いていたことからして、銃弾はカメラを破壊したか、衝撃で吹き飛んだと想定される。

 電気をつけなきゃ、わかんねえか。

 そう思って何気なく寝室の壁に目をやったとき、桜井は気づいた。さっきまでなかったはずの小さな穴があったから。そのままベッドに駆け上がり、壁に近づく。
「あった……!」
 思わず声が大きくなる。のめり込んでいるのは小さな部品と銃弾だ。壁をほじくり返して、それを取り出し、桜井は玄関へと向かった。状況は数分前と変わっておらず、マキは男に銃口を向けたままだった。

「おまえの言うとおりだったよ、レイ」
 桜井は初めてレイを名前で呼んだ。
「鍵穴にこんなものが埋め込まれているなんて、明らかに不自然だ」
「おまえは、JTRじゃなかったのか」
 男はそう呟くと、レイから離れた。右手には拳銃が握られていた。
「それがあんたの追ってる人物か」
「不法侵入も銃刀法違反も見逃してやる、さっさと出て行け」
 聞こえていないはずはないのに、男はレイの問いかけを無視した。
「そのJTRを、俺達も追ってるといったらどうする?」
 隙をついて、レイは男の右手を掴んで拳銃を奪った。そのまま銃口を向ける。あっという間の形勢逆転である。
「あんた、ゼロだろ」
「聞こえなかったのか、見逃してやるから出て行けといっている」
 圧倒的不利な状況にも関わらず、男は態度を変えない。レイは苦笑しながら拳銃を持ち替え、男にグリップを握らせる形で差し出す。少し考えた後に男がそれを受け取ると、こう問いかけた。
「JTRとはジャック・ザ・リッパーの略称。世間を騒がしている連続殺人犯は、国に危害を加えるテロリストってことか」
 国の安全を第一と考える公安警察の中で情報収集を手掛ける部門、それがゼロである。彼らが何をしているのか、警視総監も知らないという話だった。
「何者だ、おまえ達は」
「俺はハナムラの情報屋のレイ。こっちは始末屋のマキ。こいつは以前ゼロ指揮官だった警視総監の草薙が寄越した捜一の刑事だよ」
「草薙さんが?」
 草薙の名を聞いて、男が反応を示した。
「きちんと名乗ったのだから、そっちも名乗るべきだろう」
 それでも口を閉ざす男に向かって、レイはこう言ってとどめを刺した。
「JTRは、国を滅ぼすテロリストなんかじゃねえ」
 公安の仕事を否定する発言だというのに、男は何も言い返さなかった。
「今回はゼロとしてではなく、私情で動いてるんじゃねえのか、蓮見隼人はすみはやとさん」
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