90 / 128
第25話『2つの輪廻(後)』
(2)
しおりを挟む
終わりの見えない言い合いをしばらく続けた後。
先程までとは打って変わって、気を落ち着かせた二人は静かだ。
「……あたし、思ったんだけど」
ぼそっと、小さく亜矢が呟いた。
「魔王もアヤメさんに2つ同時に儀式すれば良かったんじゃない?」
我ながら良い所に気付いたと、亜矢は自負した。
だが、グリアの答えは、それをあっさりと打ち砕いた。
「それは無理だな。寿命は変えられねえ」
「……あ、なるほど」
アヤメの死因は、寿命だった。
禁忌の儀式だろうと何だろうと、寿命は決して変えられない。
亜矢の場合は事故死であったから、生き返る事ができたのだ。
それ以前に『魂の器』の儀式を行った者は消滅してしまう。
それを免れたグリアは特殊なケース、むしろ奇跡であった。
「あと、アヤメさんに手出さないでよ」
「あぁ?どういう意味だよ」
「あたしと間違えないでって意味よ」
万が一、間違えてアヤメに口移しを迫ろうものなら、この世の終わりだろう。
魔王の怒りで人間界が滅びそうだ。
だが、亜矢とアヤメは分身で同一人物。見分けるのは不可能だ。
判別の方法として、アヤメは左手の薬指に結婚指輪をしている事をグリアに告げた。
グリアを帰すと、亜矢は急いで玄関から寝室に向かった。
グリアとの話が終わるまで、コランには寝室に居てもらったのだ。
素直で聞き分けの良いコランは、文句1つ言わずに言う通りにしてくれた。
「コランくん、ごめんね。もう話は終わったから」
亜矢が寝室のドアを開けると、コランがベッドに上半身を乗せて顏を埋めていた。
……寝てしまっていたらしい。
夕飯の後だし、グリアとの話も長くなったし仕方が無い。
「コランくん、起きて。今寝たら、夜寝れなくなっちゃうよ」
「ん~~お母さん………?」
寝惚けたコランは、亜矢をアヤメと見間違えてしまった。
……まぁ、顏も同じ同一人物なので間違ってはいない。
亜矢は思わず吹き出して笑ってしまった。
コランがしっかりと目を覚ましてから、亜矢はある相談をもちかけた。
「ねぇ、コランくん。アヤメさん…お母さんの事なんだけど」
「うん?」
コランは、魔王と同じルビーのような赤い瞳に亜矢を映して首を傾げる。
「エプロンの下…何か着るように言ってくれない?」
「そうだよな、お母さん、あれじゃ寒いよな~」
アヤメと同じ発想をするコランに、抗えない親子の血を感じた亜矢だった。
それ以前に、幼いコランに裸エプロンなんて刺激が強すぎる。
親としては、あるまじき行為だ。
亜矢にとって、コランは前世での我が息子。母性本能が働くのは当然だ。
アヤメを調教した魔王に止めさせるのが一番だが、応じるとは思えない。
亜矢やコランが言った所で、素直に従うとも思えない。
何か…何か、魔王を抑え込む手立てはないものか……。
思えば、亜矢の平手打ちが当たった事すらない。
そんな魔王に、どうすれば…?
「ねぇ、魔王に何か弱点ってないの?」
「う~ん……あっ!オレが『父ちゃん』って呼ぶと、すっげー嫌がる!」
確かに、今まで弟として接していた息子に『父ちゃん』と呼ばれたら…むず痒い。
「……なるほど」
その手は使えるのかな…と思いつつも、亜矢は1つ強力な武器を見付けたようだ。
こうして亜矢は、今度は魔王に真実を告げに行く必要が出来た。
亜矢とアヤメは今後、別々の魂として転生する。
『魂の輪廻』の儀式の代償は無効になり、魔王は転生が可能になる。
魔王はアヤメと永遠に結ばれる。
魔王とアヤメにとって、これ以上にない朗報だろう。
この真実を魔王は、どのように受け止めるのだろうか?
先程までとは打って変わって、気を落ち着かせた二人は静かだ。
「……あたし、思ったんだけど」
ぼそっと、小さく亜矢が呟いた。
「魔王もアヤメさんに2つ同時に儀式すれば良かったんじゃない?」
我ながら良い所に気付いたと、亜矢は自負した。
だが、グリアの答えは、それをあっさりと打ち砕いた。
「それは無理だな。寿命は変えられねえ」
「……あ、なるほど」
アヤメの死因は、寿命だった。
禁忌の儀式だろうと何だろうと、寿命は決して変えられない。
亜矢の場合は事故死であったから、生き返る事ができたのだ。
それ以前に『魂の器』の儀式を行った者は消滅してしまう。
それを免れたグリアは特殊なケース、むしろ奇跡であった。
「あと、アヤメさんに手出さないでよ」
「あぁ?どういう意味だよ」
「あたしと間違えないでって意味よ」
万が一、間違えてアヤメに口移しを迫ろうものなら、この世の終わりだろう。
魔王の怒りで人間界が滅びそうだ。
だが、亜矢とアヤメは分身で同一人物。見分けるのは不可能だ。
判別の方法として、アヤメは左手の薬指に結婚指輪をしている事をグリアに告げた。
グリアを帰すと、亜矢は急いで玄関から寝室に向かった。
グリアとの話が終わるまで、コランには寝室に居てもらったのだ。
素直で聞き分けの良いコランは、文句1つ言わずに言う通りにしてくれた。
「コランくん、ごめんね。もう話は終わったから」
亜矢が寝室のドアを開けると、コランがベッドに上半身を乗せて顏を埋めていた。
……寝てしまっていたらしい。
夕飯の後だし、グリアとの話も長くなったし仕方が無い。
「コランくん、起きて。今寝たら、夜寝れなくなっちゃうよ」
「ん~~お母さん………?」
寝惚けたコランは、亜矢をアヤメと見間違えてしまった。
……まぁ、顏も同じ同一人物なので間違ってはいない。
亜矢は思わず吹き出して笑ってしまった。
コランがしっかりと目を覚ましてから、亜矢はある相談をもちかけた。
「ねぇ、コランくん。アヤメさん…お母さんの事なんだけど」
「うん?」
コランは、魔王と同じルビーのような赤い瞳に亜矢を映して首を傾げる。
「エプロンの下…何か着るように言ってくれない?」
「そうだよな、お母さん、あれじゃ寒いよな~」
アヤメと同じ発想をするコランに、抗えない親子の血を感じた亜矢だった。
それ以前に、幼いコランに裸エプロンなんて刺激が強すぎる。
親としては、あるまじき行為だ。
亜矢にとって、コランは前世での我が息子。母性本能が働くのは当然だ。
アヤメを調教した魔王に止めさせるのが一番だが、応じるとは思えない。
亜矢やコランが言った所で、素直に従うとも思えない。
何か…何か、魔王を抑え込む手立てはないものか……。
思えば、亜矢の平手打ちが当たった事すらない。
そんな魔王に、どうすれば…?
「ねぇ、魔王に何か弱点ってないの?」
「う~ん……あっ!オレが『父ちゃん』って呼ぶと、すっげー嫌がる!」
確かに、今まで弟として接していた息子に『父ちゃん』と呼ばれたら…むず痒い。
「……なるほど」
その手は使えるのかな…と思いつつも、亜矢は1つ強力な武器を見付けたようだ。
こうして亜矢は、今度は魔王に真実を告げに行く必要が出来た。
亜矢とアヤメは今後、別々の魂として転生する。
『魂の輪廻』の儀式の代償は無効になり、魔王は転生が可能になる。
魔王はアヤメと永遠に結ばれる。
魔王とアヤメにとって、これ以上にない朗報だろう。
この真実を魔王は、どのように受け止めるのだろうか?
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
バスは秘密の恋を乗せる
桐山なつめ
児童書・童話
ある事情から、有名な私立中学校に転校してきた菜月。
通学バスでいつも一緒になる美形な男の子・神山くんと急接近するけど、
彼には人に言えない、過去があって……。
※「カクヨム」、「小説家になろう」にも投稿しています。
大好きなのにゼッタイ付き合えない
花梨
児童書・童話
中1の波奈は、隣の家に住む社会人の悠真に片思いしていた。でも、悠真には婚約者が!失恋してしまったけれど、友達に「年上の彼氏に会わせてあげる」なんて見栄を張ってしまった。そこで、悠真の弟の中3の楓真に「彼氏のフリをして」とお願いしてしまう。
作戦は無事成功したのだけど……ウソのデートをしたことで、波奈は楓真のことを好きになってしまう。
でも、ウソの彼氏として扱ったことで「本当の彼氏になって」と言えなくなってしまい……『ゼッタイ付き合えない』状況に。
楓真に恋する先輩や友達にウソをつき続けていいの?
波奈は、揺れる恋心と、自分の性格に向き合うことができるのか。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
GREATEST BOONS+
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!
悪役令嬢の取り巻きBから追放された私は自由気ままに生きたいと思います。
水垣するめ
恋愛
ここはセントリア学園。
貴族から平民まで、様々な身分の人間が通う学園。
その中でもカーストのトップに位置しているマーガレット・エドワーズ公爵令嬢の取り巻きBをしているごく普通な私は。
──推しを見つけた。
主人公エマ・ホワイトは公爵令嬢のマーガレットの取り巻きをしていた。
マーガレットは王子であるルークと婚約していたが、ルークは同じ公爵令嬢のクレア・アワードに好意を寄せていた。
エマはマーガレットの取り巻きとして暮らす毎日を送っていた。
しかしある日、マーガレットの恋敵であるクレアの秘密を知ってしまう。
それは『美少女として知られるクレアが実は女装した男性である』というものだった。
秘密を知られたクレアはエマと共に行動するようになり…?
※「小説家になろう」でも先行掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる