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再生の儀式
⑥
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「そんなにレイが大事?」
シラサカは、コールがレイに向けて引き金を弾こうとする直前に歩み寄り、彼の拳銃を素手で掴んで止めさせた。
「こいつはハナムラの人間だからな」
コールも本気で撃つつもりはなかったのだろう。あっさりと引き下がった。レイは既に意識を失っており、花村に支えられたまま、苦しげな息を漏らしていた。
「殺すには惜しい逸材なんだよね。レイを生かしてあげるからさ、K、こっちへおいでよ」
コールの左手にはいつのまにか拳銃が握られており、銃口はシラサカの腹部に当てられていた。
「言ってなかったけど、俺も二丁拳銃を扱えるんだ。おまえが俺達の元へ来るというのなら、ミスター・ハナムラも生かしてやってもいい」
花村の名前を出され、初めてシラサカの気持ちが揺れた。それを見透かしてのことだろう、花村がこんな言葉を放った。
「命令だ、シラサカ。こいつらを片づけろ」
「ですが!?」
「このまま彼らを放てば、全ての均衡が壊れる」
花村の言おうとしていることは理解出来たが、親代わりともいえる彼を見捨てることなんて出来やしない。
「やれ、シラサカ。グスタフやアカネさんの死を無駄にする気か」
「ここまできて、あなたまで失いたくないのです!」
自分のせいでアカネが亡くなったと聞かされ、シラサカは荒れた。花村の元から逃げ出し、何度となく衝突を繰り返したが、最後には決まってシラサカを強く抱きしめてくれた。
(私をここまで振り回すのは、おまえだけなんだぞ)
幼い頃、頭を撫でてくれた父。強く抱きしめてくれる花村。彼らが愛情を与えてくれたから、シラサカはコールやZのような怪物にならずに生きてこられたのだ。
「おまえを変えたのは、やはりミスター・ハナムラだということか」
「おまえにだって、親ぐらいいただろうが!?」
子が産まれるということは、男女が愛し合った結果である。その感情がどんなものであれ、人は皆、母の体で命を与えられて育つのだから。
「親の顔なんて知らない」
忌々しいとでも言わんばかりに、コールは顔を歪ませた。
「産んですぐ捨てたのだろう。親代わりだった男は、俺を売り飛ばすためだけに生かしたんだ。変態野郎の玩具になる寸前で逃げ出して、エーデルシュタインという居場所を見つけるまで、何度も死にかけたさ!」
コールの目に狂気が浮かんだ。その凄まじさに、側にいるシラサカも飲み込まれそうになった。
「イクスという名は、Xという名に変わったが、エーデルシュタインは俺が俺でいられる唯一の居場所だったんだよ」
「君は、イクスというのが本当の名前なのか!?」
コールの言葉に、花村がすぐさま反応を示した。
「そうだ。俺の親を知っているとでもいうのか、ミスター・ハナムラ」
「グスタフとアカネさんの間に出来た子供は、ここにいるシラサカだけじゃない」
「どういうことですか、ボス!?」
この話は、シラサカも初耳だった。
「アカネさんはドイツで双子を出産したが、生後まもない状態でさらわれて、ひとりは遺体で発見されたと聞いている。双子の名前はイクスとケイ。どちらも男の子だ。心身共に傷ついた彼女を、グスタフは日本に帰国させた。自分のせいでこれ以上の犠牲を出させないためだったと聞いている」
アカネがシラサカに母だと名乗らなかったのは、自分ひとりが日本へ帰国したためだと聞いていたが、それ以上のことは聞いていない。アカネを殺したのは自分。彼女を思い出せば、心の傷をえぐり出すことになる。そうやって、シラサカは過去を封印し続けてきた。
「俺とコールが双子の兄弟だってことですか!?」
「確かめたくとも、グスタフもアカネさんもこの世にいない。DNA鑑定ではっきりさせるしかないだろう」
髪の色も瞳の色も違うのにと思ったが、二卵性の双子なら有り得ることだった。
「それが本当なら、おまえはこちら側の人間だよ、K」
コールは更に強く銃口を押しつけてきた。シラサカは戸惑うばかりだった。
「グスタフが父ねえ、どうりであいつにシンパシーを感じたはずだよ」
コールが高らかに笑い、シラサカは激しく動揺した。
「さあ、おいで、K。俺達で世界を変えよう」
怪物に後ろから抱きすくめられているかのようだった。逃げ場はどこにもない。Zに打たれた睡眠薬が効いていることもあり、シラサカは正常な判断が出来なくなっていた。
俺は、こいつらと共に生きなくてはならないのか?
「君と俺は血の絆で結ばれている。誰にも振り解けやしないのさ!」
エーデルシュタインの呪縛から、一生逃れられないのか?
