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第14話『向かうべき場所』
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亜矢自身も、最近の自分自身に戸惑う事がある。
自分の意志ではない何かに動かされるようにして、自然と体が魔王の元へと向かってしまう。
かと思えばグリアを求めるように、あんなに抵抗感のあった彼との『口移し』を自然に受け入れてしまう。
あの『儀式』が完成された日から…魔王を受け入れてしまったあの日から、全てが狂い始めた。
これから自分は、どうなってしまうのだろうか。
そんな恐怖を覚える事すらある。
自分らしさを取り戻すかのように、亜矢は学校の帰り道、地元の繁華街に立ち寄った。
今日も買い物客で賑わう、見慣れたこの場所を歩くだけで、いつもの日常に戻れる気がして安心する。
ふと、お気に入りの洋菓子店の前を通った。
カフェも併設されている店のガラス窓から、見覚えのある二人の姿を見付けて、亜矢は立ち止まった。
(あれは…リョウくんと天真さん?)
二人は同じテーブルに座り、そのテーブルの上には、このお店の名物のシュークリーム。
外からは二人の会話は聞こえないが、とても楽しそうなティータイムに見えた。
亜矢はそんな二人を初めて目にして、驚きよりも先に嬉しいと感じた。
実際の二人の会話は、こんな感じだ。
「天王様のおススメのシュークリーム、とても美味しいです!」
「そうだろう?お前の手作り程ではないがな」
「まーた、お上手ですね!ボクもシュークリーム作り頑張っちゃいますよ~」
ここで、店の中に入った亜矢が、二人の座るテーブルの前まで歩み寄った。
シュークリームで盛り上がっていた二人は、そこで初めて亜矢の姿に気付き、同時に驚いた。
「あ!亜矢ちゃん、いつの間に?」
「私とした事が…気付かなかったよ」
その姿、表情、仕草、タイミング。そっくりだった。
「なんか二人、親子みたい」
天使とは天王から創造されるので、意味としては間違っていないのだろう。
今までの二人からは考えられない和やかな雰囲気に、亜矢は思わず微笑んだ。
確かに、過去の天王の行いは簡単に許せるものではない。
だが、確かに心を入れ替えたのであろう天王は、以前とは違うと感じられた。
何よりも、リョウがこんなにも嬉しそうなのだ。それだけで全て許せてしまう気がした。
亜矢は自分もシュークリームと紅茶を注文すると、それを持って二人と同じテーブルに向かい合って座った。
「う~ん、やっぱりここのシュークリーム最高!!このカスタードが、もう!!」
シュークリームを一口食べて噛み締めている亜矢を見て、天王とリョウは同時に笑った。
「良かった、いつもの亜矢ちゃんだね」
リョウからそう言われて、亜矢は笑顔を崩さずに、え?と首を傾げた。
最近の亜矢らしくない表情と言動を見てきたリョウは、少し安心したのだ。
だが、天王だけは真実を知っていた。
それは魔王からの要請で亜矢の魂の詳細を調べた時に、天王も初めて知った。
亜矢が、魔王の妃であったアヤメと同じ魂を持って転生した、生まれ変わりの姿である事実を。
それを知った上で、天王は魔王に情報を提供した。
天王は微笑しながらも、どこか真剣な表情で亜矢に問いかけた。
「春野さんは、次は誰と一緒にここに来たいと思う?」
意図の分からない唐突な問いかけにリョウが驚き、天王を見る。
亜矢は迷う事なく、自然な流れで答えた。
「え、でもアイツは甘いのが好きじゃないし…」
思わず亜矢の口から出た、『アイツ』の事。
その場が沈黙する。
そうか、と天王の真意に気付いたリョウは感服した。
相変わらず天王は、人の心を誘導し、本音を口に出させる事が上手い。
天王によって亜矢の口から導き出された『答え』。
そう。それこそが、亜矢の『答え』だったのだ。
(あ、あたし……)
ようやく、亜矢は自覚した。
自分が今、本当に一緒に居たいと思う存在の事を。
自分の意志ではない何かに動かされるようにして、自然と体が魔王の元へと向かってしまう。
かと思えばグリアを求めるように、あんなに抵抗感のあった彼との『口移し』を自然に受け入れてしまう。
あの『儀式』が完成された日から…魔王を受け入れてしまったあの日から、全てが狂い始めた。
これから自分は、どうなってしまうのだろうか。
そんな恐怖を覚える事すらある。
自分らしさを取り戻すかのように、亜矢は学校の帰り道、地元の繁華街に立ち寄った。
今日も買い物客で賑わう、見慣れたこの場所を歩くだけで、いつもの日常に戻れる気がして安心する。
ふと、お気に入りの洋菓子店の前を通った。
カフェも併設されている店のガラス窓から、見覚えのある二人の姿を見付けて、亜矢は立ち止まった。
(あれは…リョウくんと天真さん?)
