75 / 128
第19話『日常の扉』
(1)
しおりを挟む
亜矢が目を覚ますと、そこはいつもの自分の部屋。
いつもと変わらない朝だった。
深い眠りに落ちて、夢は見ていなかったと思う。
あんなにモヤモヤしていた毎日だったのに、今はスッキリと心が晴れている。
ベッドから起き上がろうとするが、膝のあたりに重みを感じる。
そっと身を起こして見ると、膝元でグリアが顏を伏せて眠っていた。
(えっ!?死神……!?)
驚いて、反射的にビクっと膝を動かしてしまった。
その僅かな衝撃で、グリアが目を覚ました。
「………んぁ?」
グリアの口から、聞いた事のないような擦れ声が漏れた。半開きの目で、ぼーっとしている。
しばらくは焦点が合わなかったが、ようやく亜矢の方に視線を向けた。
(死神が……寝惚けてる?……ふふっ)
グリアが見せた初めての顏に思わず心で笑ってしまったが、和んでいる場合ではなかった。
「死神、どうして、あたしの部屋にいるのよ?あんた、もしかして一晩中…?」
「……あぁ……テメエの気配がしたから……来たら……居た……からよ……」
寝惚けているのか、グリアの言葉は途切れ途切れで要領を得ない。
だが、心配して来てくれたのだろう。それだけは分かる。
「………てめぇ、亜矢……か…?」
まだハッキリしない口調で、グリアから思ってもいない疑問を投げかけられた。
あんたこそ死神なの?と問いたくなる程に彼らしくない。
「うん。あたしは亜矢よ」
「そうか……」
そう言ったグリアの口元が、微笑んだように見えた。
「ねえ、死神?あの時、何て言おうとしたの?」
亜矢が魔界への入り口に飲み込まれた瞬間、グリアは何かを伝えようとした。
だが、グリアは寝惚けたフリなのか、わざとらしく視線を逸らした。
「覚えてねぇなぁ……」
そんな誤魔化しは『口移し』の付き合いが長い亜矢にはお見通しだ。
「うそつき」
そう言いながらも、亜矢は自分もグリアに真実を言わずに今日まで来た罪悪感に苛まれた。
全てを話すべきだと思った。
グリアは何も言わずに、輪廻の間で彷徨っていた自分を助けてくれたのだから。
春野亜矢という、自分自身を取り戻してくれたのだから。
「死神……あのね……」
「言うな」
「え……?」
「今は聞きたくねぇ。……疲れた」
今日はグリアらしくない台詞が続く。
グリアは、もしかしたら……すでに、全てを知っているのかもしれない。
とりあえず、今は死神の言う通りにしてあげようと思った。
「あっそ、せっかく『口移し』させてあげるって言おうとしたのに」
亜矢は、グリアが寝惚けてるフリなのをいい事に、からかう事で反撃に出た。
しかしグリアは、しっかり反応してガバッ!!と勢いよく起き上がった。
そんなに口移しが欲しかったのか、単に生命力が欲しいだけなのか……。
「言ったな、いいんだな?二言はねえぞ」
しっかりと念を押してきた。
「あら、あんたが念を押すなんて初めてじゃない?」
……いつも強引に迫って来るクセに。
……そうしてくれた方が、恥じなくて済むのに。
今日は口移しくらい、素直にあげてもいいと亜矢は思った。
例え何をされようとも……今日は抵抗しないつもりだ。
だが、その時。
「う~~ん……もう朝か?」
誰かの声が、亜矢の隣から聞こえてきた。
布団を被っていて気付かなかったが、コランが亜矢の隣で寝ていたのだ。
その事に気付いた亜矢は、残念でした☆という顏でグリアに笑いかけた。
さすがに、コランの横で堂々と口移しはしたくない。
グリアは口移しの『おあずけ』をされて、不満そうな顏をしていた。
いつもと変わらない朝だった。
深い眠りに落ちて、夢は見ていなかったと思う。
あんなにモヤモヤしていた毎日だったのに、今はスッキリと心が晴れている。
ベッドから起き上がろうとするが、膝のあたりに重みを感じる。
そっと身を起こして見ると、膝元でグリアが顏を伏せて眠っていた。
(えっ!?死神……!?)
