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第12話『引き合う法則』
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「亜矢……亜矢っ!!」
親友の美保のその呼び声で、亜矢はハッと意識を取り戻した。
教室を見渡すと、いつの間にか休み時間に入っていた事に気付いた。
亜矢は着席したまま、魂が抜けたかのように、ただ呆然としていたらしい。
美保が不思議そうにして亜矢の顔を覗き込む。
「亜矢、大丈夫~?なんか授業中もずっと魔王先生の事を見つめてたみたいだったし」
「えっ!?本当!?あたしが!?」
亜矢は驚いて、勢いよく顔を美保に向けた。今度は圧倒されて美保が驚いた。
「いくら魔王先生がカッコ良くても、亜矢にはグリアくんがいるんだから、それはダメよ~!」
「えぇっ!?やめてよ、もう!!」
美保のおかげで、亜矢は少しだけ自分らしさを取り戻せた気がした。
放課後、ほとんどの生徒も教師も帰ってしまった静かな校内。
人がいなくなる頃を見計らって、薄暗い廊下を一人で歩き、亜矢は職員室に向かった。
何故かは分からない。ほとんど無意識だった。
職員室のドアを引くと、思った通り、そこには魔王だけが残っていて、机に肘を付いてこちらを見ている。
亜矢が来る事は分かっていた。
約束などはしていないが、二人が自然と引き合う法則に従うかのように。
「待ってたぜ」
亜矢が魔王の前に歩み寄ろうと室内に足を踏み入れた瞬間。
魔王が片手を上げて、人差し指を少しだけ横に動かした。
ガラガラガラ……バァン!!
亜矢が驚いて後ろを振り返ると、誰も触れていないのに、職員室のドアが閉まっていた。
ガチャッ…ガチリ!
次には、ドアの鍵がかけられる音が静かな職員室に響いた。
魔王が遠くから魔法でドアを閉めて鍵をかけ、完全な密室を作り上げたのだ。
これで思う存分、亜矢に触れられる。
魔王は立ち上がり歩み寄ると、背を向けたままの亜矢が振り向くよりも先に、背後から手を伸ばす。
そして、亜矢の腰に両腕を回して、後ろから抱きしめた。
彼の表情は見えないが、回された腕からの温もりと、首のすぐ横に置かれた魔王の頬の感触。
亜矢の呼吸が止まりそうになる。
「魔王…先生……?」
「違ぇだろ」
「魔王……」
「それも違ぇ」
魔王は、亜矢を言葉で誘導していく。
彼が望む言葉を言わせる為に、1つ1つのピースを組み立てるようにして、引き出して行く。
「……オラン……」
亜矢は導かれるまま、無意識に魔王の本来の名を呼んだ。
その名を口にしたのは確かに自分だ。だが、自分自身の意志ではないような気もする。
「そうだ。それでいい」
魔王は満足そうにして、口元だけで笑った。
魔王は亜矢の腰に回した腕に力をこめ、亜矢の体温を全身で感じるように抱いた。
そして、耳に吐息がかかるほどに近い距離で、甘く囁いた。
「早く思い出しちまえよ、亜矢」
それは文字通り、『悪魔の囁き』だろう。
魔王が近くで亜矢に触れれば触れるほど、その感触に亜矢の中のアヤメが呼応するかのように…
心よりも奥深い場所から、何かが呼び起こされていく。
今…魔王に、こうして抱かれているのが、嫌ではない。離れたくない。心地良いとすら感じてしまう。
それはどこか、亜矢が思い出せずにいる遠い過去の懐かしさを含んでいた。
すでに『魂の輪廻』の儀式が完成した今、亜矢の魂は魔王を受け入れる事しか出来なくなっていた。
亜矢の中のアヤメが、確実に、魔王を求めて目覚めようとしていた。
親友の美保のその呼び声で、亜矢はハッと意識を取り戻した。
教室を見渡すと、いつの間にか休み時間に入っていた事に気付いた。
亜矢は着席したまま、魂が抜けたかのように、ただ呆然としていたらしい。
美保が不思議そうにして亜矢の顔を覗き込む。
「亜矢、大丈夫~?なんか授業中もずっと魔王先生の事を見つめてたみたいだったし」
「えっ!?本当!?あたしが!?」
亜矢は驚いて、勢いよく顔を美保に向けた。今度は圧倒されて美保が驚いた。
「いくら魔王先生がカッコ良くても、亜矢にはグリアくんがいるんだから、それはダメよ~!」
「えぇっ!?やめてよ、もう!!」
美保のおかげで、亜矢は少しだけ自分らしさを取り戻せた気がした。
放課後、ほとんどの生徒も教師も帰ってしまった静かな校内。
人がいなくなる頃を見計らって、薄暗い廊下を一人で歩き、亜矢は職員室に向かった。
何故かは分からない。ほとんど無意識だった。
職員室のドアを引くと、思った通り、そこには魔王だけが残っていて、机に肘を付いてこちらを見ている。
亜矢が来る事は分かっていた。
約束などはしていないが、二人が自然と引き合う法則に従うかのように。
「待ってたぜ」
亜矢が魔王の前に歩み寄ろうと室内に足を踏み入れた瞬間。
魔王が片手を上げて、人差し指を少しだけ横に動かした。
ガラガラガラ……バァン!!
亜矢が驚いて後ろを振り返ると、誰も触れていないのに、職員室のドアが閉まっていた。
ガチャッ…ガチリ!
次には、ドアの鍵がかけられる音が静かな職員室に響いた。
魔王が遠くから魔法でドアを閉めて鍵をかけ、完全な密室を作り上げたのだ。
これで思う存分、亜矢に触れられる。
魔王は立ち上がり歩み寄ると、背を向けたままの亜矢が振り向くよりも先に、背後から手を伸ばす。
そして、亜矢の腰に両腕を回して、後ろから抱きしめた。
彼の表情は見えないが、回された腕からの温もりと、首のすぐ横に置かれた魔王の頬の感触。
亜矢の呼吸が止まりそうになる。
「魔王…先生……?」
「違ぇだろ」
「魔王……」
「それも違ぇ」
魔王は、亜矢を言葉で誘導していく。
彼が望む言葉を言わせる為に、1つ1つのピースを組み立てるようにして、引き出して行く。
「……オラン……」
亜矢は導かれるまま、無意識に魔王の本来の名を呼んだ。
その名を口にしたのは確かに自分だ。だが、自分自身の意志ではないような気もする。
「そうだ。それでいい」
魔王は満足そうにして、口元だけで笑った。
魔王は亜矢の腰に回した腕に力をこめ、亜矢の体温を全身で感じるように抱いた。
そして、耳に吐息がかかるほどに近い距離で、甘く囁いた。
「早く思い出しちまえよ、亜矢」
それは文字通り、『悪魔の囁き』だろう。
魔王が近くで亜矢に触れれば触れるほど、その感触に亜矢の中のアヤメが呼応するかのように…
心よりも奥深い場所から、何かが呼び起こされていく。
今…魔王に、こうして抱かれているのが、嫌ではない。離れたくない。心地良いとすら感じてしまう。
それはどこか、亜矢が思い出せずにいる遠い過去の懐かしさを含んでいた。
すでに『魂の輪廻』の儀式が完成した今、亜矢の魂は魔王を受け入れる事しか出来なくなっていた。
亜矢の中のアヤメが、確実に、魔王を求めて目覚めようとしていた。
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