二人は同じテーブルに座り、そのテーブルの上には、このお店の名物のシュークリーム。
外からは二人の会話は聞こえないが、とても楽しそうなティータイムに見えた。
亜矢はそんな二人を初めて目にして、驚きよりも先に嬉しいと感じた。
実際の二人の会話は、こんな感じだ。
「天王様のおススメのシュークリーム、とても美味しいです!」
「そうだろう?お前の手作り程ではないがな」
「まーた、お上手ですね!ボクもシュークリーム作り頑張っちゃいますよ~」
ここで、店の中に入った亜矢が、二人の座るテーブルの前まで歩み寄った。
シュークリームで盛り上がっていた二人は、そこで初めて亜矢の姿に気付き、同時に驚いた。
「あ!亜矢ちゃん、いつの間に?」
「私とした事が…気付かなかったよ」
その姿、表情、仕草、タイミング。そっくりだった。
「なんか二人、親子みたい」
天使とは天王から創造されるので、意味としては間違っていないのだろう。
今までの二人からは考えられない和やかな雰囲気に、亜矢は思わず微笑んだ。
確かに、過去の天王の行いは簡単に許せるものではない。
だが、確かに心を入れ替えたのであろう天王は、以前とは違うと感じられた。
何よりも、リョウがこんなにも嬉しそうなのだ。それだけで全て許せてしまう気がした。
亜矢は自分もシュークリームと紅茶を注文すると、それを持って二人と同じテーブルに向かい合って座った。
「う~ん、やっぱりここのシュークリーム最高!!このカスタードが、もう!!」
シュークリームを一口食べて噛み締めている亜矢を見て、天王とリョウは同時に笑った。
「良かった、いつもの亜矢ちゃんだね」
リョウからそう言われて、亜矢は笑顔を崩さずに、え?と首を傾げた。
最近の亜矢らしくない表情と言動を見てきたリョウは、少し安心したのだ。
だが、天王だけは真実を知っていた。
それは魔王からの要請で亜矢の魂の詳細を調べた時に、天王も初めて知った。
亜矢が、魔王の妃であったアヤメと同じ魂を持って転生した、生まれ変わりの姿である事実を。
それを知った上で、天王は魔王に情報を提供した。
天王は微笑しながらも、どこか真剣な表情で亜矢に問いかけた。
「春野さんは、次は誰と一緒にここに来たいと思う?」
意図の分からない唐突な問いかけにリョウが驚き、天王を見る。
亜矢は迷う事なく、自然な流れで答えた。
「え、でもアイツは甘いのが好きじゃないし…」
思わず亜矢の口から出た、『アイツ』の事。
その場が沈黙する。
そうか、と天王の真意に気付いたリョウは感服した。
相変わらず天王は、人の心を誘導し、本音を口に出させる事が上手い。
天王によって亜矢の口から導き出された『答え』。
そう。それこそが、亜矢の『答え』だったのだ。
(あ、あたし……)
ようやく、亜矢は自覚した。
自分が今、本当に一緒に居たいと思う存在の事を。
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