驚いて、反射的にビクっと膝を動かしてしまった。
その僅かな衝撃で、グリアが目を覚ました。
「………んぁ?」
グリアの口から、聞いた事のないような擦れ声が漏れた。半開きの目で、ぼーっとしている。
しばらくは焦点が合わなかったが、ようやく亜矢の方に視線を向けた。
(死神が……寝惚けてる?……ふふっ)
グリアが見せた初めての顏に思わず心で笑ってしまったが、和んでいる場合ではなかった。
「死神、どうして、あたしの部屋にいるのよ?あんた、もしかして一晩中…?」
「……あぁ……テメエの気配がしたから……来たら……居た……からよ……」
寝惚けているのか、グリアの言葉は途切れ途切れで要領を得ない。
だが、心配して来てくれたのだろう。それだけは分かる。
「………てめぇ、亜矢……か…?」
まだハッキリしない口調で、グリアから思ってもいない疑問を投げかけられた。
あんたこそ死神なの?と問いたくなる程に彼らしくない。
「うん。あたしは亜矢よ」
「そうか……」
そう言ったグリアの口元が、微笑んだように見えた。
「ねえ、死神?あの時、何て言おうとしたの?」
亜矢が魔界への入り口に飲み込まれた瞬間、グリアは何かを伝えようとした。
だが、グリアは寝惚けたフリなのか、わざとらしく視線を逸らした。
「覚えてねぇなぁ……」
そんな誤魔化しは『口移し』の付き合いが長い亜矢にはお見通しだ。
「うそつき」
そう言いながらも、亜矢は自分もグリアに真実を言わずに今日まで来た罪悪感に苛まれた。
全てを話すべきだと思った。
グリアは何も言わずに、輪廻の間で彷徨っていた自分を助けてくれたのだから。
春野亜矢という、自分自身を取り戻してくれたのだから。
「死神……あのね……」
「言うな」
「え……?」
「今は聞きたくねぇ。……疲れた」
今日はグリアらしくない台詞が続く。
グリアは、もしかしたら……すでに、全てを知っているのかもしれない。
とりあえず、今は死神の言う通りにしてあげようと思った。
「あっそ、せっかく『口移し』させてあげるって言おうとしたのに」
亜矢は、グリアが寝惚けてるフリなのをいい事に、からかう事で反撃に出た。
しかしグリアは、しっかり反応してガバッ!!と勢いよく起き上がった。
そんなに口移しが欲しかったのか、単に生命力が欲しいだけなのか……。
「言ったな、いいんだな?二言はねえぞ」
しっかりと念を押してきた。
「あら、あんたが念を押すなんて初めてじゃない?」
……いつも強引に迫って来るクセに。
……そうしてくれた方が、恥じなくて済むのに。
今日は口移しくらい、素直にあげてもいいと亜矢は思った。
例え何をされようとも……今日は抵抗しないつもりだ。
だが、その時。
「う~~ん……もう朝か?」
誰かの声が、亜矢の隣から聞こえてきた。
布団を被っていて気付かなかったが、コランが亜矢の隣で寝ていたのだ。
その事に気付いた亜矢は、残念でした☆という顏でグリアに笑いかけた。
さすがに、コランの横で堂々と口移しはしたくない。
グリアは口移しの『おあずけ』をされて、不満そうな顏をしていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に
川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。
もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。
ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。
なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。
リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。
主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。
主な登場人物
ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。
トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。
メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。
カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。
アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。
イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。
パメラ……同。営業アシスタント。
レイチェル・ハリー……同。審査部次長。
エディ・ミケルソン……同。株式部COO。
ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。
ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。
トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。
アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。
マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。
マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。
グレン・スチュアート……マークの息子。
どうかわたしのお兄ちゃんを生き返らせて
なかじまあゆこ
児童書・童話
最悪な結末が……。
わたしの大好きなお兄ちゃんは、もうこの世にいない。
大好きだった死んだお兄ちゃんに戻ってきてもらいたくて、史砂(ふみさ)は展望台の下で毎日、「お兄ちゃんが戻ってきますように」と祈っている。そんな時、真っ白な人影を見た史砂。
それから暫くすると史砂の耳に悪魔の囁き声が聞こえてきて「お前のお兄ちゃんを生き返らせてほしいのであれば友達を犠牲にしろ」と言うのだけど。史砂は戸惑いを隠せない。
黒いカラスが史砂を襲う。その理由は? 本当は何が隠されているのかもしれない。どんどん迫り来る恐怖。そして、涙……。
最後まで読んでもらえると分かる内容になっています。どんでん返しがあるかもしれないです。
兄妹愛のホラーヒューマンそしてカラスが恐ろしい恐怖です。よろしくお願いします(^-^)/
たかが、恋
水野七緒
児童書・童話
「恋愛なんてバカみたい」──日頃からそう思っている中学1年生の友香(ともか)。それなのに、クラスメイトの間中(まなか)くんに頼みこまれて「あるお願い」を引き受けることに。そのお願いとは、恋愛に関すること。初恋もまだの彼女に、果たしてその役目はつとまるのか?
ハッピーエンド執行人
いちごみるく
児童書・童話
不幸な少女が紫の猫に導かれ辿り着いた場所は……。
不思議な場所で巡り合った少年少女。
彼らは物語の主人公を幸せにするハッピーエンド執行人。
改稿中です。
一話から書き直しています。
めっちゃ不定期更新です。
感想大歓迎です。
小説家になろう、MAGNET MACROLINK、ノベルアップ+でも投稿中。
ちなみに表紙は旧都なぎさんのものです。
最近までここが自己紹介の場所かと思ってました。
元【闇月ヒカルの手帳~ハッピーエンド執行人~】です。
長いので変えました。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる