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再生の儀式

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『ショータイムだ、Z。ジャパンの連中に見せつけてやれ!』
 コールが英語で叫ぶと、金髪の若い男が両手に拳銃を持って現れた。
「あいつがZかよ」
 元エーデルシュタイン最年少メンバー、Z。現在二十五歳のはずだが、身長はマキとあまり変わらない位の小柄で、未成年でも通用しそうな幼い顔つきをしていた。
『ハナムラは最後、レイは殺すなよ』
『オーケー』
 Zはレイと花村を見て笑った。幼い外見とは裏腹に、青い両目は酷く冷酷な光を放っていた。どことなくマキに似ていることもあって、レイは戸惑った。
『特別に見せてやるよ、本当のパーティーがどういうものかをな』
 殺人をパーティーと称するだけあって、Zの殺しは派手だった。泣き叫ぶ人、逃げようと駆け出す人、恐怖で動けなくなった人、そんな人々を蔑むように笑って傷つける。一発で仕留めようとはせず、痛みと苦しみを十分与えてから殺す。それは、人を人とも思わない最低の殺し方だった。

「やめろ、もうやめてくれ!」
 たまらずレイは顔を背けた。それを見て、コールがクスリと笑う。
「君には刺激が強すぎたかな、レイ」
 悪魔でも死神でもない、彼らは怪物だ。花村が言ったように、とても敵わない。
「後始末はどうするつもりだ?」
 凄惨な現場を見ても、花村は顔色一つ変えることなく淡々としていた。
「相応の対価は支払っていますから」
「主催者とは犬猿の仲と言われている人物が複数混じっている。彼らの暗殺も請け負ってのことか」
「そこには、あなたも含まれていることをお忘れなく」
 コールは蔑むように笑った後、Zに英語で問いかけた。
『Z、後はジャパンの連中に任せろ』
 生存者は残りわずかになっていた。コールに呼ばれ、Zがすぐ側までやってきた。彼が放つ狂気と血と硝煙の臭いで、レイはよりいっそう気分を害した。
「これぐらいで根をあげるようなら、Kの側にはいられないよ」
 Zもまた流暢な日本語を話した。真っ青になったレイの様子を見て、クスクスと笑う。
「レイはまだ、君や彼や私のように狂ってはいないのだよ」
 花村が自分を庇うような発言をしたことに、レイは驚いた。
「狂ってはいない、か。だったら尚更、よく見ておくがいい。これが世界の全てさ」
 レイもまた間接的ではあるが、人を殺してきた。理不尽であれ、それには理由があった。
 だが今はこの場にいたという理由だけで死んでいく。そんなことがまかり通っていいわけがない。
「関係のない人達を殺すことが、世界の全てなわけないだろうが!?」
「それもまた運命だよ。君だって、自分が生きるために人を殺してきたのだろう?」
 そう言われてしまえば、何も言い返せない。レイは唇を噛みしめ、黙り込んだ。いくら話しても平行線を辿るだけだと思い知ったから。
「教育が足りないね、ミスター・ハナムラ」
 コールはZを見やり、合図を送る。それに頷いた後、Zは正面から花村に銃口を向けた。
「おまえがKを変えた。おまえが死ねば、昔のKに戻る」
「私が死んでも、変わりはしないさ」
「おまえがKを無理矢理日本に連れてきたくせに!」
 残虐な殺し方をするのに、Zの主張は子供のようだった。

 そうか、こいつの中身は子供なんだ。

 シラサカへの異常ともいえる執着がそれを示している。それならばと、レイは再び声を上げた。
「おまえ、シラサカに拒絶されたんだろう?」
 核心をついてやれば、Zは怒りを露わにし、レイを睨みつけた。
「エーデルシュタインは、十五年前に終わっている」
「関係ない人間は口を出すな!」
 Zは銃口を花村からレイへと変えた。
「おまえらは、過去の遺物にしがみついてるだけなんだよ!」
 レイの頬に熱い衝撃が走り、やがてそれはピリピリとした痛みに変わった。
「そうだよ、レイ。エーデルシュタインは終わった」
 レイの頬を掠めるように発砲したのは、Zではなくコールだった。
「十五年前、Kがメンバー殺害を命じられた際、俺は別の幹部に呼び出され、Kの殺害を命じられた。そのとき、彼らはこんな提案をしてきた。Kが生き残れば壊滅、Xである俺が生き残れば存続。俺は組織の存続を託された唯一の存在になった。だがメンバー殺害後、あいつは忽然と消え失せた。ミスター・ハナムラ、あなたが匿ったせいでね」
 花村とシラサカが出会うのが少しでも遅れていたら、シラサカは、コールことXに殺されていたのかもしれない。
「ジャパンにいるとわかったのは、一ヶ月以上経ってからだった。俺は組織の連中と共にジャパンへ行った。GSG-9が幹部連中のことを暴きかねない状態で、空港での襲撃が最後のチャンスだったから。久しぶりに見たKは変わっていた。緊張感がまるでなく、俺に気づきもしなかった。側にいた女を傷つけてやれば、彼らを庇うような発言をし、自分を殺せと言い出した。組織壊滅を託された人間が、短期間で腑抜けになったことに怒りを覚えたよ。本当にエーデルシュタインのKなのかと目を疑ったさ」
「なるほど。君はあの場にいて、シラサカに撃たれて怪我をしたということか」
 十五年前、シラサカを狙った空港での襲撃事件は、やはりエーデルシュタインの幹部が引き起こしたものだった。
「腑抜けになっても、銃の腕前は落ちていなかった。あいつのせいで、今も俺の左足は壊れたままだ。こんな体では暗殺者としては生きられないと死を覚悟したとき、偶然コールの椅子が空いた。エーデルシュタインのXという肩書きがあったおかげで、コールとして生きる道が出来たのさ。それでも、しばらくはKを恨んだよ。どうにかして、あいつを殺そうと思っていた。だが時が過ぎ、エーデルシュタインの幹部連中が次々と朽ちて死んでいくのを見ているうちに、考えが変わった」
 一旦言葉を切り、コールは不敵な笑みを浮かべた。
「KとXが生き残っているかぎり、組織は壊滅も存続もしない。長い時を経て、原石は宝石へと変わった。いつまでも過去に拘ることはない。新しい組織を立ち上げればいいだけだと」
 なんてことを考えるのだろう、もはや狂っているとしか思えない。
「それがKX-9だといいたいのか」
「そうさ、俺の足の代わりはZが担ってくれる。彼はKと一緒にいることをずっと夢見てきたからね」
「Kが僕を生かしてくれた。彼は僕の全てさ!」
 過去に縛られ続けるコールとZ。彼らを止めることは誰にも出来ないのだろうか。
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