「だったらその絆、僕が断ち切ってあげる」
澄んだ声が聞こえたと思った瞬間、一発の銃声が響いた。
シラサカは、コールがレイに向けて引き金を弾こうとする直前に歩み寄り、彼の拳銃を素手で掴んで止めさせた。
「こいつはハナムラの人間だからな」
コールも本気で撃つつもりはなかったのだろう。あっさりと引き下がった。レイは既に意識を失っており、花村に支えられたまま、苦しげな息を漏らしていた。
「殺すには惜しい逸材なんだよね。レイを生かしてあげるからさ、K、こっちへおいでよ」
コールの左手にはいつのまにか拳銃が握られており、銃口はシラサカの腹部に当てられていた。
「言ってなかったけど、俺も二丁拳銃を扱えるんだ。おまえが俺達の元へ来るというのなら、ミスター・ハナムラも生かしてやってもいい」
花村の名前を出され、初めてシラサカの気持ちが揺れた。それを見透かしてのことだろう、花村がこんな言葉を放った。
「命令だ、シラサカ。こいつらを片づけろ」
「ですが!?」
「このまま彼らを放てば、全ての均衡が壊れる」
花村の言おうとしていることは理解出来たが、親代わりともいえる彼を見捨てることなんて出来やしない。
「やれ、シラサカ。グスタフやアカネさんの死を無駄にする気か」
「ここまできて、あなたまで失いたくないのです!」
自分のせいでアカネが亡くなったと聞かされ、シラサカは荒れた。花村の元から逃げ出し、何度となく衝突を繰り返したが、最後には決まってシラサカを強く抱きしめてくれた。
(私をここまで振り回すのは、おまえだけなんだぞ)
幼い頃、頭を撫でてくれた父。強く抱きしめてくれる花村。彼らが愛情を与えてくれたから、シラサカはコールやZのような怪物にならずに生きてこられたのだ。
「おまえを変えたのは、やはりミスター・ハナムラだということか」
「おまえにだって、親ぐらいいただろうが!?」
子が産まれるということは、男女が愛し合った結果である。その感情がどんなものであれ、人は皆、母の体で命を与えられて育つのだから。
「親の顔なんて知らない」
忌々しいとでも言わんばかりに、コールは顔を歪ませた。
「産んですぐ捨てたのだろう。親代わりだった男は、俺を売り飛ばすためだけに生かしたんだ。変態野郎の玩具になる寸前で逃げ出して、エーデルシュタインという居場所を見つけるまで、何度も死にかけたさ!」
コールの目に狂気が浮かんだ。その凄まじさに、側にいるシラサカも飲み込まれそうになった。
「イクスという名は、Xという名に変わったが、エーデルシュタインは俺が俺でいられる唯一の居場所だったんだよ」
「君は、イクスというのが本当の名前なのか!?」
コールの言葉に、花村がすぐさま反応を示した。
「そうだ。俺の親を知っているとでもいうのか、ミスター・ハナムラ」
「グスタフとアカネさんの間に出来た子供は、ここにいるシラサカだけじゃない」
「どういうことですか、ボス!?」
この話は、シラサカも初耳だった。
「アカネさんはドイツで双子を出産したが、生後まもない状態でさらわれて、ひとりは遺体で発見されたと聞いている。双子の名前はイクスとケイ。どちらも男の子だ。心身共に傷ついた彼女を、グスタフは日本に帰国させた。自分のせいでこれ以上の犠牲を出させないためだったと聞いている」
アカネがシラサカに母だと名乗らなかったのは、自分ひとりが日本へ帰国したためだと聞いていたが、それ以上のことは聞いていない。アカネを殺したのは自分。彼女を思い出せば、心の傷をえぐり出すことになる。そうやって、シラサカは過去を封印し続けてきた。
「俺とコールが双子の兄弟だってことですか!?」
「確かめたくとも、グスタフもアカネさんもこの世にいない。DNA鑑定ではっきりさせるしかないだろう」
髪の色も瞳の色も違うのにと思ったが、二卵性の双子なら有り得ることだった。
「それが本当なら、おまえはこちら側の人間だよ、K」
コールは更に強く銃口を押しつけてきた。シラサカは戸惑うばかりだった。
「グスタフが父ねえ、どうりであいつにシンパシーを感じたはずだよ」
コールが高らかに笑い、シラサカは激しく動揺した。
「さあ、おいで、K。俺達で世界を変えよう」
怪物に後ろから抱きすくめられているかのようだった。逃げ場はどこにもない。Zに打たれた睡眠薬が効いていることもあり、シラサカは正常な判断が出来なくなっていた。
俺は、こいつらと共に生きなくてはならないのか?
「君と俺は血の絆で結ばれている。誰にも振り解けやしないのさ!」
エーデルシュタインの呪縛から、一生逃れられないのか?
「だったらその絆、僕が断ち切ってあげる」
澄んだ声が聞こえたと思った瞬間、一発の銃声が響いた。
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