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第11話『生命となる願い』
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ふと、亜矢が気配を感じてコランを抱いたまま振り返った。
そこには、いつの間にかグリアとリョウが立っていた。
亜矢はコランを降ろすと、指で涙を拭った。
「結局、全て元通りなのね」
そういう亜矢は、どこか嬉しそうに微笑んだ。
グリアは一歩前に出た。
「ああ、元通りだ。これからの毎日の『口移しも』な」
「そう、口移しも……って、はぁっ!?」
嬉しそうな微笑みから一変、亜矢は固まった。
「な、なんでよ!?もう口移しは必要ないんでしょ!?」
グリアは平然としている。かと思うと、フっと笑った。
「あんたを生き返らせる為に、かなりの力を使い果たしちまったからな。しばらくは毎日、人間の魂を喰い続けねえとオレ様が生きていけねえんだよ」
「そ、そんな!魂を狩るなんてダメよ!」
「だろ?だから、あんたの命の力をもらうぜ。毎日、『口移し』でな」
亜矢は何も言い返せなくなった。つまり、これって…。
立場が逆転しただけで、何も変わってないという事!?
確かに、『魂の器』の儀式によって膨大な力を宿した亜矢の魂なら、毎日グリアに『命の力』を与え続けても影響はないだろう。
いや、ある。毎日唇を奪われるという、精神的苦痛がっ!
「いやーー!!何でそうなるのよっ!?」
亜矢の叫び、空しく。
リョウはただ、そんな亜矢を見て苦笑いしていた。
「いや、同じじゃないぜ。今度の口移しは1年じゃ済まねえ、無期限だ。毎日オレ様を満たせよ、亜矢」
「はあっ!?何よそれ!!冗談じゃないっ!!」
「なんだよ、2度も生き返らせてやった恩を忘れたとは言わせないぜ」
またもや脅迫行為に出たか!?と、亜矢は悔しいながらも諦めの溜め息をついた。
これでは、1年前と全く同じではないか。
「オレ様も今まで通り、右隣の部屋に住むぜ」
「………もう、好きにして」
亜矢は力なく答えた。これからの日々を思うと、再び気が重くなる。
「また、オレ様がお隣サンで嬉しいか?」
「全然嬉しくないっ!!」
「そうか、なら同棲の方がいいか?ハハハハ!!」
「バカーーーー!!!」
何やら1人、空回りな怒りをぶつけている亜矢。
そんな2人を見ているコランとリョウ。
「なあ、なんでアヤは怒ってるんだ?」
リョウはぷっと吹き出して笑う。
「違うよ、仲がいいんだよ」
ちょっと羨ましい、とリョウは思った。
『口移し』をする者と、される者。
立場の逆転はあっても、そこからまた、変わらない日々の始まり。
死神と天使に挟まれ、小悪魔と共に暮らす生活。
普通の少女の普通でない日常生活は、まだ始まったばかり。
死神は、新たな目的を果たす為、少女に迫る。
亜矢の心を、手に入れる。
『口移し』……いや、『口付け』にこめられた本気の野望に、
亜矢が気付くのはいつの日だろうか。
―完―
そこには、いつの間にかグリアとリョウが立っていた。
亜矢はコランを降ろすと、指で涙を拭った。
「結局、全て元通りなのね」
そういう亜矢は、どこか嬉しそうに微笑んだ。
グリアは一歩前に出た。
「ああ、元通りだ。これからの毎日の『口移しも』な」
「そう、口移しも……って、はぁっ!?」
嬉しそうな微笑みから一変、亜矢は固まった。
「な、なんでよ!?もう口移しは必要ないんでしょ!?」
グリアは平然としている。かと思うと、フっと笑った。
「あんたを生き返らせる為に、かなりの力を使い果たしちまったからな。しばらくは毎日、人間の魂を喰い続けねえとオレ様が生きていけねえんだよ」
「そ、そんな!魂を狩るなんてダメよ!」
「だろ?だから、あんたの命の力をもらうぜ。毎日、『口移し』でな」
亜矢は何も言い返せなくなった。つまり、これって…。
立場が逆転しただけで、何も変わってないという事!?
確かに、『魂の器』の儀式によって膨大な力を宿した亜矢の魂なら、毎日グリアに『命の力』を与え続けても影響はないだろう。
いや、ある。毎日唇を奪われるという、精神的苦痛がっ!
「いやーー!!何でそうなるのよっ!?」
亜矢の叫び、空しく。
リョウはただ、そんな亜矢を見て苦笑いしていた。
「いや、同じじゃないぜ。今度の口移しは1年じゃ済まねえ、無期限だ。毎日オレ様を満たせよ、亜矢」
「はあっ!?何よそれ!!冗談じゃないっ!!」
「なんだよ、2度も生き返らせてやった恩を忘れたとは言わせないぜ」
またもや脅迫行為に出たか!?と、亜矢は悔しいながらも諦めの溜め息をついた。
これでは、1年前と全く同じではないか。
「オレ様も今まで通り、右隣の部屋に住むぜ」
「………もう、好きにして」
亜矢は力なく答えた。これからの日々を思うと、再び気が重くなる。
「また、オレ様がお隣サンで嬉しいか?」
「全然嬉しくないっ!!」
「そうか、なら同棲の方がいいか?ハハハハ!!」
「バカーーーー!!!」
何やら1人、空回りな怒りをぶつけている亜矢。
そんな2人を見ているコランとリョウ。
「なあ、なんでアヤは怒ってるんだ?」
リョウはぷっと吹き出して笑う。
「違うよ、仲がいいんだよ」
ちょっと羨ましい、とリョウは思った。
『口移し』をする者と、される者。
立場の逆転はあっても、そこからまた、変わらない日々の始まり。
死神と天使に挟まれ、小悪魔と共に暮らす生活。
普通の少女の普通でない日常生活は、まだ始まったばかり。
死神は、新たな目的を果たす為、少女に迫る。
亜矢の心を、手に入れる。
『口移し』……いや、『口付け』にこめられた本気の野望に、
亜矢が気付くのはいつの日だろうか。
―完―
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